学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
「へーえ、デュエリスト養成学校の対抗試合ねえ」
「ああ」
言った桑原は、自分が今まで描いた数々の絵画を見せていった。
風景画が中心であるが、なかには勇ましい異類異形の姿を描いたものもあった。
絵画は分からぬ、という様子のノゾムだが、これには思わず見入ってしまったようだった。
そして、それを描くきっかけとなった桑原の過去の話も真剣に聞いていた。
「……ところで、その養成学校の対抗試合の対戦カードって、何処と何処だったんだ?」
「ああ、確か鎧龍と大阪の聖羽衣だったぜ。2対2のタッグマッチ。確か、鎧龍側はサングラスを掛けた暁ヒナタっていうクッソ強いデュエリストが居たのを憶えてる。あれは確か、今じゃプロのデュエリストで海外からこないだ帰ってきただろ」
「……へ、へえ」
「で、もう片方は丁度テメェみたいな髪型した奴だったな。背は俺くらい低かったけど。……ん?」
そこまで言いかけて桑原はノゾムの顔を見る。
彼はどこか、慌てたような様子で「どうした? オレの顔に変なモノでもついてるか?」と言った。
「いや、そう言えばテメェ、どっかで見たことがあるような――」
そう彼が言いかけた途端だった。
がちゃり、と屋上の扉が開く。思わず桑原はわざとらしく開いたそれの奥を見たが――
「な、何だ!?」
紙だ。大量の紙が飛んでくる。
風でも吹いたのかと思ったが、それにしても屋内から吹いてくる風など聞いたことが無い。
そして、それらは自分勝手に屋上のポールや柵に張り付いていく。
紙には印字が刻まれており、そこから紫電が空へ迸った。
「――!!」
次の瞬間。
空に、第二の太陽が出来上がる。
思わず、目を瞑った桑原だったが――
バチンッ
首元に強烈な衝撃。
頭の中ががつん、と殴られたかのようなショック。
視界は暗転する。
何が起こったのか、考える間もなく、暗闇と静寂が桑原を支配する。
「悪い。ちょっと寝ててくれ」
そんなノゾムの声など、聞き取れるはずもなく――
※※※
俺達は、階段を駆け上り、扉を開けて屋上に出ようとする。
が、扉は既に少しだけ開いていた。几帳面な桑原先輩は、いつも扉を閉めていくのだが、風と重みで動いたのだろうか。
しかし、構わず俺は扉を乱暴に開けた。
ふと、俺は足を止めた。すぐ後ろにくっついていた紫月が、潰れたような声を上げて、俺の背中に衝突する。
が、言いしれない違和感が視界を覆っていた。
「何だこれは……?」
紫月も飛び出すように屋上に出る。
そして、俺の感じた異常を彼女も感じ取ったようだった。
「……空が」
赤い。
いや、夕方だから夕焼けにも見えた。
しかし、それにしても空が異様に赤い――というより、シャボン玉の表面のように斑な赤が波打っていた。
『マスター、反応が消失……何処かに消えたであります!? でも、その代わり巨大な魔力が校舎を包み込んでいるであります!?』
「ああ……どうなってんだ!?」
『巨大な魔力のドーム、と言った所でありますか……でも、どうやってこんなものを』
「それより、ノゾム兄と桑原先輩は――!?」
屋上を駆けていくと、すぐにその姿は見つかった。
ただし。コンクリートの床に横たわっている桑原先輩の姿であったが。
「桑原先輩!!」
俺は駆け寄って揺する。
どうやら気絶していたようで、すぐに重い瞼を擦って起きた。
周囲には、彼がノゾム兄に見せていたであろうキャンバスが立てかけられていた。
あれ? そういえばノゾム兄の姿が見当たらない。何処に行ったんだろう。
と、考えている間に先輩が目を覚ます。
「あ……テメェら」
「桑原先輩、どうしたんすか!? どうなってるんですか!?」
「白銀先輩。いきなり聞くのはよしましょう。一番訳が分からないのは先輩のはずです。先輩、此処が何処か、自分がだれか分かりますか」
「いや、心配しなくていい。頭はぐわんぐわんするが、ちゃんと覚えてるよ」
先輩はがばっと起き上がると辺りを見渡す。
異常な空を見て、吸い込まれるように見入っていた。
「……夢じゃ、無かったか」
「先輩。先輩は何故ここに倒れていたのですか」
「……ああ。刀堂に絵を紹介してもらっていたのだが……いきなり、首元にバチッ、て火花が散って、視界が真っ暗になって……それ以降は覚えてねえ」
「じゃあ、ノゾム兄は……」
「……知らねえ」
なんてこった。ノゾム兄は本当に何処へ行ってしまったのだろうか。
「ただ……」
「ただ?」
桑原先輩は、息を荒げて言った。
「いきなり、変な紙みてーなのが、扉の隙間から飛んできてな。屋上の柵に張り付きやがった。で、何か光の球みたいなのが最初はすっげー太陽みたいに光ってたんだ」
「それが、このドーム……!?」
これが一体どういう役割を果たすのかは分からない。
しかし、何らかの作為的なものを感じる。俺達がのうのうと学校で日常を過ごしている間に、既にこれは仕掛けられていたのだ。
「だが、それはともかく、空がこんなに芸術的になってるとは。模写して良いか?」
「良くないです、正気に戻ってください」
とんちんかんなことを言ってる桑原先輩を窘めつつ、俺達は質問を重ねることにした。
「先輩、紙ってのは?」
「ああ。近づいてみたが、薄気味わりーから触ってねぇ」
「薄気味悪い、ですか」
見ると、柵には確かにA4サイズ程の紙が貼りつけられていた。
しかし、奇妙だったのはそこに妙な模様が書かれてあったこと。
俺はよく分からないが、魔法陣、と言えば伝わりやすいか。断じて、地図記号のものではないと分かった。
「随分とまたファンタジーですね」
『魔力の発生源はこいつで間違いねえな。正確に言えば、ドーム状にこの建物全体を覆い尽くしているか。それも、すっぽりと』
「学校を!?」
「何でそうなるまで放っておいたんですか」
ぐいぐい、と紫月がシャークウガの鰭を思いっきり引っ張る。
彼が弁明しながら悲鳴を上げた。
『痛い、痛い! フカヒレは勘弁してくれ! 恐らく、俺達が近くに居ない場所から飛んできたんだろうな! 相手はかなり時間をかけてこいつを設置したこと、そしてこいつを設置した奴はかなり強力な[[rb:隠密魔法 >ステルス]]で建物内を移動し、俺に気づかれなかったことが分かるぜ、じゃなきゃお前らに先に知らせてる!』
「強力な[[rb:隠密魔法 >ステルス]]……か」
『で、魔力の発生源はこの紙から、って言ったが、此処から魔力を供給してあのバリアが出来ているって感じだ』
ちょっと待て。
さっきからドームだのバリアだの言っているが、それってつまり……。
「なあ……俺達、この学校から出られないのか?」
『さあ、それは分からん。バリアが単なるバリア的な何かだったら一応出られるかもしれないし、場合によっては触ったらビリビリしたり全身が焦げたりするような代物かもしれん』
「バリア的な何かって随分ふわふわした言い方ですね、貴方やっぱりフカヒレですよ」
「万が一のことがあったら
白い目で桑原先輩と紫月が言ったその時。
屋上からグラウンドを遠い目で見ていた紫月が怪訝な顔を浮かべる。
「先輩方。グラウンドを見てください。玄関から、誰も外に出ていません」
……確かに。
紫月に言われて覗いてみたが、誰も学校から出る気配がない。
まさか、校内で既に騒ぎになってるのか? だとしても、この静けさにはどうも違和感がある。
ましてや、普段部活で外に出るであろう運動部の面々すら外に出ていないのもおかしい。
異常事態が目に見える形で起こったなら、何故騒ぎが起こっていない?
「これは逆におかしいですよ……全員が、この時間に校舎に籠っていることは有り得ません。ともかく、ブラン先輩に連絡を取りますか」
「ああ。いい加減あいつ、来てくれねえとな……でも、入って来れるのか?」
「さあ」
止めるのも聞かずにスマホを取り出す紫月。
しかし。彼女の顔が硬直した。
「……圏外」
「え?」
「先輩、スマホの電波が完全に切れています」
「あんだと? 此処は特に障害が起こるような場所でもねぇんだが……」
言った桑原先輩、そして俺もスマホを手に取る。
しかし、彼女の言った通り、スマホの電波が完全に切れていた。
おまけにインターネットにもつながっていないという始末だ。
「何だァこりゃ。何で繋がってねぇんだ? おまけにネットに接続できる環境がありません、だぁ?」
桑原先輩がいら立った表情で言う。
それは完全に電波、そしてインターネットの接続環境が遮断されているということ、つまりこの空間が外と完全に隔離されていることを意味していた。
「こうなったら、校舎の中が心配だ――!」
「……! みづ姉が危ない!」
此処までの言いしれぬ不安と異変。
俺は飛び出すように、その場から駆け出す。
「学校には沢山生徒が居るんだ! 先生だって! 何か起こってからじゃおせぇ!」
『超超超可及的速やかに、元凶を排除するでありますよ!』
「みづ姉、みづ姉に何かあっては私……!」
「おう、その意気だぜ! ……模写する暇はねえなコレ」
※※※
いや、もう既に校内にも影響が出ているかもしれない。屋上の階段を駆け下りる。
翠月さんは勿論、花梨も、そして学校の中にいる皆が心配だ。
と、気持ちでは急いていたのだが……踊り場に降り立ったところで、俺達は廊下に出るのを躊躇した。
聞こえてくる。呻き声のようなものが。
恐る恐る踊り場から廊下を覗き見ると、俺達は先程までは無かった異様な光景を目にすることになった。
「いっ……!!」
それは、数名の生徒達であった。
虚ろな眼差しで無気力に廊下を歩いており、何かを探すようにして、ふらふらと歩いている様は一目で異変が起こっていることを気付かせた。
生徒達の額には、先程の紙切れに刻まれていた紋様と同じものが浮かび上がっていたのである。
「何なんだよ、一体……!」
「華道部の連中か……様子がおかしい」
「マークが同じという事は、バリアを貼った犯人と同じということですか。明らかに意識が虚脱しているように見えますが……」
『どうするでありますか? 近づいて調べるであります?』
「いえ。此処はシャークウガに解析させましょう。普通の人間にクリーチャーは見えません」
『……いや、やってるんだけどよ』
シャークウガは首を振った。
『いつもならもっとはっきりと何の魔法が掛けられてるのか分かるんだが、この薄気味悪い空気の所為か、全く魔法が何か分からねえ。それどころか――』
彼はいつものように、指先に水の塊を纏わせようとする。
しかし。水は固まらず、そのまま魔力の塊となって霧散してしまった。
『魔法が使えねえ』
「そう言えば、我もこの術に掛かったものの気配を感知できなかったであります……何かの魔法にかかってるなら、普段ならもっと早く気付くでありますよ」
『さっきもあの得体のしれないバリアの正体がつかめなかっただけに、どうも事態はどんどん悪化してるようだぜ』
「じゃあ、近づいて調べるっきゃねえか。相手は3人。こっちも3人。最悪どうにかなる」
「オイオイ、考え無しかァ? まあ仕方ねえか。俺もごちゃごちゃ考えるのは性に合ってねえ」
俺達は遂に意を決して廊下に降り立つ。背後から、3人組に回り込むようにして。
「オイ! 大丈夫か? 目がイってるけど、正気か!」
「……エリアフォースカード、発見」
呼びかけた俺の言葉に返ってきたのは、そんな言葉だった。
まずい。この明らかに正気でない生徒達は、俺達のエリアフォースカードを狙っているのか!
考えている暇を与えることなく、生徒は飛び掛かってきた。
その背後には、薄っすらとだがクリーチャーの姿が見える。
「あの紋様が貼り付けられた紙が、力を持ってるのか?」
『そのようであります! クリーチャーは、そこから宿主に取り付いているでありますよ!』
それを躱したところで、チョートッQとシャークウガが叫ぶ。
『マスター! デュエルの準備を!』
『デュエルだ! デュエルで正気に戻すっきゃねえ! 同時に3人分、開くぞ!』
「畜生! 結局コレか!」
桑原先輩が悪態をつきながらデッキを取り出す。
俺達もエリアフォースカードを取り出した。
『