学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第46話:ルーン襲来─紫月、怒る

※※※

 

 

 

「あーうー……何デスか、コレ……」

 

 或瀬ブランは当惑していた。折角急いで眠い目を擦って此処まで来たというのに、彼女が学校前の校門から先へ立ち入ることは叶わなかった。

 言うなれば光の壁。それが、校舎周りの地帯をぐるっと覆っている上に、ドームのようにして丸く校舎を収めているのである。

 入ろうとすると、それに阻まれて先に進むことが出来ない。

 

『非常に嫌な気配がする……クリーチャーではないな、この大規模な魔力の壁は』

「このドーム、どうやってBreakすれば良いのデショウ……さっきからアカル達と通話は繋がらないし、中が心配デス」

『確実に、この中で何かが起こっておる。やれることは試してみたが、無理じゃ』

「迷宮化も空間に穴を開けることも出来ないなんて……」

 

 ワンダータートルは悔しそうに頷く。

 ブランも、さっきからずっと校舎周りを観察してはいるが、さっぱり様子が分からない。

 

「取り合えず作戦変更デス。此処から一番校舎に近い裏山に回り込んで、双眼鏡で校舎の窓から覗きマショウ!」

 

 

 

「その必要は無い。いや、無駄と言ったところか」

 

 

 

 声が響く。

 ブランが振り返った先には――燃えるような赤毛。

 そして、その顔を見て彼女は身構えた。

 

「ヒヒロカネ……! 何故、ここにいるデスか!」

 

 火廣金緋色。

 アルカナ研究会の魔導司、つまり敵である彼とばったり出くわしてしまった。

 彼は強敵だ。あまり戦いたくはない、と冷や汗かいたブランだったが……。

 

「安心しろ。俺は女子供には自分からは攻撃しない。それはそうと、このドームに手をこまねいているようだな」

『どうやら、この事態を知っているような口ぶりじゃが……やはり魔導司の仕業じゃったか』

「俺がやったわけではないよ」

「! それなら、一体誰がデスか」

「これはとてつもない代物でね。空間内の視認を歪め、外部、内部からの侵入、脱出を不可能にする恐怖のドームだ」

「Questionのanserになってないデス」

「要するに俺ではない。少なくとも」

 

 敵意を剥き出しにして睨みつける。

 彼は肩を竦めると言った。

 

 

 

「……まあ、つまり。我らがアルカナ研究会会長のルーン魔法だ」

 

 

 

 ブランは耳を疑った。

 ルーン魔法。小説か何かで読んだことがあるような魔法だが、ブランは細かくは思い出せなかった。

 それに、所詮は創作の知識はここでは役に立たない。

 

「本当に、何故こんなことをやったのか。正直俺としては小一時間、会長に問い詰めてやりたいんだがな。自分の切札が復活したからと言って、一般人を巻き込むだなんて正気を疑う」

「ル、ルーン魔法っていうのは、何デスカ?」

「これはあくまでも俺達の中で使われてる一種の業界用語だがね。決まった印……例えば五芒星なんかを刻んだ紙を使う魔術さ。それも大量にばら撒き、広範囲に魔力を広げるのさ」

「な、何か手間が掛かりそうデス……」

「そうだね。最も、印は媒介、つまり魔力の通り道に過ぎないから、印さえ合ってれば後はコピー用紙でも良いのだが、手間暇が掛かるのは間違いない。その代わり、ばら撒いた周辺では完全にその魔術は効力を発する。電気回路のようにね。おまけにこういったバリアを貼られたら、俺達でもお手上げだ。会長のルーン魔術のバリアが強力な理由は2つあるからね」

 

 得意気に語る火廣金。

 話半分に聞いていたブランだったが、流石に口が軽すぎやしないかと彼女は眉をひそめた。

 

「……まさか、それまで教えてくれるとかないデスよね」

「今の俺はお前達に敵対するつもりはない。信じるなら教えてやろう。最も、お前はイギリス人混じりだから、その辺りも多少は解せると思っているが」

「むぅ。まあ、聞いておくデス」

「簡単に言えば、あの中では全てのクリーチャー、および他の魔術は効力を著しく減退、及び無効化される。魔法を使った犯罪者共の中では酷く恐れられている監獄だね」

「!」

「つまりクリーチャー、他の魔術では破れない。物理的にルーンの紙を処分するしかあるまい。ただし魔力で弾かれるから素手では触れない。間接的な手段……燃やす、濡らす、破る、あるいは――」

「なーんだ、弱点はあるじゃないデスか!」

 

 途中で言葉を遮るブラン。突破口があるならば、耀達を助けることが出来るかもしれない、と。

 しかし、火廣金はそれを一蹴した。

 

「言ってるだろう。弱点があれば、とっくに俺はこの中に入っている。否、弱点はあるし分かってはいるのだが」

 

 忌々しそうに彼は言った。

 

 

 

「――分かってても、突破出来ないんだよ。文字通り、弱点無し、抜け穴無し、だからな」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「《バレット・ザ・シルバー》でダイレクトアタックだ!」

 

 空間が閉じた。

 生徒達はそのまま廊下に倒れ伏せていた。

 見ると、紫月と桑原先輩もデュエルに勝つことが出来たらしい。

 倒れた男子生徒に駆け寄り、息があることを確認すると、俺は揺すり起こそうかと思ったが、この異様な光景を目の当たりにしてパニックを起こされるよりはこのまま眠っていてもらった方が好都合か。

 見ると、生徒達に貼りついていた紙が燃えるようにして消えていった。

 彼らを操っていたのは間違いないが、デュエルで勝てば消すことが出来るのか。

 だけど、無関係な生徒を巻き込むなんて……。

 

「……許さねえ」

「先輩……」

「皆が心配だ! 元凶を突き止めるまで、なるべく体力は使いたくないけど……」

 

 そして俺達は全員を全員、救うことはできない。

 エリアフォースカードの使用には制限があり、使う度にそれが疲労感と虚脱感といった形で俺達に襲い掛かってくる以上、何度も戦うのは危険だ。

 特に元凶、それも魔導司がこの中に居る疑惑がある以上は。

 

「逃げだせば、クリーチャーが実体化して襲い掛かってくる。さっきも既に半分実体化していたぜ」

「ならば、やむを得ません。校内全域が敵の領域で間違いないでしょう」

 

 冷静に振舞う紫月。

 しかし、親指の爪を噛んだ彼女の表情には、明らかに焦りが現れていた。

 一先ず、階段を駆け下りて、正門から外に出ることが出来ないか確かめることに。

 狭い校舎の中でいつまでも逃げ続けることは出来ない。

 しかし。

 

「何だこりゃ……」

 

 俺達は息をひそめてすぐに階段に身を隠す羽目になった。

 というのも、玄関には何人もの野球部の生徒が、サッカー部の生徒が虚ろな目で徘徊していたからである。

 くそっ! 流石にこれじゃあ出て行くことが出来ない。数はざっと十数人。俺達を探しているのだろう。目視しなければ見つけることは出来ないだけまだマシか。

 

「どうする? 突っ込むか? 白銀、紫月」

「いや、悪手でしょうね。私は今、デッキを1つしか持っていないから複数人相手は出来ないですし」

「持って来てたら複数人相手にするつもりだったのかよ」

 

 ともあれ、校舎の外に居た野球部がコレなら、美術部が、剣道部がどうなっているのか、最早この状況では想像に容易い。

 倒せば解放することが出来るとはいえ、余計な数の戦闘は避けなければ、俺達が倒れてしまう。

 そうなれば今度こそゲームオーバー。奴等の狙いはエリアフォースカードというのは間違いないので、奪われるだろう。

 

「黒幕が何処にいるか分からねえ以上、俺達は隅々まで校舎を回って探すしかないか」

「だが、そんなことしてたら俺たちゃ共倒れだ! エリアフォースカードで戦い続けてたら、バテちまうんだろ!? どうにかして場所を割り出さねえと」

「しかし、取り付かれている生徒も心配です。みづ姉……無事ならば良いのですが、私達が戦える回数には限界がある……」

「くそっ、そもそもブランが居ねえから迷宮化もナビゲートも使えねえんだよな」

「オマケに、校舎から外に出ることは出来ないってのか」

 

 八方ふさがりか……しかし、此処までの事が出来るのに、何でこんな回りくどい真似をするんだろうな今回の犯人は。

 ……いや、こうして俺達を疲弊させるのが目的かもしれねえけど。

 仕方ない。一旦引き下がって他の階を探し回ろう。最悪は、あの玄関から正面突破すれば良いだけだし。

 そう思って、俺達は2階に上がる。今度は美術部の状態、そして渡り廊下から剣道場の様子も確かめてみないと。

 何よりノゾム兄も見つけないといけないから、やるべきことは山積みだ。

 

「誰か、居るか?」

「はい。女子生徒のようです」

「くそっ、挟まれたか」

 

 階段に隠れた俺達は、こそこそと廊下の先に居る人影を見ていた。

 もっとも、数はこちらの方が少ないから、突破するのは簡単だ。

 目標は一先ず剣道場。

 ならば、女子生徒の居る廊下を駆け抜けて、ちょっと遠いけど2階の剣道場への渡り廊下へ向かった方が良い。

 しかし。

 

「オイ白銀。後ろからも足音が聞こえてくるぞ!」

「マジかよ!?」

 

 

 

 

「エリアフォースを寄越 せ……」

「エリアフォース……を」

「エリアフォース を渡せ」

 

 

 

 階段の奥から数名の野球部員がこちらへ向かってくるのが見えた。

 こうなると最早、全員とデュエルしなければいけなくなってしまった。

 だけど、階段の方からは何人も来てるからな……挟み撃ちを回避するには、1人が女子生徒を、残り2人はやってきた奴から迎撃する。よし、これだ。

 俺は2人に目配せして、廊下を蹴り、女子生徒の居る方へ駆けた。が、

 

 

 

「――あラ、しヅじゃナい」

 

 

 

 正面きって、廊下を突っ切ろうとしたその時。

 向かってきていた人影の正体を認め、俺達は足が竦んだ。

 

「みづ、姉……!!」

「翠月さん!?」

「おいおい、これは……厄介なことになったな」

 

 俺達の前に立ちふさがったのは、翠月さんだった。

 他の美術部員が何処に行ったのか。何故彼女だけ此処にいるのかが気になったが、それを差置いた最大の異常は、彼女の言葉から言いしれない身の毛のよだつ悍ましいものを感じたこと、そしてそれ以外は異常と呼べるものがおおよそ存在しないことであった。言葉にノイズが混じっていなければ、彼女が憑かれているとは気付かなかった程だ。

 

「――駄目じゃナい。そんなものをモッてたラ……エリアフォースを、ワタしなサイ?」

 

 カタコトで、詰め寄る彼女。

 まさか、こんなところで翠月さんに出くわすなんて……! 

 しかも、他の生徒とはまた違うものを感じる。ただただ取り付かれていただけのさっきの彼らとは違い、明らかに彼女に魔法が”馴染んでいる”印象を与えた。それほどまでに、違和感は無かったのである。

 花梨も、こんなことになってるのかと思うと、ぞっとした。酷いことを……!

 俺は紫月の方を向いた。

 しばらく、彼女は茫然となって立ち尽くしていた。

 

「私は、選ばなきゃいけない。みづ姉を傷つけてでも助け出すか、否か」

 

 彼女は小さな拳を握りしめた。

 

「でも、目の前のみづ姉の様子は明らかにおかしい……私は、私はみづ姉を見捨てることは、できない」

「答えは1つだろ……紫月!」

 

 彼女は頷いた。

 デッキケースに伸びた手が何度も止まりかけたが、遂に決心したように握りしめた。

 

「白銀先輩。桑原先輩。1つ……頼んで、良いですか」

 

 緊迫したこの状況の中、いつもの彼女なら、いや今までの彼女なら正気を失っていたかもしれないこの状況。

 彼女は振り向き、一瞬だけ――微笑んだ。

 

「背中、お願いします。だから、みづ姉のことを任せてください」

「……ああ! 勿論だ!」

 

 俺は強くうなずいた。

 背中合わせの共闘。本当は冷静ではいられないはずのこの状況。

 湧き上がるような、沸騰するような怒りを押さえつけて、紫月は呟くようにその言葉を唱えたように見えた。

 

「白銀。こっちも行くぜ。翠月の事は、あいつが一番知っている。分かっている。俺は、翠月も、紫月も信じる!!」

 

 俺もエリアフォースカードを手に取る。

 背中合わせの彼女も、エリアフォースカードを手に取った。

 もう、振り返ることはしない。互いの強さは、確かに心で信じているから。

 

「私にみづ姉を傷つけさせること。そして、みづ姉を傀儡にしたこと――万死に値します。そうでしょう? シャークウガ」

『おー、こえぇ。だけど、考えは同意だぜ。本当に魔導司ってのァ、汚ェ真似をしやがる! 行くぞ! 姉ちゃん助けるんだろ!!』

 

 デッキケースから、白紙のカードを取り出しました。

 

 

 

「はい。デュエルエリアフォース――展開」

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