学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第48話:アルカナの偽証─正義の味方

「皆、どうしちゃったんだろ……」

 

 剣道場の裏に隠れた花梨は、この奇妙な状況で困惑と恐怖を隠せなかった。

 中にいる生徒は、教師は皆、虚脱したかのように目が死んでおり、まるでゾンビのように辺りを徘徊していた。

 ――逃げ、なきゃ……! 耀達なら、助けてくれるかもしれない……!

 どうすればいいのか。何が起こっているのか分からないこの状況。しかし、下手すれば耀達もこのようになっているかもしれないと考えて、顔が青くなった。

 逃げなければ。逃げなければいけないのだ。

 

 

 

「周章狼狽――と言ったところだが……驚いているのは私も同じだよ。こんなところに、我がルーンの洗礼が効かないものが居るとは驚きだ。エリアフォースを持っているわけではないようだが」

 

 

 

 ぺた、ぺた、と裸足でコンクリートを歩く音。

 見ると、そこには黒いローブを纏った小柄な子供の姿があった。

 その素顔は隠れているので分からない。しかし、声からして幼い少女であることは間違いない、と花梨は判断する。

 

「あ、あなた、誰……!? 火廣金と同じ、魔導司(ウィザード)なの?」

「……知り合いか? まあ良い。お前が白銀耀と仲が良いのは調べがついている。そして、過去にワイルドカードに憑依されたことがあり、この魔術に耐性が出来ている事から分かる」

 

 すらすらと言葉を並び立てる少女。

 しかし、花梨にはその内容が分からなかった。

 ルーンの魔術、ワイルドカード。そして、耐性。

 混乱ますます極まる、といったところだ。

 

「今、この学校はこの私が掌握している。今頃彼らはあんな感じに虚脱した人間と戦って疲弊しているだろうさ。それが私の狙いだが」

「狙い……!?」

「まあ、お前がどこまで知っているか、とか何を知っているかとかは興味が無いよ」

 

 言った彼女は、手を振り上げた。

 

 

 

 

「少し、人質になってもらおうか」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「みづ……姉」

 

 何とか向かい来る生徒を倒した俺と桑原先輩は、後ろでも戦いが終わったことを認めた。 

 翠月さんを抱きかかえる紫月。その瞳の色は、普段の冷淡なものではなく、酷く怒りで爛れていた。

 

「ごめんなさい、みづ姉。少し、ここで寝ていてくださいね」

「紫月……!」

 

 立ち上がった彼女は袖で顔をぬぐうと、俺達の方へやってきた。

 彼女がどんなに辛い思いでデュエルをしていたか、想像に難くない。

 それどころか、自らの手で自らのクリーチャーで彼女にトドメを刺さなければならかったこと。

 それがどんなに彼女を苦しめたか。

 

「大丈夫です。先輩。この怒りは、この憤りは、悲しみは、全て黒幕にぶつけます」

 

 だから、大丈夫な訳が、無いじゃないか。

 俺は拳を握り締める。

 それでも、俺はあくまでも彼女の戦い続けるという意思を尊重した。

 なにも気付いていないふりをして、頷いた。

 憤り、悲しみ、後味の悪さを残したまま、俺達は再び動き出すことになった。翠月さんを安全な場所に置き、俺達は再び目的地を決めようとする。

 ともすれば。やはり校舎を隅々まで探索するしかないのか。

 連戦は辛いが、花梨が、ノゾム兄が心配なのが俺の本音だった。

 それに、このドームがどうなっているのか、確かめておく必要もある。だけど、敵は隠れやすいこの校舎の中にいるかもしれないのである。

 

「ところでよ」

 

 桑原先輩は思い出したように言った。

 

「テメェらはエリアフォースカードを持っているから、この洗脳が効かないってのはまだ分かる。だが、俺は何で紙に憑りつかれてねぇんだろうな?」

「そりゃ……何ででしょうか」

 

 ふと、それは俺も気になった。

 あの状況で真っ先に影響を受けていそうなのは桑原先輩だ。

 

『ある程度、桑原殿にも耐性は出来ているでありますよ。一度、ワイルドカードに憑かれているであります』

『ひょっとしたらこの操りの魔法、ズブの一般人、素人にしか効き目がねぇのかもしれねえな。あるいは、それが桑原。あんたの特異体質なのか』

「ああ? どういうことだよ」

『そういう可能性もあるってこった』

「……ってことはもしかして、花梨も耐性があるとか」

 

 俺はふと口にした。

 あいつも1度ワイルドカードに憑りつかれている。桑原先輩みたいに、彼女だけ紋様の紙の影響を受けていない可能性もある。

 だけど、花梨も元は無関係な普通の高校生に過ぎない。

 もしも彼女が正気を失った生徒達の姿を見たら――どんなに怯えるか。

 そして、また彼女を事件に巻き込んでしまったことになるのだ。

 

「もし、そうだとしたら……どうしよう、またあいつは……!」

「白銀」

 

 ばんっ、と桑原先輩が俺の背中を叩く。

 すっげぇ痛かったけど、先輩ははっきりと言い放つ。

 俺の迷いを振り払うように。

 

「今は、ごちゃごちゃ考えるのは後だ! 俺は難しい事考えるのは苦手だが、今やるべきことはこの事態を解決すること! その後片付けには全力で協力してやる。テメェはどっかり構えてろ、デュエマ部部長!!」

「先輩……!」

 

 そうだ。迷ってる場合じゃない。

 今は何が何でも花梨を助けなきゃいけないんだ。

 

「白銀先輩。どうしますか。正面玄関に突入しますか。それとも、校舎内を回りますか」

「……今は1秒が惜しい。もし、花梨が憑かれていない可能性があるなら、あいつをこれ以上危険な目には遭わせられない!」

 

 だから、と俺は繋げた。

 

「正面玄関を突破する! 目的地は剣道場だ!」

 

 

 

「ハッハッハ、諸君! その必要は無くなったぞ!」

 

 

 

 駆けだそうとした俺達はずっこけそうになった。

 その影は、胡散臭い三段笑いと共に虚空から現れ、くるりと宙返りすると廊下に降り立ち、マントを翻した。

 いや、ちょっと待て。あんた一体、今どうやって出てきた? この空間じゃあクリーチャーの力は使えないはずなんだが……。

 そんな突っ込むさえも隅に追いやり、彼は諸々の状況を一切合切無視して、

 

「はっはっはっはっは、愛と正義の月の使者、三日月仮面、只今参上!!」

 

 大抵、事件が大事になると出てくる三日月仮面。

 これで会うのは3回目か。何しに来たのかは知らんが、胡散臭さは健在だ。

 恰好は完全に不審者だし。

 

「いや、名乗ってる場合かよ!!」

「あなた、一体どうやってここに来たんですか」

「何でこんなところに居るんだよ!?」

「ハッハッハ、お決まりとお約束も陳腐になると、飽きられると思って登場シーンに少し彩りを加えてみたのだが、どうかな? オーパーツの力で玄関から此処までワープしたのだよ」

「聞いてねぇよ! 階段使えよ!」

「本当に何しに来たんですか、この人」

「ハッハッハ、正義の味方とは、常に困っている人の下にやってくるのだ。何故とか野暮なことは聞いてはいけない。いいね?」

「アッハイ」

 

 ん? ちょっと待てよ。

 この人今、玄関からって言わなかったか?

 まさか、あの魔窟と化している玄関から?

 

「白銀先輩!!」

 

 考えていたその時、紫月が声を上げた。

 何と、廊下の奥から紙が大量に飛んでくるのだ。

 

「なっ!?」

「ふむ。どうやら黒幕は、あの紙を大量の複製しているようだね。しかも、飛んでくる場所もバラバラだから、さっきも”分解”するのに手間が掛かったが」

 

 次の瞬間、廊下の壁に寝かされていた翠月さんに紙がくっつく。

 紫月が飛び掛かって、それから彼女を庇おうとした。が、

 

「オーパーツ!!」

 

 三日月仮面のオーパーツが背後から現れた。そして、廊下中に紫電が迸った。

 それらが飛んできた大量の紙を一瞬で量子の塵に変えてしまう。

 

「えっ、えええ!?」

「何だ。クリーチャーの力は使えなかったんじゃないのか!?」

「ハッハッハ、確かに君たちのクリーチャーを見る限り、そうらしい。だが、この”分解”と”再構成”はそこまで弱体化していない」

「分解と、再構成!?」

「ああ。要するに、モノや魔術・魔法を分解するというものでな。いわば、魔法とは魔力が特定の法則で束になって飛んでくるものだが、それをただの糸に変えてしまうというわけだよ。丸太が飛んでくるのと、木の枝がばらばらになって飛んでくるのでは、明らかに前者の方が痛いだろう?」

「いや、死ねますよねそれ」

「とまあ、そんな要領でオーパーツの力は、モノを粒子に変えて否定したり、逆に自分の力で分解したものをすぐになら元に戻すことが出来るのさ。超科学を持つテック団の長にはピッタリだろう? 今までの登場もそれを利用したものなのだがな。要するに――唐突に出てくるのは、これを利用したワープ! 魔法の分解はその副産物さ!」

「じゃねーよ!! 明らかに魔法の分解がメインだろーが!!」

「自分を分解して再構成するだけなら、魔力は使わないからな。むしろ、ルーンの分解の方が疲れたぞ」

 

 しかし、こんな無茶苦茶なことが出来るとは……。

 魔法の影響を受けるなら、それを分解してしまえば良いという発想が既にインチキ染みている。

 それほどまでに、三日月仮面とオーパーツの力が強いのだろうか。

 

『我、流石に自信を無くすでありますよ……』

『ここまでコイツの力が無茶苦茶とはな』

 

 チョートッQとシャークウガもその力を前に落胆するしかない。まあ、気持ちは分かるぞ。

 言った三日月仮面はシルクハットから覗く仮面の眼を妖しく煌かせた。

 

「とはいえ力量の差があってか、流石にこの分解をもってしてもバリアのメインとなるルーン用紙は分解できなかったのでね、生徒のルーン用紙を分解しながら君達を探していたが、見つかってよかった」

「ルーン用紙?」

「また横文字かよ」

「この魔法のことさ。私も小耳に挟んだことがあるだけだが、紙に五芒星みたいなマークを書くとそれが魔力の中継点となり、この学校を覆うバリアのように大規模な魔法を使えるというものだよ」

「……よく分からないですが、この紙がやはり元凶ですか」

「まあ、燃やすなり濡らすなり、分解するなりすれば破壊できるけど、これはわらわら湧いてくるから、犯人が息切れするのを待つか、それともこっちが犯人を見つけ出すしかないのだがね」

「えと、じゃあ犯人ってどうやってルーン用紙を量産してるんですか?」

「さあね。マークさえ合ってればコピー用紙でもいいと聞いたことがある。しかし、この速度とペースは異常だ。別の手段で用紙を複製していると考えるべきだろう。あるいは、それ自体が犯人の能力か」

 

 だが、この魔法に対抗できる可能性が見つかったのは大きい。

 それならば犯人の居場所も分かるかと思ったが、それについて聞くと彼は首を横に振った。

 

「いいや、居なかった。相手は校舎の外にいると考えられる」

「……そう、ですか」

 

 紫月は俯いた。

 手掛かりは結局薄いままか。

 それならば、もう結論は1つ。

 

「三日月仮面! 俺達と、同行してくれませんか?」

「ほう。君の方から言ってくるとは」

「助けたい友達がいるんです。だけど、俺達だけじゃこの事態に対抗出来ない。三日月仮面の力を借りたい」

 

 今は、胡散臭かろうが何だろうが、この人の力が必要だ。

 紫月と桑原先輩もそれには同意のようだった。

 腕を組んでいた三日月仮面だが、シルクハットの鍔を上げると言った。

 

 

 

「……フッ、良いだろう。正義の味方である以上、君たちの頼みは断れん」

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