学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
三日月仮面とファウストのデュエル。
現在、三日月仮面の場には《ノロン⤴》が置かれている。
対するファウストの場には何もいない。しかし。先攻3ターン目になって、ようやく動き出した。
「私のターン。マナに《熱血龍 シビル・ウォード》を置き、これで3マナ。そして3マナをタップ。呪文、《フェアリー・ミラクル》」
「……5色コンか」
「マナに5色が揃っているので、山札の上から2枚をマナに置く」
ファウストのマナが急激に増加した。
山札の上から2枚がマナに置かれる。
これで、合計5マナ――!
「私のターン。ならば、2マナで《【問1】テック》を召喚。そして、《ノロン⤴》で攻撃――するとき、革命チェンジ発動!」
飛び掛かるプログラムの結晶は、そのまま三角形の結晶龍へと変化する。
来た。三日月仮面のテック団の革命チェンジだ。
「《【問3】ジーン⤴》! 効果で山札の上から2枚を表向きにし、お前はどちらかを墓地に落とし、どちらかを手札に加えねばならない!」
表向きになったカードは、《完璧問題 オーパーツ》と《戦略のDH アツト》だ。
「即断即決。《オーパーツ》を墓地に、《アツト》を手札に」
「ふっ、同じことだ。そのままシールドをブレイク!」
割られるシールド。
しかし、そこから1枚のS・トリガーが現れる。
「S・トリガー、《獅子王の遺跡》。効果で山札の上から1枚をマナに置き、そして多色マナ武装4で私のマナを更に2枚追加する」
「……くっ」
「人間ごときが、私達の戦いの世界に踏み入るからこうなる。因果応報だ」
まずい。一気にファウストのマナが増えた。
だけどその分、手札も消耗している。相手のマナは次のターンで9枚になるけど――
「私のターン。6マナをタップ。さあ、お前の覚悟とやらを見せてみろ」
次の瞬間、巨大な咆哮が響き渡る。
一気に戦場は、荒れたサバンナへと塗り替えられた。
「D2フィールド、《大革命のD ワイルド・サファリ・チャンネル》を展開」
革命の力を得たD2フィールド。
それが展開される。
「こいつの効果で、マナゾーンで多色カードをタップする時、そのうちの好きな枚数のカードのマナを2にしてもよい」
「マナの数字が2になるのか……!」
「人間ごときが、怖気づいたか」
言ったファウスト。
それに反駁するように、彼は叫んだ。
「人間ごとき、人間ごとき――お前らは、人間見下さなきゃ生きていけないのか」
「お前達とは力も、力量も、経験も、覚悟も違うさ」
「覚悟なら、お前達に負けてはいない」
三日月仮面の言葉は、いつにもまして悲痛だった。
「お前にわかるか? 頼り縋っていたものを全て奪われた、ある哀れで無力な男がどんなに惨めだったか」
孤独な影。
彼の言葉の中に、彼の頼り縋っていた物の中に、少なくとも俺達は居なかった。
彼がどんな人生を歩んで来たのか。それは詳細には分からない。
「私は、ワイルドカードの悲劇を繰り返さない!! そして、これは”私の覚悟”の証でもある!!」
カードを引く三日月仮面。
此処から、彼の逆襲が始まった。
「2マナで《アツト》召喚! カードを2枚引いて、2枚捨てる! そして、墓地の《オーパーツ》から墓地進化!! 《死神術師 デスマーチ》!!」
そして、そのまま《ジーン⤴》に手を掛ける。
「《ジーン⤴》で攻撃――するとき、コスト5以上の光か水のクリーチャーの攻撃をトリガーに、革命チェンジ発動!!」
次の瞬間、天上から光が降り注いだ。
あれは、テック団の革命チェンジではない。
光り輝く、天使龍の力だ。
「音階龍の切札――確かに借り受けた!! 《時の法皇 ミラダンテ
あれは――ドレミ団のレジェンドカード……!
前に音神が使っていたカードだが、彼に憑りついていた禍々しいワイルドカードとは別物だ。
神々しい。その言葉がそのまま当てはまる。
静寂の音色を響かせ、法皇の下に時が止まっていく。
「効果でカード1枚ドローし、ファイナル革命発動!! これでお前は、次のターンにコスト7以下は出せない! せめて、《ボルバルザーク・エクス》とかの召喚は封じる!」
「……愚かな」
割られる3枚のシールド。
その中の1枚が突如、燃え上った。
「S・トリガー、《ボルメテウス・ホワイト・フレア》。効果で相手のクリーチャーを全てタップ」
「っ……ターンエンドだ」
「獅子奮迅。その勢いは誉めてやろう。だが、私にも譲れぬものがある」
言ったファウストは、カードを引く前に――手元にある《ワイルド・サファリ・チャンネル》に手を掛けた。
「ターン開始時に《ワイルド・サファリ・チャンネル》の
次の瞬間――巨大な獅子の顔が彼女の背後に現れ、咆哮した。
そして、オアシスが現れ、戦場は大自然に覆われていく。
「これで私はこのターン、マナからクリーチャーを召喚することが出来る」
「っ……!!」
「如何なる軍勢も、私の前では無力だ。意味がない」
「無力だと……!」
そうだ、とファウストは言った。
「その程度の覚悟が、私に勝るものか。私には使命がある。そして責任がある。逃れられない宿命でもあるのだ。人間に、エリアフォースカードは渡さない」
刹那。
見ていた俺でさえも、凍り付くような感覚を覚えた。
大地を割り、天を穢す悪魔にして天使のような道化。
彼女の背後に、強大なものが現れた。
「何を言って――」
「このカードはな。あらゆる我が切札に成り得る、まさに
語りだすファウスト。
彼女が切ったワイルドカードは、身の毛のよだつような曲芸の始まりを告げる。
すべてを終わらせ、狂わせる道化師のタロットカードが、浮かび上がった。
「変幻自在にして千変万化。全ては無常、変わりゆく者」
不明で不条理、不可思議な存在。
吸収するマナは、5つ。
革命の大地を足場に、怪しく、妖しい死の演目が始まろうとしていた。
「天を突いて悪徳に堕とせ──《
巻き起こる炎の渦と水の渦。
そこから、恭しく礼をした仮面の道化が姿を現した。
「久々だな。お前の力、見せてやれ」
マントを翻す道化。
仮面に隠されて、その表情は伺い知れない。
だけど、何て強大なんだろうか。
『了解ですとも、我がマスター』
喋った――!
そうか。あいつが、あのファウストのエースクリーチャーなんだ。
「アルカクラウン、か――!」
『最初は刺激的ですが、すぐ楽になりますよ、お客様』
「見せてやれ。5色の曲芸――お前の道化師たる所以を!!」
5枚のカードが捲れ上がった。
その全てに、光、水、闇、火、自然のマークが刻み込まれる。
そしてそれぞれが飛んで行く。
「《アルカクラウン》が場に出た時、山札の上から5枚を見て、その中から光、水、闇、火、自然、違う文明のコスト7以下のクリーチャーを1体ずつ場に出す。勿論、進化も含めてな」
「なっ……!」
「召喚以外なら、良いのだよ。《ミラダンテ》の時止めは意味を成さない。さあ、曲芸の始まりだ」
降り立った5つの影。そこには――
光――《青寂の精霊龍 カーネル》。
水――《飛散する斧 プロメテウス》。
闇――《闇鎧亜クイーン・アルカディアス》。
火――《星鎧亜イカロス》。
自然―《爆砕面ジョニーウォーカー》。
の5体が並ぶ。
「《カーネル》の効果で、《デスマーチ》をロック。《プロメテウス》の効果でマナを2枚タップして置き、マナから1枚を回収。最後に《プロメテウス》を《イカロス》に進化」
なっ、一瞬でクリーチャーが3体も――!
だが、まだ最後の1体が残っている。
悪辣な闇は、《アルカクラウン》に降り注いだ。浮かび上がる数字はⅢ。女帝を表す数字だ。
「《アルカクラウン》、進化。《闇鎧亜クイーン・アルカディアス》」
「直接進化した……!」
あれは、何だ。
前に見た《クイーン》よりもさらに禍々しい。
新たなる女帝のカードということか。
「これが我が切札の変幻自在たる所以。《アルカクラウン》の種族はデーモン・コマンド、エンジェル・コマンド、ロスト・クルセイダー。加えて、光、闇、自然の多色クリーチャー。多くの進化元となり得る」
3色で3つの種族を持つから、進化先に恵まれているクリーチャー。
これが道化の道化たる所以――!!
「最早、お前に勝ち目はない。諦めるんだな」
「生憎、諦めるのは苦手でな。私は、いや、オレはデュエリストだからな!!」
「そうか。ならば」
彼女は冷淡に、突き放すように、用済みになった廃材に言い放つかのように、
「此処で死ね」
飛び掛かる女型のロスト・クルセイダー、《イカロス》。
炎を纏った脚を、シールドへ叩きつける。
「《イカロス》はクルー・ブレイカー:多色クリーチャーを持つ。我が場に多色クリーチャーは《イカロス》、《クイーン》、《ジョニーウォーカー》、《カーネル》の4体。よって、ブレイク数は+4。シールドをオールブレイクだ」
そして、薙ぎ払うようにして全て蹴り壊した。
吹き飛んだのは、三日月仮面もだった。
シールドの破片が一気に降りかかり、衝撃波も襲い掛かる。
そのまま、彼は吹き飛び、地面に叩きつけられた。
「お前は《クイーン・アルカディアス》の効果でコストを支払わずに呪文を唱えられない」
「……ああ、そうみたいだな……」
仮面の変声器は完全に破損している。
そして、仮面自体もぱっかりと割れていた。
シルクハットが落ちると、血が滴り落ちる。
そうやって、飾り物が全て取れた時。
「――!!」
俺は、ようやく彼の正体に確信を持つことが出来た。
「ノゾム、兄……!!」
高く束ねた髪。
高い背に、少し童顔の顔。
だが、それらすべてが今は血に塗れていた。
「ノゾム兄!! 何で、ノゾム兄が……!!」
何でだ。
なんでなんだ。
何で、この人がこんな所にいるんだ。
俺達とは、一番遠い場所に居たはずの彼が。
何も知らない間に、事件に関わっていたというのか。
日常に、日常の傍にいたはずの彼が、何故。
「耀……オレは、大丈夫だ。黙って……聞いてろ!」
彼は叫んだ。
「耀……オレは、俺はお前らに言わなきゃいけないことがいっぱいあったのに、言わなかった……そのツケが回ってくるときが来たんだ。お前らの前で振舞ってきたオレは、仮面を被って笑っていた”刀堂ノゾム”でしか、無いからな」
「な、何言ってんだよ、ノゾム兄!! ノゾム兄は、ノゾム兄だろ!?」
「もうオレは、二度と幸せにはなれない人間だ……げぇホッ」
血混じりの唾がばら撒かれた。
彼は息も絶え絶えに言った。
「ノゾム兄!! あまり喋るなよ!! もう、フラフラじゃねえか!!」
「これが、末路だよ……戦ってるうちに、自分の顔まで失った哀れな男の末路だ。クリーチャーを知らない周りの人に、お前達に余計な迷惑や心配を掛けたくないって思ってたのに、こうなっちまったなあ」
「どうして、ノゾム兄は……そんなになるまでワイルドカードと戦ってたんだよ。何で、顔を隠してまで」
「もう二度と、ワイルドカードで、クリーチャーで哀しい思いをする人を出さねえためだ……!」
その顔は、笑っていた。
貼り付けられた作り物の仮面のように、笑っていた。
もう、笑う事しか出来ない程にノゾム兄の顔は──
「そ、そうだけどっ……」
いつも俺たちを励ましていたあの笑顔は。
いつから、いつからあんなに不気味なものになってしまったのだろうか。
「こいつは、オーパーツは、オレが半分身体を貸す代わりに色んな力をくれた。危険は承知だが、それで今まで戦ってきた」
それじゃあ、三日月仮面の時のノゾム兄は、半分オーパーツの感情が入ってたってことか……!?
今まで、そうやってずっと――自分の感情を殺して、ワイルドカードと戦ってきたのか!?
身近な人物が、1人で孤独に戦ってきたのを今の今まで知らなかった。
こんなに、こんなに近くにいたのに。
「なあ、耀。オレみてぇになるな。オレみてぇに、笑顔をべったり貼り付けたような人間マシーンになってくれるな。どうやっても、お前達ならオレとは違う道に行ける。誰かの輝きが無いと輝けず、光を失った月には出来なかったことをやってくれる」
「おい、ノゾム兄。縁起でもねぇこと言うなよ」
「オレは、このデュエルで勝っても負けても、間違いなく二度と戦えなくなる……!! オレは、能力をいいことに、自分に、自分の身体に無茶掛けすぎちまったみたいだからな」
「ノゾム兄らしくねぇよ!! いつもの強気は、いつもの陽気は、いつもの強いノゾム兄は何処行っちまったんだよ!?」
さっきの”分解”と”再構成”を思い出す。
相当、無理してたんだ。今の今まで。
身体が壊れるまで。壊れるべくして、彼は壊れたんだ。
「お前らが居てくれたから、お前らも似たような境遇だって知って、戦ってるってわかったから、オレは頑張れたんだぜ……一番、励まされてたのはオレで、お前らはオレの心の支えだったよ。何だかんだで、楽しかったからな、正義の味方……助けるつもりが、結局は支えられちまったけどな」
シールドの1枚が収束した。
同時に、ノゾム兄は立ち上がってそれをつかみ取る。
「オレは、お前らを止めない。お前らが逃げるのも、戦うのも。だけど……後、もう少しだけ、もう少しだけ、お前達のヒーローで居させてくれ」
「ようやく立ったか。それでこそ仕留め甲斐がある。虚勢でも、強がっている獲物の方が良い。残念だが、《クイーン》の効果で、お前は呪文をコストを支払わずには唱えられない。このまま、捻り潰してやる」
迫る黄金の鎧をまとった天使の女王。
しかし、英雄は、決して止まらなかった。
「それはどうかな! S・トリガー、《終末の時計 ザ・クロック》! ターンを強制スキップだ!」
俺は、ひたすら放心状態だった。
滝のように叩きつけられる事実の数々。
それが、俺を打ち付けていく。
「まだ、立つのか? 愚かだな」
「はっ、生憎底無しのバカなんだよ、オレは……!!」
ああ、そうか。
やっぱり、そうだったのか。
彼は、ひたすら正義の味方に殉じたんだ。
ずっと、”1人”で戦ってきたんだ。
「耀!! 見てろ!! オレはまだ戦えるぞ!! これが、これが刀堂ノゾムの、最期の戦だ!!」
カードを引いたノゾム兄。
即座に5枚のマナをタップした。
「オーパーツ……無茶させちまってごめん……! でも、もう少しだけ、ワガママに付き合ってくれ!! 5マナをタップ、《クロック》を《革命龍程式 シリンダ》に進化!! 効果で場の水のクリーチャーの数だけ1枚引く! 2枚ドローだ!」
言った彼は、更に畳みかけていく。
「さらに、《シリンダ》の革命2が発動! 相手のクリーチャーは、もう攻撃とブロックが出来ない!」
「《カーネル》が……それどころか、攻撃も出来ないとは」
「そして、《シリンダ》で攻撃するとき、革命チェンジ発動!」
次の瞬間、彼の目の前にタロットカードの19番、月を意味する数字が浮き上がった。
そして、三角形の水晶のクリーチャーが投影したホログラムから、数字を身に纏うようにして、機械龍が姿を現していく。
これが、このデュエルで最後の革命チェンジだった。
「これが、累積されしオレ”たち”の答え――《完璧証明 オーパーツ》!」
そして、ビーム砲がシールドを打ち砕く前に、更に選択肢を突き付けていった。
「登場時効果で、場のカードと手札から合計2枚を山札の下に送れ!」
「《クイーン》の下にある《アルカクラウン》、そして《イカロス》を山札の下へ」
「そして、W・ブレイクだ!!」
シールドが薙ぎ払われていく。
これで残りシールドはゼロ。
これで、S・トリガーが来なければ――
「スーパー・ストライク・バック、発動」
勝利は、訪れなかった。
確かにトリガーは来なかった。
しかし。今割ったシールドの1枚が焼ける代償に邪悪なる五龍が姿を現す。
「多色マナ武装5で、マナに5色のカードあり、マナのカードが5枚以上あるので《界王類邪龍目 ザ=デッドブラッキオ》を召喚。効果で、《ミラダンテ》をマナに」
淡々と告げる状況。
ノゾム兄は一言、呟く。
「……はっ、此処までみてーだな」
「そうだ。栄枯盛衰――正義のヒーローも、此処まで来ると哀れだな」
「哀れ? 人の姿なのに、人の心が分からないお前らの方が、よっぽど哀れな生き物だよ」
そんな。嘘だろ。
無敵の、ノゾム兄が負ける? そんなことは有り得ない。
起こりえないことだ。
駄目だ。嫌だ。やめろ――
「――《ザ=デッドブラッキオ》でダイレクトアタック」