学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
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空間は壊れ、そこには片や勝者、片や敗者が居た。
魔導司を統べる、最凶の少女は見下ろすように敗者を一瞥した。
敗者――三日月仮面のシルクハットは壊れ、仮面も割れており、全身はズタボロになっている。
その服装は、何故か分解を起こしており、偽りの仮面と衣装に身を包んだ彼の正体が露わになりかけていた。
「おいっ……!!」
俺は、駆け寄った。
何で初めて会った時から、俺達の名前を知っていたのか。会ったこともないはずの花梨に、正義の味方ということを抜きにしてもあれだけ力を使ったのか。
背丈が何故同じなのか。最初は分からなかったけど、ノイズ混じりのあの声が親しく聞こえたのか。
すべてが結びついていく。
傷だらけの英雄を、俺は抱えた。
「ノゾム兄!!」
「わりぃな……間もなく、皆のヒーロー・三日月仮面は死んで、消えるんだ。オレはもう、戦えねえ。死ぬか、死ななくても、二度と戦えねえんだ」
「し、死んだりなんかしねぇよ!! 三日月仮面も、ノゾム兄も、死なねえよ!! いっつもみたいに、ヘラヘラ笑って、”大海のでかさに比べれば”って言ってのけろよ!!」
「でかくなったくせに、泣きそうな顔すんじゃねーよ……オレがやわじゃねえって、オレが三日月仮面だったってことが分かったなら、もう分かるだろ」
今にも消えそうな声で言うノゾム兄。
その顔は、この期に及んで、まだ笑っていた。
しかし、遮るように魔導司の声が飛んでくる。
「強がるな、蚊蜻蛉め」
「……ファウスト!!」
「獅子奮迅。見事だったが、今や砕かれて獅子粉塵と言ったところか。天才デュエリスト、刀堂ノゾム」
その手には、氷の剣が浮かび上がっている。
殺す気だ。
今度こそ、ノゾム兄を。
俺は、エリアフォースカードに手を掛けた。だが――無理だ、と頭が言っている。
べらぼうに、滅茶苦茶に強いノゾム兄を屠った相手に、俺が勝てる訳が無い。
「貴様だったのなら、納得が行く。魔力でコーティングされた衣装に仮面。これで私達に正体を悟られることなく行動していたのか。只の人間のお前に今や興味など湧かないが、やはりここで殺す。お前は、危険すぎる」
「会長!!」
鶴の一声。
次の瞬間、赤い鎧を身に纏った猿人が空から飛んできて、その場に降り立つ。
これって――”罰怒”ブランドか……!?
俺達を、庇ってるのか!?
「……火廣金」
その名前を聞いて、俺は顔を前に向けた。
立っているのは、灼髪の魔導司。火廣金だった。
「いち組織の会長ともあろう方が、死にかけの敗残兵を殺すなど貴方の威信にかかわります。今一度、怒りを鎮めてください」
「……何のつもりだ?」
「言葉通りです」
そう彼が言った時。
さらに彼女の背後に、巨大な亀が降り立った。
『やれやれ、遅くなったわい』
「横暴はそこまでデス!」
そこには、見慣れた鹿追帽と宝石亀。
「ブラン……!?」
「その人は、それ以上傷つけさせまセン!」
チッ、と舌打ちするファウスト。
忌々しそうに2人に目を遣ると、
「邪魔をするな」
その一言で、あの巨大な道化師が姿を現した。
「炎乱と水幻の裁――!!」
次の瞬間、火焔と激流が”罰怒”ブランドとワンダータートルを吹き飛ばす。
う、嘘だろ。2人のクリーチャーが一瞬で……!
どれだけ無茶苦茶なんだよ、あのアルカクラウンってクリーチャーは……!!
「もう1度、ルーンを無限に複製してやる。お前達諸共に皆殺しだ」
血走った眼が、ローブの下から見えた。何で、こいつは此処まで――
俺が身構えたその時。
アルカクラウンの実態が消えた。
今度こそ、力を失ったかのように彼女は膝をつく。
「……まだ、不完全か」
言った彼女は1枚のカードを手に取ると、何やら呟く。
「この場は、此処で引き下がらせて貰う。最も、刀堂ノゾムのエリアフォースカードは戴くがな」
最早、考える気力もない。
ひたすらに己の無力さを痛感しながら、俺は目を閉じたノゾム兄に呼びかける。
駄目だ。まだ、死なせちゃだめだ。幸せになれないとかいうなよ。
もう戦えなくたっていい。また、デュエマしようよ、ノゾム兄――!!
「っ……ノゾム兄!! 駄目だ、死ぬな、ダメだ――!!」
俺は狂ったように叫び続ける。
何も出来ない。無力な俺を恨みながら。
「ノゾム兄――!!」
ブランが、紫月が桑原先輩が、火廣金が駆け寄ってきたのも、俺は気付かなかった。
ただただ、死んだように気を失ったノゾム兄に呼びかけていた。
どうしよう。腕が、足が変な方向に折れ曲がっている。頭から血が出ているし、とにかく出血だけでも抑えないと。
応急処置のやり方なんて、どうすればいいのか分からない。ここまで酷い怪我を見たのは初めてだ。パニックで、頭が真っ白になってしまっていた。
ブランや火廣金が何か叫んでいるが、俺には聞こえなかった。
「……ハ、ハハ」
乾いた笑みが、零れた。
突如、がばっ、とノゾム兄が起き上がったことに俺は気付かなかった。
その動きがあまりにも人間離れしていて、まさか、彼がひとりでに動き出すとは思わなかったからで、俺は言葉を失っていた。
「ハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
突如、壊れたオルゴールのように笑い声が周囲に響く。
貼り付けられた顔は笑顔。
壊れても動き出す自動人形のように、彼は、高笑いしながら、折れた足で立ちあがった。
最早、完全に感情が壊れてしまったようだ。
「そ、そうだ、まだ、オレは、ワイルドカードを倒すって使命があルんダ、まだ、まダ、こんなところでオワるわけにはいかない、ダ」
ひゃは、と狂った笑い声をあげるノゾム兄。
白目を剥いた目は正気を失っていることを意味しており、また理性は無く、執念だけで動く人形と化していることを意味していた。
「お、おい、ノゾム兄、どうしたんだよ……!!」
「待って、マッテろよ……タル……」
ごぎゅっ
ぎ、ぎぎ、ぎ
「今、オマえのカタキを、とって、ヤルカらな、オレは、まだ、動けナクなるわけにハ、イ、かない……ダ」
歩こうとする度にノゾム兄の足から嫌な音が鳴り響いて俺の背中に百足が這った。
次の瞬間、彼の背後にオーパーツのカードが浮かび上がった。
その身体は完全に大破していて、痛々しい。眼は赤く光っており、不気味だ。
しかも、もう消えかけていて、すぐに完全に機能を停止してしまいそうだった。
周囲の声はもう俺には聞こえない。ただただ、異様な姿と化したノゾム兄に注視されているだけだ。
「ノ、ノゾム兄!! どうしたんだよ――!!」
言おうとした瞬間、俺の顔面に何かが飛んできた。
後頭部から地面に直撃した痛みに堪えながらも手を伸ばそうとしたが、ノゾム兄に俺の手は届かない。
まだ、何処かに行こうとしているのだ。オーパーツの力を使って――
「あ、あ、あHAはハハははははははァァァァァ」
笑い声は途切れた。
ノゾム兄の消失と共に。
どこへ向かったのだろう。
どこへ消えたのだろう。
そうまでして何を求めに行くのだろう。
もとより、彼の眼の中には俺達は無かった。
その証拠に彼は俺達の声など無視して消えてしまった。
彼は、彼は何のために戦っていたのか分からない。
俺は座り込んだまま、何もすることが出来なかった。
英雄の末路を前にして――
※※※
その後。間もなくのことである。
ノゾム兄は倒れた姿で、ワンダータートルの力で追っていたブランたちによってすぐ見つけられた。
本当に消えてしまったのかと思ってしまったが、どうやらオーパーツが最後の力をふるおうとして暴走し、彼の行こうとしている場所に分解・再構成によるワープで連れて行こうとした、というのがシャークウガの見解だった。
そして、そのまますぐに救急車で運ばれたというのが事の顛末だ。
完全に意識を失った大怪我の彼は、車に轢かれたという線で近くの市民病院で入院治療を受けることになった。
その日の俺は、どうやって帰ったのか覚えていない。
だけど。
大好きなノゾム兄が、憧れのノゾム兄が人知れず戦い続けていたこと。
敗北しても尚、執念だけで動き続けたあの姿。
狂っているとさえ形容されたかの戦士の姿が、俺は瞼から焼き付いて離れない。
俺はその時、まだ何も分かっていなかった。
戦うということは、背中にとても重い物を背負って歩み続けること。
そして、それには鉛なんて言葉では生温い程重い覚悟が必要であること。
それを見届けた俺は、それを前に何も出来なかった。
俺は――まだ、覚悟の意味さえ分かっていなかったんだ。