学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
鎧龍……!?
それって、黒鳥さんと同じ、デュエリスト養成学校の生徒ってことじゃないか!?
そこまで聞いて、どれほどノゾム兄が強いのか。納得がいった。
アレだけ強ければ、入学出来ていてもおかしくはないし、そこで更に強くなったのは想像に難くない。
「……私も調べてて、そこに辿り着いたのデス。当時の写真と現在で変わり過ぎて分からなかったデスけど、色々鍵になる事件があって」
「ま、待って!? 鎧龍って、あの鎧龍……? テレビで聞いた事はあるけど……知らなかったよ、そんなこと」
「何だ。君はてっきり知っていると思ったのだがな」
「……教えられて、なかったから」
だけど、そうなると益々ノゾム兄程のデュエリストが鎧龍を離れたのか気になってくる。
ブランは知っていそうだ。事件、と言っていた以上、何かを知っている。
「ノゾムサンほどのデュエリストが何故、鎧龍を離れたのか……それは、ノゾムサンが自分を壊してまで戦い続けたことと関係しているはずデス」
「どうやら、俺と或瀬ブランは知っているようだな。理由を」
「……でも、これ以上は踏み込んじゃいけねえ気がする。ノゾム兄の、過去に関わること。あの人が、わざわざ隠してきたことだろ」
「耀……」
それに、知ったところで……今の俺には、どうしようも出来ないことだ。
俺は、ファウストには勝てない。
「だから――結局、それだけの話だ。聞いたところで、今の俺に何が出来るんだ」
「で、でも……そうだ、あたしも戦える! 桑原先輩も、エリアフォース……ってのが無しで戦ってたんでしょ!? あたしも協力するから――」
「そんなに死に急ぎたいのかよ!!」
「っ……!」
思わず、突き放すように俺は怒鳴った。
久しぶりに頭の中で糸が切れたような怒りだった。
何を言っているんだよ、花梨。
「馬鹿かよ……俺がはいそうですか、って言うと思ったのか? 相手がどんな奴か、分かってないのか? ノゾム兄が、滅茶苦茶に強いノゾム兄が負けたんだぞ! 俺の目の前で、敗けたんだぞ!?」
「それでもっ……何もしないわけにはいかないよ……」
ブランも、火廣金も、何も返しはしない。
それは紛れもない事実であることが分かっているからだ。
「……俺は、お前にはこっちに来てほしくなかった。その一心で戦ってきたのに」
「っ……」
「バラした火廣金を責めるつもりはない。見ちまったし、一回憑かれてんだ。仕方なかったことだろ。でも、何があたしも戦える、だ。本末転倒も大概にしやがれってんだ。俺は、本当は最初っから誰も巻き込みたくなかったんだよ」
それが本音だ。
だけど、結局事件に関わるやつは増えてしまった。
「……俺は、一緒に戦う奴が一方で、すっげー虚しかった。こんなことになるのが、俺の知ってる人が、俺の知ってる人が傷つくのを見たくなかった」
手を振ると、俺は病室から出ていく。
これ以上、聞くことも何もない。
どうすればいいか、だなんて何も分からないけど……。
「……何でこうなるんだよ。俺は納得しねえぞ。絶対に」
※※※
戦いから、逃げることは出来ない。
でも、俺には奴に勝てるような力が無い。
最初に火廣金と戦った時。あの時は、黒鳥さんからカードを貰ったからこそ勝てたようなもの。いわば、80%を100%にした、ジョーカーズデッキを完成させたからこそ勝てた相手だ。
あのファウストは――カードの1枚や2枚を入れ替えたところで、勝てる相手ではない。
100%から先は、限界という名の到達点。どん詰まりだ。
そして、仲間が増える、つまりこの事件に関わって標的にされる人が増えるという事実。
しかも、ブランに、紫月、桑原先輩、ノゾム兄、そして――花梨。
俺の知ってる人ばかりが、次々危険な目に遭っていく。
俺は今まで、当たり前のように力を借りていた。力を貸したいっていう彼らの気持ちに応えて、後先考えずに。
その結果、紫月は一生残る心の傷を負った。
その結果、ノゾム兄は精神も身体も壊した。
次は誰だ?
次は、誰がこうなる?
俺がこんな事件を持ち込んだばっかりに――
「よう、白銀じゃねえか」
俺は立ち止まった。
そこには、桑原先輩の姿があった。
どうやら見舞いに来たのか、彼は花束とスケッチブックを抱えていた。
「……桑原先輩」
「まだ、立ち直れてねえよな……俺もだ」
先輩も、ショックは大きかったはずだ。
自分と同い年の少年が、自分よりも前に戦っていたこと。
そしてその末路を見届けたこと。
「……悪い!! 俺は、年長者なのに、何にも出来てねえな!!」
「そんな。桑原先輩は――」
「俺にもっと力があれば、良かったんだ。テメェらが困ったときに、それをぶっ飛ばせるくらいの力があれば。でも、俺はチビだから腕力も無けりゃエリアフォースで戦うことも出来ねえお荷物だ」
「お荷物だなんて……俺はもとより誰も巻き込みたくはなかったんです」
「……俺は巻き込まれただなんて思ってねえよ」
何で、そんな事が言えるんだ。
桑原先輩だって被害者じゃないか。
「ステップルの件は、俺の自業自得だとも思ってるしなあ。元はと言えば、絵を描きたいと暴走して突っ走った俺の責任よ」
「そうだけど……」
「だからよぉ……凹むぜ、俺も。もっと強ければ、って思うんだ」
彼はしょげた様子で言った。
「あんなに強い奴が同い年だったなんてよ……おまけに背も高くて頭も良いとかチートじゃねえか。デュエマも、あんなに強いんだから」
……背は関係ない気もしてくるけど、劣等感を感じてるのは間違いないようだった。
それが倒されたと聞いた時の桑原先輩の絶望は想像に容易い。
「……ノゾム兄、元は鎧龍の生徒だったから。十六夜ノゾムって、界隈じゃ知られてる名前だったみたいで」
「……十六夜だと?」
桑原先輩は顔を顰めた。
「くそっ!!」
そして、投げ捨てるように叫んだ。
「ハ、ハハハ……そうか、そうだったのかぁ……クソッタレ。俺は本当に、無力だなぁ……」
「先輩?」
「なあ。思い出したんだよ。あの日のチビのデュエリスト……あいつは、十六夜ノゾムだったんだ」
「えっ、ノゾム兄が……先輩を芸術の道に進ませたきっかけの……?」
「ああ。苗字が変わってて、そっちで覚えてたからなあ」
彼は酷く衝撃を受けたようだった。
憧れのデュエリスト。自分の人生を変えた相手。
「……そうだよ。だから、あんなに強かったのか。瞬く星の如く、消えたデュエリスト……十六夜ノゾム」
「知ってたんですか」
「ああ。世界大会で鎧龍を優勝に導いた、正真正銘の天才だ。だけど……その後は鎧龍から去っている。どうも、唯一の身寄りが居なくなったみてぇだが」
「身寄りが居なくなった……」
「その頃丁度、変な事件も起こってたって噂だしな……ちょいと引っ掛かってたんだ。ま、人の事情には突っ込まねえ」
だけど、と彼は続けた。
「それでも戦わねえといけないか」
「でも、先輩。先輩だって、いつああなるか」
「俺は、それでも強くなる」
ギラリ、と彼は今までにない強い視線を俺に突き刺した。
もうそれは、普段荒っぽい彼に増して更に強張っていた。
去り際に、彼は唸るように言った。
「もう俺は、無力な俺自身が大っ嫌いだ。沢山だぜ」
「で、でも、どうやって」
「どうやってでもだ!!」
「俺は、”力”が欲しい……! どうやっても、手に入れてやる。要は、あの魔導司に勝てるだけの力があれば良いんだろ? 俺の渇望は、誰にも止めやしねえ。白銀。テメェであってもな」
※※※
皆馬鹿だ。
底抜けの馬鹿だ。
あんなのを前にして、まだ戦うって言ってんのか。
何が皆をそこまで突き動かすのか、俺には理解が出来ない。
俺の意思に反して、皆戦おうって言ってる。
元は俺が巻き込んだようなものなのに、どうしてそこまで出来るんだよ?
「――白銀先輩」
声が聞こえてきた。
紫月だ。
花束が抱えられていた。見舞いに、来たのだろうか。
「……紫月」
「良かったです。ブラン先輩が、無事に家から連れ出せたようで」
「……悪かったな。心配かけて」
「……いえ。なんてことはないですよ」
彼女は静かに否定した。
だけど、大丈夫な訳がないだろう。
お前は、あれだけ大変な目に遭ってるんだ。今回だって――
「ごめん」
「……それは何に対する謝罪ですか」
「俺の所為で、本当にとんでもないことに巻き込んじまったな。おまけに、翠月さんとお前を戦わせることになってしまった」
「……だから、何故先輩が謝るのですか」
「前だってそうだ。トリス・メギスの奴に拉致られたり……一番苦しかったのはお前なのに。元は、俺が持ち込んだ事件だってのに」
そうだ。
もう、戦うのは嫌だろ? 紫月。
これ以上戦うってことは、もっと辛いことが待ってるってことなんだぞ。
「思い上がらないでください、先輩」
「っ……!?」
「私は、先輩に巻き込まれたから戦ってるわけではありません。私は、私の為に戦っていると前にも言いませんでしたか」
はっきりと彼女は言い切った。
「だ、だけど」
「他の皆さんも同じです。皆各々に、戦う理由はあるのですから。人間が戦うのは、いつも自分の普通が壊される時。その覚悟を、白銀先輩が後押ししたんじゃないですか。先輩だって、自分の意思で戦っているのですから、私達が先輩に止められる筋合いはないです」
「……でも、俺は、これ以上仲間を傷つくのを見るのが嫌なんだ。それが無理だってわかってても――」
いや、分かってるから、無意味な質問を繰り返したのかもしれない。
それでも確かめられずにはいられなかった。
「だけど紫月。もしも、もしもだぞ? 翠月さんが、戦いたいって言ったらどうするんだ」
「……引きとめはします。でも――それがみづ姉の意思なら、私はそれを尊重します。それが、みづ姉の幸せなら。だから」
意地悪そうに彼女は微笑んだ。
心配はいらない。また、隣で戦うという覚悟を見せるかのように。
「余計なお世話ですよ。先輩」
『マスターがそう言ってるんだ。俺は、それに従うぜ』
「最初は無理矢理でしたけど」
『それを言うなよ』
「でも、今は違います。この力があれば、私は守ることが出来る。もう、守られるだけは嫌ですから」
そうだ、と彼女は両手を合わせた。
「先輩は心配性が過ぎます。ちょっとくらい、荒療治でも構いませんよね?」
「ちょとまて。お前何する気――」
俺、また蹴られたりするのだろうか? ちょっと彼女の気迫が怖い。
だが、そんな心配に反して彼女はデッキケースを自分の腰のベルトから取り出す。
「これは私の覚悟。今更引き下がらない、という私の覚悟です。だから先輩――」
「――私と、デュエルしてください」