学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第7話:桜花爛漫─暗野紫月の憂鬱

「おっ」 

 

 ある昼休みのこと。部室へ向かってたら、後輩の姿を発見。

 いつもフード付きのパーカーを被っている暗野紫月だ。けど、今日は珍しく被っていないようだ。

 今から部室に行く所だったのか。後ろから声を掛ける。

 

「――よう、紫月。今日は早いじゃねえか」

 

 声を掛ける。反応なし。もう1度声を掛けると、妙にびっくりしたような表情で、彼女は振り返った。

 何でそんなに驚いているんだろう。

 

「え、あの、すいません……?」

 

 申し訳なさそうに言った彼女。何か様子が変だな。でも、人違いって事はねぇだろ。

 だって、顔も背丈も同じだし――

 

 

 

「――私、紫月じゃないんです」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……散らないサクラなんて、サクラじゃないですヨネ……」

 

 デュエマ部の活動も終わろうかという時間になって、対戦中にそんなことを言い出したのはブランだった。

 とはいえ、俺も同意だ。此処最近、学園で話題になっているのは、この”散らない桜”だった。

 俺達の通っている学園には、周りから坂にかけて桜――ソメイヨシノの木が植えられている。

 そして毎年、大体4月の上旬頃に咲き、下旬頃にはすっかり散っているのが通説だが――今年は違っていた。

 5月も始まろうかと言うこの時期に、未だに花びら1枚散らないのだ。

 まあ、変と言えば変だけど……正直、俺としては部活が始まる前に起こった出来事で頭がいっぱいだった。”あんなの聞いてねぇよ”。

 そんなことはお構いなしに、その原因の1つと言える本人――紫月は容赦なくバッサリとブランの珍しく詩的な呟きを切り捨てた。

 

「そういう年もあるんでしょう。単なる偶然ですよ」

 

 お前はもうちょっと先輩に対して遠慮とかねぇのか。

 

「デモ、日本には”さーくーらーのはーなーびらーちるころはー”って歌詞もあるし、やっぱ咲いてから散るまでがサクラの花だと思いマス!」

「ともかくブラン先輩、対戦の邪魔をしないでくれませんか」

 

 ぷい、とそっぽを向いてしまった紫月。

 「うええ、シヅクが冷たいデース」と半泣きになってるけど、そもそも今は俺と紫月で対戦中だぞブラン。

 ま、どうせもうこのターンで終わるんだけどな。

 

「まあそう急くな、ブラン。ほれ、《ダンガンオー》でダイレクトアタック。コレで終わりだぜ」

「……負けました。流石に速いですね」

 

 と、一丁上がり。

 しかし、速いのは良いがこいつもこいつでいろんなデッキを持ってるから、それ次第では勝てない時がある。

 そして何より、どのデッキも結構使い込んでるから、こいつの場合どれで来ても手慣れている。

 

「いや、俺もここで決められなかったら危なかった」

「そうですか」

 

 理詰めの戦法、直観力、判断力、デュエリストに必要なものを揃えている紫月のプレイスタイルは、普段のぐーたらした姿からは考えられない程だ。

 ……さっき起こった出来事を考えながら、じっと彼女の顔を見る。本当、無愛想なところさえ無けりゃ良い子なんだが。そうしたら「どうしましたか」と凄まれた。

 

「今日は変ですよ……白銀先輩。私の顔をじっと見たり、何かついてますか」

「いや、そうじゃねえよ!?」

 

 いかん、バレてたか。流石にちょっと露骨すぎたと思ってると、ブランが「ほっほーう、さてはアカル、シヅクの事が好――」とか言ってたので拳骨を加えてやる。お前は何で考え方がそっちの方向にシフトされるんだ、この迷探偵め。

 

「紫月はデュエル上手いな、と思ってな。誰かに教わったりとかしたんかなあ、とか考えてた」

「……はぁ」

 

 何? 今すっげぇ呆れたようなため息つかれたんだけど。悪かったな、デュエマ馬鹿で。これしか言い訳が思いつかなかったんだよ。

 

「……知り合いに、です」

 

 あ、それはちゃんと答えてくれるんだな。

 

「へーえ、誰デスカ?」

「師匠的な立ち位置の人でしょうか。かなり変わった人でしたけど」

「変わった人ねえ」

 

 お前が言えたことでもねぇと思うがな、紫月よ。

 しかし、こいつのデュエルはその人仕込みか。成程、確かに強い人から教わったなら納得が出来る。

 

「いっつも美学美学って言ってました。美しいデュエルがどうとか。まあ、事実その人強いというかプレイングが容赦が無いんでデュエルが終わる頃には対戦相手の場と手札が綺麗に無くなってるんですけどね」

「あ、美しいってそういう?」

 

 どうやら、本当に強い人だったらしい。ブランが「もっと聞かせてくだサイ!」とか言ってるけど、俺としては少し消化不良だった。結局、こいつの口から”あの名前”は出なかった。

 まあ、そんなことを話しているうちに、すっかり最終下校時刻になってしまった。

 どこか急いだ様子で荷物を纏めると、紫月は一足先に扉に手を掛ける。

 

「それでは、私は先に失礼します」

「おう、お疲れ」

「お疲れデース!」

 

 ……さて。

 先に帰ってくれたのはある意味助かったと言っても良いだろう。

 完全に足音が消えたのを確認すると、俺はブランに聞きたかったことをぶつけることにした。

 

「……で、本当の所はどう思うわけだ」

「サクラの件、デスカ?」

「ああ。俺はちょっとだけ、思うところがあったんだがな。例えば――ワイルドカードとか」

 

 ブランが目を丸くしたが、同時にすぐ頷く。やっぱりお前もか。

 此処最近、怪事件が相次いだからか流石の俺もその線を疑っていた。

 ぽん、と音を立ててチョートッQが姿を現す。

 

「恐らく、それは正しいのでありますよ! 何のクリーチャー、何の能力を使ったのかは分からないでありますが、おそらくワイルドカードであります!」

「ほらな?」

「この世の怪事件って、クリーチャーで説明できるのかもしれまセンネ……ん? デモ、それならチョートッQ、何で今まで気付かなかったのデスカ?」

「異変が起こってる人間が見つかってないから、でありますよ……」

「えー……」

 

 呆れたように言うブランだが、実は俺もそうじゃねぇかと思ってしまった。

 ワイルドカードは力を振るう為に人に取り付いて悪さをする。花梨の件や科学部のアフロハゲの件から見るに、そこには理由が伴うこともあれば伴わないこともあり、まちまち。

 今は、学園の桜に異変が起こっているということだけ。悪さをしているクリーチャーが表れていなければ、犯人の人間も見つかっていない状態だ。

 そして、いつも登校中にあの桜の木の近くには寄るからわかる。

 クリーチャーは桜の木そのものに取り付いているわけではなく、力を働かされているだけなのだ。

 

「だけど、桜の花が1枚も散って路面に落ちていないのはおかしい。つーのも、去年は坂一面に落ちて皆掃除していたほどの花びらが今年は1枚も無い。舞っているところも誰も見たことが無いのは流石に俺もおかしいと思ってだな」

「で、デスよね……ソメイヨシノは同じ単体の木から別れたクローン……この学園の桜だけ、ってのもStrangeデス」」

「今一度、学園で何か別の異変が起こってねぇか確かめる必要があるな」

「OK! 調べてみマス!」

 

 そうと決まったら明日から調査あるのみだ。

 荷物を纏めて、暗くなった廊下に出る。

 ちと遅くなったが、これくらいなら誰かに見つかっても咎められることはないだろう。

 リュックサックを背負い、ブランと一緒に階段を降りていく。

 大分日が落ちるのが遅くなったとはいえ、7時半にもなればもう真っ暗だ。

 

「そういえばアカル。今日、シヅクの顔をちらちら見たり、見つめてたのはどうしてデスカ?」

「あ?」

 

 やっぱりこいつも気づいてたか。

 仕方ないので教えてやるか。変な誤解されるのは困るし。

 

「実はだな――」

 

 そう言いかけた時だった。

 びりっ、と廊下の空気が変わった気がした。

 何だろう。聴覚、触覚、嗅覚、それが異変を感じ取る。

 

「クリーチャー、でありますよ!!」

 

 影が現れたのは、チョートッQが叫んだのと同時だった。

 廊下の後ろと前。

 進路と退路を塞ぐかのように、虚空から何かが落ちた。そしてそれは、緑色の輝きと共にその姿を形成していく。

 2体とも、廊下いっぱいの大きさの巨人だった。

 

「《西南の超人(キリノ・ジャイアント)》……!!」

「こっちもデス!? ワイルドカードデスカ!?」

 

 俺もそう思ったが、否定するようにチョートッQは首を振った。

 

「ち、違うでありますよ! このクリーチャーたちは何かに取り付いているわけではないであります! 何より、思念や感情が全く感じられないのでありますよ!」

「まるで人形みてーだな……!」

「ってことは――何でこのクリーチャーたちは実体化してるんデスカ!? Why!?」

「おいおい、考えてる暇は無いみてーだぞ!?」

 

 2体の巨獣は目に光が灯ると共に腕を振り上げて動き出す。

 こちらへゆっくりと距離を詰めてきた。

 

「チョートッQ、2体いるぞ!? どうするんだ!? エリアフォースは1枚しかねぇぞ!?」

「安心するでありますよ! 2人同時に展開すれば良いであります!」

 

 2人同時に展開ってお前、なかなか無茶そうな事言うな!?

 仕方ないので、エリアフォースのカードを放り投げ、俺、そしてブランは叫んだ。

 

 

 

 

『デュエルエリアフォース――!!』

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ――急いで校門まで駆けると、確かにその人影は見えました。

 私、暗野紫月には大事な人がいます。

 

「……ま、待たせましたね、みづ姉」

「ううん、私も今来た所よ」

 

 暗野翠月(みづき)――通称みづ姉は私の双子の姉です。

 私とは正反対で、お淑やかで朗らかな人です。

 一卵性なので顔は瓜二つですが、性格は全然似てないって言われます。でも、私はみづ姉の事が昔から大好きで、仲良くさせてもらっているのです。

 部活終わりですが、その表情はとても晴れやかで溌剌としていました。そのまま学校の坂を降り、商店街に出ます。こうして2人で帰るのが毎日の日課なのです。

 

「しづ。今日はデュエマ部で何かあったりした?」

「いえ、特に。ただ、学園の桜が散らないのを謎だって言って或瀬先輩がすっごい張り切ってました」

「あはは……その先輩、前から聞いてたけどとても面白いわね……」

「みづ姉は?」

「ああ、私は今日は石膏像のデッサンよ。先輩方、皆優しいから私もやっていけそうだわ」

 

 みづ姉は絵がとても上手です。中学の時から美術部ですし。対して私は絵心はさっぱりなので……。

 総合的に考えると結局みづ姉の方が優秀なので一種の劣等感のようなものですけど、みづ姉は私の誇りなので別に良いんです。

 そして、みづ姉がこの学園の美術部に入ったのは、体験入部の時に見たある絵画です。それを描いた先輩と意気投合したかららしいです。ぶっきらぼうなところもあるけど、絵に対してとても真っ直ぐな方だったと言っていました。確か名前は桑原、先輩でしょうか。直接会って話した事は無いですけど。まあ、そんなわけで私は引っ付く形でみづ姉と同じ高校を受けて受かってしまったわけです。特に拘りは無かったですし。

 と、そんなことを思い返していたら、今度はみづ姉の方から切り出してきました。

 

「ああ、それと――今日、部活の前に貴方の所の先輩と出会ったの。しづと間違われちゃった」

「……ああ、それで」

 

 今日、先輩が少し挙動不審だったのはそういうことだったんですね。私達、何だかんだで似ているという事でしょう。フードを被ってなければ、髪型同じですし。これのおかげで間違えられてないようなものですからね。

 

「でも、話してみたらとても気さくな先輩だったわ。良い方じゃない。最近、しづが余り退屈だって言わなくなったし」

「まあ、最近は先輩方も色々活動について考えてるみたいで」

 

 そういえば、最近退屈だとかは口に出さなくなった気がします。

 元々、デュエマ部に入ったのは、私の意思でした。

 私は中学の頃、部活をしてなかったので、みづ姉と一緒に居られる時間が少なかったのです。美術部に入ろうにも私、絵が本当に下手くそなので。

 しかし、何も部活に入らないのはそれはそれで退屈だったのです。

 そんな時、ふとデュエマ部なる部活があることを知ったのです。

 

 私、暗野紫月の特技はカードゲーム。腕まくりしながら入部しました。

 

 ――が。まさか部が去年の終わりに先輩が大勢抜けて人が殆どいなくなったがために、同好会状態になっていることなど誰が予想できたでしょう。前情報では、そこそこ部員はいるという話だった気がするのですが。

 でも――

 

「それに最近、先輩が新しいデッキを買ってきたんです。それがなかなか強くて。後、他の部から先輩が遊びに来てくれることが何度かあったのですが結構強くて、やり応えがありました。私も、もっと精進しないと」

 

 口では退屈と言ってましたが、2人とも何だかんだで面白い先輩なので楽しかったです。

 ブラン先輩は親切で、色々教えてくれましたし、仲良くしてくれます。白銀先輩は、何と言うか――色々熱心です。空回ってますし、根が生真面目なので弄り甲斐のある人ですけど。

 ついつい私は無遠慮なところがあるので、辛口になってしまいがちですが……何だかんだで気が付いたら馴染めてました。

 

「その意気だわ。紫月は昔から、思い立ったら一直線だもの」

 

 はい。なんだかんだ言っても強い先輩達の中で私が取り残されるわけにはいかないのです。

 だけど、私が強くなりたい一番の理由は――

 

「――いつか、師匠も超えないと……いけないですから」

 私達にデュエマを教えてくれた人。

 私達は師匠って呼んでますけど、別にそんなに年は離れてないです。順当にいけば今年大学1年生だったはずです。

 

「師匠今頃どうしてるのかしら。あの人、美大受かったって聞いたけど、今度は美学と芸術についても語り合いたいわ」

 

 実は芸術にも通じていて彼が引っ越すまで、みづ姉は色々絵についてのアドバイスも彼から聞いてました。

 ……正直、ちょっと気に入りませんでした。

 物言いが少し気障で癪ですし、クールぶってるところもありました。顔も端正だから、みづ姉がうっかり惚れたりしないか、不安で仕方なかったです。いや、本当の所はどうなんでしょう。みづ姉、乙女なところがあるので少し優しくされたらホイホイ着いていってしまいそうですし。

 しかもデュエマはとても強くて、本気の師匠に勝ったことは私は一度も無いのです。

 いつか絶対に、師匠に勝つ。その思いで私はデュエマを続けてました。

 

「師匠から教えて貰ったデュエマで本気の師匠をブチ倒す……何て愉快なことでしょう」

「しづ、すっごい悪い顔になってるわよ」

「みづ姉は絶対に渡しませんからね、あの男には」

「あの男!?」

 

 いけない。私としたことが、取り乱してしまいました。

 これでも一応師匠には感謝はしているのですから。一応。

 

「ああ、そうだ。頑張る紫月に良いものがあって」

「? 何ですか」

「実はこの間、商店街のくじでこんなものが当たったんだけど……」

 

 みづ姉が取り出したのは、デッキケースでした。

 ですが、受け取るとしっかりとカードの重さを感じます。

 中を確認すると、それは40枚のデュエマのカードで構成されたデッキのようでした。

 

「良いんですか?」

「うん。今の私には、必要のないものだしね」

「……そうですね。みづ姉は絵画一筋ですからね」

「また、いつか出来ると良いけどね」

「でも、みづ姉から貰ったデッキ、しっかり大事にしますから!」

 

 紫月は幸せです。みづ姉からこんな頂き物をもらえるなんて。みづ姉から貰ったデッキ、肌身離さず持っておきます。中身を確認しました。内容としては良い感じに纏まっており、このまま使っても問題は無いでしょう。

 

「……あれ?」

 

 ただ一つ気になったことがあるとすれば。デッキの一番奥に何も絵柄が描かれていなければ、テキストも真っ白なカードがあったことでしょうか。みづ姉に聞いてみましたが、首を振って知らないと言うばかりです。まあ、捨てるのも勿体無い気がするので一応デッキケースに入れておきましょう。

 と、そんな風に他愛の無い話をしばらくしていました。気が付いてたら、私ばかりデュエマ部のことを喋ってた気がします。そして、バス停に座った辺りでみづ姉はため息をつきました。

 

「……はぁ」

「あれ? どうしたんですか。みづ姉」

「ううん。しづの所の部活は楽しそうでいいな、って」

「? どうしたんですか」

「部活は楽しいの。先輩達は皆優しいわ。ただ一つ、心配な事があるのだけど」

 

 一体どうしたというのでしょう。みづ姉の悩み、紫月としては放っておけません。

 

「――桑原先輩ってわかるわよね?」

「はい。仲良くさせてもらっているのではなかったのですか?」

 

 みづ姉は首を振りました。どうやらその桑原先輩の事のようです。何があったのでしょうか。

 

「……実はね」

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