学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第59話:悪夢と過去─真実に向かい合う

最近では病院でも待合室では携帯電話を使っても良いらしいというのはどこかで聞いた話だ。

 携帯電話の普及、第二世代の携帯電話サービスの廃止、医療機器の電磁的耐性に関する性能の向上……だとかそれらが理由なんだそうな。そんなわけで、俺は白銀が刀堂の兄貴の見舞いをしている間、姉貴を見舞った後にまた待合室で或瀬たちと話していたのだが、間の悪いことに早く帰ってきてくれという親からのお達しがメールで来てしまったのだ。

 或瀬と暗野には、軽く挨拶を済ませてそのまま帰ってしまうことにした。

 ああ、また遅くなってしまったか。外に出て吐息を吐くと、俺は鞄の紐を握りしめて、そのまま暗くて冷たい夜道に出た。

 考えることは、やはり同じことばかりだった。

 この間は危なかった。本当に。

 万に一つの事があって、病院にクリーチャーを入れでもすれば大事だった。

 だから俺はあの時、必死になって富士山ッスルへ立ち向かっていったのだ。

 結果的に倒せたから良かったが、その間に抜け出した刀堂を俺達は見逃してしまったし、もっと言えば身の回りの誰かに危機が迫った時、俺は本当に守り切れるのだろうか、という不安はより募った。

 そうか、白銀。お前の抱えていた不安はこれか。自覚すればするほどに強く締め上げる心の枷だ。

 しかし、それでも俺は戦わなきゃいけない。なのに、俺には他の奴にはあるものが無いのだ。

 手に入れねばならない。力を。

 力が無ければ何も守る事は出来ないのだ。

 とはいえ……無い物ねだりをしても仕方がない。

 俺に今できることは、後輩に頼る事。それだけだ。

 俺1人の力でどうにかできるとは思っていない。 

 だが、俺だって――守る力があったって良いじゃないか。

 

「……」

 

 ふと、空を見上げる。

 雲って月は見えなかった。

 やれやれ……気分は余計に沈む。本当にこんな日に限って……。

 

「いかんな」

 

 バチン、と俺は両頬を叩いた。

 こんなことでは後輩に合わせる顔が無い。一先ず、俺のやるべき事は――無いエリアフォースカードを追い求めることじゃない。

 純粋に、力を追い続けることだけだ。

 じゃなきゃ、凡才じゃテメェみたいな天才に届くことなんか出来る訳ないだろう? ……なぁ、十六夜。 

 碌なものが届いているわけがないとはわかってはいるが、家の郵便受けを開ける癖は着いてしまっている。

 ぼーっと考えていても、日常のルーチンは身体からは抜けきらない。 

 何もかもが致命的に噛み合っていないというのに。

 

「……?」

 

 俺はふと、手を止めた。

 そこにあったものを思わず拾い上げる。

 

「……な、な……」

 

 馬鹿な事があるものか。

 声を出そうとした俺の喉は、顔は、引き攣っていたに違いない。

 棚から牡丹餅とはまさにこの事。

 だが、どうして。何故。

 

 

 

「エリアフォースカード……!?」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 俺は白銀耀。

 デュエマ部という同好会紛いな部活動の部長をしている時点で普通じゃないけど、まあまあ普通な高校2年生――という時期もあったが、今はワイルドカードや魔導司の事で色々追われており、最早尋常ではない戦いに片足を突っ込んでしまっている。

 その中で、部活仲間の或瀬ブラン、後輩の暗野紫月、美術部の桑原甲先輩が仲間に加わった。

 そして、俺達の持つエリアフォースカードを狙っているのがアルカナ研究会という魔法使いの集団。奴らは俺達の持つエリアフォースカードを危険だというけど、手段を択ばない上にまた何か悍ましい秘密を隠しているようだ。

 それを探っていた俺の幼馴染・花梨の兄、三日月仮面こと刀堂ノゾムはアルカナ研究会の会長・ファウストに倒され、重傷を負った。

 俺は皆が傷つくこの戦いをやめたいと思ったけど――皆は諦めていなかった。

 皆の覚悟を受け入れ、ファウストに疑念を抱く火廣金とも連携し、暴走したエリアフォースカードの戦車(チャリオッツ)を止めた。

 そして、俺は花梨に再び白紙となった戦車(チャリオッツ)のエリアフォースカードを渡し、また立ち上がることを決めたのだった。

 ……はずだったんだけど……。

 

「貴様。何故此処にいる?」

「く、黒鳥さん……?」

「ノゾムの知り合いだったのか? 何故貴様が此処に居るんだ?」

 

 俺は今、蝮に睨まれた蛇の気分を存分に味わっていた。

 黒鳥レン。紫月の師匠であり、俺に《ジョリー・ザ・ジョニー》のカードを手渡した、元・鎧龍決闘学園のデュエリストにして伝説の闇使い。

 ノゾム兄も鎧龍の生徒だったとは聞いたのは昨日の話。

 ならば、黒鳥さんもノゾム兄と顔見知りでもおかしくはない。

 

「え、えと、じゃあ、この手紙って」

「人の見舞い手紙にこそこそと近寄る等、随分と姑息な真似をするな」

「いや、そういうつもりじゃ……」

 

 こ、これ、黒鳥さんのだったのかよ!?

 見舞い手紙なんて相変わらず回りくどい真似するなこの人は……。

 

「……冗談だ。僕とて貴様が妄りにそんな真似をする奴ではないことは解っているよ」

「はあ……やめてくださいよ、そういうの。ただでさえ黒鳥さん顔が怖いのに、凄まれたらビビりますって」

「すまん」

「で、黒鳥さんも、ノゾム兄と知り合いだったんですか」

「昔の後輩だからな」

「鎧龍の、ですか」

「……知っていたのか」

 

 あ、やべ。何処から知ったんだ、とか突っ込まれそうだ。

 と思っていたが、彼は気にした様子は見られなかった。

 

「で、結局貴様は何故此処に?」

「……実は俺、ノゾム兄が幼馴染の兄貴だったから……」

「そうか」

 

 一歩踏み出した黒鳥さんは溜息をついた。

 とても気まずそうな、何かを言い出し辛そうな様子だった。

 

「……そうか……ノゾムは、養子入りしてたからな。それで貴様等と知り合いだったのか」

 

 未だに目を覚まさないノゾム兄の髪を彼は撫でた。

 まるで、壊れた人形を労わる様に。

 

「……あんな事件さえ、無ければな」

「事件、ですか?」

 

 またこの単語だ。

 敢えて知らないふりをしたが、ノゾム兄をゆがめた事件のことは黒鳥さんも知っているのだろうか。

 

「ああ。僕にとっても、忘れられないよ。あれから、あいつは今までの栄光も、誇りも全部投げ打っていったからな」

 

 奇妙なものを感じるよ、と彼は言った。

 

「なあ、貴様から見たあいつはどんな奴だった?」

「……え?」

 

 俺から見たノゾム兄――それは普段の、ノゾム兄ということだろうか。

 そういえば、ノゾム兄は出会った時からいつも同じだった。いつも笑ってて、デュエマが強くて。

 頭が良くて、明るい性格で……細かい事は、気にするなって豪快に笑い飛ばす。

 文字通り、海のように広い心の持ち主だった。

 悩みなんか何一つ無さそうな、澄み切った人物だった。

 あの時――ファウストと戦ったあの日、その印象に、記憶に疑いと歪みが生じたのは間違いない。

 だけど、俺の知ってる限りのノゾム兄の像はまだ変わらなかった。

 

「……虚像だな」

 

 はっきりと、彼は言い捨てる。

 嘘のものだと突き付けた。

 真実ではない、と。

 

「僕は、あいつを知っている。あいつは明るい性格ではあったが、そこまで必要以上に朗らかに振舞うような奴じゃなかった。むしろ、気が付けば事あるごとに何かを抱え込んで悩むような奴だったよ。変にプライドが高いから、それで僕たちは同じチームだったが手を焼いた」

「ノゾム兄が……」

「まして、あの事件が起こった後のあいつが、心の底から笑っているとは思えない。貴様は、あいつの笑顔が時折わざとらしく――もっと言えば、貼り付けたようなものになっているのに気付いたか? いや、気付かなかっただろうが、知っている身からすれば不自然だったのだよ」

 

 確かに普段話している分には気づかなかった。

 だけど、実は全くおかしくなかったと言えば嘘になる(あくまでも今となっては、の話だが)。

 だが、言われなければ、必要以上に明るく振舞うノゾム兄が今思えば不自然だったのだとはだれが気付こうか。

 

「……僕は分かる。今回の件は、決してあの事件と全くの無関係ではない」

「で、でも、ノゾム兄は車に轢かれたって――」

「あいつが? ハッ」

 

 鼻で彼は笑ってみせた。

 嘘が、ばれつつあるのか?

 だとしたらどうして? 俺達じゃないと知り得ないことを、何でこの人が知っている?

 訳が分からないけど――俺は、敢えて話を逸らす為に焦って口走った。

 

「それって――どんな事件なんですか」

 

 好奇心で聞いたらいけない話題とはわかり切っている。

 だけど、それでも俺は知らなきゃいけない理由があるんだ。

 俺は、ノゾム兄の覚悟を知らなきゃいけない。

 

「その瞳。本気か」

「俺は向き合わなきゃいけないから。知らないままは、嫌なんです」

 

 

 

「あれ? 耀と……誰?」

 

 

 

声が聞こえてくる。

 見ると、病室の扉からは花梨の姿があった。

 

「花梨!」

「え? え? 誰なのこの人?」

 

 戸惑う花梨。

 

「あー……説明すると長くなるんだけどよ。てか、ブランと紫月は?」

「ブランと紫月ちゃんは売店にお菓子とか買いにいったよ。後でお礼言ってよね、耀の分も頼んでるし」

「そうか……」

 

 次の瞬間、黒鳥さんが花梨の顔を睨む。

 そして、何かを見透かしたように目を見開いた。

 

「……そうか。なら、もう仕方あるまい」

「あ、あの、貴方は……」

「花梨。この人が黒鳥さん。紫月に昔、デュエマを教えた人。そして――ノゾム兄の先輩だ」

 

 こくり、と彼は頷く。

 

「……今から話そうと思ってたことがある。余り、他人には聞かれたくない事なんだがな」

「お、お兄……ノゾムお兄の事ですか」

「……話が早いな。貴様がノゾムの義妹か」

 

 見透かすような黒鳥さんの視線。

 花梨も、それからは逃れる事が出来なかった。

 

「あ、あのっ」

 

 彼女も踏み込んだ。

 

「あたしも、お兄のことについて知りたいんです。家族も、お兄も、誰も話してくれなかった。あたしだけ、知らないままは嫌。お兄の過去を、知らなきゃって思ったから」

「そうだな。真実とは、いずれ明らかになる。それが遅いか、早いか。それだけの差だよ」

 

 彼は腕を組む。

 そして、くるりと踵を返した。

 

「……表に出ろ。此処では話し辛い」

「え?」

「早くしろ。屋上に行くぞ」

 

 俺は言われるがままにその場を立つ。

 病室を出て行く黒鳥さんに、俺と花梨は気まずい沈黙を破れないまま、着いて行くことになった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 9月も終わりに近づき、秋空は吹き抜けるような風が頬を冷たく逆撫でする。

 だが、それさえも意に介さない――どこか、浮世から1つ離れたような様子で黒鳥さんは振り向いた。

 彼の周りだけ全く別の空間が造られているかのようだった。

 

「さて、と。貴様等にはこの話はしっかりつけておかなければならんからな」

「……ノゾム兄に、何があったんですか」

「ああ。僕らにとっても、忘れがたい事件であることは間違いない。それはさっきも言った通りだ」

 

 そう黒鳥さんが言った時だった。

 俺は妙な寒気を感じる。何だろう。周囲を見回しても、暗くて何も見えないが、ずざざざ、と何かを引き摺るような音が聞こえるのだ。

 

「どうした?」

「い、いや、何でも……」

「そうか。まあ、此処から先は相応の覚悟が必要だ」

「何度も同じ前置きをしないでください」

 

 俺は妙な感覚に覆われながら、苛立ちと不安を隠せず思わず言い放つ。

 

「……本当に、だな?」

 

 次の瞬間。

 ギィイイイイイイイイイイイ!!

 魔獣の啼く声が耳をつんざき、本能的に俺をその場から飛び退かせた。

 地面を抉るような強烈な着地音。

 花梨の姿が見えた。彼女も異形の姿を感じ取り、退避したらしい。

 とうとうチョートッQが甲高く叫んだ。

 

 

 

『マスター!! 上であります!!』

 

 

 降りかかる影。

 それが再び拳を振り上げて、俺を目掛けて飛び降りてくる。

 チョートッQが正面からぶつかり、それを食い止める。

 

「こいつは!?」

「何!? 何なのコレ!? ま、まさか、オバケ!?」

 

 不安そうな顔を浮かべる花梨に、チョートッQが呼びかけた。

 

『クリーチャーでありますよ! 恐らく、この邪悪な気配、闇文明のものであります!!』

「く、黒鳥さん!」

 

 俺は叫んで黒鳥さんの方を見た。

 そして愕然とする。彼は動じていない。

 いや、それどころか――彼の手には、暗く紫色に輝くカードがあった。

 見てすぐに察した。この闇に紛れた異形は、あのカードから現れている。

 

「どうした? 怖気づいているのか?」

「黒鳥さん……!!」

 

 俺は叫んだ。

 にわかに信じ難かったが、彼が操っているのは間違いなくクリーチャー。

 こうして俺達にけしかけたのも間違いなく彼だ。

 

「白銀。貴様はやはりそれなりにクリーチャーとの戦いで場数を踏んで来たとみて間違いない。実戦で鍛え抜かれた危機管理能力と神経だよ」

 

 言い放った彼に向って、蜷局上に異形は絡みついていく。

 

「だが、真実が知りたいならば、その手で掴め。貴様が此処までの戦いで何を積み上げてきたのか、この僕に示してみろ」

「待ってくださいよ!? 俺は貴方とは戦いたくない!! 貴方、だってクリーチャーに操られてる訳じゃないんでしょ!?」

「そうですよ! 何考えてるんですか!」

『我らに戦う理由は無いのでありますよ!!』

「それが、貴様の強さか。白銀耀。実に美しい。美しい優しさだよ。だが、これは僕が貴様に課す最初で最後の試練だよ。真実を知るならば、勝ち取ってみろ。その先の――大魔導司へ挑むというのならば」

 

 やっぱり、知っているんだ。

 黒鳥さんは、ワイルドカードや魔導司の事を知っているのか。

 

「……俺を、試すんですか」

「ああ。それに安心しろ。僕は、ノゾムの奴程じゃあないが、貴様に殴られた程度で沈むほどヤワじゃあない。そして、今の僕に貴様を傷つける力は無い」

「……? どういうことですか」

「それは、僕に勝ったら教えてやる」

 

 俺だって、いつまでも逃げ腰では居られないと気付いた。

 この人は本気だ。俺を本気で倒しにかかっている。

 威圧感、そして彼の周りを纏っているクリーチャーから放たれる瘴気が、俺の正気を狂わせていく。

 

「耀、ダメだよ! こんなところで戦ってる場合じゃ……!」

「……だけど、あの人は本気で俺を試そうとしてるんだ。あの人はすっげぇ強い。だけど、ノゾム兄を倒したファウストはもっと強いって自分で言ってるんだよ。……つまり俺が此処で勝てなきゃ、あの大魔導司を止めることが出来ないって言ってるんだ」

「そんな……!」

「とはいえ僕は、とある異名で呼ばれていた時期があってね。『不和侯爵(アンドラス)』。鏖の悪魔の名を頂戴した」

「『不和侯爵(アンドラス)』……!」

「さっきはああいったが、僕は貴様を殺すつもりで戦う。貴様も――この僕を、美に憑りつかれた悪魔を殺すつもりで掛かって来い」

 

 エリアフォースカードが赤く輝いた。

 

「やるしか……ないっ! 相手が本気なら、仕方がない!」

『了解であります!』

Wild(ワイルド)……Draw(ドロー)(フォー)……皇帝(エンペラー)!!』

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