学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
現れたのは、黒い装束に身を包んだ影の住人。
尊大な態度で肘をついた彼は、全てを支配したかのように赤い瞳をぎらつかせる。
マフィ・ギャングの3大切札が、遂に出揃ってしまった。
「その効果で僕の墓地のカードを倍に増やす。更に、こいつは場を離れる代わりに墓地のカード6枚を戻せば場に留まる! さあ、ターン終了だ」
「っ……!」
「《阿修羅ムカデ》はパワー9000のブロッカー。うっかり《ナッシング・ゼロ》でも使われれば厄介だからな。残しておくとするよ」
「……だけど、まだ勝ち目はあるはず……!」
虚勢だった。
恐ろしい巨大な闇の住人を前に、俺は圧力を前に屈しようとしていた。
だけど――理性が屈しようとも、意地はそれを許さなかった。
「負けて……たまるかよォ!! 4マナで《ヘルコプ太》召喚! 効果で場のジョーカーズの数……場にあるのは3体だから、3枚ドローだ!」
「……壮士だな。良いぞ。泥沼から這い上がり、僕を昂らせろ」
とはいえ、攻撃することは出来ない。
パワー9000の壁は厚い。
このままでは、じり貧の末に押し潰されることは確実だ。
「僕のターン。3マナで《凶鬼33号 ブスート》召喚。その効果で自分のクリーチャー1体を破壊し、再び墓地から場に出す」
「なっ!?」
「《ガシャゴズラ》を破壊。そして、再び場に出す。その効果でバトルゾーンに出すのは《学校男》、《ヘモグロ》、《凶器56号 ゴロン》。《学校男》の効果で、《阿修羅ムカデ》と《ゴロン》を破壊!」
次の瞬間、伸びる3つの破壊の手。
否応なしに俺のクリーチャーが殲滅されていく。
「まず、《学校男》の効果で貴様もクリーチャーを選んで破壊しろ」
「っ……《ヘルコプ太》を破壊!」
「次に、《ゴロン》の効果でアンタップしている《パーリ騎士》も破壊」
「まだ、《ヤッタレマン》が……!」
「仕留めないと思ったのか? 微塵も残さん」
次の瞬間、地獄の底から再び蟲の怪物が這いあがった。
今度は、《ヤッタレマン》を大顎で食い破る。
「《阿修羅ムカデ》は破壊されても、タップして場に蘇る。正真正銘、不死身のクリーチャーだ。パワーを-9000して破壊」
「なっ……!?」
『ははははは、不死身。そうですねぇ、我々闇文明は精神の観念というものがどうやら他の文明のクリーチャーとは違うようでして。ええ、ちょいと眠ってまた起き上がるだけの感覚ですよ』
化物だ。
こいつは、本当に恐ろしいクリーチャーだ。
身の毛がよだつとはこの事。これが、純然たる闇文明のクリーチャーの力だというのか。
一方的に破壊を振りまく悪魔神とは違い、相手を腐敗させていく毒の蟲。
じわりじわりと、確実に俺を仕留めに掛かっている。
「そして《ヘモグロ》の効果でもう1度手札を捨てろ!」
「《ヴァーニング・ヒーター》を捨てて、効果発動! 《ガシャゴズラ》だけでも破壊する!」
駄目だ。全く間に合ってない。
このままでは、本当に負ける。だけど、歯向かっても、勝てる気がしない。
「俺のターン……! 《ヤッタレマン》と《パーリ騎士》召喚……! ターン終了……!」
「貴様は、その程度か? その程度で、ノゾムの闇に、僕らの闇に触れようというのか?」
「くっ……!」
「警告だ。今からでも良い。貴様はこの戦いから足を洗え。貴様はまだ引き返せる。だが、僕らのようにその世界に足を突っ込んだままだと、二度と抜け出せなくなる。大好きなデュエマを抱え込んだままな」
その瞳は昏い。
破壊し尽くされていく俺を眺めるように。
その行く末は、俺達全員の破滅。
黒鳥さんは見据えている。確かに。
「そんなもん、織り込み済みだよ……!」
「?」
「俺は、もう、逃げたりしない……! 逃げたら、一生後悔する戦いだからだ! ノゾム兄は逃げなかった!! 逃げて後悔するくらいなら、俺は、戦って後悔した方がまだマシだ!」
「面白い。やはり貴様は面白い! 貴様は、似すぎているんだよ。どっかの馬鹿に。それが虚勢でないことを僕に教えてくれ!」
言った黒鳥さんは、初めて愉快そうな顔を俺に見せた。
凄絶な笑顔だったが、戦いを楽しんでいた。
「追い詰める。貴様を崖っぷちまで――地獄に落ちるか、僕を食い殺すか、それは貴様次第だ!! 2コストで《ゴロン》。4コストで《ルドルフ・カルナック》召喚! 効果で《ゴロン》を破壊して2枚ドロー。さらに、《ヤッタレマン》を破壊!」
「またブロッカー……! しかもクリーチャーまで破壊するなんて……!」
「ああ。これで守りは盤石!! 死の芸術で彩るとしようか!!」
言った黒鳥さんの声に合わせて、凶悪で醜悪な闇の住人が、影から飛んで行った。
「《ジョルジュ・バタイユ》でシールドをT・ブレイク!!」
巨大な釘が顕現し、俺のシールドを纏めて突き貫いた。
シールド・トリガーは、無い……!
「次に、《学校男》でシールドをW・ブレイクだ!!」
巨大な学校の影が、残るシールドを押し潰す。
衝撃で俺は吹っ飛ばされた。
タイルに背中から叩きつけられて息が出来なくなる。
「あっがっ……」
起き上がろうとするが、ダメージは思った以上に大きい。
黒鳥さんの冷淡な声が響き渡った。
「……そうだな、耀。ノゾムは決して逃げなかった。どんな時も、あいつは逃げなかった。貴様も敢えて茨の道を行くか? だが、その果てに破滅の道が無いとは限らないぞ!! 二度と這い上がれない、絶望への道が」
俺を見下ろすようにして、彼は腕を組んだ。
果てにある破滅の道。
それは、俺の行く末を暗示するかのようだ。
頭はぐわんぐわんするし、胸は今にも押し潰される一歩手前。
「……も」
「? 何だ」
それでも、俺は掴まなきゃいけない。
俺だって、戦える。ずっと、戦ってきたんだ。
もう、これはヒーローごっこなんかじゃあない。
人助けなんて言葉で済まされるものじゃない。
その先にあるのが地獄の鬼の待つ煉獄だったとしても――
「だとしてもォ!!」
俺は、立ち上がってみせる!!
絶対に!!
最後のシールドを手に取る。
迷わずそれを突き付けた。
割れたシールドが光となって収束する。
「S・トリガー、《バイナラドア》! 《阿修羅ムカデ》は山札の下に戻ってもらう! 退場!」
「はっ、1体除去したところで……!」
黒鳥さんは残る《ヘモグロ》に手を掛ける。
だけど、まだ俺の反撃は終わっちゃいない!
「スーパー・S・トリガー、《
「なっ……!?」
黒鳥さんは呆気にとられたようだった。
現れたのは電話型のクリーチャー。
それが鳴り響くと共に、俺の周囲にバリアが張られていく。
「ふざけたカードを……しかも、防がれた……!! 《ヘモグロ》をターン終了時に蘇生させ、手札を1枚捨てて貰うぞ!」
「ああ。確かにこのままじゃ、負ける。このままなら……!」
俺は山札に手を掛けた。
逆転への道筋は、後1つで繋がる。
「だけど、引く! 俺は、俺の
「……守るために、前に進む、か。それが貴様の答えか!!」
「はい!!」
悔いはない。
この1枚が全て。
そうしてきたカードを――俺は、裏返した。
「!」
俺はシールドに来たカードを見て目を見開いた。
そこには、《チョートッQ》の姿があった。
「やっぱり、来てくれたか!」
『我も、ジョニーから貰った燃え上がる炎の鼓動、メラメラと燃えているであります!』
「……ああ。お前を信じるぜ、相棒!!」
俺のデッキケースから突如、
そして、熱い鼓動が、炎の奔流が俺に、そしてカード達に流れ込んでいく。
そうか。此処で応えてくれたか。
俺の魂に……俺の、思いに!
「そうだ。絶対にもう負けるもんか!! この一発で、全部ブチ貫くだけだ!!」
「っ……!?
『我が主。ちょっとこれはまずいかもしれませんねぇ、ひっひっひ……!!』
「笑ってる場合か!! 防ぐぞ!!」
タップされる7枚のマナ。
燃え上がる炎の弾丸。撃ち抜け、俺の思い!!
それも、灼熱の炎に包まれ、MASTERの文字が焼き付けられていく。
生まれ変わる。今此処で、作り替えられていく!
「これが俺の
現れたのは、黒鉄の軍馬と孤高のガンマン。
そして、炎の輪を潜り抜けると共に、愛馬・シルバーの脚は車輪となり、ジョニーの左手には燃える炎のボードが掲げられた。
炎のガンマン――これが、新しいジョニーの姿、なのか!?
「ジョーカーズは持ち主が今まで戦った相手に呼応して、その力を糧に強くなる……だが、僕の渡したカードが、直接進化するとは……!!」
「黒鳥さん、行きます! 《メラビート・ザ・ジョニー》だけが持つマスター能力、発動!」
掲げられる二丁拳銃。そこから、弾丸のように撃ち放たれるのは、2体の炎のジョーカーズ。
「必殺、マスター・W・メラビート!! J・O・Eを持つクリーチャーを2体までバトルゾーンに出す!」
飛び出したのは、《バーバーパパ》、そして《チョートッQ》の2体。
だけど、《チョートッQ》の身体は加速するにつれて激しい炎に包まれていく。
「変化したのはジョニーだけじゃない!!」
『これが我の新しい姿であります!!』
「なら、期待に応えてくれよ! 出すのは《バーバーパパ》。そして――」
俺は宣言する。
新たなる彼の姿を、そして名を叫んだ。
「これが俺の
炎の輪を潜り、トンネルを潜り抜け、限界までエンジンを燃やして爆走した新幹線頭は、思い切り地面に降り立つ。
『チョートッQ改め、バーニング・モードにして勝利への線路を駆け抜ける轟速特急、そう我が名は……《ドッカン! ゴートッQ》であります!』
「チッ……だが、場にはブロッカーが2体……僕のシールドは残り3枚! クリーチャーが5体いようが、全て受け止めるのみだ!」
「それはどうかな?」
言った矢先、《メラビート・ザ・ジョニー》の掲げたボードに炎が集まっていく。
それが巨大な剣の如く燃え上がり――
「《メラビート・ザ・ジョニー》が場に出た時、俺の場にジョーカーズが5体以上いれば――相手のクリーチャーを全て破壊する!!」
「なっ……!?」
バイクとなったシルバーが、ギュギュン、と大地を抉るようにして車輪を回転させ、影の軍勢へ突貫していく。
その上に跨るジョニーは、薙ぎ払うようにして襲い掛かる軍勢を一刀両断。
阿鼻叫喚の叫び声と共に胴から断ち切り、炎のドームが巻き起こった。
「そのまま――一斉攻撃だ!! まず、《SMAPON》でシールドをブレイク!」
残り、シールドは2枚。
しかし、そのシールドが再び収束していく。
「S・トリガー、《
地獄から現れた巨大な牙が《バーバーパパ》を飲み込んで破壊する。
「次に、《メラビート・ザ・ジョニー》でシールドをW・ブレイクだ!」
構えられた二丁拳銃が、残るシールドを撃ち抜く。
だが、黒鳥さんは割られたシールドを見ると笑みを浮かべた。
「まだだ!! S・トリガー、《死術医 スキン》召喚! 効果で相手のクリーチャー全員のパワーを-2000する!」
更に現れた小鬼によって、《パーリ騎士》と《SMAPON》、《バイナラドア》が溶けるようにして消滅した。
だけど――まだ、《ゴートッQ》が残っている!
「その希望も潰えろ! S・トリガー、《インフェルノ・サイン》で《ルドルフ・カルナック》を蘇生だ! これで貴様の攻撃はもう届かない!」
シールド・トリガーが合計4枚!? 何て運なんだよ!?
それでも、この攻撃を通せば俺の勝ちだ!
「……絶対に、止まってたまるもんかぁぁぁ!!」
《ゴートッQ》の攻撃は止まらない。
例え、ブロッカーがいようが、あらゆる障壁をぶち壊して前に進み続ける。
もう二度と止まるもんか。今から、未来へ進み続ける、希望を推進力にして!
「カッ飛ばせ!! 《ドッカン! ゴートッQ》のアタックトリガー発動! 相手のブロッカーを1体選び、破壊する!!」
『了解! 轟轟轟と最短距離真っ直ぐに……勝利へ急行であります!』
防ごうとした《ルドルフ・カルナック》を突進で撥ね飛ばした《ゴートッQ》は、そのまま拳を振り上げて黒鳥さん目掛けて叩きつける。
やっぱり黒鳥さんの勝負運も相当なものだった。
だけど。今度はもう、俺達の攻撃を阻む壁は存在しない。
「《ドッカン! ゴートッQ》でダイレクトアタック!!」
『必殺、轟・特急インパクトォ!!』
※※※
空間が崩れ去り、勝負の余韻が冷めぬ間に黒鳥さんは呟いた。
「っ……やれやれ、どこまでも甘いな」
拳が突き刺さったのは、コンクリートの地面。
すれすれでゴートッQが避けたのだ。勿論、俺が命じたことである。
「俺の、勝ちですよね」
「ああ……最初に会った時より、貴様は強くなった」
起き上がると、黒鳥さんはズボンについた埃を払った。
信じられなかった。
あの黒鳥さんに、勝ったんだ。とはいえ、実力はやはりこの人の方が上。
超えられたわけじゃないのが悔しいけど……それでも、足元には及ぶようになったんだ。
「耀、大丈夫!? 怪我してない!?」
「……ケガはねーけど、結構痛かった……ま、大丈夫だろ」
「もう!」
正直に言うと、結構効いたけどな、あの攻撃の数々。
それでも加減してくれたんだろうけど。じゃなきゃ、今頃俺は立ち上がれてないはずだ。
「……で、でも、何でこんなことを……!」
「すまなかったな」
彼は目を伏せた。
「今から話すことは、僕達が昔からクリーチャーの事件に関わっていることを前提として話すからだよ。貴様らに、戦う者としての僕の姿を見て欲しかった」
「え!? む、昔から!?」
「そうだ。何処から話したものか……」
ベンチに腰掛けると、黒鳥さんは徐に話し始める。
俺達はいよいよ、固唾を飲んだ。
「……現実からは逸脱した、戦いの記憶だ。心して聞け」