学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第61話:悪夢と過去─灼熱の切札

現れたのは、黒い装束に身を包んだ影の住人。

 尊大な態度で肘をついた彼は、全てを支配したかのように赤い瞳をぎらつかせる。

 マフィ・ギャングの3大切札が、遂に出揃ってしまった。

 

「その効果で僕の墓地のカードを倍に増やす。更に、こいつは場を離れる代わりに墓地のカード6枚を戻せば場に留まる! さあ、ターン終了だ」

「っ……!」

「《阿修羅ムカデ》はパワー9000のブロッカー。うっかり《ナッシング・ゼロ》でも使われれば厄介だからな。残しておくとするよ」

「……だけど、まだ勝ち目はあるはず……!」

 

 虚勢だった。

 恐ろしい巨大な闇の住人を前に、俺は圧力を前に屈しようとしていた。

 だけど――理性が屈しようとも、意地はそれを許さなかった。

 

「負けて……たまるかよォ!! 4マナで《ヘルコプ太》召喚! 効果で場のジョーカーズの数……場にあるのは3体だから、3枚ドローだ!」

「……壮士だな。良いぞ。泥沼から這い上がり、僕を昂らせろ」

 

 とはいえ、攻撃することは出来ない。

 パワー9000の壁は厚い。

 このままでは、じり貧の末に押し潰されることは確実だ。

 

「僕のターン。3マナで《凶鬼33号 ブスート》召喚。その効果で自分のクリーチャー1体を破壊し、再び墓地から場に出す」

「なっ!?」

「《ガシャゴズラ》を破壊。そして、再び場に出す。その効果でバトルゾーンに出すのは《学校男》、《ヘモグロ》、《凶器56号 ゴロン》。《学校男》の効果で、《阿修羅ムカデ》と《ゴロン》を破壊!」

 

 次の瞬間、伸びる3つの破壊の手。

 否応なしに俺のクリーチャーが殲滅されていく。

 

「まず、《学校男》の効果で貴様もクリーチャーを選んで破壊しろ」

「っ……《ヘルコプ太》を破壊!」

「次に、《ゴロン》の効果でアンタップしている《パーリ騎士》も破壊」

「まだ、《ヤッタレマン》が……!」

「仕留めないと思ったのか? 微塵も残さん」

 

 次の瞬間、地獄の底から再び蟲の怪物が這いあがった。

 今度は、《ヤッタレマン》を大顎で食い破る。

 

「《阿修羅ムカデ》は破壊されても、タップして場に蘇る。正真正銘、不死身のクリーチャーだ。パワーを-9000して破壊」

「なっ……!?」

『ははははは、不死身。そうですねぇ、我々闇文明は精神の観念というものがどうやら他の文明のクリーチャーとは違うようでして。ええ、ちょいと眠ってまた起き上がるだけの感覚ですよ』

 

 化物だ。

 こいつは、本当に恐ろしいクリーチャーだ。

 身の毛がよだつとはこの事。これが、純然たる闇文明のクリーチャーの力だというのか。

 一方的に破壊を振りまく悪魔神とは違い、相手を腐敗させていく毒の蟲。

 じわりじわりと、確実に俺を仕留めに掛かっている。

 

「そして《ヘモグロ》の効果でもう1度手札を捨てろ!」

「《ヴァーニング・ヒーター》を捨てて、効果発動! 《ガシャゴズラ》だけでも破壊する!」

 

 駄目だ。全く間に合ってない。

 このままでは、本当に負ける。だけど、歯向かっても、勝てる気がしない。

 

「俺のターン……! 《ヤッタレマン》と《パーリ騎士》召喚……! ターン終了……!」

「貴様は、その程度か? その程度で、ノゾムの闇に、僕らの闇に触れようというのか?」

「くっ……!」

「警告だ。今からでも良い。貴様はこの戦いから足を洗え。貴様はまだ引き返せる。だが、僕らのようにその世界に足を突っ込んだままだと、二度と抜け出せなくなる。大好きなデュエマを抱え込んだままな」

 

 その瞳は昏い。

 破壊し尽くされていく俺を眺めるように。

 その行く末は、俺達全員の破滅。

 黒鳥さんは見据えている。確かに。

 

「そんなもん、織り込み済みだよ……!」

「?」

「俺は、もう、逃げたりしない……! 逃げたら、一生後悔する戦いだからだ! ノゾム兄は逃げなかった!! 逃げて後悔するくらいなら、俺は、戦って後悔した方がまだマシだ!」

「面白い。やはり貴様は面白い! 貴様は、似すぎているんだよ。どっかの馬鹿に。それが虚勢でないことを僕に教えてくれ!」

 

 言った黒鳥さんは、初めて愉快そうな顔を俺に見せた。

 凄絶な笑顔だったが、戦いを楽しんでいた。

 

「追い詰める。貴様を崖っぷちまで――地獄に落ちるか、僕を食い殺すか、それは貴様次第だ!! 2コストで《ゴロン》。4コストで《ルドルフ・カルナック》召喚! 効果で《ゴロン》を破壊して2枚ドロー。さらに、《ヤッタレマン》を破壊!」

「またブロッカー……! しかもクリーチャーまで破壊するなんて……!」

「ああ。これで守りは盤石!! 死の芸術で彩るとしようか!!」

 

 言った黒鳥さんの声に合わせて、凶悪で醜悪な闇の住人が、影から飛んで行った。

 

「《ジョルジュ・バタイユ》でシールドをT・ブレイク!!」

 

 巨大な釘が顕現し、俺のシールドを纏めて突き貫いた。

 シールド・トリガーは、無い……!

 

「次に、《学校男》でシールドをW・ブレイクだ!!」

 

 巨大な学校の影が、残るシールドを押し潰す。

 衝撃で俺は吹っ飛ばされた。

 タイルに背中から叩きつけられて息が出来なくなる。

 

「あっがっ……」

 

 起き上がろうとするが、ダメージは思った以上に大きい。

 黒鳥さんの冷淡な声が響き渡った。

 

「……そうだな、耀。ノゾムは決して逃げなかった。どんな時も、あいつは逃げなかった。貴様も敢えて茨の道を行くか? だが、その果てに破滅の道が無いとは限らないぞ!! 二度と這い上がれない、絶望への道が」

 

 俺を見下ろすようにして、彼は腕を組んだ。

 果てにある破滅の道。

 それは、俺の行く末を暗示するかのようだ。

 頭はぐわんぐわんするし、胸は今にも押し潰される一歩手前。

 

「……も」

「? 何だ」

 

 それでも、俺は掴まなきゃいけない。

 俺だって、戦える。ずっと、戦ってきたんだ。

 もう、これはヒーローごっこなんかじゃあない。

 人助けなんて言葉で済まされるものじゃない。

 その先にあるのが地獄の鬼の待つ煉獄だったとしても――

 

 

 

「だとしてもォ!!」

 

 

 

 俺は、立ち上がってみせる!!

 絶対に!!

 最後のシールドを手に取る。

 迷わずそれを突き付けた。

 割れたシールドが光となって収束する。

 

「S・トリガー、《バイナラドア》! 《阿修羅ムカデ》は山札の下に戻ってもらう! 退場!」

「はっ、1体除去したところで……!」

 

 黒鳥さんは残る《ヘモグロ》に手を掛ける。

 だけど、まだ俺の反撃は終わっちゃいない!

 

「スーパー・S・トリガー、《SMAPON(スマッポン)》!! パワー2000以下のクリーチャーを全て破壊し、更にスーパーボーナスでこのターン相手はデュエルに勝てず、俺はデュエルに負けない!!」

「なっ……!?」

 

 黒鳥さんは呆気にとられたようだった。

 現れたのは電話型のクリーチャー。

 それが鳴り響くと共に、俺の周囲にバリアが張られていく。

 

「ふざけたカードを……しかも、防がれた……!! 《ヘモグロ》をターン終了時に蘇生させ、手札を1枚捨てて貰うぞ!」

「ああ。確かにこのままじゃ、負ける。このままなら……!」

 

 俺は山札に手を掛けた。

 逆転への道筋は、後1つで繋がる。

 

「だけど、引く! 俺は、俺の切り札達(ジョーカーズ)を信じるだけ。俺には、前に進まなきゃいけない、理由があるんだ!! 守るためには、前に進まなきゃいけないんだ!!」

「……守るために、前に進む、か。それが貴様の答えか!!」

「はい!!」

 

 悔いはない。

 この1枚が全て。

 そうしてきたカードを――俺は、裏返した。

 

「!」

 

 俺はシールドに来たカードを見て目を見開いた。

 そこには、《チョートッQ》の姿があった。

 

「やっぱり、来てくれたか!」

『我も、ジョニーから貰った燃え上がる炎の鼓動、メラメラと燃えているであります!』

「……ああ。お前を信じるぜ、相棒!!」

 

 俺のデッキケースから突如、皇帝(エンペラー)のカードが飛び出す。

 そして、熱い鼓動が、炎の奔流が俺に、そしてカード達に流れ込んでいく。

 そうか。此処で応えてくれたか。

 俺の魂に……俺の、思いに!

 

「そうだ。絶対にもう負けるもんか!! この一発で、全部ブチ貫くだけだ!!」

「っ……!? 皇帝(エンペラー)が……!?」

『我が主。ちょっとこれはまずいかもしれませんねぇ、ひっひっひ……!!』

「笑ってる場合か!! 防ぐぞ!!」

 

 タップされる7枚のマナ。

 燃え上がる炎の弾丸。撃ち抜け、俺の思い!!

 皇帝(エンペラー)を表す数字、Ⅳが浮かび上がる。

 それも、灼熱の炎に包まれ、MASTERの文字が焼き付けられていく。

 生まれ変わる。今此処で、作り替えられていく!

 

 

 

「これが俺の灼熱の切り札(ザ・ヒート・ワイルド)! 燃え上がれ、《メラビート・ザ・ジョニー》!!」

 

 

 

現れたのは、黒鉄の軍馬と孤高のガンマン。

 そして、炎の輪を潜り抜けると共に、愛馬・シルバーの脚は車輪となり、ジョニーの左手には燃える炎のボードが掲げられた。

 炎のガンマン――これが、新しいジョニーの姿、なのか!?

 

「ジョーカーズは持ち主が今まで戦った相手に呼応して、その力を糧に強くなる……だが、僕の渡したカードが、直接進化するとは……!!」

「黒鳥さん、行きます! 《メラビート・ザ・ジョニー》だけが持つマスター能力、発動!」

 

 掲げられる二丁拳銃。そこから、弾丸のように撃ち放たれるのは、2体の炎のジョーカーズ。

 

「必殺、マスター・W・メラビート!! J・O・Eを持つクリーチャーを2体までバトルゾーンに出す!」

 

 飛び出したのは、《バーバーパパ》、そして《チョートッQ》の2体。

 だけど、《チョートッQ》の身体は加速するにつれて激しい炎に包まれていく。

 

「変化したのはジョニーだけじゃない!!」

『これが我の新しい姿であります!!』

「なら、期待に応えてくれよ! 出すのは《バーバーパパ》。そして――」

 

 俺は宣言する。

 新たなる彼の姿を、そして名を叫んだ。

 

 

 

「これが俺の第二の弾丸(ザ・セカンドバレット)! 燃え上がれ、皇帝(エンペラー)のアルカナ! 《ドッカン! ゴートッQ》!」

 

 

 

 炎の輪を潜り、トンネルを潜り抜け、限界までエンジンを燃やして爆走した新幹線頭は、思い切り地面に降り立つ。

 

『チョートッQ改め、バーニング・モードにして勝利への線路を駆け抜ける轟速特急、そう我が名は……《ドッカン! ゴートッQ》であります!』

「チッ……だが、場にはブロッカーが2体……僕のシールドは残り3枚! クリーチャーが5体いようが、全て受け止めるのみだ!」

「それはどうかな?」

 

 言った矢先、《メラビート・ザ・ジョニー》の掲げたボードに炎が集まっていく。

 それが巨大な剣の如く燃え上がり――

 

「《メラビート・ザ・ジョニー》が場に出た時、俺の場にジョーカーズが5体以上いれば――相手のクリーチャーを全て破壊する!!」

「なっ……!?」

 

 バイクとなったシルバーが、ギュギュン、と大地を抉るようにして車輪を回転させ、影の軍勢へ突貫していく。

 その上に跨るジョニーは、薙ぎ払うようにして襲い掛かる軍勢を一刀両断。

 阿鼻叫喚の叫び声と共に胴から断ち切り、炎のドームが巻き起こった。

 

「そのまま――一斉攻撃だ!! まず、《SMAPON》でシールドをブレイク!」

 

 残り、シールドは2枚。

 しかし、そのシールドが再び収束していく。

 

「S・トリガー、《冥王の牙(バビロン・ゲルグ)》で《バーバーパパ》を破壊!!」

 

 地獄から現れた巨大な牙が《バーバーパパ》を飲み込んで破壊する。

 

「次に、《メラビート・ザ・ジョニー》でシールドをW・ブレイクだ!」

 

 構えられた二丁拳銃が、残るシールドを撃ち抜く。

 だが、黒鳥さんは割られたシールドを見ると笑みを浮かべた。

 

「まだだ!! S・トリガー、《死術医 スキン》召喚! 効果で相手のクリーチャー全員のパワーを-2000する!」

 

 更に現れた小鬼によって、《パーリ騎士》と《SMAPON》、《バイナラドア》が溶けるようにして消滅した。

 だけど――まだ、《ゴートッQ》が残っている!

 

「その希望も潰えろ! S・トリガー、《インフェルノ・サイン》で《ルドルフ・カルナック》を蘇生だ! これで貴様の攻撃はもう届かない!」

 

 シールド・トリガーが合計4枚!? 何て運なんだよ!?

 それでも、この攻撃を通せば俺の勝ちだ!

 

「……絶対に、止まってたまるもんかぁぁぁ!!」

 

 《ゴートッQ》の攻撃は止まらない。

 例え、ブロッカーがいようが、あらゆる障壁をぶち壊して前に進み続ける。

 もう二度と止まるもんか。今から、未来へ進み続ける、希望を推進力にして!

 

「カッ飛ばせ!! 《ドッカン! ゴートッQ》のアタックトリガー発動! 相手のブロッカーを1体選び、破壊する!!」

『了解! 轟轟轟と最短距離真っ直ぐに……勝利へ急行であります!』

 

 防ごうとした《ルドルフ・カルナック》を突進で撥ね飛ばした《ゴートッQ》は、そのまま拳を振り上げて黒鳥さん目掛けて叩きつける。

 やっぱり黒鳥さんの勝負運も相当なものだった。

 だけど。今度はもう、俺達の攻撃を阻む壁は存在しない。

 

 

 

「《ドッカン! ゴートッQ》でダイレクトアタック!!」

『必殺、轟・特急インパクトォ!!』

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 空間が崩れ去り、勝負の余韻が冷めぬ間に黒鳥さんは呟いた。

 

「っ……やれやれ、どこまでも甘いな」

 

 拳が突き刺さったのは、コンクリートの地面。

 すれすれでゴートッQが避けたのだ。勿論、俺が命じたことである。

 

「俺の、勝ちですよね」

「ああ……最初に会った時より、貴様は強くなった」

 

 起き上がると、黒鳥さんはズボンについた埃を払った。

 信じられなかった。

 あの黒鳥さんに、勝ったんだ。とはいえ、実力はやはりこの人の方が上。

 超えられたわけじゃないのが悔しいけど……それでも、足元には及ぶようになったんだ。

 

「耀、大丈夫!? 怪我してない!?」

「……ケガはねーけど、結構痛かった……ま、大丈夫だろ」

「もう!」

 

 正直に言うと、結構効いたけどな、あの攻撃の数々。

 それでも加減してくれたんだろうけど。じゃなきゃ、今頃俺は立ち上がれてないはずだ。

 

「……で、でも、何でこんなことを……!」

「すまなかったな」

 

 彼は目を伏せた。

 

「今から話すことは、僕達が昔からクリーチャーの事件に関わっていることを前提として話すからだよ。貴様らに、戦う者としての僕の姿を見て欲しかった」

「え!? む、昔から!?」

「そうだ。何処から話したものか……」

 

 ベンチに腰掛けると、黒鳥さんは徐に話し始める。

 俺達はいよいよ、固唾を飲んだ。

 

「……現実からは逸脱した、戦いの記憶だ。心して聞け」

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