学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第62話:悪夢と過去─戦いの記憶

※※※

 

 

 

 ――平行世界と聞いて、何のことか分かるか? 同じ時間の別の世界、別の宇宙の世界。

 クリーチャーとは、その中の1つの世界にいる。人間の代わりに、地球を支配している頂点の生物だ。

 とどのつまり、この世界では所詮カードに過ぎないクリーチャーが、何故そのままの姿で実体化するのかというのは、クリーチャーが平行世界の地球の生物だからだ。

 だが、本来なら関わり合いにならないはずのこの世界と、向こうの世界の均衡があるとき崩れた。

 向こうからは、数多のクリーチャーが僕たちの世界に流れ込むようになってな。

 訳あって、僕らも貴様等と同じような境遇でな。使える力の質は違うが、クリーチャーを相棒にし、戦っていた時期がある。

 そして、ノゾムもその1人だった。

 だが想像してみろ。当時、ただの中学生が巻き込まれながらとはいえ力を持っているという理由だけであの怪物どもと戦っていったんだ。よく精神が壊れなかったものだと自分でも思うね。これも仲間がいたからだろうよ。

 まあ、長い長い間、今に至るまで世間一般に知られることのない、同時にとても大きい戦いだった。

 ノゾムはよくやったよ。あの闘いで一番奮闘したのは間違いなくあいつだ。英雄と言っても過言じゃない。

 その甲斐あってか、戦いもようやく終わり、クリーチャーは現れなくなった。つまり、全て丸く収まったんだ。

 しかし。事件は起こった。ある時、関東のあちこちで、変死体が次々に見つかったのさ。丁度、3年前のことだ。戦いに疲れ果てた僕が鎧龍を離れたのもこの頃だったが、流石に僕の方にも連絡が飛んできた。

 ニュースで死体の状態は明らかにはされなかったが……あるものは火の気のない場所で焼かれていた。

 あるものは、氷漬けにされていた。民家の中でだぞ。他にもバラバラにされて芸術品の如く吊るされていたものもあったな。明らかに人が出来るようなものじゃなかったとその手の”ツテ”から聞いた。

 だが、悲劇だったのは、その死体の中にはノゾムの唯一の身内――ノゾムの祖父の死体があった事だ。見つけたのは、ノゾムだった。

 あいつは酷く憤ったし、酷く慟哭を上げた。だけど、誰も周りもあいつの悲しみの本質に気付けてやれないんだ。気の利いた言葉をかけてやっても、ちっともあいつの心を癒してやることなんか出来やしないんだ。

 両親を幼い頃亡くし、ずっと親代わりで大切な人を失った、あいつにはな……。

 だが、クリーチャーはもう現れないはず。誰がやったのか。何が事件を起こしたのか。

 調査するうちに、僕たちは1つの結論に辿り着いたんだ。

 それがワイルドカードとエリアフォースカード。いわば、全く新しい方法で実体化したクリーチャーだ。

 ワイルドカードは何らかの魔術の影響を受けて実体化したカードで、エリアフォースカードのみがそれを封印することが出来る鍵であることが分かったんだ。

 しかも、運がいい事にエリアフォースカードを見つけたノゾムは、酷く狂喜していたよ。「これでやっと仇が取れる」とな。その頃には、身内が居なくなったために転校と、祖父の友人の家――刀堂家に引き取られる事に決まっていたのだが、あの頃のあいつは荒れ果てていて見るに堪えなかった。

 しかし、クリーチャーが此方でも出現していることが分かったので、僕らは連絡を取り合ってそれぞれの場所に出現するワイルドカードについて調査することになった。

 ノゾムを支えたのは、理解者だった同級生だ。ああ、二人は仲が良かった。なんせ、彼女もまたクリーチャーと戦っていて、同じ戦いの場を共にした仲なのだから。荒みきったあいつも、彼女の前では気を許したんだ。

 だが、悲劇は二度起こった。今度犠牲になったのは彼女だ。あれは、ノゾムが引っ越す前の日だ。

 意識不明の重体で街中で倒れているのを見つかった。全身に裂傷、骨折10カ所以上、火傷、血塗れの重体。

 いよいよノゾムの奴は気がふれたようになった。当然だ。俺とて何も声を掛けてやることが出来なかったよ。それなのに、何も知らない周囲は笑顔で別れの手紙をあいつに送るんだ。戦いに疲れ、やっと平穏に戻れると思ったら、もう肉親は居ない。理解者も僕らしかいない。そんな絶望的な状況で、あいつの精神が破綻するのは時間の問題だったのだろう。

 あいつは僕らと連絡を取り合わなくなった。その後、今までの悲劇を全て押し込めて、笑顔で仮面を作って1人っきりで戦っていたのは――仲間を失う寂しさを紛らわせるためか、それとも……。

 だが、そうでありながら貴様等に危険な戦いを託した理由も分からない。憎しみに囚われた自分では成し遂げられなかったことを、貴様等に期待したのか、あるいは……分からない。今となっては。

 もし、あいつが目覚めた後も、どうかあいつに同情したり憐憫するような素振りを見せないでやってくれるか。

 また、いつも通りに接してくれるか。

 頼む、お願いだ。仮初とはいえ、あいつがやっと手に入れることが出来た平穏だ。それを、崩さないでやってくれ。

 何も知らない、貴様等の知るノゾムに接してやってくれ。それだけが、僕の願いだ――

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 唖然として何も言えなかった。

 ノゾム兄の過去。黒鳥さんの、いや黒鳥さん達の過去。

 俺は何も知らなかった。本当に。

 俺が平穏と思っていた世界の裏側では、今の俺でも理解が追い付かないような世界が繰り広げられていた。

 頭蓋骨を叩き壊されたような衝撃を喰らい、俺は何も言う事が出来なかった。

 俺は思わず、花梨の顔を見る。

 彼女も、何も言えないようだった。

 覚悟はしていたが、飲み込めない。余りにも重すぎる。

 そんな俺の心情を察していないのか、察していて敢えて投げかけたのか分からない。

 

「……すまない」

「……黒鳥さんは、何も悪くない」

 

 俺は精一杯に、声を絞り出す。

 だけど、ずっと空きっぱなしになっていた口は既に乾ききっていた。

 放心状態のようで、気持ちは宙にぶら下げられたままだった。

 俺は、これからどうすればいい。

 しかも、これは黒鳥さんという人づての上に、かなり端折っているはずだ。これがノゾム兄の抱えていた闇の全部ではないはずなのだ。

 泥のようなものが、胸の中を埋め尽くしていった。

 それに平行世界? そこから現れたクリーチャー!?

 俺の知らない間に、俺の知らない所で、そんな話があったなんて信じられな――いや、クリーチャーも最早見慣れているし今更か。魔導司の連中は、直接クリーチャーを召喚していたじゃないか。

 そこは驚くところじゃない。

 問題は――ノゾム兄が、黒鳥さんが、その戦いでどれだけ苦しんできたか、だ。

 

「かわいそうだよ……お兄……何で」

 

 花梨も、同じ。いや、今まで間近でその存在を見てこなかっただけあって、ショックももっと大きいようだった。

 もっとも現実離れし過ぎていて実感が沸かないというのもあっただろうが。

 それに、衝撃を受けたのは俺達だけではなく、チョートッQも同じだった。

 

『……それにクリーチャー、別の世界……我らの認知の外でそんな戦いが』

「チョートッQ……」

『それに……ワイルドカードにそのような外道が……! 許せないでありますよ』

 

 こいつも、人間じゃないけど受け入れがたいものがあるのは同じだった。

 だけど、それ以上に正義感が強いから、ノゾム兄を襲った悲劇の元凶を憎んでいる。

 俺だって、同じだ。だってこのままじゃ、ノゾム兄は何も果たせてないじゃないか。

 

「所で、その同級生の人って……」

「クリーチャーに襲われたからか、重大な後遺症が遺っている。脳に損傷や異常はない。だが、記憶を無くし、眠る時間が長くなり、此処最近は……ずっと意識が戻っていない」

「っ……!」

 

 酷い。

 こんな事を大事な仲間にやられたんだ。

 ノゾム兄の怒りは、想像以上のものだったに違いない。

 拳を握り締める。

 俺は――

 

『マスター。我らのやることは、どんな時だって1つでありますよ』

「……そうだな」

 

 なら、答えは1つだ。

 どんなに真実が辛いものだったとしても。

 俺には、まだ誰かを永遠に失ったという事は無くても。

 守らなきゃいけないものが、戦わなければいけない理由はあるんだ。

 難しい事は、俺には分からない。だけど――

 

「俺が受け継ぎますよ」

「!」

 

 考える前に、俺は結論を出す。

 何をするか決める。

 確かに、また頭の中はごちゃごちゃしてきたし、こんな過去を突きつけられたらノゾム兄を今までのようには見れない。

 だけど、ノゾム兄が戦ってきた軌跡は、その意志は俺が引き継ぐ。俺が代わりに戦う。

 それが今俺に出来ることなら――もう、迷ってる暇は無いじゃないか。

 

「だって、もう決めてますから。俺は逃げないって。だから、俺が戦います。ノゾム兄の代わりに」

「あたしも。どこまで出来るか分からないけど……ううん、やってみせる。お兄の意思、受け継ぎたい」

 

 花梨も前に進み出た。

 黒鳥さんは、もう1度強くうなずいた。

 

「強い……強いよ、貴様等は……そうか。良い弟分と、妹分を持ったじゃないか。あいつは――」

 

 その時。

 地面が、ひいては建物が揺れる。

 一気に現実に感覚が引き戻される。

 

「ちょっと!? 地震!?」

『マスター! クリーチャーの反応多数、であります!』

「嘘でしょ!? こんな時に!?」

 

 俺は辺りを見回す。

 しかし、そんな影は見当たらない。

 

「……来たか」

 

 低く、黒鳥さんが呟いた。

 

 

 

(ストレングス)……あのエリアフォースカードが目覚めたか」

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