学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第63話:力(ストレングス)の暴動─寄生

一通りの用事を済ませた後、桑原は勉強する気も起きずにベッドに横たわった。

 決して弱いわけではない。

 しかし、あと一歩が及ばない。

 脚を引っ張ってしまう自分が改めて嫌になる。

 こんなことでは後輩に顔を合わせられない。

 

「はっ、だってよ……今より強くならなきゃ、無理じゃねえか……」

 

 あのノゾムが敗けた。

 自分に夢を与えてくれた彼が、敗れた。

 それは少なからず彼に絶望を与えたことは間違いなかった。 

 あの魔導司達に勝つには――エリアフォースカードを使いこなすしかない。

 これがそのエリアフォースカードなのかはにわかには信じ難いが……。

 しかし、同時にデュエルの腕も少なからず伴わなければ意味が無い。

 

「……《ハイパー・マスティン》」

 

 ははっ、と乾いた笑みが浮かび上がる。

 元々は姉に貰ったカードだった。

 デュエマの好きな姉の病床でパックを剥いた時、彼女が偶然当てたカードがこれだった。

 しかし。現にそれを上手く使いこなせているとは言い難かった。

 パワー一辺倒だけでは、勝てない相手がこの世にはいる。

 今自分が持っていない力を持つ者がいる。

 それに勝つには――新たな力が必要だ。

 

「……なあ、お前と喋れたら良かったんだがなあ」

 

 そんな弱音をカードに零す。

 答えは未だに見つからない。

 エリアフォースカードも何も答えない。

 

「……テメェも、あのエリアフォースカードっていうなら、寄越してくれよ」

 

 震える声。

 後輩たちの前では決して見せない弱い自分。

 

「チビで、デュエマもそんなに強くねぇ。だけど、そんな俺でも戦わなきゃいけねえんだ……強くならなきゃ、いけねぇんだ。なあ、寄越せよ……”力”を、寄越してくれよ」

 

 ……反応なし。

 駄目か、と桑原は寝っ転がった。

 結局これが只の紙切れだったのなら、虚しい限り。

 一体自分は何をやっているのだろう、良い年をして。

 だが、後輩たちへのあこがれと羨望は、徐々に劣等感へと変わっていく。

 このままでは、ダメだ。

 欲しい。欲しい。欲しい。

 喉から手が出るほどの力が。

 

 

 

『力が、欲しいか?』

 

 

 

 声が脳裏に響いた気がした。

 その声は、どこから聞こえたのか分からない。

 彼は飛び起きる。しかし、声の主は姿を現さない。

 

「何だ、テメェは……!?」

『我と契約すれば、お前に力をやろう。その力は、お前の願いを叶えるはずだ』

「願いをかなえる……!?」

 

 胡散臭い話だ、と思った。しかし、これがエリアフォースカードならば。

 もしこれが本当に魔法のカードならば。出来るのではないか?

 何でも――

 

「その力はよォ……姉貴も――治せるのか?」

 

 須臾の時が経つ。

 静寂がその場を支配していた。

 しかし、只ならぬ空間だった。

 

『可能だ』

「なら……契約しろ!! 俺に力を寄越せ!! そして、姉貴の病気を治せ!!」

『クックッ……言ったな?』

 

 桑原は首を傾げる。

 その時、ようやく声に邪なものを感じたのである。

 

「……?」

 

 脳に、違和感を感じた。

 真ん中から、中央から抉られていくような感覚。

 更に、熱が込み上げてくる。

 

「あ? 何だ? 何だコレは……?」

 

 彼は額に手をやる。

 とてつもない熱だ。自分は熱病に侵されていて、それでまやかしを見たのか、虚言を聞いたのかと思ったが違う。

 それ以上に、身体全体に、発作的な衝動――身体を突き上げ、無理矢理起こすようなもの――が襲い掛かる。

 

「ああ!?」

 

 胸を抑えた。

 心臓がかつてないほどにばくばくと高鳴った。

 おかしい。何かがおかしい。

 これは、ワイルドカードか。自分にクリーチャーが取り付いたのか。

 いや、違う。そうじゃない。

 クリーチャーに一度憑りつかれている自分は耐性が出来ているはずだ、と頭の中で否定する。

 では原因はやはり1つしか考えられない。

 机の上に置いたそれを必死に取ろうとしてベッドから転げ落ちる。

 必死にもがき、手を伸ばす。

 が、手は滑り落ちた。

 

「あ、ぐっ、くそっ、あああ……!!」

 

 絶叫を上げた。

 頭が割れるようだ。

 やっとのことで手にした白紙のカードには薄っすらと、大アルカナのⅧ番の数字が浮かび上がっていた。

 喉の底から湧き上がってくる渇望。

 乾き。渇きが止まらない。

 

「……何だァ! 何なんだァ!?」

 

 桑原は小さな体を打ち付けるようにして部屋でのたうち回る。

 あのカードから、突如強い力が沸きあがり、自分の身体を飲み込もうとしていく。

 衝動。

 それは1つの衝動。

 考えることを完全に放棄させる破壊の衝動。

 全ての思考は停止し、精神は完全に破壊の一色に染まっていく。

 小さな体で行き場を失った力が、全身から溢れて止まらない。

 壊さなければ。

 収まるまで壊さなければ。

 破壊。破壊。破壊。

 薙ぎ払うようにして椅子を蹴飛ばす。

 だが、それだけでは止まらない。

 う、うう、と既に猛獣の息がかかった唸り声が漏れていることに桑原は気付いていた。

 人間の道を外れて畜生の道へ落ちたことに気付いていた。

 しかし。最早止まらない。

 これが力の代償だというのならば、甘んじて受け入れなければならない。

 

「こ、こんなはずじゃあ……!!」

 

 遅い。余りにも遅すぎた。

 彼は起き上がると、窓を勢いよく開ける。

 冷たい風は、彼の身体を収めるのに値しない。 

 熱気が口から洩れていく。

 破壊衝動。

 すべてを壊して進みたい、という衝動に支配されていく。

 

「俺は強い……!!」

 

 そこで、彼の人間は消失した。

 

「俺は強い……強い!! 強い!! 力が、みなぎる……壊す……!! 壊す、壊ス……!!」

 

 収まらない高鳴り、熱を全てにぶつけるため。

 彼の背後に浮かび上がった、最早クリーチャーですらない異形が声なき咆哮を上げた。

 

「全部、全部、全部、ぶち壊す……!!」

 

 姿かたちが人間でも、その精神は最早獣。

 吼えた彼は飛び出し、夜の闇へと消えていく。

 求めるものは何もない。

 守りたかったものも全て忘れてしまった畜生の姿が此処にあった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……(ストレングス)の仕業だ。間違いない」

 

 黒鳥さんの表情は浮かないものだった。

 苦虫を噛み潰した様子だ。

 しかし、俺達はそれどころではない。

 夜の街に起こった異変に視線は集中する。

 

「く、クリーチャー!? デカい虫が、街に――!?」

「嘘ででしょ!? あんなの、早く倒しに行かないと――!」

「まて、慌てるな」

 

 すっ、と手を上げて制止する黒鳥さん。

 おいおい、あんなのに実体化されたら、街は大変な事になってるはずだ。

 さっきだって地響きが――

 

「あんなバカでかいクリーチャーが、すぐに完全に実体化はしない。奴等はワイルドカードだが、それでもまだ時間がある。最も、悠長にはしていられないが。それより、アレについて話しておく必要がある」

(ストレングス)って……大アルカナの(ストレングス)だよね? ってことは、今回の元凶は……」

『間違いなくっ! エリアフォースカードでありますなぁ!!』

 

 お前が言うのかよ。

 人の台詞を遮ってんじゃねえ。

 まあ、エリアフォースカードが暴走しているというのは間違いない。

 しかも、黒鳥さんの口振りから見るに既に覚醒しているようだった。

 というか、以前に対峙したことがあるのだろうか?

 

「以前に阿修羅ムカデのエリアフォースカードを探していた際に見つけたのが(ストレングス)だが……こいつは最初から凄まじい力で暴走していたんだ。僕らは自発的には戦う事は出来んが、襲われたならば話は別。やっとの思いで倒せた」

『やれやれ……エリアフォースカード無しなので、その後の私の魔力回復は大分時間が掛かりましたがねぇ。まあ、こう見えても私、頑丈さには定評があるので』

「で、しばらく家で監視していたんだがな……それが丁度、貴様等が小鳥遊家に来た時の頃だ。その頃のこいつは完全に大人しくしていたんだが……」

『むぅ、我でもエリアフォースカードの反応が見つからなかったのは休眠状態だったからでありますな。守護獣が倒されて』

「ああ」

 

 黒鳥さんは肯定する。

 俺達の知らない間にそんな戦いがあったのか……。

 

「だが、事態は一変した。大人しいと思われていた、(ストレングス)がある日僕から力を吸収し始めたんだ」

「きゅ、吸収!?」

「ああ。知らない間に、ずっと奴は僕のマナに寄生していたんだろう。そのまま自分の養分にしようとしていたわけだ。阿修羅ムカデに言われなければ気付かないままだっただろう」

 

 此処までの話を聞いてみるに、(ストレングス)というのはエリアフォースカード単体でも非常に悪賢く、非常に質の悪いものであるということが分かった。

 ある程度守護獣に行動を依存していた[[rb:戦車 >チャリオッツ]]よりもやり口が汚い。

 そして、それが今黒鳥さんの手元にないということは――

 

「で、逃がしちゃったんですね……」

「……不覚だった。逃げ際の奴に阿修羅ムカデが逆に魔力を流し込んでやったので、奴はかなり堪えたようだったが……いずれ、こうなった」

「何か……カードだけなのにアグレッシブだなあ」

「いや、恐らくは新しい守護獣も形成されつつあるのだろう。手遅れになる前に、奴を倒す必要がある。しかし、無暗に向かっては奴の思うつぼ。貴様等には奴の特性をしっかり説明せねばならなかった」

 

 その表情からは鬼気迫るものこそ感じるが、だからこそ黒鳥さんは冷静だった。

 さて、そうと決まれば話は早い。

 ブランと紫月にもこの情報を共有して、街にワイルドカードが実体化する前に本体を叩かねえと!

 

「チョートッQ、花梨!」

『勿論、超超超――』

「可及的速やかにっ、エリアフォースカードを止めなきゃね!」

「ああ!」

『我の……台詞……』

「貴様等仲良いな」

 

 呆れたように言う黒鳥さんの言葉が、冷ややかに風と共に吹いていった。

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