学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第64話:力(ストレングス)の暴動─悪魔の誘惑

※※※

 

 

 

「ここから先に強力な魔力の反応が感知されたとのことデス!」

『エリアフォースカードで間違いないわい! 全く、手を焼かせおる! このままだと、街中にワイルドカードが実体化する。その前に奴を叩く』

 

 事情を説明した俺達は、早速ワンダータートルによるサーチで早速黒幕の居場所を突き止めていた。

 俺達と一緒の黒鳥さんを見た時、酷く彼女達は驚いた上に、黒鳥さんがクリーチャーに関わっていた事を知って更に二重の驚愕を隠せないようだった。

 紫月の方はというと、それでさっきから黒鳥さんと言い争っているし。

 

「知っているなら、私達に一言何か言えばよかったのに、貴方って人は!」

「僕は僕の方でやるべきことがあったんだ。こちらにはノゾムがいる。最悪は大丈夫だろうと思っていたのだが……見通しが甘かった」

「猶更質が悪いですよ、師匠はいつもそうやって人の話を聞かない上に、自分勝手です」

「だが、貴様等だって危ない事にわざわざ首を突っ込んでいってからに……!」

 

 ……その後しばらく不毛な言い争いが続くので割愛。

 まあ、紫月の気持ちも分かる。そりゃ心配にもなるか。

 ただ、後から聞いた話によると大方察していなかったわけではないらしい。

 ノゾム兄が鎧龍出身と知ってからは、同じ鎧龍出身の黒鳥さんも、もしやクリーチャーに関わっているのではないか……とは薄々考えてはいたという。

 

「ま、まあまあ、二人共落ち着いて……」

「そうデス! もうすぐ目的地デス!」

 

 ワンダータートルの空間掌握・迷宮化によって、人払いは出来ている。

 俺達は電灯に照らされた夜道をブランの先導によって駆けていっているわけだ。

 さて、ブランも当初驚いていたのは驚いていたが、予め全てを知っていた彼女にとっては、黒鳥さんもノゾム兄と先輩後輩の関係だったことを分かっていたので、睨んではいたという。

 本当にクリーチャーに関わっていたのは、流石に運命の悪戯を信じざるを得ないとのことだが。

 

『感じるぜぇ……! 魔法で敵を拘束する準備は出来ている!』

『全員、戦闘開始の準備であります!』

「ま、待ってくだサイ!」

 

 ブランは立ち止まると言った。

 彼女は、街並みを見回す。そして、頭にひっついたワンダータートルの甲羅に手を重ねながら目を閉じる。

 みるみる彼女の顔が青褪めていった。

 

「この辺り……桑原先パイの家の近くデス!」

「なぁっ!?」

 

 俺は素っ頓狂な声を上げる。

 大丈夫か、あの人。そういえば先に帰っちまったんだっけか。

 そうなると真っ先に桑原先輩が心配になってくる。早く助けに行かねえと!

 

『おい、待てよテメェら!』

 

 駆けだそうとする俺達を呼び止めたのは、シャークウガだった。

 

『気を付けろ! それだけじゃねえ、こっからすぐ先に魔導司(ウィザード)の気配まで感じるぜ!』

「魔導司!?」

 

 そうなるとダブルでピンチだ。

 エリアフォースカードを狙って此処までやってきたというのか。

 もし鉢合わせになれば交戦は避けられない。

 だけど――

 

「関係ない! 突っ込むだけだ! 仲間は見捨てない!!」

 

 それが俺の信条。絶対に曲げられない!

 こうなったら、ぶつかる覚悟で突っ込むだけだ!

 

「そうデスね! まずは、脅威を止めるのが先デス!」

「エリアフォースカードを奴等の手に渡すわけにはいきません」

「待て、貴様等! 無暗に飛び出すんじゃない!」

 

 黒鳥さんの制止も聞かずに、ブランと紫月も飛び出す。

 十字路を曲がった先から、とても強いエネルギーを感じた。

 これって――デュエルエリア!?

 住宅街の真ん中で、激しい光が迸り、小さな体が放り投げられた。

 俺は、それの正体を認めた。小柄な体躯にヘアバンド。

 見覚えのある顔。間違いない。あれは――

 

 

 

「桑原先輩!?」

「近づくな!」

 

 

 

 迸った光から、もう1つ人影が現れる。

 赤毛に、首に掛けたサングラス。

 意外過ぎるマッチング。何があったのか分からないこの状況。

 俺の思考はフリーズする。が、後ろから花梨の声が響いて我に返った。

 

「ひ、火廣金!?」

「……刀堂花梨。デュエマ部。おまけに――」

 

 疲労した様子の彼は、黒鳥さんに目を向けると言った。

 

「……不和侯爵(アンドラス)・黒鳥レンまで、勢揃いか」

「どう、したんだ? これは」

 

 間髪入れずに俺は語気を強めようとしたが抑えた。

 確かに言い訳は出来ないこの状況。

 今のこの場で戦っていたのは――火廣金と桑原先輩。

 そして、ブロック塀に打ち付けられている彼を見て、分かること。

 勝ったのは火廣金、負けたのは桑原先輩だ。どうしてこうなっているのか、俺には訳が分からない。

 だけど、1つだけ言えることがある。あいつのことだ。戦ったのには、何か理由があるはずだ。

 感情的になるのは簡単だ。だけど、俺だってこの間の件で火廣金と戦って分かった事がある。

 それを無下にしたくはない。

 同時に、桑原先輩の事が心配だ。近づくな、とはどういうことだろう。

 

「襲ったのですか。桑原先輩を」

「で、でも、桑原先パイはエリアフォースカードを持ってないデスよ!?」

「ああ。火廣金は訳もなく相手を襲うような奴じゃねえ。何か理由が――」

 

 

 

「オオオオオオオオオオアアアアアアア!!」

 

 

 

 野獣の如き咆哮。

 それに俺達は飛びのいた。

 鼓膜が破れそうになる。皮膚が震える。

 発したのは――桑原先輩だった。

 そして、ふらふらと立ち上がるなり――地面を蹴る。

 他でもない俺を目掛けて。

 チョートッQが飛び掛かろうとする。しかし、桑原先輩相手だからか、戸惑ったのだろう。

 それが致命的になった。腕が、俺の喉笛を捉えようとした。

 

 

 

 

「阿修羅ムカデ!!」

 

 

 

 黒鳥さんの叫び声。

 漆黒の影が夜の空を舞った。

 そして、桑原先輩の小さな身体が蜷局に巻かれていく。

 

「く、黒鳥さん!?」

「あいつだ」

「どういうことですか」

 

 紫月の問いに、黒鳥さんは呆れたように返した。

 

「既に(ストレングス)は虫の息。阿修羅ムカデ。貴様の得意技を見せてやれ」

『了解ィ!! 地獄のような極楽を味わいなさい!』

 

 次の瞬間、蜷局の身体に紫電が迸る。

 あああああ、と桑原先輩の絶叫は須臾の間、続いたが、やがて聞こえなくなった。 

 そのまま、アスファルトの地面に転がされる。

 

「これで、エリアフォースカードの力は奪った。一先ずは安心だが……おい、魔導司――火廣金と言ったな。よくやってくれた」

「……こちらこそ。不和侯爵(アンドラス)に助けられることになるなんて」

 

 そのまま俺達は、一部始終をぽかんと見つめることしか出来なかった。

 桑原先輩に、何が起こったのかはようやく理解が出来た。

 彼自身が、(ストレングス)の宿主にされていたのである。

 苦悶の声と共に、桑原先輩がようやく我に返った様子で目を見開いた。

 しばらくの間、何のことだか分からないようであったが、俺達に取り囲まれていることに気付き、ゆっくりと頭を垂れる。

 

「……桑原先輩!!」

「あっ……ああ……何だ……? 何でテメェらが居るんだ?」

「良かった……目が覚めたみたいだ」

「目が、覚めた……?」

 

 ここまで自分に何があったのか、どうやら覚えていないようだ。

 その方が本人にとっては良いのかもしれない。

 だけど、彼がどうしてこうなったのか――いや、恐らく今も手に持っているエリアフォースカードが原因に違いは無いが、知っておく必要がある。

 俺は彼の手を掴んで引き起こした。

 立つことは辛うじて出来るようだった。

 

「な、なあ、どうしたんだよ……俺に、何があったんだよ……」

 

 が、彼の頭は未だに混乱しているらしい。

 目を見開き、俺達の顔を見回した。

 そして――黒鳥さんもいる事に気付き、声をあっと上げた。

 

「な、何で黒鳥さんまで……」

「話は後だ。まずは貴様の事からだ」

「安心してください、先輩。大事になる前に、先輩は元に戻りました」

「なあ、なあ!? 俺は、俺は何をしてたんだ!? こいつを、こいつを手に取ってから頭がおかしくなって……!」

「落ち着くデス! 先パイは、まだ誰も傷つけてないデスよ」

 

 それを聞いて、ようやく落ち着いたのか、桑原先輩は溜息をついた。

 

「火廣金。桑原先輩に何があったんだ?」

「暴れていた。一言で言えばな。正気を失っているようだった。強いエリアフォースカードの魔力を感じたので、デュエルを仕掛けてみれば、案の定……だ」

「……そうか。ありがとよ」

 

 彼は頭を垂れる。

 ともかく、大事にならずに済んだという事だろう。

 

「そういえば……桑原先パイ……エ、エリアフォースカードを何で持ってたデスか?」

「家の郵便受けに入ってたんだ……明日テメェらに見せようと思ってたんだが……気が付いたらこの様だ……痛ッ」

「成程な。手に取りそうな所に予め潜んでいたか。これ見よがしに」

 

 黒鳥さんが腕を組む。

 (ストレングス)って、本当に狡猾なカードなんだな……脳筋そうな名前なのに。

 

「貴方は恐らく、(ストレングス)に選ばれたのでしょう」

 

 言ったのは火廣金だった。

 そして、同時に彼は自分の手にエリアフォースカードが未だに握られている事に気付く。

 それには、はっきりと(ストレングス)の絵柄とⅧ番の数字が焼き付けられていた。

 

「おいおい待てよ……選ばれたってどういうことだ」

「エリアフォースカードに選ばれた、ってことだ」

「じゃ、じゃあ、何で俺は白銀達みてぇにならねぇんだ!? 何で俺だけこんな事に……!!」

『それが、(ストレングス)が貴様に下した判断ということでしょうねぇ』

 

 突然現れた阿修羅ムカデ。

 ずいっ、と桑原先輩の顔を触る。

 ぞくり、と彼の顔が青褪めていった。

 

「な、何だコイツ!?」

「僕のクリーチャーだ、済まん。だが、言ってる事は的を射ている」

『貴方は(ストレングス)を制御できなかった。貴方は主どころか、(ストレングス)の奴隷になっていたわけです。今の今までね』

「っ……誰が奴隷だ!!」

「事実だ」

 

 火廣金は容赦なく言い放った。

 その凄みで、桑原先輩は口を噤む。

 歯を食いしばり、屈辱に耐えているようだった。

 

(ストレングス)が持つ膨大な魔力は、エリアフォースカードの中でも有数ですねェ。でも、それを操るのは非常に難しいですよォ。まして、唯の人間にはね。この魔力の貯蔵庫であることが、(ストレングス)のプライドですからァ。それこそ、使いこなせば魔導司に匹敵するだけの力やクリーチャーを手に入れられるでしょう』

「エリアフォースカードは、主と定めた人間を決して諦めない。養分にするか主にするかは分からんがな。貴様は試されたんだ。それほど、(ストレングス)は、選り好みの酷い奴らしいが」

「……クソッ、なら、使いこなしてやる!! 俺が、絶対に……(ストレングス)を従えて、そのデカい魔力とやらを手に入れる!! それに、あいつは願いを叶えるって言ったんだ!!」

「何?」

 

 彼は必至の形相で反駁した。

 

「姉貴を、姉貴の病気を治せる、って――!!」

「あんたは(ストレングス)に騙されたんだ!!」

 

 火廣金が桑原先輩に詰め寄る。

 

「だま……された?」

「奴は、あんたが自分に魂を売る口実が欲しかった。それだけだ」

 

 彼は酷く失望したようだった。

 (ストレングス)の奴……そんな卑劣な手段を使ってまで桑原先輩から魔力を奪い取ろうとしたのか。

 次の瞬間、彼が念じると桑原先輩の手からエリアフォースカードが彼の手に移る。

 が、直接手には触れられておらず、炎に包まれて浮いていた。

 

「テメェ!! それを返しやがれ!! それは、俺がやっと見つけた――」

「貴方は利用された。それがまだ分からないのか」

「っ……!!」

「白銀耀。このようなことが起こるから、俺はエリアフォースカードを君達人間に無暗に手渡したくはないんだ。しかし、今は一概にそうは言ってられない」

「? どういうことだ」

 

 一見矛盾しているように思える彼の発言。

 しかし。次の言葉を聞いた時、俺はその矛盾を受け入れざるを得なくなった。

 

「……此処最近、アルカナ研究会の動きがおかしい。各地から、魔導司がこの街へ集ってきている」

 

 魔導司がこの街に集っている……!?

 どういうことだ、と問うまでもなかった。

 

「エリアフォースカードを回収する為、か?」

「……ああ。規模は十数人程度だが、いずれも偽造パスポートを使って入国した外国人国籍の魔導司だ。この辺りに潜伏しているので間違いないだろう。近いうちに、大攻勢を仕掛けてくる可能性も否めない」

 

 それなのに、と火廣金は続けた。

 

「……厄介事を、これ以上増やすな。『(ストレングス)』は貴方が制御できると判断するまで、コレは俺が持っておきます」

「ちょ、ちょっと待て、火廣金――」

「この状態なら、奴が暴れる事も無い。そして、俺はアルカナ研究会に今協力するつもりもない。これは他の誰にも渡すつもりはない」

「だけど火廣金――」

「君は爆弾を抱えたまま、火の中に飛び込むような真似はしないだろう? つまりは、そういうことだ」

 

 それで俺は口を噤んだ。

 確かにそうだ。むしろ、今回何も起こらなかったのが奇跡だったくらいなのに。

 

「……悔しいが、そいつの言う通りだ」

 

 桑原先輩は零した。それで俺も何も言い返せなくなる。

 そうだ。今まで、俺達のエリアフォースカードが何の問題も無く動いていたのがそもそも幸運だったんだ。

 戦車(チャリオッツ)(ストレングス)のようなカードも存在する。それをしっかり肝に銘じなければならなかったし、何よりそれを一番痛感しているのは桑原先輩本人だ。

 画して。『(ストレングス)』による事件は思いの外、早く片付いた。

 だけど、それは桑原先輩に大きな爪痕を残したのは間違いない。

 エリアフォースカードの一種の危険性。それを思い知ったのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……」

 

 次の日。

 俺は部室で1人、デッキを組んでいた。

 ブランは今日、”昨日の件”の情報収集を行うらしい。

 そりゃそうか。魔導司がこの街に集っているって事は、連中が良からぬ事を考えている前触れでしかない。

 しかし、情報収集は彼女の十八番。結局の所俺に出来ることは無いので、ブランに任せるしかない。

 紫月も紫月で、どうやら何かあった時のためにこの辺りに泊まりに来ている黒鳥さんの所へ話を聞きに行っている。何を聞きに行ったのかは知らないが。

 俺に出来ることは、今の火ジョーカーズを更にチューニング出来ないかどうか試す事だった。

 だけど、なかなか手は付かない。というのも――

 

『しかし桑原殿……落ち込んでましたなあ』

「……ああ」

 

 他人事では済まされない。

 俺だって、無力さに悩んだ。

 だけど、あの人が受けた屈辱はそれ以上だ。

 誰が悪いわけでも無い。それゆえに、鬱憤の矛先さえない事がどんなに辛い事か。

 最後にぶつかるのは、いつも自分の弱さという壁だ。

 だから、魔導司に匹敵するだけの力を手に入れられるという話は、とても美味しい話に見えただろう。

 

「……仕方ねぇよ、こればっかは。(ストレングス)はそれほどヤバいカードってことだろ。つか、俺達の使ってるエリアフォースカードが、よく今まで暴走しなかったな、って思ったよ」

『目覚めてすぐに、主の元に渡ったからでありましょう。(ストレングス)は、しぶとい上に戦車(チャリオッツ)同様長く外界の気に晒されていたであります』

「それで、大分キてるって事か」

『そうでありますな。言葉は無くとも、エリアフォースカードそれぞれに意思も感情も確かにあるでありますよ』

「……一回でも良いから、俺も皇帝(エンペラー)が何考えてるか知りたいな。お前、何か分からないのか?」

 

 ストレートにぶつけてみる。

 

『さあ……我の中の記憶によれば、皇帝(エンペラー)は支配、行動力、責任感の強さを意味することから持ち主に全てを委ねる穏やかな性格でありますよ』

「待てや。お前、今までそんなこと一言も言わなかっただろ」

『それは……我も徐々に記憶を取り戻してきているということであります。まあ、皇帝(エンペラー)の場合は結局の所、持ち主次第であります。耀殿は、その点皇帝(エンペラー)に気に入られているということであります』

 

 そんなものなのか。

 気に入られていると言っても実感はわかない。

 ……いや、むしろ問題無く稼働しているのが気に入られているということなら、コレがどれだけリスクの高い代物なのか分かった気がする。

 そうなれば、やはり俺にこれを手渡したカードショップの爺さんは、知ってて俺にこれを渡したのか……?

 いよいよ何者なんだ、あの爺さんは。

 ……今分からない事を考えてても仕方ない。今はデッキを組まないと。

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