学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第65話:力(ストレングス)の暴動─弱さと強さ

 ※※※

 

 

 

「……ぱい」

 

 ……んあ? 

 ブレザー越しに身体が揺すられた。

 心地良い眠気から覚める不快感と共に、俺は目を擦る。

 

「白銀先輩」

 

 そして、一気に今の状況に気付いた。

 飛び上がると、机の上にはカードが散乱しており、デッキを組んでいるうちに日当たりのいい場所でずっと作業していた所為か寝落ちていたことに気付く。

 オマケに、陽は落ちかけていた。5時半。30分近く寝過ごしてたのか俺は! 疲れてたのか……?

 

「だぁぁあああ!! デッキがぁぁぁ!! 結局できてねぇぇぇ!!」

「落ち着いて下さい先輩。取り合えず状況は察しました。私も良く同じ状況に陥る事が度々あるので……」

「そうかもしれねえけどよ! つかお前、戻ってくるの早かったな!?」

「師匠が学校のすぐそこまで来ていたのです。具体的には、師匠、そして阿修羅ムカデが現在どのような状態にあるか、ですが」

 

 成程な。そういえば、ノゾム兄の事は昨日電話で聞いたって言ってたから、やっぱり阿修羅ムカデの事か。

 俺もあいつがどういう存在なのか、どうしてエリアフォースカード無しで実体化できるのか気になってたんだ。

 

「シャークウガ曰く、阿修羅ムカデは現在、度々他のクリーチャーから魔力を吸収することで実体を得ているようです。むしろ、それが能力なんだとか」

『闇文明らしい、如何にもな能力だぜ。パワーマイナス効果持ちの特権みてーだな』

「そうなんだ……」

 

 そういえばデッドゾーンもそんな力を行使してたな。

 成程、道理でエリアフォースカードが無くても元気だったはずだ。

 

「それはともかく、デッキを組んでいたのですね。余程熱中していたようで」

「ああ。構築済みに強い切札が出てくれたからな。そいつを何とか活用したいんだ」

「パック運が壊滅的な先輩には強い味方ですね」

「うっせぇ、シングルで買えば問題ねぇ。金は嵩みそうだが、ジョーカーズは割と安いから何とかなってる」

「そうですか」

「ああ」

「にしても、今までビマナを使っていた先輩が打って変わってビートダウンに……どういう心境の変化でしょう」

 

 まあ、単にエリアフォースカードの力でデッキのジョーカーズの一部が火になったってのもあるんだけど……それを言っちまえば身も蓋もない。

 

「こじ開けるんだ」

「こじ開ける、ですか」

「ああ。今まで俺の戦い方は、やりたいことを相手に押し付ける戦い方だった。だけど、それだけじゃ早いうちに仕掛けてくる相手には受け身になるし、妨害してくる相手に弱い。だから、火ジョーカーズでそれをこじ開ける。ファウストの奴がどれだけクリーチャーを並べて来ようが、《メラビート・ザ・ジョニー》の全体除去が決まれば勝てる」

「しかし、それだけに頼っていては聊か決定打に欠けるのでは? また、D2フィールド等の対策もしなければならないでしょう」

「ああ。《ゴールデン・ザ・ジョニー》とか入れても良いかもしれないが、枠がな……かといってカツカツになると初動が安定しない」

 

 あっちを立てればこっちが立たず……決まれば強いが、聊か構築が難しいデッキだ。

 入れたいカードは山ほどあるのだが。

 

「……デッキ構築なら、私も協力しますよ」

「ほんとか?」

「はい。先輩は人間だけじゃなくてカードにも甘いので、抜くべきカードが決められないのでしょう」

「……うっ……」

 

 それはごもっともである。

 

「それでは、早速決めていきますか。まず、《洗脳センノー》は4枚も要りませんね」

「ま、待て! それが無いと革命チェンジと侵略が……折角買い集めたのに」

「枚数過多です、1試合に1枚引ければ良いのに……」

 

 取り合えず、俺がカードに対しても甘い、というのはあながち間違っていないらしい。

 とはいえ、ずっと彼女は俺がカードを選ぶ間も付きっ切りで色々教えてくれた。

 この対面を意識するならこれ、このカードはもっと増やした方がいい、減らした方がいい、とアドバイスをくれた。時たま口論になりかけたが、何だかんだ言っても円満にデッキ構築は進んでいった。

 俺がカードを束ねている間、ずっと彼女は俺の顔を見ていた――

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……で、デッキは出来たわけだが……」

「ZZZ……」

 

 聞こえてくる寝息。

 今度はお前か。お前が寝るんかい。

 確かにあれこれ指示してる時にだんだん声に眠気が入っていったけど……やっとの思いでデッキを完成させたと思ったらコレだよ!

 ガッツリ寝てて、全く起きる気配が無い。お前も疲れてたんだな……。

 

「なあ、紫月? 起きろ? そろそろ最終下校時刻だぞ……」

「にゅぅ……みづ姉……」

『全く起きる気配が無いでありますなぁ……』

『なあ、白銀耀。こういう時はどうやって起こせばいいか知ってるか?』

「あ?」

 

 シャークウガがにたにたと笑いながら、顎に手を当てた。

 

 

 

『ぶっちゃけ、アホ毛を触れば良い』

 

 

 

 アホ……毛? 何を言ってるんだこの鮫は。

 確かに彼女のフードの下は、一本の大きなアホ毛が隠れている。

 だけどそれが何だって言うんだ。

 

『マスターは髪が敏感なんだよ』

「髪に神経はねぇよ」

 

 強いていうなら頭皮か?

 そこなら神経は通っているが……幾ら髪と言えど女の子のものを勝手に触るのは憚られる。

 

『まあまあ、俺から言っておいてやるしよ?』

「……お前なあ」

 

 仕方ない。それで起きるなら、やってみるか。

 俺は彼女のフードを取り、ぴこん、と撥ねたアホ毛に注目した。

 それを、ゆっくりと、優しく撫でる。……何か、逆に深い眠りにつきそうな気がするんだけど。

 

「んっ……」

 

 ……何か、今すっげぇ艶っぽい声が出たぞ。

 ただ頭を撫でてるだけなのに、すげえいけないことをしている気分だ。

 余程良い夢を見てるのか? まだ起きる様子もないので、今度はつん、と立ったアホ毛を撫でた。

 

「はぁ……ん……」 

 

 蚊の鳴くような、くぐもった声が俺の耳をくすぐった。

 見ると、耳の先まで赤くなっているのが分かる。

 なあ、大丈夫なんだよな? 本当にコレは。

 

「オイ、どうなんだシャークウガ」

『良い夢を見ていると思われる』

「駄目じゃねーか!! もう良い、普通に揺すり起こす!!」

『ちぇー、折角珍しく可愛いマスターが見れると思ったのに』

「テメェ、それ目当てか!! フカヒレ案件だぞ!! もういい、紫月、起きろ!!」

 

 俺は彼女を揺すった。

 少し、ぴくぴく、と身体を震わせた彼女は、穴から出たリスのように頭を起こすと周囲を見回した。

 

「ん……あっ……何ですか、先輩」

「お前、起きろ。もう出るぞ、学校から」

「先輩……夢じゃない……はぁ、折角、良い夢を見ていたのですがね」

「言ってる場合か、最終下校時刻だぞ」

 

 ああ、そうでしたね、と紫月は目を擦る。

 

「何の夢だったか……とても気持ちいい夢だったのですが……ん」

「どうした、紫月」

「……い、いえっ、何でもないです。何でも……ないです」

 

 問い掛けると、彼女はどんどん頬が赤くなっていき、ぷいっ、とそっぽを向いてしまった。

 どうせ、また翠月さんの夢でも見てたのだろうが……。

 挙動不審な様子で彼女は荷物を纏めだした。

 

「早く、帰りましょうっ。何なら、危ないですし一緒についていってあげても良いですが」

 

 何でお前はそう上から目線なんだ。

 だが、悪い提案じゃない。俺だって、出来るだけ1人の時に危険な目に遭うのはごめんだ。

 巻き込んでしまう、とも思ったが、紫月はむしろ俺を守ってやるって言ってるし……。

 

「……ま、1人よりは安全なのかもな」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 結局。

 俺は何も出来ないままだ。

 エリアフォースカード無しに、魔導司相手にどうやって戦えって言うんだ。

 どうやって、姉貴を守れるって言うんだ。

 万が一の事を考え出すときりが無い。

 

「んー? 甲、どうした?」

「……いや、何でも無い。姉貴」

 

 病室の荷物、着替えを詰め替えながら俺は言った。

 目を向けると、姉貴が首を傾げていた。

 俺が不安そうな顔をしていたのが、気付かれていたのか?

 いや、そんなことはない。至って、平静なはずだ。姉貴に悟られてなるものか。これ以上、姉貴を不安がらせるわけにはいかない。

 

「ねえ、そろそろ外、寒くなってるでしょ? 今、私が出て行ったら頭が冷えちゃいそうだ」

「……姉貴」

「ふふっ、そんな怒った顔しないでよ。また元に戻るよ。一歩ずつ良くなってはいるし」

 

 笑みを浮かべる姉貴。

 何度、それを見る度に辛くなっただろう。

 俺は――結局、姉貴に何も出来ていない。

 

「抗がん剤の治療……頑張るよ。これさえ乗り切れば、良くなるかもしれないんだから」

「……ああ」

 

 抗がん剤の副作用は苦痛そのものだ。

 それは、今まで俺が目の当たりにしてきたからよく分かる。

 なのに、どうしてそんなに笑ってられるんだよ、姉貴。

 

「なあ、姉貴……」

「なぁに?」

「今後、これから何が起こっても……姉貴は俺が守る」

「……ぷっ」

 

 姉貴はそれを聞いて噴き出したようだった。

 オイ何でだ。流石に凹むぞ俺でも。

 

「何故笑う!」

「あはは……甲からそんな言葉聞くなんて思わなかったからさぁ。あんな弱っちかった甲が、今じゃコレだもん。あ、背は低いけどさぁ」

「それを言うんじゃねえ。それに、弱っちいのは今も同じだ。俺は……仲間がいるから何とかなってるだけだ」

「あっははは。弱いのに守ってあげるだなんて、矛盾してるなあ」

「……否定はしない」

「何、弱いのが悪いって言ってるわけじゃないよ。頼りないけど」

 

 俺は立ち上がった。

 本当に、本当に俺は馬鹿だ。

 病床の姉貴に気を遣わせてどうするんだ。

 

「弱くたって大丈夫だ。お前はあたしの弟だろ」

 

 見抜かれていた。俺の不安も、悩みも全て。

 だが、弱いままでは駄目なんだ。

 このままじゃ――

 

「すまん、姉貴。そろそろ俺、帰るから――」

「ああ。気を付けろよな」

 

 怖いのは……一番怖いのは、姉貴のはずなのに。

 そう思って、廊下に出る。

 俺は、思わず足が竦んだ。

 

「……すまんな。驚かせたか」

「……黒鳥、さん……?」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……昨日は、手荒な真似をして済まなかったな」

 

 待合室で、言い放った黒鳥さんの第一声はそれだった。

 

「……それで。僕、そしてノゾムの事はもう聞いたか?」

「或瀬に全部聞きました」

「……そうか」

 

 悩まし気に彼は腕を組む。

 

「……桑原。お姉さんの病状は――」

「白血病です」

 

 俺は言った。

 変に詮索されるより、先に吐いてしまった方が楽だった。

 

「ずっと、抗がん剤による治療を続けていて……」

「……そうか」

「だけど、本人は諦めてはいません。姉貴がいつか、また絵が描けるようになるまで……俺は、付き添うつもりです」

 

 拳を握る手に力が入った。

 

「……俺は昔から、チビだからいじめられてて……ずっと、気の強い姉貴が守ってくれたんです。だから……姉貴が、あんなになってからは、昔の見る影も無くなっちまった。それが、見ていられなくて」

「……そうか」

「だから、今度は俺が姉貴を守ってやる番なのに……俺は、この間、甘い言葉に釣られて(ストレングス)に利用されて暴走して……ほんとダメだな」

 

 涙が出そうだ。

 そんな上手い話、あるわけが無かった。

 

「俺は、俺は、後輩や姉貴の力になってやりたいって思ってばかりで……何にも出来てなくて、ほんと俺は、弱虫だな」

「……本当にそうか?」

 

 俺は顔を上げる。

 彼は、首を横に振った。

 

「……ほう。つまることを言えば貴様は自らが弱者であるのが嫌だ、と」

「弱いままなのが嫌なのは、誰だって同じです」

 

 彼は首を振った。

 

「貴様は、弱者に対する見方がなっていないな。僕から言わせれば、”真の弱者”こそが強者だ」

「……それは、矛盾していませんか?」

「ネズミが何故今の時代まで生き残って来れたか知っているか?」

「……」

「もっと言えば、白亜紀後期、細々とだが生息していた哺乳類が何故現在は地球を支配する程に広まったのか? 恐竜は滅んだのに、虫は何故生き残ったのか? 強者が滅びる事はよくあることだ。しかし。往々にして弱者は生き残り、勝ち上がる事が多々ある。それは、弱者がいついかなる意味でも弱者ではないからだ」

「それは、何故ですか?」

「自分が弱い事を誰よりも知り尽くしているからだ」

「!」

「貴様は貴様の弱さを認めている。それは大きな一歩だよ」

「俺は……」

「貴様が力が欲しいと願ったから、(ストレングス)は貴様に付け込んだ。それは、貴様がエリアフォースカードに縋ろうとしたからだ。しかし桑原。貴様は強い。そんなものなどなくても」

「俺は――」

「桑原よ。もう1つ教えておいてやろう。弱者に限らず、真の強者が何故強いのかを」

「!」

 

 黒鳥さんは俺の胸に、拳を当てた。

 

 

 

 

「それは、己の強さを誰よりも知り尽くしているからだ」

 

 

 

 己の強さ……。

 ……ネズミは、身体が小さく、すばしっこい上に繁殖力が大きい。だから、今日まで生き延びることが出来た。

 虫も同じだ。一見、貧弱に見えるもの程己の本当の強さを認知――しているのかは分からないが、本能的にそれを生かしている。

 故に、世界中に広まった。即ち、生態系の勝者に成りあがった。

 

「人間も、同じだ。己の強さに目を向けず、卑下し、射幸心に中てられて目先の眩しいものに縋るやつが、真の強さ等手に入れられるものか」

「……」

「貴様なら、分かるはずだ。力が、一体どういうものなのかを」

 

 力――俺は、拳を握りしめる。

 俺の強さ。俺自身がどういう強みを秘めているのか。

 そんなこと分かるわけが無いじゃないか。

 

「僕は、自分の姉の事を誰よりも思い、仲間の事を思い、必死について行こうとする貴様の一途さ、間違っていたとは思わない」

「っ……!」

(ストレングス)等、貴様の強さで捻じ伏せてしまえ。従えろ。貴様が、奴のマスターだ」

 

 黒鳥さんが、俺の肩に手を置いた。

 ああ、とても大きな人だ。

 今の俺には、たどり着けそうにもない。

 だけど……俺は、俺は絶対に辿り着かなきゃいけないんだ。

 

 

『マスター!!』

 

 

 

 次の瞬間。

 阿修羅ムカデが叫ぶ。

 ぐるり、とあの不気味な姿で黒鳥さんに絡みついた。

 

「……どうした」

『反応多数……強力な魔力の反応を感じますねぇ!』

「なっ……!?」

『方向は街から。こちらを包囲するように徐々に迫ってきていますが……』

「……チィッ!! やられた!!」

 

 彼は俺の方に向くと、駆け出す。

 

「く、黒鳥さん!?」

「迷っている暇は無い。何が起こっているか確かめるべきなのは……僕らも同じだ」

「と、取り合えず、白銀達に連絡を――」

 

 しようとしたが、スマホのアンテナが立っていない。

 こんな事、前にもあったような――

 

「……魔導司……ファウストの野郎……!!」

「姑息な手段を。分断し、各個撃破するつもりか」

「だけど、俺に何が出来る……? エリアフォースカードも無いのに、俺があいつらに加担出来るとは……」

「いや、1つだけある」

 

 彼は人差し指を立てた。

 

 

 

「……火廣金から、エリアフォースカードを返してもらう。そのほかに、方法があるか?」

 

 

 

 それはつまり、俺に(ストレングス)に認められろってことか……?

 

「……残念だが、ソれをさセるわけにはイかないな」

 

 次の瞬間。

 虚空から手が伸びる。

 それに噛みついたのは――阿修羅ムカデだった。

 

「誰か居るのか!!」

 

 次の瞬間、手は阿修羅ムカデの牙をすり抜けて消失する。

 そして、俺達の眼前に、どこからともなく男達が”現れた”。

 それは、黒いスーツに身を包んだ男達。

 1人、2人、3人と姿を現していく。

 

「すまなイが、桑原甲に黒鳥レン……お前達は我らアルカナ研究会の障害になルと判断した。此処で拘束させて貰うよ」

『隠密魔法……! やはり、魔導司ですかァ』

「ふざけんな!! 此処は病院の中だぞ!?」

「知れタ事。我らが大魔導司の言いツけよ」

 

 言った魔導司の男の瞳が怪しく光る。

 この嫌な気配……感じたことがある。

 あれは前に、紫月の奴がトリス・メギスに連れ去られた時の――

 

「桑原!!」

「っはい!!」

「奴等には少々、美徳と美学というものが欠如しているらしい。他の患者の迷惑になる前に……逃げるぞ」

「……え?」

 

 逃げる? 

 だが、俺達は現に包囲されている。

 どうやって、この場から脱出を――

 

「阿修羅ムカデ。”影法師”」

『御意、ですねェ!!』

 

 次の瞬間、阿修羅ムカデが俺と黒鳥さんの周りを取り囲むようにして蜷局を巻いた。

 そして――視界は闇へ包まれた。

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