学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
「チッ……! 倒しても倒しても湧いてきやがる……!」
黒鳥と桑原の作戦は、エリアフォースカードを餌にすることで街中に現れた魔導司を各個撃破していくことだった。
それどころか、ずっと戦い続けている黒鳥にも魔力を補給するだけの余裕があった。
しかし。幾ら魔力が補給できても、体力・精神力は補給することが出来ない。
自らを囮にするということは、全てを請け負う事。最初から覚悟していた事ではあるが、想像以上に終わりの見えない闘いであった。
「しっかりしろ。後輩達に任せて、カッコ悪い所を後から見せたくは無いのだろう?」
「ッたりめェでしょ……最初から分かっていた事っスよ」
「僕も、後輩に全てを任せ、目の前の敵を倒した事が何度もある」
「……ノゾムの、事っスか」
「……ああ。先輩とは、時に後輩の進むべき道へ送り出さなければいけない。何度、思い知らされた事か」
懐古される戦いの記憶。
それはいつの日か、黒鳥を支えるものになっていたのは違いない。
『ハッハッハ!! それにマスター、君は1人ではないよ! このボクが付いているからね!』
「テメェの自信は何処から湧いてくるんだろうなぁ。根拠も無しに」
『何。それは、ボクがボクだからさ! グランセクトの昆虫騎士でも屈指の実力者であり、《天風》の冠詞を女王から賜ったこのボクだから間違いないよ! なんせ、ヒーローだからね!』
「……テメェの自信たっぷりな所、ちっとは見習わなきゃいけねぇみてーだ」
疲れに押されて弱気になりかけていたか、と桑原は自分の頬を叩く。
その面影に、三日月仮面が重なるようだった。
ノゾムが、重なるようだった。
「気を付けろ」
黒鳥の声で彼は我に返る。
脚を止めた彼が見上げると、影が次々に実体を現した。
《邪眼皇 ロマノフⅠ世》。魔銃を掲げたダークロード。
《聖皇 エール・ソニアス》。青銅の身体に身を包んだ、巨大な土偶のようなクリーチャー。
《ボルメテウス・蒼炎・ドラゴン》。機械の身体を持った灼炎のドラゴン。
彼らが一斉に姿を現し、取り囲む。その近くには魔導司の姿もあった。
「少なくとも3人……!」
「増援か……?」
「何言ってるんすか、黒鳥さん。3人だけなら――」
「否」
黒鳥は、振り返る。
そこには、更に追手の姿があった。
《神聖騎 オルタナティブ》。半身が三つ首の龍の偽りの神に、《魔光神ルドヴィカⅡ世》、《魔光神レオパルドⅡ世》というリンクしたゴッドまで退路を塞ぐ。
完全に取り囲まれてしまった形だ。
「……数が多すぎるか……!?」
桑原は歯を食いしばる。
これだけの数。ゲイル・ヴェスパーで散らす事も難しい。
幾ら魔力の貯蔵庫とは言え、先に自分が疲れて戦えなくなってしまう。
黒鳥も澄ましてはいるが、そろそろ限界だ。
エリアフォースカードを掲げながら、彼は考えていた。
「否」
力強く、黒鳥はこの状況を否定する。
「――来たぞ。もう1人」
今更1人2人魔導司が増えたところで同じだ。
桑原はそう考えていた。しかし。
影が上空から飛び上がる。次の瞬間――無数の触手がクリーチャーたちを縛り上げ、空中へ放り投げてしまう。
そして、分身した巨体が、それらを皆、諸共に瞬く間に拳で粉砕してしまったのだった。
間もなく、自由落下でそれはアスファルトの地面に降り立つ。
その肩に、自らのマスターを乗せて。
「……!!」
「さっきは……世話になったナ」
桑原は思わず後ずさった。
巨体の大男・ティンダロス。
さっき倒したはずの彼が、何故此処に――しかし、理由は考えられない事もなかった。
再び逆襲しに来たのだろうか。ならば、何故仲間を。
考えは積もりに積もる。しかし。
「……良い、気つけになっタ。感謝すル」
「……え?」
狼狽える魔導司達。
何が何だかよく分からず、目をぱちぱちさせるばかりの桑原。
悟ったような表情の黒鳥。
そして、ティンダロスは桑原と黒鳥に向かって口を開いた。
「話は後ダ。共闘してやると言っていル」
「い、良いのか……?」
「良いだろ。戦力は増えるに越した事はない」
『同意ですねェ。使えるものは何でも使う。それが黒の流儀。ありがたく、利用させていただきましょう!』
桑原は狼狽しながらエリアフォースカードを掲げる。
この思わぬ助っ人に戸惑いながら――
※※※
「……ったく、片付いたか」
かなり時間が経ったものの、辺りには倒れ伏せた魔導司達。
そして、何とか桑原と黒鳥、そしてティンダロスの3人はようやく、まともに話し合える状況に落ち着いた。
正直、疑惑は隠せない。しかし、こうして共闘してくれたということは、精神汚染は既に解けている可能性があるということ。
「……で、本当の所はどうなんだティンダロス」
「……ファウスト様を、止めに来タ」
「奴の行動がおかしいのは、貴様も分かり切っていたのではないか? 火廣金は言っていた。魔導司は関係のない人間を巻き込んではいけない、と。何故、今更?」
黒鳥は、巨体の彼にも怯まずに詰問した。
「……精神汚染を免罪符にするつもりは無イ。しかし、あの方が鶺鴒高校へ攻め込んだ日。既にトリスが拠点内にいた俺達に精神汚染を掛けタ。ヒイロが無事だったのは、あの日も学校に出向いていたから。戻って来次第、トリスはヒイロにもあの邪悪な魔術を施すつもりだっただろウ」
「だが、そうでなくても前兆はあったのではないか? 此処最近の奴の、エリアフォースカードへの執着を考えれば――」
「それでも、止められるものカ」
ティンダロスは首を振った。
「アルカナ研究会を構成するメンバーは……ヒイロを除いて、皆、後から自分が魔導司だと知った者、自分が魔導司であることを苦悩した者ばかりダ」
「……」
「俺は……自分が老いない事を悩んでいタ。何十年生きても、未だに老いの兆候が見えなかっタ。そのうち、同期の仲間は死に、周囲からは気味悪がられ、住み慣れた街を後にしタ」
「魔導司は――寿命が長いのか」
「……あア。繁殖能力は人間より低いガ、代わりに1人1人の寿命が長イ。俺は――死に場所を探して、身分証を偽装し、傭兵になっタ。でも――なかなか死ねなかっタ」
傭兵。いわば、雇われ兵の事。
ティンダロスは聞いた所、従軍経験があったという。
それもあって、戦場を死に場所に選んだという。しかし。
「……戦場は、改めて見れば地獄だっタ。傭兵は、戦場で人権など無イ。目の前でばたばた死んでいくし、捕まっても命の保証は無イ。俺は生来の頑丈さ――今覚えば、それこそが魔導司としての力だったのだろウ――もあって、戦場では銃弾が身体にめり込んでも死ねなかった。だけど、ある日、とうとう捕まった。
此処は、地獄ダ。他の仲間は皆、猛獣に臓物を食わされたり、目玉をくりぬかれたり、脳を売り飛ばされたり……そうやって拷問の中で死んでいク。そして、誰も助けに来なイ。
所詮、それが傭兵の最期。莫大な金と引き換えに、リスクが伴ウ。
でも、俺は金はもう要らなかっタ。欲しかったのは、死に場所だっタ。
そう思ってたのに――弱かっタ。まざまざと目の前で凄絶に死んでいく仲間を見て、怖くなっタ。
迫る敵に、何かが答えたのカ――その前後は覚えていなイ。
でも、気が付けば周囲には死体だらけだっタ。
俺の背後には――見上げる程の、巨人の姿があっタ。
声も出なかっタ。初めて見る異形ニ。だが、自然と恐怖は感じなかっタ。
しばらく、俺は自分が助かった事に、生き延びた事に気付いタ。
何故? 何故、俺は生きていル? まともに生きられない癖に、死ねない俺に、生きる価値など無いのニ。
死体と、異形に囲まれた俺は、今度こそ絶望に叩き落されタ。
……その時。何人ものローブの人間が俺を取り囲ム。
そして、その中の一際小さな人物が俺の前にやってきて、告げタ。
『お前は、自分が何者か分かっていないようだな』
声も出なかっタ。
俺に、彼女は言い放つ。
『お前はもう十分生きたと思っているようだが、私達の秤で言えばまだまだ若い。死ぬには余りにも惜しい。お前は人間の社会で生きる事は出来ない。しかし。私達の中でなら生きられる。どうだ? お前の余生は、まだあまりも長すぎる』
『俺は……』
『長く、辛い別れの繰り返しによく耐えた。しかし、これからは同じ時を生きる同胞がお前の友となる。私達――
俺はやっと気づいタ。
俺は――生かされたのダ。
このお方ニ」
黒鳥と桑原は顔を見合わせた。
自分達には想像も出来ないような過去だった。
「……それで、ファウストの下に」
「あの方は……本来、あのような外道を働く人では無イ。アルカナ研究会にいるのは……俺のように、人間の社会から魔導司の社会にやってきたものも居る。魔導司は同族意識が強イ。元のコミュニティが違っても……同じ魔導司なら受け入れてくれタ。中には人間を見下す奴も居るガ、俺には親切だっタ」
「……仲間、か」
「ああ。実体化したクリーチャーを、触った事の無い遊戯で倒すのには戸惑ったがナ。全部、ファウスト様が教えてくれた。これが遊戯では無い事も含めてナ」
だが、とティンダロスは目を伏せる。
「変わったのは……エリアフォースカード回収の命を受けてからダ」
「何?」
「各地に、エリアフォースカードという魔法道具が出現したと聞いてから、ファウスト様は何かを思い出したかのように、狂ったようになっタ。目の前に姿を現さなくなったのハ、日本に来てエリアフォースカードを手にしてからダ」
「何だって!? エリアフォースカード!?」
「あア。あれは、
「海戸、だと!?」
黒鳥は血走った目でティンダロスに迫った。
「それは何年前の事だ!!」
「もう、5年前の事ダ……もっと言えば、あの頃の8月9日だガ」
「っ……!」
悔しそうな顔を浮かべる黒鳥。
桑原は怪訝な顔を浮かべる。
「ちょ、黒鳥さん!? どうしたんすか!? そういや海戸って――」
「ああ。鎧龍決闘学園が立地している人工大地の上に座す都市。そして、5年前に凶悪殺人が連続した都市でもある」
「ま、まさか、ノゾムのじいさんが殺された事件も……!?」
「丁度重なるんだよ。奴が消息を絶って、海戸での捜索を諦めた頃が」
「!」
「5年前の8月9日だ。ノゾムが引っ越した日の丁度前日なんだよ」
「……その日って……!」
黒鳥は頷いた。
すべての元凶を指し示す真実を暴くかのように。
「……あいつの――ノゾムの友人が、襲われた日だ」