学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第74話:WILDCARDS(4)

 空間が崩落する。

 堂々とその場に無言の勝鬨を上げる火廣金。

 そして、崩れ落ちたファウストの姿がそこにあった。

 終わった……のか? これで、全て……何もかもが。

 

「火廣金!」

 

 振り向く火廣金。

 彼は小さく頷く。

 ファウストに……勝ったんだ。

 これで、アルカナ研究会の暴走も、止まるのか?

 

『マスター!! ファウストの様子がおかしいであります!!』

「!?」

 

 ぞっ、とした。

 倒れ伏せている魔導司の少女を包み込む黒い影。

 その面影には、確かにあの仮面の道化を見た。 

 ファウストは、再び起き上がり、獣のように歯を食いしばって、地面をかきむしる。

 苦悶、そして怒りが入り混じった表情で。

 

「ま、ダ、だ……ヒヒロ、カネ……私は、私はエリアフォースカードを全て集め、終わらせなければならない。そのためには、ドンナ犠牲も払ウ……」

「犠牲だと!? アルカナ研究会は、魔導司の理念は、この世界の調停を守ることだ! 無関係な人間を、見殺しにしたり犠牲にすることがまかり通るものかッ!」

「エリアフォースカードは……私ノ父が作リ出したモノダ……!!」

 

 火廣金も、俺も、そこで喉から言葉が詰まった。

 ファウストの父さんが、エリアフォースカードを作ったのか!?

 

「エリアフォースカード……あれは恐ろしい魔法道具。あれを人間に渡すわけニハ、いかない……全て集め管理しなければならない……!」

 

 次の瞬間。

 彼女の袖から無数の触手が伸びる。

 前に進み出た火廣金が全てそれを受け止めたが、そのまま触手は伸び、彼は壁に叩きつけられる。

 

「がぁっ……!!」

「火廣金!!」

 

 駆け寄った俺は、必死に太い触手を彼から引き剥がそうとする。

 が、硬いゴムのようなそれはとても力強く彼を縛り付けており、離そうと思っても離せない。

 

「今……くっそ、かてぇ、何だコレ!?」

「……俺は良い。ファウスト様を!!」

「何言ってんだ、放っておけるわけねぇだろ!?」

「あの方を止めろ! 今、喋っているのは、最早魔法使いではない!!」

 

 それを聞いた時、俺は既に喋っているのが、いや、あの身体を支配しているのがファウストではない事に勘付いた。

 いや――もし、それが本当ならば、今ではなくずっと前から、最初からそうだったのかもしれない。

 

「あいつ……まさか」

 

 振り返る。

 見れば、ローブを脱いだ彼女の顔――それも右半分に、黒い影が集っていく。

 小さな体に隠れた、強大な悪意を集約するかの如く。

 

「ソウ。ソレガ、コノ魔導司ノ女――ファウストの言い分。もう1つの思惑は――”私が”、全てのエリアフォースカードを掌握し、この手に収めること」

 

 饒舌になっていく口調。

 そして、明らかに先程のものとは違う低い声。

 黒い影が象ったのは、道化の仮面。

 そして、仮面に覆われていない左の額からは、遂に正体を現したと言わんばかりに悪鬼の頭角が伸びた。

 その変貌に、俺は黙って見ている事しか出来なかった。

 

「アルカクラウン……!!」

『お前が、全ての元凶でありますかあ!!』

「ははははははははは、今更気付いたのですかァ!」

 

 伸びる触手。

 それが俺の四肢を縛り、首に巻きついた。

 気持ちの悪いぬめりを全身に感じながら、重力に逆らう動きに抗えず、俺は壁に叩きつけられる。

 頭が揺らぐが、背中と胸が潰れて息をすることもままならない。

 

「あぎっ……!!」

「本当に、本当に本当に本当に馬鹿な連中ですよ。良い狂言回しを演じてくれましたね。この私の演目でくるくると踊ってくださったこと、感謝していますよ」

「て、めぇ……!!」

「だけど、さっきのは流石に堪えました……まあ、この魔導司がバテてくれたので、いよいよ良い憑代になりましたがねぇ!」

 

 駄目だ。

 もう息が出来ない。

 ダンガンテイオーがすかさず触手を切り取ろうとするが、刀が刺さらない。

 さらに、そこから何本もの黒い針金のようなものが俺の肌に入り込んでいった。

 

「あがぁっ……!!」

 

 神経を犯していくかのようにそれは網目に広がっていく。

 激痛が走った。血管の中に針を通されるような感覚が広がっていき、血の匂いが目から漂ってくる。

 だけど……!!

 

『マスター!! 今助けるであります!! しっかりするでありますよ!!』

「だい……丈夫だ……へっちゃらだ……!!」

 

 このくらい……!!

 ノゾム兄の苦しみに比べれば、何て事は無いんだ!!

 弱音を吐いていられない。

 どうすればいいか、考えろ……!

 皇帝(エンペラー)で……どうにか対処できねえのか!?

 

「無駄だ。ここに来て、私の計画……邪魔されてなるものか。大魔導司の身体、ようやくものに出来たのですから!」

「ファウスト様は……魔導司は、そう簡単にクリーチャーの魔法に掛かりはしない! 貴様、どうしてそこまでの力を!」

 

 叫ぶ火廣金の声が激痛の中、ぼんやりと聞こえてくる。

 触手を何度も刀で突き刺すダンガンテイオー。

 しかし、刃は通らない。

 

『ただの守護獣が、どうやって、そこまでの力を……!!』

「何が目的だ……!! 何をしたんだ!!」

 

 

「白銀耀!! 皇帝(エンペラー)に選ばれし者!! 私が何故、此処までの力を得られたのかぁ!! どうして、大魔導司程の実力者を支配下に置けたのかぁ!!」

 

 

 

 高らかに笑いながら、ファウストの身体を借りたアルカクラウンは、叫んだ。

 

 

 

「それは――この私が、何人もの人間を”贄”に捧げてきたからだぁ!!」

 

 

 

 彼の周囲に、大量の青い炎が灯る。

 あ、あああ、嗚呼、あゝ、と苦悶に満ちた呻き声が耳に突き刺さる。

 これは、誰の声だ?

 いや、分かる。子供から、女、男に老人の声まで――

 贄って――

 

「殺したのか……人間を!!」

 

 火廣金の叫び。

 愉悦に浸った様子で彼は続ける。

 

「ええ、ええ。私自身が実体化する為の闇の儀式。血と臓物を捧げ、我が魂に生身の身体を降臨させるための儀式ですよ」

 

 儀式、だと……!?

 そんなことで、人を殺したのか、こいつは……!!

 エリアフォースカードの守護獣の癖に……!!

 

「てめ、守護獣は、ワイルドカードを倒すエリアフォースカードを護るのが使命じゃねえのか!?」

 

 俺はアルカクラウンを睨みつける。

 

愚者(ザ・フール)は気まぐれなカード。故に、この私を召喚してしまった。大量の魔力が必要でした。神の世界を作り出す為にね」

 

 そうか、エリアフォースカード自体が暴走していた。

 いや、それが今も続いているのなら納得が行く。

 締め付けはどんどん強くなり、意識は混濁していく。

 だけど、拳を握りしめると滑ってきた。

 血が、滲み出ていた。

 関連付けられていく。黒鳥さんの語っていた、あの事件と、アルカクラウンの話が。

 まさか、あの殺人事件は――

 

「まあもっとも、集めた贄は無駄ではありませんでしたよ。ファウストを乗っ取るだけの力は得られましたので」

「て、めぇ……!!」

 

 ――こいつが……犯人か!!

 死体で遊んだような現場。

 実行不可能な犯行。

 全て、全てが繋がった。

 

「ふざけんじゃねえ……!! 何を考えてやがんだ!!」

 

 声を振り絞る。

 アルカクラウンは仮面の下に笑みを浮かべたようだった。

 

「目的。ククッ、そもそも、我々ロスト・クルセイダーとは神々に従事する種族。で、ありながら……支配する側となった、キング・クイーンの存在は度し難いものでした」

「それは原典のアルカクラウンの話だ。お前と関係は無い」

 

 ぴしゃり、と言い放つ火廣金。

 そうだ。エリアフォースカードの守護獣は、オリジナルとは違う、作り出されたものだ。

 だけど、それでも――根幹は同じっていうのか!?

 

「例えそうだとしても。私が神々を再び君臨させること――更に、エリアフォースカードがあれば、外界より現れし恐怖の魔凰でさえも空から降臨させることだってできる。神々をこの世に再び降ろす事……それがどれほどの災厄を人間の世界に与えるか、楽しみなのですよぉ!!」

「災厄、だと!?」

「エリアフォースカードさえあれば、それだけの魔力を集める事が出来るということです。いやぁ、愉快……!!」

 

 そんなことのために……!!

 

「しかし……目障りだったのは……十六夜ノゾム。あの男は、肉親を殺されて躍起になっていたのでしょう。散々嗅ぎまわられましたよ」

「!!」

「血眼になって祖父殺しを探していたようですが、邪魔だったので、あの小娘から甚振ってやったら発狂してですねえ!! それでそれで? 正義の味方。ああ、おかしい。発狂したかと思えばヒーローの真似事をしていただなんて――馬鹿馬鹿しくて笑えますよ!!」

 

 

 

「真似事じゃ……ねえ――!!」

 

 

 

 触手を右手でつかんだ。

 

「……二度と、その借り物の身体で嗤うな……!!」

 

 既に、押し潰される寸前だったかもしれない。

 だけど、デッキケースの中の皇帝(エンペラー)は、俺の叫びに応えるようにして、とても熱く、熱されていた!

 

「テメェに……もう、人の夢も、未来も、希望も奪わせやしねえ――!!」

「何? こいつ、虫の息の癖に――全身に針を通されているようなものだ。何故、抵抗できている?」

 

 確かに貫かれているようだ。 

 だけど、痛みなんかどうってことはない。

 どうってことなんか……無いんだ!!

 

「お前のやってきた事は、誰かの夢も未来も奪う事――!! 殺すだけじゃない、大事な人を奪って、ノゾム兄から光を奪った――!!」

「何が光だ、夢だ、希望だ、笑わせないでいただきたい! お前達ちっぽけな人間の虚構には憐みしか捧げるものはない!」

「ちっぽけなわけがあるもんかよ……!!」

 

 みしっ、と触手が音を立てる。

 

「俺は、見てきた……誰かの抱える夢や希望、そして一緒に付き纏うを苦悩や不安を……そして、それがどんなに尊いか、何も無い俺には痛い程分かるんだ――だから、守りたいって思えるんだ!! それを分かち合いたいって思うんだ!!」

「赤の他人に……所詮は偽善に過ぎない!!」

「だったとしても――それで救われた人がいる!! 救える人がいる!! 俺もノゾム兄も――だから戦うんだ!!」

 

 俺は叫ぶ。

 この身体が例え、燃え尽きて朽ちたとしても……!!

 

 

 

 

 ――白銀耀。

 

 

 

 耳の中に、脳裏に。

 それは、吹き込んでくる一陣の風のような囁きだった。

 

 

 

 ――私が、お前の魂。魔力に換える。お前の、守りたいという思いを――

 

 

 

 俺の思いを――!?

 魔力に換える――そうか。

 応えて、くれたか!

 全身に回ったこいつの魔の手をどうやって排除するか……考えろ、考えるんだ!!

 単に断ち切るだけじゃダメだ!

 どうにかして、身体の中に入り込んだものを――そうだ!

 

「……あああああああああああああああああああああ!!」

 

 力一杯に叫ぶ。

 守る。守る。守り通すッッッ!!

 絶対に此処で倒れるか!!

 此処まで繋いでくれた仲間の思いを糧に、全部、此処で、放出する!!

 小細工は無し、全部一気に開放だ!!

 

「この魔力っ……!? 貴様、どうやって――!?」

「あああああ!!」

 

 迸る激痛。 

 全身に電撃が走るようだった。

 頭を抑える事さえ出来ないし、焼かれていくようだ。

 しかし、それでも――

 

「お前の好きにはもうさせない……捻じ曲げられたファウストの思いも、傷つけられたノゾム兄の思いも、今、此処で戦ってくれてる仲間の思いも――俺が守り切るんだ!!」

「ほざけェ!! 無駄な事だ!!」

 

 今度は空中に浮かぶ氷の剣。

 それが、何本も光を放って軌跡を描く。

 俺は皇帝(エンペラー)を握りしめた。

 地面を蹴るダンガンテイオーが炎に包まれ、パーツを次々に切り離す。

 

「ゴートッQ!!」

『応、であります!!』

 

 氷の剣は次々に飛んでくる。

 まだ動けない俺を目掛けて。

 しかし、火の玉となったゴートッQが撃ち落としていく。

 そこに、何本もの氷の剣が彼を捉えた。

 

『我がマスターの剣で、盾となるでありますよ!!』

 

 轟!! と燃え上がる炎の玉。

 彼自身と、俺自身の魂が燃焼材となって、火球は小太陽と成った。

 束になった氷の剣が、解けていく。

 頼む、ゴートッQ!!

 お前が防いでいる間に、幾らでも注ぐ!!

 例え枯れ果てたとしても――!!

 

『おらあああああ!!』

 

 全身に――体中へ、魔力が隅々に循環していく。

 更黒い針金状の触手から、大きな触手に至るまで全てに、この波動を行き渡らせていく。

 そう。一方通行の力の流れを、変えるかのように!!

 

「なっ……!! こいつ……!!」

 

 紫電が、触手全てに、果てはアルカクラウンにまで至った。

 そう。全ての魔力を全力全開で開け放つことで――

 

「魔力の流れを、逆流させる!! お前に、流し込む!!」

「ぐっ……!?」

 

 消えていく身体の中の異物感。

 そればかりか、触手も乾いていく。

 それを自ら引っ込めながら、アルカクラウンは忌々しそうに手を振るった。

 

「人間が逆らうか……無駄な抵抗を……!!」

『!!』

 

 しかし。

 今度は光が矢となって俺の脳天を狙う。

 限界まで魔力は注ぎ込んでいる。

 だけど――防ぎきれない!!

 

 

 

「”罰怒”ブランド!!」

 

 

 

 次の瞬間、火のボードが触手を貫通し、俺の眼前の床を突き貫く。

 ボードは盾となり、辛うじて俺の眼前に矢は留まった。

 それは確かに、貫通していた。

 

「ぐうっ……!!」

「此処までだ。白銀が触手を弱らせてくれたおかげで……叩き斬れた……!!」

 

 満身創痍の様子で、縛られたままの彼は言った。

 更に、触手が完全に断ち切られた事で――俺に巻きついていたもの、俺の身体に入り込んでいた物も全て消えていく。

 

「このっ……おのれぇ……!!」

 

 アルカクラウンは、脚に枷を取り付けられたかのようなおぼつかない動きで、一歩、一歩ずつ迫ってくる。

 此処までくれば――やることは1つだ!!

 

「ありがとう、火廣金。助かったぜ!!」

「……これで限界のようだ」

「いや、お前には感謝してもしきれねえよ。お前が居なけりゃ、此処まで出来なかった」

「礼は後……ファウスト様の真意を――俺は知りたい」

 

 膝をつく火廣金の肩を、俺は慌てて支えた。

 

「君にとっては、許せない相手かもしれない。俺もまだ、疑っている。だけど……クリーチャーに憑りつかれていたというならば。今までの行動があの方の本意ではなかったのならば。俺はもう1度考え直してみたい……もう1度、この目で確かめたい……!! あの方を、ファウスト様を助けてくれないか……!?」

「――!」

 

 当然だろ、火廣金。

 俺に出来ることは唯一つ。

 

「ああ。分かったぜ。……やってやらァ!!」

「っ……!! こいつ、どこまで余裕が……!!」

 

 怯むアルカクラウン。

 しかし。実際の所、俺の身体は既に限界寸前だった。

 さっきの触手の所為で腿、腕、胴には針孔が開いていて、血が垂れているのが分かるし、俺の精も根も殆ど魔力に換えられてしまっている。

 空元気だ。

 だけど――まだ、倒れるわけにはいかない。まだ、倒れたりなんかしない!!

 

「勝負だ、アルカクラウン!! 嘘偽りに塗り固めたお前の策略――全て、打ち破ってやる!!」

『轟轟轟直線的真っ直ぐに!! お前を、撃破するであります!!』

 

 俺の手元で燃え上がるエリアフォースカード。

 それが、最後の決闘と言わんばかりに、決戦の戦場を作り上げた。

 

 

 

Wild(ワイルド)……Draw(ドロー)(フォー)……EMPEROR(エンペラー)!!』

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