学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第9話:桜花爛漫─壊された芸術

いきなり部室に駆け込んできたみづ姉は、やってくるなりソファで泣きじゃくるばかり。

 一体何があったと言うのでしょう。

 

「どうしたんですか、みづ姉」

「び、美術室が……大変なことに……なっちゃって……」

「大変な……こと?」

 

 白銀先輩と或瀬先輩が顔を見合わせました。

 あ、この人達首を突っ込むつもり満々です。何か科学部の時もそうでしたし。

 

「なあ、俺達も着いて行って良いか?」

「え? あ、白銀先輩……?」

「丁度、美術部の事で確かめたい事があったのデ!」

「は、はあ……分かりました」

 

 一体何を確かめたかったのかは知りませんが、一応先輩達ですし連れていくことにしましょう。百聞は一見に如かず。泣いてるみづ姉も取り合えず連れていき、美術室に急ぎました。走るのは余り好きではないのですが、何があったのか確かめる必要があります。

 まあ、美術室は大騒ぎでした。教室の前に沢山の生徒が出てきています。あれは美術部の生徒でしょうか。

 ですが、その惨状は遠巻きからでも分かりました。

 赤、青、緑、そして――ピンク色。それが美術室の中全部を染めているのです。まるで、子供がペンキをいたずらで塗りたくったかのように、絵具がぶちまけられています。当然、中に置いてあった作品はほぼ全滅。

 口々に皆「ちょっとどうするのコレ……!」「次の展覧会とコンペに間に合うのかよ!?」と叫んでおり、それがどんなにひどいかが奥に立ち入らずとも分かりました。

 

「だれが、こんな酷い事を……!」

 

 憤ったような表情で白銀先輩が言いました。

 みづ姉曰く、放課後部室に行ってみると既に騒ぎになっていたようです。

 画材でぐしゃぐしゃのキャンバス、塗りたくられた美術室の壁。異変は一目瞭然だったことは想像に難くありません。

 

「まさか、桑原の奴がやったんじゃ……ねぇよな」

 

 誰かがそんなことを言いました。

 びくり、とみづ姉の肩が震えたのが一目で分かりました。

 

「ええ? でも幾らなんでも」

「分からないですよ。だってあの人、しばらく部室に顔出して無いじゃないですか。しかもカンジ悪くなってたし」

「だからといって……でも、怪しいって取られても仕方ないわ」

「でも、今日も終礼までちゃんと教室に居たわよ桑原」

 

 どうやら、美術部でありながらこの場に居ない桑原先輩を疑っている人もいるようです。

 自分の作品が駄目になったので、冷静さを失っているのでしょう。

 でも、そんなのいくら何でも――

 

 

 

「桑原先輩はそんなことしませんっ!!」

 

 

 

 鶴の一声。

 泣き叫ぶようなみづ姉の声でした。

 

「だけど、暗野。あいつ、この期に及んで部にやってきてもいねーぜ」

「でも、桑原先輩がこんなことをする理由が無いじゃないですか!」

「た、確かにそうだが……」

 

 やれやれ。この剣呑な様子を見るに此処の美術部はみづ姉が言うほど和やかな場所ではなかったようですね。

 まあ、作品を滅茶苦茶にされたら取り乱す気持ちは分からないでもないですが。

 

「2年生の美術の時間が、今日は6・7限にあったばかりでそれまで異変はありませんデシタ」

「!」

 

 言い出したのはブラン先輩です。

 そして、臆す様子も無く3年生の体の大きな先輩に詰めかけます。

 

「そして、桑原先パイと同じクラスの人ならわかるかもデスケド、一緒の時間に教室を出てるんデスヨネ?」

「え、ええ……」

「んじゃ、学校の内部の人間――少なくとも生徒に犯行は不可能デスネ!」

 

 全員は黙りこくりました。苛立ちのはけ口を失ったのが気に食わない人もいるでしょうが。

 また、考える間もなく掃除の時間と終礼の間の短い時間の間も不可能でしょう。たかだか5分くらいで、こんなに沢山の絵具をぶちまける事は出来ません。珍しくブラン先輩の推理は合っていることになります。

 

「そういや、窓のカギが開いてるな」

「んじゃあ、誰かが外から入ったってことか!?」

 

 どうやら、ブラン先輩の推理もあって犯人は外部の人間と言うことになりつつあるようです。ともかく、桑原先輩の潔白が証明されつつあるようでみづ姉もほっとしています。

 でも、猶更気になります。

 一体誰が、こんなことを――

 

「信じろ。あんたの中のアツい信念を」

 

 誰でしょう。

 今、誰かがそんなことを言った気がします。

 

 

 

「行きな、マスター。あんたの求める答えは、てっぺんにある」

 

 

 

 この声、私の心に語り掛けてくるような――

 てっぺん。

 この学校のてっぺんと言えば――

 

「屋上――」

 

 それしか、考えられませんでした。そして、屋上には言うまでも無く今も絵を描いているはずのあの人がいます。

 その時、私は弾かれたように走り出していました。

 今日ばかりは、考えるのは後です。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 でも、何故屋上――桑原先輩が犯人とでもいうのでしょうか。

 ですが、1つ言えることは、例え誰だろうと、みづ姉を泣かせた元凶は絶対に許せません。

 みづ姉やデュエマ部の先輩2人を残し、私はただただひたすら屋上に続く階段を目指しました。

 そして、必死に私に話しかけてきた声へ向かって叫びました。

 

「答えてください! 貴方は何なんですか! どこから、どこから私に話しかけてるんですか!」

「俺はあんたの傍にいるんだよ。ちと数奇な巡りあわせだが、此処は1つ飲み込んでくれや」

「全く、訳が分かりませんよ――っ」

 

 そこで、私は足を止めました。

 階段の奥から、ぎちぎちと音を立てている異形が見えます。

 ぞくり、と全身に悪寒が走りました。巨大なクワガタムシのようです。

 

「おっと……先客が居たか」

「な、何ですかアレは――」

「どうする? 迂回するか? それともこのまま戦うか?」

「っ……そんなこと言われても!」

 

「チョートッQ!!」

 

 次の瞬間、後ろから声がしました。

 何かが巨大なクワガタムシに突っ込んでいったかと思うと、そのまま頭突きをかませます。

 見ればそれは――デュエマのクリーチャーのようでした。

 あれって、いつも白銀先輩が使っているクリーチャー――

 

「大丈夫か、紫月!?」

「!」

 

 巨大なクワガタムシの前に躍り出たのは――白銀先輩でした。

 そしてその近くには、新幹線の頭をした二等身の《チョートッQ》が居ます。どういうことでしょうか。何故、さも当たり前のように白銀先輩もクリーチャーを使役しているのでしょう。

 

「何でか知らねぇけど、お前にも見えてるようだな。クリーチャーが」

「こ、これって、クリーチャーってデュエマのクリーチャーですか!?」

「ああ」

 

 ああ、じゃないですよ。最早訳が分かりません。

 おっかなびっくりです。でも、何でこんなことに――

 

「――お前の持ってるクリーチャーの声、俺達にもしっかり聞こえた!」

「えっ、待ってください、それって――」

「屋上に行くんだろ!! 此処は俺達に任せろ!」

「《デスマッチ・ビートル》――!! 少々厄介なクリーチャーでありますな!」

「おうよ! さっさと片付けるぜ!」

 

 私の質問に答える事もせず、白銀先輩の姿はチョートッQ、そして巨大なクワガタムシ諸共光に包まれたかと思うと――その場から消えてしまいました。

 再び、またあの声が聞こえてきます。

 

「へっ、マスター。あんた頼もしい仲間がいるじゃねぇか。さっさと屋上を目指そうぜ」

「……後で、説明はしっかりしてもらいますからね」

 

 そういって、私は1人、声の主も含めれば2人でしょうか。それと一緒に階段を駆け上がりました。

 そして、屋上の扉を開けた先に居るはずの人の名前を同時に呼びました。

 

 

 

「――桑原先輩っ」

 

 

 

 風が吹き抜け、肌を撫でました。

 きっと、その方向に居るだろうと思っていた場所に彼は確かに居ました。

 巨大なキャンバスを前に、筆を執った彼の目には――満開の桜が写っていました。

 未だ花びらを散らせることなく咲いている桜と、キャンバスに描かれた桜の両方でした。

 

「――暗野か。久しいな。テメェが此処まで来るとは」

「多分、貴方の知ってる暗野じゃないと思いますが」

「……まあ、いい」

 

 くるり、と彼はこちらを振り向きました。直接会うのは初めてですが年にしては、その体型は小柄で細いです。背は下手したら白銀先輩より低いかもしれません。

 見ただけで分かります。その眼は光を失っており、とても昏いです。

 何かに取り付かれているような――そんな印象でした。

 

「用がねぇならさっさと帰れ。邪魔だ」

「そんな風に、みづ姉の事も突き放したんですね」

「――そんなことを言うために、俺の邪魔をしに来たのか?」

「後、1つ問いたい事があります」

 

 私は臆する素振りも見せず、堂々と問い掛けました。

 

「今日、美術室が絵具やペンキで滅茶苦茶にされていました。それは、桑原先輩がやったのではないのですね?」

「それは俺じゃない。何しろ、俺がやる理由が無い」

 

 少し、安心した気がします。

 ですが――「でも」と先輩の答えはまだ続いていました。

 

 

 

「此奴がやったのかもしれないな――なあ、”ステップル”」

 

 

 

 キャハハハ、と耳障りな笑い声が聞こえると共に次の瞬間、小さな妖精が眼前を飛び回っていました。

 それが何なのか、もう私には分かっています。

 

「《桜風妖精 ステップル》……!」

 

 スノーフェアリーのクリーチャー。

 どういうことだかわかりませんが、桑原先輩は自分が描いている絵を完成させるため、この子の力を借りていたようですね。

 

「やっぱり見えるのか、テメェも。俺はこの、一世一代の大作を完成させるため、こいつに桜の花を常に満開にして貰っているのよ。写真を撮ってスケッチをする輩もいるが――この世で最も優れているカメラは人間の眼だ!! 今、俺が描き上げようとしている光景は、常に俺の眼に映っている!! 生の現物を描き起こすのが至高にして最高、それ以外は有り得ねぇんだよ!!」

 

 だから、桜の花が散らなかったわけですか。

 クリーチャーの力というのは、それほどに大きいという事ですが、やはりイマイチ信用しかねます。

 

「なのに、何かが……後一つ、何かが足りねえんだ……!!」

 

 知りませんよ、そんなこと。結局、桜に関しては貴方がやっようなものじゃないですか。

 

「だとしたら、まずいことになってるぜマスター」

 

 声が再び私の中に語り掛けてきました。

 

「この学園の桜とかいう木……過剰に生命力を注がれているから、このままじゃ全部枯れるぜ」

「!」

 

 過剰な回復。

 要するに、生命活動を急速に進められて、そのまま全部枯死するということですか。

 桜――ソメイヨシノは、色々な要因が重なって寿命の短い木です。そんなことになれば、学園の桜は全滅してしまいます。

 

「それどころか、アレを見ろ。俺達はワイルドカードと呼んでいるあの実体化したクリーチャーだが、桜のマナとあの野郎のマナを吸い取って、実体化している。恐らく、さっきの部屋を滅茶苦茶にしたのは――」

「あのステップルですか」

 

 全部繋がりました。

 犯人は確かに桑原先輩ではなかったということですね。

 彼は利用されているだけで、今もそれには気づいていない。

 本当の黒幕は――あの妖精ですか。

 

「厄介な事に、この学園にはワイルドカードを狩っている奴が2人――白銀耀と、或瀬ブランがいるからさっさと始末したかったんだがな」

「!」

 

 何で此処で先輩の名前が出てくるのでしょうか。ということは、白銀先輩は勿論ですが或瀬先輩までこの手の事件にもう関わっていたということなのでしょうか。

 次の瞬間、桑原先輩の背後に巨大な影が現れました。

 あれもクリーチャーなのでしょう。でも、あんなものにどうやって立ち向かえば――

 

「マスター、戦う準備は出来てるか!?」

 

 声と共に私がパーカーのポケットに入れていたデッキケースの1つが飛び出してきました。

 これは、昨日みづ姉に貰ったデッキです。そこから、何も書かれていないカードが飛び出して私の手に渡りました。

 ということは、喋っていたのは――このデッキ!?

 

「叫べ!! そのカードに書かれている名前を!!」

「で、でも、何にも――」

「良いか? 此処で何かを変えてぇなら戦うしかねーぞ!! お前の大事な人の笑顔、助けてやりてーだろ!!」

「!!」

 

 私の大事な人――みづ姉。

 みづ姉の幸せは、私の幸せ。

 ですが同時に、みづ姉の悲しみは私の悲しみであり、その原因となるものを私は――

 

「ステップル――私は貴方を絶対に許しません」

 

 次の瞬間、何も書かれていなかったカードに名前が焼き付いていきました。

 そこにははっきりと書かれています。

 その名は――

 

 

 

「――デュエルエリアフォース――!!」

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