学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第78話:日常への帰還

※※※

 

 

 

 空間が崩落した時。

 俺は、倒れていた。それでみんな、俺が負けたのかと思ったらしいのだが、クリーチャーが次々に消滅し、俺が勝った事に気付いたという。

 俺は辛うじて、起き上がる力は持っており、放心状態のまま、倒れ伏せたファウストを見つめていた。

 

「……終わった……のか」

 

 

 

 

「ま……だ……だあああああ」

 

 

 

 

 声が聞こえてくる。

 ファウストの背中から吹きあがる声。 

 怨念のように。妄執のように。

 呪詛が聞こえてきた。

 皆も、既に満身創痍。だけど、声の主――アルカクラウンも既に息が絶え絶えであり、すぐに止めようとするものは誰もいなかった。

 

「私は造るぞ……完全な神の世界を、エリアフォースカードを集めて、集めて、集めて――ごぶっ」

 

 

 

「黙れ」

 

 

 

 遠くから聞こえた声に、皆注目した。

 そこにあったのは――トリス・メギスと、背後に浮かんだアルファリオンの姿だった。

 光の矢で刺し貫かれた道化の化身は、呻き声を上げていたが今度こそ消滅した。

 

「……トリス・メギス……」

「あたしは……本当に、大馬鹿野郎だな」

 

 彼女の声は、至って穏やかだった。

 

「……そうか。何から何まで全部……踊らされてたのかよ……こいつの手の上で。でも、あたしが……お前を疑えるわけ、ないじゃないか。ファウスト……」

 

 仇敵を倒したというのに、トリス・メギスの声は虚脱したものだった。

 一番近くにいたのに。気付くことが出来なかった。

 良いように利用されてしまった。

 トリス・メギスの無念は、推し量ることの出来ないものだった。

 

「……トリス」

 

 声が聞こえた。

 トリス・メギスの視線の先には――ティンダロス。

 そして、花梨に支えられて辛うじて立っている火廣金の姿があった。

 

「ロス……ヒイロ……はっ、あたしにはもう、お前らの名前を呼ぶ資格はねえか。あたしが、悪いんだ。間違ってる。おかしいって気付いてたかもしれない。でも、認められない自分が居たんだ」

「……俺も、同じダ。お前と同じ立場なら、俺もそうしていタ」

「やり直せるさ。間違っていた、って気付けたのなら」

「……馬鹿言えよ。やり直せるわけねえだろ!? お前、同じ組織の奴に自分の、仲間の心をぐちゃぐちゃにされたんだぞ!? 怒れよ。憎めよ!! あたしを!! 今度は……あたしをぐちゃぐちゃにしてくれよぉ……あたしは、どうすれば良かったんだよ!!」

 

 

 

「信じるという事は、難しい事だよ」

 

 

 

 進み出たのは黒鳥さんだった。

 

「てめぇ……不和侯爵(アンドラス)――」

「誰かを信じる。それは時に、とても危険な事だよ。大事な誰かなら――疑う事も、時には肝要だ」

「人間に何が……!」

「大事な人が間違った時に止められるのは近くにいる貴様しかいないのだ。誰かが正してやらねばならないのだ」

「っ……」

「大切な人だからこそ、疑い、道を正せ。道理無き信頼は――互いを滅ぼす元だ」

 

 彼女は顔を伏せた。

 信じること。それは、とても難しい事だ。

 何も考えずに希うだけでは、それは妄信と違わないと黒鳥さんは言う。

 

「あたしは――」

 

 

 

「ティンダロス……トリス……火廣金……」

 

 

 

 蚊の鳴くような声。

 ファウストの、ものだった。

 

「ファウスト!!」

 

 駆け寄るトリスを、ようやく戻ってきた彼女は手で制す。

 

「……白銀耀。或瀬ブラン。暗野紫月。桑原甲。黒鳥レン。刀堂花梨。私は……私が何をしていたのか。ちゃんと覚えているよ」

「……」

「お前達にやった事は、到底許されるものではない、か」

「うん。許される事じゃない」

 

 前に進み出たのは花梨だった。

 

「だけど……それは、貴方が本当に望んでた事じゃないんでしょ?」

「……大魔導司も名折れだな。奴に憑りつかれ――手段と目的が入れ替わっていた。何も、見えなくなっていた。全て私の責任だ」

「間違う事はあると思う。あたしだってそうだったから」

「……エリアフォースカードを集めていた理由。お前の父さんが、作ったんだよな?」

「……私の父は……偉大なる大魔導司だったよ。ある時、人間でも使うことが出来る魔法道具を作った。それがエリアフォースカードだった」

 

 彼女は、おもむろに語りだす。

 

「……その全ては私でさえも分からない。だが……ある時、事故が起こった。それが原因で父は行方不明に。エリアフォースカードは全て、散り散りになった。私は、血眼で探したが、結局見つからなかった」

 

 そして、ある時にエリアフォースカードが再び見つかったのが最近だという。

 

「あれを放っておいてはいけない……いずれ、悪用する者が現れる。だが、そんなことを言っておきながら、利用されたのは私の方だった」

「なら、また立ち上がれば良いだろ!! お前がやるべきことは――こんなところでうじうじ悩んでる事じゃねえだろ、大魔導司。間違ってたって気付けたなら、また進み直せばいい。謝れば良いじゃねえか!!」

 

 俺はファウストと向き合う。

 彼女の眼は――とても哀しいものだった。

 

「……そうだな。だが、私はもう……大魔導司などではないよ」

 

 彼女は自らの掌を開けて閉じると言った。

 

「全ての魔力を……私は失った。アルカクラウンに、体内の回路諸共、全て持っていかれた」

「……!!」

「もう二度と、私は魔法が使えない」

 

 そんな事って……あるのか?

 魔法が使えなくなる? それも、ずっと、ってことか?

 

『確かに……今のあいつから魔力は全く感じねえな。人間と同じだ。あんなにあったのが、嘘のようだ』

 

 シャークウガが重々しく言った。

 彼女は頭を抱える。

 

「私は、もう……何も出来ない。私は、どうやって償えば良い。どうやって、生きればいい。私は、もう、何も出来ない」

「そんな事、ないデス!!」

 

 叫ぶブラン。ファウストは、振り向いた。

 

「きっと……きっと、償えるはずデス。こんなにたくさんのメンバーを集めたのは……魔法の力だけじゃないはずデス! 幾ら魔法でも、人の心を完全には変えられない。魔法が無くたって何も出来ないはず、ないデスよ!」

「……!」

「償う事は、人間でも出来ます。それに、貴方は1人ではないのですから。もう、道を見失う事はないはずです」

「ああ。お前が救ってきたものを信じやがれってんだ! いつまでも悔やんだままなのは、美しくねえからな!」

「……行こう、ファウスト」

 

 トリスがファウストの手を引いた。

 ティンダロスが、彼女の背を押した。

 

「……ファウスト様。今度は一緒に、歩いていこウ。俺達は、貴方に救われたのだかラ」

「信じるってのは難しいな……本当に。なあ、あたしは……お前の隣で、どうすればいいのか。考えるよ」

「……ああ」

 

 彼女は、振り向くと言った。

 

「……アルカナ研究会は、正式に君達から手を引く事を約束する。君達を邪魔するつもりはない」

「ま、待てよ。ワイルドカードと、残りのエリアフォースカードについては、どうするんだ?」

「……私も、出来るだけ君達を支援するつもりだ。それが、私の償いの1つだ。君達の守るべきものに、私達が過干渉することはないが、それでも出来るだけ協力したい。というのも――ワイルドカード出現の理由は、エリアフォースカードだけではないようだからな」

「えっ……!?」

「まだ、謎が多すぎるということですか」

 

 紫月も首を傾げた。

 そうなると。今後は、アルカナ研究会の情報が頼りになる、ってことなのか?

 ……まあ、この組織の暴走はアルカクラウンが原因だったわけだし……一先ずは大丈夫そう、なのかな?

 

「……ファウスト様」

 

 息も絶え絶えに火廣金が花梨に肩を負ぶわれたまま歩いていく。

 

「……俺は――」

「お前の疑念が、アルカナ研究会を。彼らを救った。誇って良い」

「……しかし。俺は――」

「お前は――その者達と一緒に居ろ。その方が、良い。今は――休め」

 

 頭を垂れ、「はい」と小さな返事が聞こえてきた。

 

「いずれ、近いうちにまた出向く。私に出来ることは、何でもするつもりだ」

「……ファウスト」

「……ああ。白銀耀。本当に、すまなかったな。そして――ありがとう」

 

 彼女が言うと――青い炎が次々に窓から飛んで行った。

 そうだ。前に進んでいけばいい。

 間違ったとしても。つまずいたとしても。

 隣に誰かがいれば、また起こしてくれるはずだ。

 無理矢理でも軌道修正できるはずだ。

 だから、今は帰ろう。

 俺達の、日常へ――

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 あれから――数日も経たないうちに、また慌ただしい日常が始まった。

 アルカナ研究会は、完全にこの辺りから手を引いてしまったらしい。あれから魔導司の姿は見ていない。

 取り合えず、俺は全身に擦り傷切り傷打撲、頭はまた包帯でぐるぐるという姿で登校する羽目になり、同級生の何人かから質問攻めを受ける羽目になったが、花梨のおかげで事無きを得たのだった。

 花梨曰く、あの後ファウスト、アルカナ研究会から改めて謝罪があったらしい。

 彼女は優しいから、その場では受け入れただろうが……まだ、割り切れない所はあるだろう。一応、賠償金云々は貰ったらしいけど……それで済む問題じゃないのは言うまでもない。だけど、これ以上彼らを追及するのも不毛だ、とのことだ。ただ、怒りの行き場があれば良いってものじゃない。前に進むには――赦す事も大事ということか。

 紫月も、翠月の件で怒ってはいたが、元凶はやはりアルカクラウンだったということもあって水に流したらしい。元はと言えばファウストの不始末ですが、とぶつくさ言ってはいたけど。

 ブランに至っては平常運転だ。と言っても、あれからより熱心にワイルドカードの事件について探るようになったけどな。ところでデュエマ部の活動はどうした?

 ……黒鳥さんは、相変わらずノゾム兄が入院してる病院に通院している。

 桑原先輩もやっと安心して姉さんの見舞いにいけるようだし、治療は順調らしい。一先ずは一件落着と言っても良いのだろうか。

 で、当の俺はと言うと――いまだに複雑だ。アルカクラウンは倒せたものの、未だにノゾム兄は目を覚ましていない。だけど、取り合えずは俺らの日常は再び始まったのだ。

 また――始めよう。いつもの日々を。

 

 

 

 

「というわけで入部届けを出したいのだが」

 

 

 

「……」

「……」

「……」

 

 思わず来客。

 そして、その内容に俺達は絶句していた(紫月は気にも留めずシュークリームを頬張っていた)。

 

「あ、あの……火廣金? お前結局此処に留まるのな?」

「ファウスト様から、一応君達のサポート役を頼まれた。まあ、頼まれるまでもなく君達の元には留まるつもりだったが。俺自身も、まだまだこの事件について調べ足りない」

「そ、それは良いデスけど、何故デュエマ部に?」

「一先ず部員ゲットですね、もきゅもきゅ」

「……ダメ、だろうか?」

「いや、ダメじゃないよ? あ、紫月、口の中のモン全部飲み込んでから話せ」

「もきゅ」

「だけど、わざわざお前がデュエマ部に入りたい、だなんてな」

「当然だ」

 

 火廣金は腕を組むと続けた。

 

「君達には大分世話になった。迷惑もかけた。せめてもの礼、というわけだ。何が出来る事があるなら俺も協力したい。それに……」

「それに?」

「此処に居れば……君達人間のデュエマの事も、そして君達自身の事もより知れそうだからな。どうやって君達が此処まで強くなったか、見極めさせてもらう。特訓は何だ? 日々の活動は? 興味深い……!」

 

 おい、お前の中のデュエマ部はどうなってるんだ?

 絶対お前の期待しているものは此処にはないからな?

 

「凄い打算的というか何といいマスか……大した部活じゃないと言いマスか」

「そんな崇高な部活でもないのですがね。しかも同好会ですし現在」

「というわけで入部しても良いな?」

 

 まあ、何であれ。部員は欲しかったし大歓迎だ。

 

「……勿論だ! これからよろしく頼むぜ、火廣金!」

「そうだな。君はこれから、俺の上司――よろしく頼む。”部長”」

「じょ、上司?」

「ああ。上下関係はハッキリさせないとな。馬車馬のようにこき使っても構わんのだぞ? まずはこの部活の広報だ。ビラ撒き、広告、何でもやろう」

「ちょっと!? 此処別に仕事場じゃねえんだけど!? 後、部長って……別に今まで通り白銀で良いんだけど」

「俺のポリシーが許さん!」

「ええ……」

「何か……今までと別のベクトルで大変な人が来ましたネ……」

「真面目過ぎて融通が利かないタイプですか」

「お前らはもうちょい真面目にやれよな!?」

 

 ともあれ。

 こうして、嵐のようなアルカナ研究会との戦いは終わりを告げて、俺達は――また、新しい日常に足を踏み出そうとしていた。

 と、その時。スマートフォンの着信が鳴る。

 

「あれ? 花梨からだ」

「どうしたデス?」

「確か、今日は土曜だから師匠も一緒に病院に見舞いにいってるのでしたか」

「ああ。後で一緒に見舞いに行こうぜ、って……そうじゃなくてメール見ねえと――」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……」

「……やっと、目を醒ましたか」

「お兄!!」

 

 1時間前の事。

 包帯に身を包んだノゾムは、ようやく眠たげに黒鳥、そして花梨の顔を見つめていた。

 目を醒まし、家族の姿を認識したノゾムだったが、その眼に光は灯っていない。

 まだ朧気で昏かった。

 そこに姿を現したのが、黒鳥だった。

 

「……レン、先輩。何で」

「後輩の危機に、駆け付けない先輩がいるものか」

「お、れ……突き放した、のに……」

「でも、黒鳥さん、ずっと心配してたんだよ」

「花梨……お前……」

「彼女は貴様が思っているより、ずっと強かった。彼女は全てを知っている。それでなお、貴様のために戦おうと誓った」

「……そう……か……」

「……貴様にとっての朗報もある」

 

 黒鳥は、落ち着き払って言った。

 

「貴様はもう、復讐をしなくていい。黒幕は――討たれた」

「……!!」

「白銀耀が……やってくれた。貴様の役割、しっかり継いだよ」

「……んだよ、耀が……やった、のか」

 

 もう、復讐をしなくてもいい。

 ならば、この怒りは、悲しみは――どこにぶつければいい。

 空っぽのまま生きていて、どうすればいい。

 

「俺は……何して生きりゃいいんだよ」

「……」

「こんなに、こんなになって追い続けた相手だったのに……そうか……そうか……あいつ、やっぱすげぇよ」

 

 ぼろぼろ、と大粒の涙がこぼれる。

 

「……貴様は、よくやった。貴様が居なければ、あいつはあそこまで成長できなかった」

「……だけど……全部失ったまま、どうすりゃいいんだよ……何して生きていけばいいんだよ……俺の光は……あの日から、消えたままだ」

「光なら、お兄の周りに灯っているよ。もう、過去で自分を苦しめるのは、やめよう?」

「花梨……」

「それに、まだ消えてない」

 

 黒鳥は笑みを浮かべた。

 

 

 

「意識を取り戻した。あいつがな」

 

 

 

 しばらく、豆鉄砲を食ったような顔で彼は目を開けていた。

 

「……消えてなんか……なかった……」

「……ああ」

「俺が守ろうとしたものも……光も……仲間も……あいつも……消えてなかったんだ」

「……ああ」

「……守って……くれたんすね……皆……」

「そうだよ」

 

 花梨は彼の手を握った。

 英雄の、手を。

 

 

 

 

「……耀が……皆が、守ってくれたんだよ。取り戻して……くれたんだよ」

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