学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
『――探偵。探偵!!』
ふと、腫れたままの目をブランは擦った。
気が付けば、書庫で眠ったままになってしまった。
しかし、起こしたのは心配そうな顔を浮かべたワンダータートルだった。
「……ん、どうしたデスか」
『大変じゃ。妙な反応を感じる……!』
「妙な反応、デスか!?」
こくり、と彼は頷いた。
すかさずブランはワンダータートルを頭に乗せる。
ここからはかなり離れた場所。
すぐに、縮小された地図が頭に浮かぶ。
だが、自分は確かにその場所を知っていた。
ブランはすかさず叫んだ。
「……ハイドパーク!? Why!?」
どうなっているのだろうか。
何処か、胸騒ぎを覚えた。
ハイドパーク。どうにも自分にとっては、因縁深い場所だ。
ロードに出会い、そしてロードと再会した場所。
それを思い返すと、彼女の表情に影が落ちた。
あのロードは、幻か何かだったのだろうか。
ふと、スマホを見た。今の時刻は――夜の8時か。まだ、バスは出ているだろうか。
ともかく、ハイドパークに行って、その謎を突き止めなければならない。
それが、ロードの事を忘れる手段にもなりそうだったからだ。
「行こう、ワンダータートル」
『うむ……!』
ブランは帽子を被った。
そして、立ち上がる。
私は探偵だ。探偵は――何があっても、事件と謎を解き明かさなければならない。
きっと、それが自らの恐れる最悪の真実だったとしても。
窓を引き上げた。
そして、そのまま屋根に飛び乗り、軽い身のこなしで飛び降りる。
これで、家族にはバレない……と思いたい。
「ワンダータートル。私、日本だけじゃない。このイギリス――ロンドンも故郷デス」
『うむ。分かっておる』
「だから、私はそれを守らないといけないのデス。私のヒーローの生まれ故郷で、私の親友との出会いの地で、私が生まれたこの地で何か悪いことを企んでいる物があるなら……それは、私が許しまセン!」
彼女は駆けだした。
夜風に吹かれながら、真実を突き止めに行く。
それが探偵である自分の使命であり、運命であり、天命だと信じ、走り出した。
バスに飛び乗り、目的地まで彼女は不安を隠せない表情で俯いていた。
夜のロンドンは何処か不安を覚えるが、イルミネーションがそれをかき消してくれた。
バスを降りると、ハイドパークへ辿り着く。
そして、着くなりワンダータートルが叫んだ。
『む、迷宮化か……!』
「迷宮化!?」
『うむ……どうやら、人が無意識にこの場所へ入らないようにしているようじゃ。良からぬ者がこの中に居るのは間違いないようじゃのう!』
「……何をやってるのか、突き止めてやるデス!」
彼女は押し入るようにハイドパークへ入った。
意識した以上、無意識の迷宮は無意味。
そして、ワンダータートルが居る限り、迷宮は掌握したも同然。
彼女はそのまま、反応のある場所へ走っていくのだった。
そして、近付く度にある事実に気付こうとしていた――
※※※
「ここは――」
湖だ。
ロードと出会った、あの湖のほとり。
初めて会ったあの日も、そして再会したこの日も――ロードは此処に居た。
きっかけは、落ちていた本を見つけた事。
それで、彼に出会った――
「おかしいデス」
彼女は頭の中で繰り返した。
ロードは誰よりも、自分に負けないくらい本が好きだった。
そんな彼が――あんな、分厚い本を忘れるだろうか。
「おかしいんデスよ……貴方は、ロードなのデスか。本当に、私の知ってるロードなんデスか?」
「おかしくない。僕は、君の知っているロードだ」
ブランは顔を上げた。
そして、身体を震わせる。
居た。
その名を、力強く、呼んだ。
「……ロード」
「やあ、また会ったね。明日まで、素直に寝てくれていれば良かったのに……待ちきれなかったのかな、ブラン」
「……答えて、ロード」
ブランは彼を睨みつけた。
この場で最も異常なのは――死んだはずなのに、目の前に居るロードだ。
どうして、彼がここに居るのか。
現世に蘇った亡霊の類ではないのなら――彼に化けたクリーチャーか。
いずれにせよ、この公園の異様な魔力は彼の仕業に違いない、とブランは推理する。
「……ロードは、死んだ。ライトレイデュエルスクールの爆発事故で――死んだ。違う?」
彼はしばらく押し黙っていた。
しかし。
「……」
「ロード?」
「……ふっ」
声は、一段と大きくなった。
「ふっ、あはははははははははははは!! そうだね!! 世間は、そう思ってる。この僕が、あの事故で死んだってね――だけど考えてごらんよブラン。遺体は見つかっていない。それはつまり、僕が今此処に居る事に対する裏付けになるんだ」
「っ……じゃあ、どうして姿を隠していたの! 今までどこにいたの!? 貴方は、本当にロードなの!?」
「落ち着けよ。探偵とやらの口調が出てる。心配しなくても、僕は僕だ」
ただし、と彼は付け加えた。
「――今の僕は、ロード・クォーツライト……我が一族の末裔としての僕だけどね」
ブランは、一瞬意味が分からなかった。
クォーツライト。それは、彼がかつて名乗っていた姓では無かったはず――否。
そもそも、彼は姓を名乗っていたのだろうか? いや、戸籍上は確かに存在している。
ニュースの記事に書かれていた。クォーツライトとは、まったく違う姓が――!
「どういう、事……!」
「ブラン。君は考えた事が無かったかい? この世界は、とても美しい、とね!」
「……?」
間髪入れずに彼は続けた。
「青々とした自然。どこまでも続く海。そして、沢山の人々。誰一人として同じ人は居ないんだ。人間というのは……素晴らしいだろう?」
「……何言ってるの、ロード」
「僕はこの世界が大好きだ。いや、僕の一族は、って言うべきだね。そして、人間は幸せを追求する生き物だ! ハッピーになるために生きるんだ。生まれは関係ない。今ある場所から、より良い場所へ登っていこうとするんだ」
だけどね、と彼は続けた。
「世界は残酷で……平等な幸福は全ての人には訪れない。幸福になれない人。そればかりか、幸福になるために誰かの幸福を奪う人がいる。それが奪い合い。争い。果てには戦争に発展した。食料、土地、大陸、次は……星かな? 幸福のために不幸になる人が居るなんて、可愛そうだと思わないか?」
「……ロード? ロードが何言ってるのか、私、分からないっ……!」
「そして何より、この世で幾ら富を築いても。いっぱい幸せになっても……死んだら何も持っていけないんだ。これは、人間に課せられた共通の罰だと思わないかな?」
「な、何の罰……!?」
「生きる事への、罰だよ」
彼は淡々と言った。
感情の籠っていないような、冷たい目でブランを睨んだ。
「奪う事で、傷つける事で幸福になろうとする人間の罪。人類の歴史が刻んできた共通の罪。繰り返されてきた罪。一生消える事の無い罪。即ち之、原罪である――許されるには、人類を罪と罰から解放するには……誰かが人類を裁くしかない」
「さ、裁く……!?」
「そう」
彼は微笑んだ。
「クォーツァイト家……僕らは、千年もの間、人類の原罪を裁く方法を人知れず求め、そしてそれを作り上げてきた。僕は、裁きの鉄槌を完成させるため、社会の歴史から抹消される必要があった」
「ロード。じゃあ、あの事故は――」
「都合が良かった。僕はあの場から家の者に連れ出されて逃げた。そして、幾ら探しても僕の遺体は見つからない。見つかるわけがない。僕は確かに今、此処に居るんだから」
ロードは、生きていた。
故に――最悪の真実がブランに突きつけられようとしていた。
「そして、裁きの鉄槌は僕の代で完成する。人類皆等しく全て、この星諸共僕が裁く」
「ふざけないで!!」
ブランは叫んだ。
「ロードは、私の親友。私を助けてくれた親友。私が……一番大好きな友達……!」
「……ブラン」
「こんな事してるなんて……知らなかった。私……ロードの事、何も分かってなかった。ねえ、ロード。これは、正しい事なの?」
「ブラン。人間の罪は君も散々実感しているはずだ。混血である事を虐められていた君ならね」
「っ……!」
「可哀そうに。醜悪な欲望の為に、傷つけられてきたんだろう? 許せないよね」
「……ロード……!?」
「でも安心してくれ。人類を皆裁けば、全ての罪は罰せられる。そして、罰せられた人間は全て救済されるんだ、我らが信仰する――裁きの神体の元に」
次の瞬間だった。
湖の水が盛り上がる。
そして、眩いばかりの光を放ち――それは姿を現した。
月の光さえも最早霞んで見えない。
それはいわば水晶。全てが水晶に覆われており、全貌こそ分からなかったが――強大で禍々しい人知を逸したものであることはブランにも察せられた。
「見てよ!! これが我らが裁きの一族クォーツァイトが千年掛けて作ってきた裁きの神体、裁きの鉄槌、だ!!」
DG。
アルファベットの二文字だけで示されたその何かを前にブランは立ち尽くすしか無かった。
水飛沫が飛び散る。
光が反射する。
神々しくて、禍々しくて――あまりにも悍ましくて。
「……アハハハハハ!! やっともうすぐで完成するんだ。僕は嬉しいよ! だけど……まだ1つだけ足りないんだ」
「……!」
「裁きには、正義が必要だ。このDGを完成させるには、我らが一族の
「じゃ、
そんなエリアフォースカードは無い。
持っていない。
しかし。ワンダータートルは何かを知っているかのように呻く。
「おい守護獣。そのエリアフォースカードは
『何を……ワシにその名を口にする権限は』
「すっとぼけるんじゃないよ。僕には見えるんだ。エリアフォースカードの真名がね」
『……!』
そう言うと、彼は詰め寄った。
「ブラン。そいつとエリアフォースカードを手放せ。そいつの所為で、君は危険な目に遭ってきたんじゃないか?」
そんな事、出来ないに決まっていた。
これは、自分とワンダータートルを繋ぐ絆の証。
何より、他の誰かに渡せないものだ。
例え、それがロードだったとしても。
「……嫌っ……! 幾らロードでも……絶対に、渡さない……!」
「強情だな。それは人類の救済に必要なんだ。何で君が持ってるのか知らないけど……!」
ブランは歯を食いしばった。
今のロードに、話は通用しない。
まして、ロードがやろうとしていることは、とんでもない事だ。
あの水晶、間違いなくとんでもないクリーチャーで、彼はそれで大それた事をやろうとしている。
人類の救済。人類への裁き。
嫌な予感しかしなかった。
『探偵……! あのクリーチャーを目覚めさせてはいかん!』
「分かってマス!」
例え親友だったとしても――否、親友だからこそ止めなければならない。
遂に彼女は覚悟を決めた。例え傷つけたとしても、彼を止めると。
一番大好きな彼だからこそ――止めなければならないと。
「……仕方ない。僕とて、この計画をずっと進めてきたんだ。君の一存でフイにするわけにはいかないんでね」
そう言うと、彼はカードの束を握る。
「もちろん、持ってるんだろう? この公園の魔力を追ってきたんだから」
「……ロード。こうするしか、無いの!?」
「無いんだよ。僕にはやり遂げねばならない事がある。エリアフォースカードの力を使って……やり遂げねばならない事がね」
そう言うと、彼は続けた。
「
『Wild ……Draw……
「ワンダータートル、デュエルエリアフォース!!」
夜の公園は――不気味な水晶に照らされ、戦場へと転じる。
だが、或瀬ブランは知らない。
残酷な真実は、まだ一角に過ぎない事を。