この優秀な魔法使いに爆焔を!   作:ピカしば

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第2話︰後悔

  ゆんゆんと別れてめぐみんの家に帰ってきて早々、アクアが俺に噛み付いてきた。

 

「ねえカズマさん、どうして私とダクネスはこんな所でずっと待たされてたのかしら?あの観客を集めたのは私なのよ!どうして厄介払いされないといけないの?凄く理不尽だと思うんですけど!!」

「仕方ないだろ……お前があのままあの場に居たら、また面倒を起こす気しかしなかったんだよ」

 

  あの時、めぐみんの言伝でアクアが里中の紅魔族を集めたのだが、俺の危機感知センサーが何か訴えてきた為、ダクネスにその事を説明しアクアを勝負の場所から帰らせたのだ。

 

「ちょっと待って、私が今までに面倒を起こした事なんて無かったと思うんですけど!今までもトラブルに巻き込まれるカズマの事を助けて上げてたのは私なんですけど!!」

「お前はどの口がそれを言うんだ!どこの誰がそのトラブルを持ってきてると思ってるんだ!……おい!目を逸らしてんじゃねえ!!」

 

  何でこいつは自分のしでかして来た事を簡単に忘れるのかと頭を抱えていると、

 

「まあまあ、二人とも落ち着け……で、めぐみんとゆんゆんの勝負自体はどうなったのだ?」

 

  ダクネスが少し心配したようにそれを聞いてくる。

  一応、アクアとダクネスにも勝負の内容と賭けに関しては説明してあるのだ、心配するのも無理は無い。

 

「めぐみんのその緩みきった表情を見るに、勝負には一応、勝てたと見て良いのだろうが……」

 

  どうやらダクネスは、めぐみんの心配をしていたわけではなかったらしい……

 

「やっぱりめぐみんの事だから、カズマさんみたいに狡賢い手を使ってゆんゆんを陥れたんじゃないかしら?」

 

「「おい、誰が狡賢いのかを聞こうじゃないか!」」

 

  アクアの失礼な言葉に俺とめぐみんの声が重なる。

  ダクネスが困ったような顔をしながら頭を抱えていてる。

  どうやらダクネスもアクアと同じ事を考えていたようで…

 

  「え?だって、あの勝負の内容だとめぐみんに勝ち目無いと思うんですけど、爆裂魔法しか使えないめぐみんは負けると思ってたんですけど」

 

  こいつのこの正直過ぎる所は少し考えものだが、確かに間違った事は言っていない、今までのめぐみんの事を考えればそう考えるのは必然なのかもしれない。

  俺はめぐみんの方に目を向けるとめぐみんが大きく頷いた。

  そして……

 

「……二人ともよく聞いてくれ、実はな……」

 

  俺は二人にめぐみんが上級魔法を覚えた事や今日の勝負の詳細を説明した。

 

 

 

 

 

 

 

 

  一連の流れを話終え、俺達はアクセルへ帰るためにめぐみんの家族と別れてテレポート屋に向かっていた。

 

「─そうか、めぐみんが爆裂魔法以外の魔法を……」

 

  ダクネスが顎に手を当てながら真剣にそう呟く。

 

「ええ!?めぐみん普通の魔法使いになっちゃうの?何かつまらないんですけど!!」

「何かつまらないとか、お前は一体、魔法使いに何を求めてるんだよ…」

「面白さとロマンですけど?」

 

  こんな馬鹿な事を言ってくるアクアに少し安心感すら覚えて来ている俺は多分、もう色々とダメなんだろう。

 

「アクア、私は普通の魔法使いに成り下がる気はさらさらありませんよ?これから先、私の名声は更に大きくなる事でしょう!!様々な異名が付けられて、色んなパーティーから引っ張りだこになる事は間違いないです!」

「めぐみんがこのパーティーから居なくなると寂しいんですけど、ニートと変態を世話するの私だけだと、ものすごくしんどくなるんですけど」

「大丈夫ですよアクア、私はどんな凄腕パーティーから誘われたとしてもこのパーティーを抜けるつもりはありません」

「ちょっと待ってくれアクア、その変態と言うのは間違いないなく私の事だろう?いや、多少自覚はしているのだが、仲間にそれを言われるとさすがに来るものがあるというか……」

「おいアクア、何処からどう見ても世話をされているのはお前の方だろ?さっきも言ったがお前はこのパーティーで1番のトラブルメーカーなんだからな?それをちゃんと自覚しろ」

 

  さっきから好き勝手言っているアクアに俺とダクネスが反論する。

  こいつは少し自分を抑えると言う事を覚えた方がいいと思う。

 

「何を言ってるのカズマ?私は女神なのよ!ちょっとぐらい、わがままを言ってグダグダしてもバチは当たらないと思うの!!」

「おっと、そろそろだな!」

「私の言ってる事を無視しないで欲しいんですけど」

 

  自分がグダグダしてる事を認めてるじゃないかとか、お前が女神なのに誰がバチを当てるんだとか色々と言いたい事はあるが、とりあえずテレポート屋の場所が近づいて来たので話を逸らす。

 

「あ、すみません、アクアとダクネスだけ先にアクセルへ飛んでもらっても良いでしょうか?」

 

  めぐみんが唐突にそんな事を言い出す。

 

「構わないが、どうしてだ?」

「いえ、少しカズマと話をしたい事がありまして」

「ねえめぐみん、それは隠し事かしら?私、このパーティーは隠し事の無いフレンドリーなパーティーであって欲しいと思ってるんですけど」

 

「いえ、別に隠し事では……」

 

「分かったわ!冷蔵庫にあったあの高級シュワシュワの事でしょ?カズマに襲われそうになった事を口実に少し飲ませて欲しいって言おうとしたんでしょ?でも残念ね、あのシュワシュワは私がここに来る前に全部飲んじゃったのでした!」

「おい!あれは最近バタバタしてる日が続いてるから紅魔の里から帰ったらめぐみん以外の3人でぱーっと飲もうと思って買っておいたやつなんだぞ!!」

「あの、カズマ?私はもう14歳なのですよ?もう結婚も出来ますし立派な大人です!お酒だってもう飲めます!!」

「まあまあ、良いじゃないかアクア、今回めぐみんは新しい魔法を覚えたんだし、それについて話したい事でもあるのだろう」

 

  ぐちゃぐちゃになってしまった会話をダクネスが冷静に引き戻してくれる。

 

「ええ!私も聞きたいんですけど!カズマだけズルいと思うんですけど!」

 

  今回やたらと絡んでくるなコイツは。

 

「帰ったらシュワシュワ奢ってやるからな?今回は素直に帰ってくれ」

 

  その言葉にアクアだけでなくめぐみんとダクネスも驚く。

 

「……あの、カズマ?どうして私の話を聞くためにそこまでしてくれるのですか?」

「いやいや、仲間からの真剣な言葉を聞いてやるのは当たり前の事じゃないか」

「何だか凄く胡散臭いのですが……」

 

  せっかく心配してやってるのに酷い言い草だ。

  決して今度こその愛の告白に期待している訳ではない。

 

「ねえねえカズマさん、約束だからね?帰ったらシュワシュワ奢りね?」

「ああ、良いやつを奢ってやる!」

「さあダクネス帰りましょう!私早く屋敷に帰ってゴロゴロしたいわ!」

「あ、待ってくれアクア!私を置いて行かないでくれれ!」

 

  アクアが突然走り出し、ダクネスがそれを追う。

 

  ギリギリで追いついた様で2人でテレポートして帰っていった。

 

 

 

 

 

 

「カズマ…すみません、突然こんな事……」

「いいよ別に……で、どうしたんだ?」

 

  めぐみんが突然かしこまった様に背筋を伸ばして、

 

「いえ、その……」

 

  何やらめぐみんが躊躇っている様に見える。

 

  こいつがこんなになるのも珍しい。

 

  もしかして本当に……

 

「告白!?愛の告白なのか!?めぐみん、俺はいつでもOKだぞ!」

「本当にデリカシーというものがありませんねあなたは!そんなんだからモテないんですよ!!」

 

  思春期の童貞にデリカシーがどうとか、そんな高度な事を求められても困るのだが……

 

「はあ…本当にどうしてあなたという人は…」

 

  とりあえず呆れられているという事は分かった。

 

「……何かごめん」

「謝らなくて良いですよ、勘違いさせる感じにした私にも責任はありますから」

 

  どうやら本当に勘違いだったらしい。

 

「話がそれてしまいましたがちゃんと言いますね」

「お、おう……」

 

  めぐみんの表情が突然険しくなり、俺は表情に驚きを隠せなくなる。

 

「カズマが居なければ、私は恐らく上級魔法を覚える事は出来ませんでした、私の心が弱かったばっかりにカズマに私のカードを操作させてしまった……本当にどう言えば良いか……」

 

  めぐみんの真剣な表情に俺は少し気圧される。

 

  それだけめぐみんの真剣さは今までの雰囲気とは一線を画していた。

 

「私は今までずっと周りからネタ魔法使いと呼ばれてきました……本当は辛かったんですよ、天才と呼ばれたこの私が爆裂魔法などという魔法に毒されてしまったが為に周りから馬鹿にされるだけで無く、仲間まで危険に晒しているという事が……」

 

  その悲痛な告白を聞いて胸が苦しくなる。

 

  だから……

 

「だから今はスッキリしているんです、これからは私が先頭に立って皆を助ける事が出来る」

 

  お願いだからそんな顔をしないでくれ……

 

「もう役立たずのネタ魔法使いなんかじゃありません……私は紅魔族随一の魔法の使い手です……だから」

 

 

 

 

「……私があなたの隣に立つ事を許してくれますか?」

 

 

  めぐみんの告白を聞いて、自分の選択の失敗を自覚する。

  やはりあの時めぐみんの意見を無視するべきだった。

  俺にはそれが出来た。俺はめぐみんに甘えたのだ。

  優秀な魔法使いになるという甘言に乗せられて、俺はめぐみんの気持ちを考えてやる事が出来ていなかった。

 

 

  どうすれば良い?俺はどうすれば………

 

 

「カズマ……?」

 

 

  めぐみんが不安そうにこちらを見つめてくる。

 

「ああ!もう!!」

 

「!?」

 

  俺が急に声を上げた事でめぐみんが驚くがそんな事は気にならない。

 

「俺は馬鹿かよ!何をグダグダと考えてたんだ!!」

 

  そうだ、失敗したのなら取り返せば良い。

  めぐみんの生きる目的を奪ったのなら俺がこいつの生きる目的とやらになってやれば良い。

  俺らしく無いとは思う。自分が人の生き甲斐になってやろうなんて。そんなのは物語の主人公がヒロインに対して思う様な大それた事だ。しかもヒロインの役割であるこいつは厨二病拗らせてるし、すぐに近所の子供と喧嘩するし、今日に至るまで才能の無駄使いまでしてやがった『大バカ野郎』だ。

 

 

  それでも俺は仲間の為に自分の生き甲斐まで放棄したパーティ1番の『大バカ野郎』をほっては置けない。

 

 

 

 

 

  だから……

 

 

 

 

 

「馬鹿かよお前は!隣に立っても良いか?なんてお前らしくないだろ!もっと図々しく来いよ天才魔法使い!」

 

「ッ!!」

 

「だいたい、俺は最弱職の冒険者だぞ、仲間の優秀な魔法使いに支えて貰う気満々だったつうの!!」

 

  めぐみんは泣きそうな顔なのに嬉しさを我慢出来ないような、微妙な表情になる。

 

  それでも何かが吹っ切れた様で……

 

「はい!もうカズマが何と言おうと、私は私のやりたいようにやります!!止まりませんからね私は、これから先に何が起ころうと、カズマと一緒なら私は何だって乗り越えて行ける気がするんです!!」

「随分俺へのハードルが高くなってる気がするんですが?」

 

  俺はめぐみんに困った表情の笑顔でそう呟く。

 

「いえ、私は本気でそう思ってますよ?私はカズマが居れば魔王だって怖くありません」

 

  何やら随分と高い評価をされていたものだ……

 

「……その期待、裏切らない様に頑張るよ」

「ええ!その意気です!!では言いたい事も言えましたし、そろそろ私達も帰りましょうか」

 

  めぐみんが俺の手を引いてテレポート屋の魔法陣へと向かう。

 

 

 

 

  魔王の討伐か………

 

 

 

 

  もしかしてこいつとなら……

 

 

 

 

「……まあ、少しぐらいは考えてやっても良いかな」

 

 

「どうしましたカズマ?」

 

 

「いや、何でも無いよ…」

 

 

 

 

  そして、俺達2人は魔法の光に包まれた─

 

 

 

 

 

 

 

 




遅くなってしまい本当に申し訳ございません!!
個人的にはもう少し話の内容を膨らませたい所です。

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