僕は夜中の公園のベンチで項垂れていた。本当だったらさっさと自分の部屋に帰って、温かい布団にくるまって寝たい。寒いのは嫌いだし・・・。
だけど、そうしたい気持ちとは裏腹に体が動かない。正確には動かしたくない。
「こんな時間にこんなところで何してるの?」
「千歌!?!?」
僕がベンチで項垂れていると何故か千歌が声をかけてきた。考え事をしていたせいで、完全に不意を突かれて心臓が口から飛び出るかと思った。
「お・お前こそ、なんでこんな時間にここに居るんだよ!?」
「え!?あぁ・・・それは・・・。」
「お前、さては覗いてただろ??」
「あはは。・・・ごめん。」
「まぁ、いいけどさ。・・・あ、そうだ。千歌、少しお前の意見を聞かせてくれないか?」
僕はこのまま悩んだところで答えは出ないだろうし、覗いていたのはアレとしても、いつも近くで僕達を見てきた千歌が来たので、折角だから千歌達はどう僕達を見ていたのか聞いてみることにした。
「それはいいけど、善子ちゃんになんて言われたの?話の途中からだったし、少し離れた所から聞いてたからところどころしか聞こえてないんだよねぇ。」
「なら、掻い摘んで説明するぞ?」
「うん。」
僕は先ほどヨハ子に言われた、僕が悲劇のヒーローを気取って曜を傷つけて不幸にしていると言われた事などを簡潔に話した。僕が説明している間、千歌は真面目な顔でちゃんと聞いてくれていた。
「そっか・・・。善子ちゃんが言っちゃったかぁ・・・。」
「言っちゃった、ってことはやっぱり千歌達もそう思っていたのか・・・。」
僕はかなり凹んだ。正直曜に対してのわだかまりは多少あるけど、出来るだけ曜に迷惑かけないようにしていたつもりだったんだけどなぁ・・・。
「あ、誤解しないでほしいんだけど、わたしが言ってるのは悲劇のヒーローがとかじゃなくて、今後どうするのって方の話だからね?」
「と言うと?」
「本当だったら彩希君が3年生になってもこのままだったら曜ちゃんと彩希君に話そうって梨子ちゃんと決めてたんだけど、丁度いい機会だから話すね?」
「あぁ。」
普段と違って、凄く真剣な表情の千歌を見て僕は思わず背筋を正して話を聞いていた。
「彩希君、夢ってある?」
「夢?」
「うん。将来こうなりたいとか、こんな事をしてみたいとか。」
「特にないけど・・・」
「なら、彩希君にとって幸せって何?何をしてる時に幸せを感じる?」
「それも特には・・・。」
「だよね?少なくとも、この2年一緒に生活しているけど、彩希君か楽しそうに笑っていたり、趣味だったり興味がある事に夢中になってるところを一度も見た事ないもん。」
「・・・」
確かにこの2年、僕は最低でも高校だけは卒業すると言う、姉さんとの約束の為だけに高校に通い、卒業したらとにかく働く事だけを考えてる。その為に社会に出でも困らないように勉強とバイトだけはやっているけど、それ以外の事は何もしていない。高校を卒業したら働くと言う目標みたいなものはあるけど、それは決して夢なんかじゃないし、働くことそのものは嫌いではないけど、それが幸せかと言われるとそれも違うと思う。
「善子ちゃんはまだ彩希君の事よく知らないから曜ちゃんの事だけしか分からなくてあんなこと言ったのかもしれないけど、自分の幸せも未来も全て放棄しているのは彩希君も一緒なんだよ?」
「え?」
「彩希君は生きる事を義務だと思っていない?」
「それはそうだろ?姉さんが死んで、残された僕は姉さんの分まで生きないとダメだろ?」
「それは違うよ。そんなのは綺麗事だよ。」
「なっ!?」
「だって、彩希君は彩希君でしょ?お姉さんじゃないよ。誰かの代わりも出来ないし、誰かの分も生きる事なんてできない。彩希君は彩希君の分しか生きる事が出来ないんだよ。」
それはそうかもしれないけど、だったらどうしたらいいんだよ?僕が今前向きに生きようとしている理由を否定されたら、僕は一体何のために生きればいいって言うんだろか?
「こんな事彩希君に言ったら怒るかもしれないけど、もし彩希君がお姉さんの分まで生きようとする事を生きる理由にしているのなら、お姉さんが可哀そうだよ・・・。」
「はぁ!?お前に一体何が分かるっていうんだよ!!姉さんが可哀そう?姉さんの事も知らないくせに何知ったような事言ってるんだよ!!」
何なんだよ一体。僕は曜を苦しめているのかどうか聞きたかっただけなのに、なんで僕の生きる理由を否定されて、さらに姉さんが可哀そうとか言われなきゃならないんだ!マジで腹が立つ!!
「分かるもん!!」
「な・・・」
「生きる事に理由なんか要らないはずだよ?彩希君は理由がなかったら死んじゃうの?もしそうならこんな悲しい事は無いじゃん!!だって生きる事は義務じゃない!権利なんだよ?」
「・・・」
「もしわたしが彩希君のお姉さんだったら、わたしの事は気にしなくていいから、自分の為に幸せに生きてほしいもん。高校辞めてまで彩希君を育てようとしたお姉さんだもん、きっと私と同じ気持ちのはずだよ!!」
「そ・そんなこと言ったて分かるわけないじゃないか!!姉さんはもういないんだ!もう、いないんだよ・・・。」
「厳しい事言ってごめんね。でも、そうやって彩希君が自分の為に生きる事が出来なかったら、きっと誰も幸せになんかなれないんだよ・・・。」
「え・・・?」
「彩希君の周りには、彩希君が幸せになってくれるのを願っている人が沢山いるんだよ?わたしだってその1人なんだからね♪」
思わず涙があふれ泣き崩れた僕を、千歌は優しく抱きしめてくれた。抱きしめてくれた千歌は凄く暖かくて、千歌なんかにこんな感情を抱くのは少し悔しいけれど、その温かさに凄く安心した。
「今すぐ考え方が変わるなんて思わないけど、彩希君は、彩希君の生きたいように生きていいんだよ。そうやって幸せになる権利があるんだから。」
「っ・・・」
「そうやって心から彩希君が笑って幸せになってくれる事がお姉さんの望みでもあると思うし、それが曜ちゃんを解放してあげる事になるんじゃないかな?」
「そう、なのかな・・・?」
「もちろんその為には曜ちゃん自身も変わらないけいけないとは思うけど、きっとそれは彩希君にしかできない事だと思うんだ。だから、先ずは彩希君が変わらないとね♪」
「そっか・・・。でもどうしたらいいんだろう・・・。」
僕は自分が幸せになれと言われても何をどうしていいか分からないかった。子供の頃はそんなこと考えなくても毎日、不思議と楽しい事や幸せな事が毎日あったような気もするけど、今の僕には何故あの頃はそうだったのかが全く分からない。
「そんな急いで変わらなくてもいいと思うよ?言われてすぐに好きなことや、やりたい事、幸せと感じるものを見つけられるものでもないと思うし。」
「そうなんだけど、なんか今姉さんに叱られたみたいな感じがしてさ。」
「お姉さんに?」
「『彩希は私の弟だろ!いつまでもメソメソ泣いてるんじゃないっ!』って。昔は喧嘩で負けたり、辛い事があって泣いてると、よくそうやって怒られたなぁ・・・。」
なんか、凄く久し振りに昔姉さんと過ごしてた事を思い出したような気がする。そう言えば、いつも叱られた後は、今の千歌みたいに優しく抱きしめてくれたっけ・・・。
「・・・だから、ちゃんと、自分と向き合わないといけないなって思って。確かにいきなり変わるなんて出来ないし、そんな事が出来たら苦労はしないんだろうけど・・・」
「そっか♪それじゃぁ・・・例えば彼女を作ってみるとか?」
「彼女・・・ねぇ。」
「そうそう。気になる子とかいないの?」
「いないよそんなの。そもそも、女の知り合いなんてそんなにいないし、恋愛にも興味ないし・・・。」
「そうなの?なら、わたしがなってあげようか♪?」
「何バカなこと言ってんだよ。そう言う関係は本当に好きなやつとなるもんだろ?冗談でもそんな事言わない方がいいんじゃないか?お前の好きなやつに誤解されても知らないぞ?」
「も・もちろん冗談だよ・・?あはは、真に受けた?」
(うぅ~、わたしのバカバカ!バカ千歌の意気地なし!!せっかくのチャンスだったのに~!なんで私が好きなのは彩希君だよって言えないんだよ~!!こんな誤魔化し方したらますます言いにくくなるじゃんか!!)
「まったく・・・。」
「ごめんごめん。」
千歌は僕にとって、喧嘩友達でそんな対象じゃない。それに、マジで恋愛と言うか、女の人を好きになるという感覚が良く分からない。もし仮に千歌が僕の事を恋愛対象として好きでも、それが分からない僕には答えてあげる事は出来ない・・・。まぁ、万が一にも千歌が僕の事を好きと言う事は無いと思うし、せいぜい生意気な弟くらいにしか思っていないだろう。
「まぁ、色々挑戦してやりたい事とか見つけるしかないかな?」
「そう・・だね。今度こそちゃんと前を向けたのなら今はそれでいいと思うよ♪」
「なんだか千歌は姉さんみたいだな♪」
「・・・まぁ、実際彩希君よりお姉さんだしね。てことは、梨子ちゃんもお姉さんになるのかな?」
「ん~、梨子の場合、姉と言うより母さんって感じが・・・。」
「それ、梨子ちゃんに言ったら絶対に怒られるよ?」
だろうな。うん、この事は絶対に口にしないよう気をつけよう。怒られるだけでなく絶対むちゃくちゃな罰を与えられそうだし・・・。
「さて、外は冷えるし、そろそろ戻ろうか?」
「千歌。」
「なぁに?」
「その、こうやって改めて言うのもあれだけど、その・・・ありがとうな。これからも喧嘩したり、心配かけるかもしんないけどよろしくな///?」
「え?あ・・・う・うん///。」
「・・・そ・それじゃもどるか?」
「ずるいよ・・・。(ボソッ)」
(そんな笑顔を見せられたら、ますます好きになっちゃうじゃん!)
「ん?なんか言ったか?」
「う・ううん。何でもない。」
「??」
「いいからいいから♪とりあえず帰って休もう♪」
「あ・あぁ。」
こうして僕と千歌は家に帰り眠りに就いた。最後の方の千歌の態度が気にはなったけど、明日は朝からバイトだしとりあえず今は気にしないでおこう。