「人生に於ける死とは、一体なんだろうかと僕は思ったりする。それは人によって変わるかもしれないしはたまた案外人によって変わらないものかもしれないし定義の上、とはすなわち狭義の上──死んでゆく、生きてゆく。その2つの点が混じりまじあったりするのが人生であるというのなら、死とは人生の終焉であると共に人生を彩る波状なのかもしれない、とは思ったりしないかい?」
一人の青年と、一人の少女だ。どこにいるのかと言えばからからと音を立てて揺れる、木材で編まれた移動用具──車。その中である。
男と女。その二人は奇妙な出で立ちをしている。青年は布地の服装をしていて、腰部には何やらベルトのようなものが巻きつけられている。それがなんなのか、というのは簡単に判別できるようなものじゃない──正面にバックルのような形があることから、或いは単純にバックルなのかもしれないが、しかしそれとするなら相当大きく目立ち過ぎる為にとんだ酔狂者だ。周囲から浮くことを気にも止めず、特に意味のない修飾をしているのだから。
「──さあね。あんたじゃないんだ、そんなの思うことはねーし考えたこともねぇ。意味のねぇやり取りはくだらねぇ。んな戯言に付き合ってられるような時間はこっちにはねぇんだ」
「君にないわけがない──僕の一存で時間なんて幾らでも捻出できるんだ。君の意思なんて関係ない。君の人権なんてそもそもない。君は聞かれたことを答えていればいいんだ」
その言葉に顔を顰めて如何にも嫌です、と言うのを表現した少女の服装は、何処かの民族の衣装のようだ。羽衣、そう、羽衣──ひらひらと、ゆらゆらとした、羽衣。少女の幼い、しかし
これだけならば何処かの巫女、と言うのせ連想する厳かな、美しい少女──だけで終了しただろう。しかしそれだけで留まらない。少女の羽衣には他にない特徴がでかでかと、満遍なく叩きつけられている。
血液。
だれのものか知れない血液が、羽衣を浸していた。
「君に出来ることは三つある。僕を殺して逃げ出すか、大人しく僕の妹になるか、虎視眈々と僕を殺す機会を狙う奴隷になるか──僕からのおすすめは妹になることだ。どちらも損はない。僕は妹である君に精一杯尽くすし、妹である君は僕に精一杯尽くす──甘々で甘すぎて甘ったるさ祟ってどろどろに、泥沼に、混ざり混ざる液体のように一杯一杯の共依存体制だ」
「だから……気持ち悪いんだよ。どれにもならねぇ。俺は大人しく戦わずに脱走してやる」
「ああ、それは無理だ。僕は折角見つけた人材──逸材──教材──兄妹を逃がすことはしない。ずっと視界にいれたままにする。駄目なら僕は君を拘束して、そうだな……絶対に解けないような拘束をして、君と言う存在を堪能してやる」
「……気持ちわりい」
「そう言うなよ。世界に三人はいない、迷惑な体質──それを共通している僕らはまさしく兄妹と呼べるものじゃないか。これは縁だ。切っても切れない縁だ。縁の形なんて知らないし知る気もないし知りたくもないが、たった一つありえないと考えてた縁なんだから、これは──っと、」
結構な速度で動いていた車が、大きく傾いて揺らぐ。そしてがしゃんと言う音と共にそれが急に静止し、車体が転倒しそうになる──それを、青年が傾いた床を蹴り飛ばすことで抑えつつ、
「ふぅん──ふぅん、案外早いのか、それおもはたまた遅いのか──
「……おい、どうする?」
「聞くまでもないだろ? 妹」
青年は自身の背後にある車の壁を指で軽く叩き、何かを確かめたのか「ふん」、と鼻を鳴らし、
「──殺戮だ。当然──僕達は人類の敵なのだから」
そう言い、
──直後に爆発した。
いや、厳密には爆発ではない……単純に、青年が拳で背面の壁を殴っただけだった。それだけで壁が爆発のように崩壊を起こしたのだった。
──それはつまり、常人離れの膂力だ。
「──人類の敵・ワールド・ハンド。貴様はそのような存在と言うわけで──いいのだな?」
馬車の前方、僅かに離れた位置に男が立っている。少女はそいつに向かい歩いていく青年を見送り、そして興味なさげに顔を正面に戻した。
「ああ、僕が、僕こそが嘘偽りなくはっきり明瞭な、ワールド・ハンドで間違いないね。けれどワールド・ハンドなんてこっ恥ずかしい名前は僕個人の名前じゃないんだ。名をエスト・プレイヤーと言う」
──人類根絶を目論む君たちの敵さ。
エストと名を明かした青年は、最後にこう付け加えてバックルに触れる。軽く指で宝玉を埋め込んだ場所を撫でつつ彼は敵から目を離した。
これは嘗めているわけでも煽っているわけでもない。エスト・プレイヤーがゲーム──殺人を始める際に行うルーティーンのようなものだ。しかし相手はそう取らなかったらしく、気が早いことに既に得物に手を掛けていた。
「そう逸るなよ、せっかちは嫌われるぜ? 例えば女性とベッドの上とか」
「──ヘイズ・ノイズ」
戯言だ、とエストの言葉を切り捨て相対している敵、そいつはヘイズと名乗った。
エスト・プレイヤーは焦らない。バックルのベルト、その右側面に右手の平を当て、左手の指を宝玉から離し、指二本を立てて腕僅かにたわませるようにして伸ばし、肩と一定の距離を離しつつ──ポーズを取る。
それは彼の戦闘開始の合図。略式を取ることもあるが、決闘と言う分野に於いて彼は礼儀としてその構えを丁寧にとるようにしていた。
「──では」
「いいぜ、開始しよう──」
ベルトの宝玉がどす黒く変色した。そしてその黒が開けるように、次に紫に変色していく──それはさながら、侵食のようだった。
「──人間鑑定の始まりだ」
◇
「おかえり」
「ただいま。──あー、竜車……もう駄目みたいだね。じゃあ歩いていくか」
「そーだな。足がねぇのも不便だしどっか近場の村に寄ってくか?」
「そうだね……近くに村とかあったかな」
「村は知らねーけど……確かここらへんじゃなかったか? ──ドンドルマ」
「行きたいのかい?」
「気にはなってる」
「オッケー、行こうか」
そんなやり取りを終えて彼らは地面に立つ。やけに軽やかな気分だ──軽い運動はいいことだ、とエストは思った。
軽く歩くと首、手首、太腿、心臓の四箇所が消滅している死骸が目に入った。エスト・プレイヤーにはその死骸の見覚えがない。
「なんで人が死んでるんだろうね? 最近は物騒だな」
「そうだな。俺も物騒だと思うぜ、人類根絶とか」
軽く言葉を交わしつつ、少女に取っては見覚えのある、エスト・プレイヤーに取っては本当に見覚えも一切ない死骸をどんなものかと、ざっと見ではなく丁寧に見分する。
「わーお、結構適当に殺されてるね」
「だな。雑だ、誰がこんな殺し方をしたんだろうな」
「さぁね。僕は知らない──知る気もない」
首と、手首と、膝と、心臓。その4つを潰されているだけではなく、よく見れば足が切れている。まず動きを封じたのだろう──定石だ。動きを封じれば格段に戦い易くなるのだから。しかし実際はこんなことをせずとも勝てたに違いない。なんせ肉を骨ごと完全に破壊する攻撃力の持ち主だ──こんなことをせずとも、一撃、胴体ニでも攻撃を当てれば殺せたはずなのだから。
念入りにこうして血管を破壊する必要もない。心臓だけ潰せばそれで終わったはずだかま──何を考えてこの犯人はこうした破壊を行ったのか。
「ま、僕が手を下す必要がなかったと思えば全然いいや。僕が殺したリストは百に満たない数なのが自慢だからね。──いや、わかんないな。僕がただ覚えてないだけかもだね。じゃあこれは僕が殺した可能性があるのかな?」
「どうでもいい。どうせ全部殺すんだろ──わざわざ顔を記憶する必要なんてないじゃねぇか」
「それもそうか。全然それでいいじゃんか。可哀想に死体くん。きっと君にも家族がいたろうに」
なんてへらへら笑いながら言う。エスト・プレイヤー。それは間違いなくろくでもない人間だ。何故なら殺した相手なんかに興味すらないのだから。
そして少女は思う。こいつと同類──つまり自分も人類の天敵なのだろうか。どうでもいいや。少女は呆気なく自分のその思考を放棄し、またエスト・プレイヤーと同じように死体についてを頭から放棄した。
悪魔のような兄妹。地獄のような体質。絶対的に傍迷惑なその体質の詳細は──何れ明かされるのか、或いはそうでないのか。何にせよ、これは正義の物語ではない。悪の物語かと言えばしかしそうでもない。人間と言うのは単純な善悪でわけられるようなものではない──故に、彼らの人間への対応を物真似てこう記すのが正しいだろう。人間鑑定の物語、と。
僕なりの所謂最低系? とされるような作品だと思います。神様転生モンスター転生モンスター擬人化とか言う駄目な人にはとことん駄目な作品になっております、しかし主人公が擬人化系ってわけじゃなかったり。死んだり生きたり生き返ったりやっぱり死んでたり、命でお手玉をしているようにぽんぽんと宙空に投げ出されたりしますが、一言明かすとすれば主人公は絶対に死にません。ご都合主義ってやつです。或いはそれを引き起こすから主人公なのかはわかりませんが。
個人的な作品イメージは仮面ライダーだったり。更新は気まぐれです。