エスト・プレイヤーと言う男の人生は案外特別製で、また同様にエスト・プレイヤーと言う男は案外に特別製だった。それは二度ばかり、前世の記憶と言う物を継承していることから考えられる特別製であり、そしてその二度の人生を全て敵対に費やしたエスト・プレイヤーと言う男もまた特別製だ。
エスト・プレイヤーの最初の人生は牢屋から始まった。大量殺人犯として逮捕されていたのだ、と後になって彼は知るが、しかし、それ以前の記憶を全て失っているのはなぜなのか理由はわからない──殺人ができないことへのストレスだ、と彼自身は考えている。
そして彼は死刑になった。空っぽのままに死に至った。その表情は、きっと清々しい程に空っぽだっただろう。
次の人生は異世界だった。──別の世界でかる、と言う定義で言えば異世界だった。何せ、現代日本の技術そのままに、魔法と言うものが追加されていたのだから。
そこでもエスト・プレイヤーはエスト・プレイヤーだった。人を殺すことをゲームと呼ぶのはこの生から──或いは、最初からだったかもしれない。
その世界でエスト・プレイヤーは全人類を滅ぼした。
二度目の人生なんて言うものを送っていたからか、彼は物語の終わりを見ることが出来なかった──故に世界を滅ぼし、その世界をもとに繰り広げられる世界の終わりを確かに見た。
しかし全人類が絶滅しようとも物語は続いていた。続いていた──エスト・プレイヤーは物語の終わりまでを読み切ることが出来なかった。
そして死んだ。何もしないまま、四日程何もせずに座り込んで死んだ。
──そして、その後、終わったと思った自分が呼び起こされた。
『物語の終わりを知りたいか──ならば、次の生に期待せよ。人間と言うには悍ましい、しかし化物と言うには可愛らしい貴様に一つ、能力を授けてやる──その後創作の世界へ、モンスターハンターの世界へ貴様を送る』
エスト・プレイヤーがそこで見たのは神を名乗るその存在だった。そんな存在を前にしてもエスト・プレイヤーはエスト・プレイヤーだった。
『じゃあ──人間のまま狂竜症を周囲にぶちまける人類の天敵に僕をしてくれよ』
『──理由を問おう』
『だって、ほら──僕がラスボスになればそれを殺す主人公が現れるだろ? ラスボスを殺せば物語は終わりだ。僕が渇望する、創作としての世界の終わりはそこなんだ。だから頼むよ、僕をラスボスにしてくれ』
『──良い。良い、良い──貴様程の破綻者を見るのは愉快だ。貴様の願いを叶えてやろう──ついでにあと一つ、何か叶えてやらんこともない』
『そうだなぁ──じゃあさ、妹ってのが欲しいんだ。僕と同じ体質の女子一人、用意してくれ。二人揃ってラスとボスだ。どっかのエンジンみたいに用意してくれ』
『──理解した。貴様の破滅が華々しくあることを』
エスト・プレイヤーに取って人生とは遊戯だ。読み物だ。
故に彼は今日も、主人公を探している。
◇
「どうやらこの街は巨大で、そして同時に強大のようだね。これはいい、よい、僕たち兄妹に取って強大であることはよいことだ」
「洒落かよ、面白みもねぇ」
血液塗れとバックル野郎がドンドルマに到着した。
ドンドルマの入口は行き来する人も多い、故に目立つ二人を通行人がちらちらと、或いはしげしげと見つめていたりもする。それに少女は気不味そうに、その正反対にエストは楽しそうに、その道を歩いていた。
少女の方がまともな感性をしているのは間違いがないが、しかしどちらにしても二人は他人からズレていると言うことは間違いない。殺人への忌避感が一切ない時点でそれは察することができるものだった。
「さて──」
エストがちらり、と少女を見る。少女は何だ、と疑問に思い、どうしたのか尋ねようとすると、エストは少女を見たまま──実際にはその服を見たまま言った。
「僕の妹にそんな服は似合わない。服を買わなければ」
お前の妹じゃねぇ。
「妹よ、君に似合うのは──ドレスとかはどうだい?」
センスもねぇ。
エスト・プレイヤー。男性。三度程人生を続けてはいるが、服装についての関心は皆無のため同時に服装についても詳しくないのだった。
はぁ、と溜め息を吐き出した少女を見咎めたエストは軽く少女の頭を手で叩きながら、「溜め息はよくないな──よくない」、と、縁起的な観点で以て少女に注意した。
実際溜め息はプラスになることが多いのだが、しかし少女はそれを知りつつ同時に縁起が悪いことも知っていたので無言で頭の上に乗った手を弾いたのだった。
「どこに行く?」
「おい、無計画かよ」
少女は自身の兄を騙る男にそうツッコミを入れ、じゃあどうするかを彼女は考えてみて、
「──まずはハンターズギルドとか?」
◇
「案外どうでもいいことだと思っていることを永続的に繰り返すのが人生だ。そして自分の自分である所以を知るのが人生だ。しかしあまりにも人生は知るべきことが多く道半ば死に行く人は数え切れない──つまりだからと言って人生、完全に人間個人が知れることなんてのは少ない。例えば貴様が人間と言う種の天敵であるように。例えばそこの同類が人類の天敵であり、しかし人類の選定種のように。そのことを理解できる人間なんて言うものは絶望的なまでに少ないのだ。人間とは鋭い知性を持ち独自の言語と言うツールで意思を伝えることを学んだ。しかしその分、どこか海に揺蕩う海月のように寿命を知らぬ存在ではない。百も生きれば充分だと思うか? 百なんかでは足りない。歴史が言い伝えられるように、人間が人間についてを全て学ぶには百などでは足りるわけがない。更に人が人生を掛けて学んだ答えが必ずしも正しいわけではない。歴史の精査がわからぬように、人間の導き出す答えと言うのも必ず正道とは言い難い。さて──そんなどうでもいいを繰り返す人生の、或いは意味のあるかもしれない場所、ハンターズギルドへようこそ。歓迎しよう、細々とな」
集会所、酒場──そこでエストと同席した男はそう言い、そして手横にある琴を軽く指で鳴らし、そして不満げな顔をして不遜に笑う。
不遜、しかし不敬はない。慢心とは強者の義務にも等しいもの。慢心をしない強者など、それはプライドのない畜生だろう。少なくともエストはそう思っていた。
「やけに話すね、お喋り好きかな?」
「そうだろう、吟遊なんてものをやっていれば、自然に語りが現れるものだ。咄嗟に口に出る、と言う言葉は中々面白い。意味は違うかもしれんが、現象自体に大差はない」
「そうかい。僕も戯言歌は好きなたちだよ。あれは中々愉快なものさ」
「言葉はいい──人間が他者とコミュニケーションを取る為のスキル。それを扱い楽しむ歌と言うものは特に好みだ。しかし貴様、正直に言えば歌よりは詩派だろう」
「そうだね。言葉に書き起こすことはいい、楽しいさ。だから僕は自分の人生を文字で表せる文であってほしいと思うな。それよりはラスボスとして他者に書いてもらいたいけどね、最近は魔王様需要が出てきてプレイヤーである勇者が虐げられている──これは何ともつまらない。魔王は敵として、勇者に討たれるからこそいいのだから。そのあと勇者がどうなろうとも別に興味はないけれど」
「そう言ってやるな、天敵。人間はアンチテーゼと呼べる作品を求めるものだ。真っ向から反目する作品は見ていて愉快。先駆者の否定、現実の否定。そうして自分を強いものと見せたいだけなのだろう」
「ふーん……人間より強い君からすればそうなるんだろうね。僕はそうとは思わないな。懐疑の友情、実らない努力、出来ない勝利。そんな現実から逃げたいのは当たり前じゃないか。僕は人間だからこそ、人間なんてろくでもないと分かるし、人間だからこそ人間を滅ぼせばいいんだと思ってるんだから、人間なんてもの──全部が全部、ろくでもない。真っ向から否定するのは良くないけどね」
「だが分かりやすく知能があり意識、自我と呼べるものがはっきりしている以上人間以外生物に評価を付けることは出来ないだろう? 評価なんてものは勝手に貴様らが付け、事実と正逆でもそれを真実とする」
「そうだね。だからこそ見たいのさ。僕と言う人類に対する共通の天敵を用意し、そこから主人公と言う存在が現れることを」
「貴様の指針は理解した──そしてそれが愉快であるだろうことも理解した。ならばそれを記録してやろう。貴様の愉快な死体を描写し、そこで貴様の物語を終え最後の行に『と言うのは冗談で人類はみんな死にました』と加えて我々の間の娯楽にしてやる」
「そうかい。僕の死に様を描いてくれるのは嬉しいな。そしてそんなくだらない、世界の全てを無駄だと断じるようなその終え方は素晴らしい。是非ともやってくれ」
「ならば挨拶とやらをしようか? 語れる名など持ってはいないが、そうだな、只の吟遊詩人と言うことでどうだ」
「それでいいよ、僕はエスト・プレイヤー。今は寝てる横のこの女子が──ごめん、名前知らない」
その言葉にくつくつと笑い、そして人類の天敵はその男を見る。
赤衣が彼の象徴のようだ──それは一度見れば忘れられない。
その男とは『吟遊詩人』。
人類の観測者であり、同時に人類の試験官である。
会話が楽しすぎたんで無理に打ち切りました。この二人の掛け合いは楽しいんですけど、互いに通じているようで通じていないような感覚が一番似合いだと個人的に思っているので中々厳しい感じです。技量が足りてないですね。