Doki Doki Literature Club! ~お前をセーブするために~   作:zelkova

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 君も随分と運が良い。逆らいようも足掻きようもないタチの悪い呪縛から解放されたばかりか、本来不可逆的に進み続けるしかなかったはずの道を、もう一度進む事を許されるとは。
 ……いや、そうでも無かったのか? あるいは今の君には、一度目で君を拘束した呪縛よりももっと酷いものが絡みついてしまっているともとれるからね。

 まあ良い。
 ボクが言いたい事はだね。

 焼き直しといえど油断はするなよ。三度目があると考えるな。
 事が終結するまでの間にわずかにでも安心したその瞬間に道は打ち止め、『オワリ』だと知れ。


『自分らしく生きることができない人には次なる道は開けない』

 カーテンを豪快に開いて視界に移った景色に、訳も無く涙が出そうになった。

 

 ……っていうようなセリフを、最近買ってる雰囲気がおしゃれなタイプのラノベでちょくちょく目にするんだが、今その主人公の気持ちが分かったような気がする。

 

 いや実際さ、創作されたセリフの不自然さをどうこう言うとなると別にあれに限った話じゃねえんだろうが、まあ冷静に考えると意味分かんねえよな。理由も無しに涙が出る訳ねえだろバカか。

 基本的に涙っていう物は、悲しいって感情を頭の中で完結っつーか、処理しきれなかった時に、余剰分のストレスを発散するため脳の命令で目から溢れ出る体液の事だったよな。興味本位でググってみたら大体そんな感じの事が書いてあった気がするから多分間違ってないはず。

 

 でも結局、今現実にこうして、俺には理解できないなんらかの要因によって涙がこぼれている以上、そんな謎の状況を説明づけようとすると、さっきのその『意味分かんねえ』表現を使う他無いとかいうこの不条理っぷりよ。なんだこれ。

 

 オタク趣味をさも低レベルなものであるかのようにはやしたててくるムカッ腹立つあの中学時代のクラスメートどもがこちらをあげつらうための文句に、『どうせお前の部屋なんて、()()()()グッズだかなんだかで散らかって、足の踏み場も無い汚部屋になってんだろ』とかいう、クソムカつく……にはムカつくんだが、それ以上に困惑が勝つほど時代錯誤な偏見にまみれた物があった。

 そんな経緯もあって、俺の部屋はシンデレラの継母が裸足で逃げ出しそうなくらいには、清潔、整理整頓、ゴミなど皆無、と三拍子そろった理想的な物に仕上がっている。目に入ってくるようなドデカイ埃があるはずも無し。

 

 じゃあどうして今俺の目からは今もなお涙がこぼれ続けているんだ? ホントマジでどういう事なのこれ。意味分かんねえ。

 男なら泣くなと教えられて育った身の上、涙をこぼすなど結構な屈辱だぞ。

 ……どうしてこうも涙が止まらないんだろうな。

 

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 どうしたものかとため息をつきながら、タッセルという名前があるらしい事を最近知って驚いた覚えのある、カーテンをまとめるアレを手に取った。

 

 

 

 

 

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 雨上がりの快晴は良い。

 

 天気予報でラニーニャがどうとか言ってた事と関係があるらしいが、今年の夏は溶けちまいそうに暑かった。熱にやられて野菜が異常な成長をしてしまったとかいう話を夕飯時のニュースで聞かされるあたり、そりゃあもう相当なもんだったんだろう。

 創作世界ではともかく、この現実においては物を言わない事になっている野菜が、異常成長という形で主張を始めるほどの暑さだ。日常的に物を言って生きている人間が無反応でいられる訳も無い。何が言いたいかっていうと。

 野球部の連中が2、3人熱中症でぶっ倒れたっつー話を小耳に挟んで、やはり帰宅部こそが最強にして最高なのだと再確認して優越感に満たされたもんだな! すぐにアホらしくなって考えるのを辞めたんだが。水分補給はこまめにしてないとああなるって教訓にしておいた方が10倍有益だ。

 

 まあそんなたわいのない回想を入れるのもほどほどにして、冒頭の唐突な雨上がりなんちゃらの意味を解説すると。

 単純な話、雨が上がった後は涼しいわけで、久しぶりにテンションが下がらない気温というか、空気だった事に浮かれてたがための台詞だったって事だな。雲ひとつ無い空とか単純に見ていて気持ちが良いし。

 

 束の間のスッキリ気分だという事は分かっているので、どうしても一定量気分が落ち込むんだが。

 

「おーはーよーー!」

 

 そうら来ましたよ。

 閑静な住宅街に響き渡るけたたましいと形容して余りある大声に、思わず顔をしかめた。

 

 んでもって即座によーいドンで駆け足だ。

 

「え、ちょっとちょっとぉーー!?」

 

 はっはっは、追いつけると思わない事だな。中学時代から一貫して帰宅部の俺の足を舐めるなよ! んんんあっれえ変だなあ、微塵も誇れる要素がねえぞそりゃそうだっつの。男女の体力の差と不意打ちで走り出した事だけで引き離したにすぎないのを、なんかすごそうな言い方で飾り付けてみただけだしな。順当だよね! しっかしまあなんだろうな今日の俺、朝っぱらから謎に泣いてたくせして深夜テンション入ってるぞ。朝の8時なのに。こいつは朝からテンションたっかいサヨリを笑えねえなあ。

 

「はぁ……はぁ……追いつけた!」

 

 結局信号に引っかかって追いつかれてるし。うわあ俺カッコ悪っ。

 

 

 

「ッチ、タイミングが悪かったか……まあお疲れさん。そしてよくぞ俺に追いついた。ご褒美にアメちゃんをやろう」

 

「完全に置いていく気満々だった上に扱いが小学生!? でもアメちゃんありがとーっ!」

 

「腰の入った良いツッコミを入れるくせしてアメはちゃっかり持っていくのか。こいつは予想外だったな、やらなきゃ良かった」

 

「えー、まるで私が遠慮したらすぐに引っ込める気だったみたいじゃん!」

 

「それ言いだしたら最初に寝坊してきたのはお前だろうに。よく普通に持って行けたもんだよ。そのくせ朝ごはんはしっかり食べてきてるのには恐れ入ったわ全く」

 

「あれ、食べてきたって言ったっけ? 歯磨きちゃんとしたから「いやちょっと待て」匂いっ……え?」

 

「わざわざ待ってやってる俺をほったらかして歯磨きまでしてきたのかお前は!?」

 

「だ、だって虫歯になったら嫌だもん! そこまで言わなくても良いじゃん!」

 

「お前はもうちょっと寝坊したんだって事実を頭ん中で反芻して反省しなさい!?」

 

 このどこか天然入っているというか、半端に食い意地張っているのが、なぜだか幼馴染なんて関係が続いているサヨリって奴だ。

 もしも今の時期に初めて出会っていたのなら、『会えば挨拶する程度』以上に交友を深める事は無かったんだろうなと思えるタイプの女子。

 どうして今の今まで自然消滅する事も無くこういう関係が続いてきたのかは、『万有引力がなぜ存在するのか』と同レベルの難問だと思う。あれってそれ以外に説明がつかないもんだからとりあえず存在が認められてるってだけで『どうして』あるのかは明らかになってないんだそうだな。んな事はどうでも良いんだよ。

 今念頭に置くべきなのは。

 

「もうとにかく走るぞ! バカな事言う暇があったら走る! 遅刻するぞ!」

 

「ま、また走るの? というか言い合いになったのは○○○の方から」

 

 こちとら無遅刻無欠席を保ち続ける事に命かけてんだよ、今更途切れさせてたまるかってんだ。

 

「ちょ、ちょっと休もうよ、食べたばかりで走ったからお腹痛くなっちゃった」

 

 ……たまるかってんだ。クソ。

 

「……ちょっとだけだぞ」

 

「……って言えば止まってくれるあたり、○○○ってやっぱり優しいよね~」

 

「……は、ん? え、おま、サヨリ、お前、……ああもう走れや‼」

 

「アッハハ! 分かってる分かってるー!」

 

 ホントなんでこんな奴と付き合いが長いんだろう。万有引力の存在理由並に謎だ。

 

 

 

 

 

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 進学校を自称しているうちの学校の教師がする授業内容は、基本的に面白くない。

 面白くないから頭に入ってこない。

 頭に入ってこないから俺みたいな生徒は真面目に授業を聞こうと思わない。

 俺みたいな生徒がいたからなのか教師の方にもやる気を感じない。

 でも向こうは俺達と違って仕事の一環でやっている身なのだから、俺達と教師でどちらが相対的に悪いのかと考えてみれば職務に真面目に取り組んでいない側である教師の方であるだろうと言えるのは極めて論理的な帰結なわけでつまるところ俺は悪くない。

 

 ……最後を連続の『ない』で思考を〆てみる遊び、即興で考えたにしては楽しいな。

 いったいなぜ即興の暇潰しなんてしようと思ったのかも、俺の思考回路にどんな化学反応があったらこんな遊びを考えつくのかも、考えついた所でなんでそんな事を大真面目にやろうと思ったのかも、なんにも分かんねえが。まあ楽しかったし結果オーライって事で良いよな。いや何にも良くねえよ。どこらへんがall rightだよ。うちの学校の悪循環っぷりえげつなさすぎだろ。結構ありふれてそうな話だけど。いやありふれてちゃいけねえのか。これも立派な社会問題だよな、建前上義務教育は終わった後に自主的に入る事になってる学校で、真面目に授業受ける気が無い生徒の存在も、その程度でやる気無くしちまう教師の存在も。それを問題だと憂いているのがまさにそのやる気を出していない生徒本人だってのが始末におえねえけどダメだこれ考えてくとドツボにはまる類のやつだ。

 

 

 ……どの道シリアスな事を考えていようと今みたいに益体も無い事を考えていようと、それを考えるのが俺の頭である以上は最終的に至る結論なんてたかが知れてる訳だし。

 まあそんなら、俺が考えてて楽しい事考えてた方がよっぽど良いかね。その方が精神衛生上たいへんよろしいってもんだ。と誰にも聞かれてない事を良い事に使い方が頓珍漢な日本語をぶっ放してみる。

 

「やっほー」

 

 頓珍漢な山彦が聞こえてきた。違った。呑気な幼馴染の声だこれ。

 

「また随分と気の抜ける声だなオイ。どこのどいつ……ん?」

 

「ちょっとおー! 私だよ! サヨリだって!」

 

「ああはいはい分かってるっつの、とりあえず寝覚めの頭に響くからもうちょいボリュームを落としてくれや。それよりもだ」

 

「……それよりも?」

 

「もう全員帰ってたのな。今気づいた」

 

「気づくの遅いよ!」

 

 んな事言われても気づかなかったとしか言いようがなくて困る。昔っから妄想を始めるとその中に入り込みすぎるきらいがあるんだよなあ。その度合いは親が俺をそういうふうに産んでくれたからこうなんだろうなと思えるぐらいのレベルで。というか入り込みすぎて妄想内の台詞を大声で叫ぶもんだから、聞きつけた親にかなりガチめな声で『何やってるの』って言われた事があるっていう。

 んでもって中学時代のぼっち時代の経験が癖の悪化に拍車をかけてきた記憶が……ああ思い出したらまたイライラが再燃してきたなクソ、何が『美少女幼馴染羨ましい爆発しろ』だ、どんなに顔が良かろうが歳1ケタの時から見続けてたら有象無象と見分けつかんわ、クソがこれだから幼馴染キャラの良さだけは俺にゃわかんねえんだ大体アイツらマジでなんなんだよ毎度あのテンションに付き合わされる俺の気持ちをもっとくみ取りやがれ―――

 

 と外にさらせばドン引き間違いなしな思考をまき散らしていたところに猫騙しがとんできた。うっひゃこれはしゃっくりが止まる。最初からしてなかったけど。

 

「……落ち着いた?」

 

「……お、おう」

 

「大丈夫? なんか、すごい顔してたよ? 悪い夢でも見たの?」

 

「体感そんな感じだが今日見た夢は思い出せねえんだよな……なんか、うん、わかんねえ。とりあえず大丈夫ではないんじゃねえか」

 

「自分でそれ言っちゃうの……?」

 

 ……うん。実際今日の俺は『大丈夫』ではねえな。自分でも思うし言っちゃうよそこは。なんでこんなどうでも良い事ばっか考えてるんだろうな。それも話相手を目の前にして。

 

 

 ただまあ、実際に俺の精神状態が何かおかしな事になっているにしても。

 

 

「……そうだな。ちょっと今日の俺は大丈夫ではないのかもしれない」

 

「……あれ?」

 

「だから家で養生する事にした」

 

「あれ、ちょっと待って」

 

「とゆーわけで今日は俺さっさと帰るわああああ‼」

 

「行かせないよおおおお!?」

 

 クソ恥ずかしいから直接口に出したりはしねえが。

 

「うっわバッカお前なにしやがる、今日の俺は大丈夫じゃないって言っただろうがっ! 帰るっつったら帰るんだよお‼」

 

「どう見てもそれを口実に部活についてはなあなあにする流れじゃんそれ! ダメだよそんなの!」

 

「……!?」

 

「その本気で驚いてるみたいな顔辞めてよ! それぐらいの察しもつかないアホの子だとでも思ってたの!?」

 

「うん」

 

「即答!? みたいじゃなくて本気で驚いてた‼ ……ああもう、だからさあ」

 

 絶対にしねえが。

 

「……私は○○○が大学に行くまでに、社会性とかスキルとか、そういう物が身につかないんじゃないかって心配してるんだって、前にもそう言ったじゃん」

 

「……なんでその話題を蒸し返すんですかね」

 

「そりゃあいくらでも蒸し返すよ。○○○このままだと何年か後に世間に馴染めないでニートになっちゃうよ?」

 

「そこまでか。……そこまで言うほどひでえか、俺? ネガティブな意味でだがある種の極致というか到達点だろ、『ニート』って」

 

「そんなに遠い世界の事でも無いんだよ。今のご時世、就職する人に求められるハードルは○○○が思ってる以上に高いんだからね。そのままでいるのは危ないって事くらい分かってるでしょ?」

 

「……なんでお前の口からこんな真面目な話を聞く事になったんだろう」

 

「へ?」

 

「いや確かにね? 至極真っ当かつ付け入る隙も無いよ? 分かってるって。でもなんかな。良く分からんがサヨリの口から真面目に説教されると微妙にムカつ「どーいう事!?」くうがあああちけえちけえうるせえなあ!? あー悪かったよ! 部活見学に行きますよ‼」

 

 コイツによけいな心配をかけたくないと考えている自分がいる。

だからなんかこう、妙にハイテンションになってた自分に対して違和感を覚えている事も、部活動というものに対して感じる、面倒くせえなあという気持ちに加えて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、なんだか入る事に忌避感がある事も、口にしようと思えないんだが、心配している旨を伝えられると結局従ってしまうわけだ。

 

 

 ……まあ良いや。新しい事を始めようって時にゃ、大抵なんとなく不安な気持ちになるもんだ。これも多分それだろう。俺のハイテンションに関しても付き合いの長いサヨリが特に何も言わなかった以上、俺が思ってるほど酷いもんでも無さそうだし。こういう、最終的には丸め込まれてしまう流れに関しては微妙な気持ちだがしょうがない。

 

 見に行くだけ行ってみますかねー。

 

 

 

「んで、お前が入ったっつー文芸部だったかを見にいけば良いのか?」

 

「……あー、えっと、見学っていうか、その、もう新入部員連れてくるねって言っちゃったんだけど」

 

「……あのさ、サヨリ、選択の自由って知ってる?」

 

 ……やっぱりとっとと帰るべきだったかなー。今更だけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……やっぱり手段選んでる場合じゃなかったかなー。今更だけど」

 

 




 逃げ道は塞ぐもの。外堀は埋めるもの。

 正直サヨリのキャラが4人の中で一番掴みづらくて難航したので、原作より少々騒いでもらいました。一話で理由づけはしてあるし、ある程度の強引さがある事自体は原作準拠だろうしギリセーフかな、と。

 しっかし我ながらあからさまな描写ばっかりだな。でも一番自然な形を作ろうとするとこうなるし。しゃーない。
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