Doki Doki Literature Club! ~お前をセーブするために~   作:zelkova
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その思い切りの良さは、はたして吉と出るか凶と出るか。

……凶と出るなんて考えていたら、そこまで突き抜けた事は出来ないのか。


『人生はどちらかです。 勇気をもって挑むか、 棒にふるか』

 今更ながらさっきの流れをぶった切ってツカツカ帰ってやろうかと真面目に検討しかかったが、すかさず横から聞こえてきた、

 

「ナツキちゃんがカップケーキ作って待ってるんだよー!」

 

 このセリフひとつで一発KOでしたとさっと。この即堕ち二コマ感がたまらないほどバカバカしいぜ。タイミングが神すぎて何か()()()()()()()()()()()レベルだ。

 

 ……いやいや。いやいやいやもうなんと言ったもんですかね、万年金欠で甘味に割ける金がほとんど無い高校生に向かってその殺し文句は、ちょっと卑怯じゃないかと思うわけですよ俺は。万年金欠なのは俺の金の供給源の少なさとか金遣いの荒さとかの問題だけどさあ。いやそれにしてもカップケーキ。カップケーキときましたか。マジですか。

 男子高校生の耳は『ナツキちゃん』のワードを聞き逃しはしねえぜ。ケーキが食えるってだけでも万々歳だってのにそれを作ったのが女子ときたもんだ。

 女子と! きたもんだ!

 

 あんら聞きました奥様、文芸部に行くだけで『女子の手作りケーキ』が食べられるそうでしてよ奥様、何気色悪ィ勢いでテンション上げてんですか奥様、バッカお前何言ってんだ奥様、これでテンション上がらなきゃ男子高校生を名乗る資格はねえですよ奥様、価値観の押しつけはいけねえ事よ奥様、どこぞの目が腐った男子高校生はそんなものにテンションをあげていても意味は無いのだから分をわきまえて勘違いをしないよう努めなさいと仰せですよ奥様、そういう言い方すると仏教の出した結論みたいな高尚な話に聞こえてくるあたり日本語って不思議だよな奥様、実際のところただ臆病者ってだけで内心は俺達と大して変わりはしねえのにな奥様、そろそろパチモン臭いし吐き気してくるしまるで意味の分からないオクサマ連呼を辞めにしましょうや奥様。

 

 

 

 まあ真面目な話、サヨリのやり方が多少気に入らなかろうと、バイトも面倒くさくてやってない、休日に外に出て体動かそうなんて発想に至っては頭のどこにも存在しないし発生する余地も無い系男子であるこの○○○が、感情だけでこの誘いを蹴って家に帰る権利など無い事は重々承知の上なのである。向こう方からしてみりゃあ、サヨリが『新入部員を連れてくる』と約束した、それで全部である以上は、俺が聞いてねえぞと文句をたらそうが何しようが知った事では無いのである。はなはだ不本意な話だが!

 

 こうなった以上はつまらない部活だったにしても、しっかり話をして、その上でお断りしないといかんのだ。面倒くさかろうが、そういう小難しい事をする事、それこそがスクールカースト底辺の者どもの宿命よ。それができなかったからそこに堕ちてきた同胞諸君は、そんな自分の振る舞いを反省して、自らを変革してみれば良い。なんにも変わらねえから。救い無さすぎてワロタ。……そろそろ自分でも何考えてるのか分からない方向へ迷走する思考をいい加減制御できるようになりたいもんだ。

 

 実際サヨリの部活仲間をそうそう穿った目で見ていたいわけじゃないが、相手方に下手に『約束しといてドタキャンする奴』なんて印象は与えておいて損はあれど得のあるものじゃないだろう。相手がそれに憤慨して悪評を広めたりしてこようものなら、学校内じゃ数少ない俺の居場所が完全に失われかねない。その可能性の脳内再生の生々しさ加減といったら感動ものよ。うっ、忌々しい便所飯の記憶が。

 もちろんどうなるかは相手の性格にもよるのだろうが、物事は常に最悪の可能性を想定するものだ。我ながら臆病なもんだが、俺にとっちゃ無視できる範囲を超える可能性である以上仕方がない。

 

 こうしてこの俺○○○は、どこぞのアヴェンジャーな王子のごとく行くべきか行かざるべきかそれが問題だのなんだのと脳内で格好をつけながらも、極めて論理的かつ理性的な思考を以てこの難題に対して文芸部とやらに行くという結論を出したのである。

 決してカップケーキの魅力につられてホイホイ魂を売るように足を運ぶというわけではない。ないったらない。

 

 トイレの鏡に映る、自分の間抜けな面を見てテンションを下げ、ハンカチ片手に特に意味のない自己弁護をしながら、ワクワクを隠しきれていないらしいサヨリに苦笑いをこぼしてトイレの出入り口に歩を進めた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「文芸部にようこそ。お会いできて嬉しいです。サヨリちゃんからあなたの事はよく聞いていますよ」

 

「ちょっとサヨリ、本気で男子連れてきたの? 雰囲気ぶち壊しじゃない」

 

「あら○○○君、来てくれたのね! 嬉しいわ、私からも言わせてちょうだい。文芸部へようこそ!」

 

 ……。

 

「あはは! そんなにツンツンしちゃってナツキちゃんったら! か~わ~い~い~」

 

「ひ、人聞きの悪い事言うわね! 半ば女子限定みたいになってたところに男子が来たんだからちょっと混乱しただけじゃない! 何を本当は嬉しいみたいに……!」

 

 ……わーにんわーにん。深刻なエラーが発生しました。

 ヤバいヤバいヤバい。

 なにこれ。

 このままだとヤバい。

 何がヤバいのかを言語化する余裕すら無い。

 

 つまり。

 

 これから。

 

 どうする。

 

 今自分は。

 

 何をすれば良い。

 

 今の心境をまとめよう。

 

 

 

「ものの見事に美少女しかいねえじゃねえか! 神様ありがとう!」

 

 うっわやっべ口に出しちまった。

 

 

 

 2秒で平手がとんできて、3秒で舌を噛み切りました。

 普通ならどうあがいても変態のそしりを免れなかった発言をした事をこれで許してくれるってんなら、まあやるべきだろ。このぐらいの勢いでお詫びするぐらいはさ。

 いやあ危なかったわあ。口に出すだけで済んで良かったわあ。

 かんっぜんにあの瞬間、一瞬だけとは言っても4()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()やがったからな、どういうわけだか。サヨリはギリギリセーフとしても他はぶっちぎりにアウトだよバカ野郎。

 

「あ、あんたねえ! バッカじゃないの!? よりにもよって第一声がそれって」

 

「いやマジで申し訳ない。さすがにあの流れでこの発言はバカ丸出しすぎたな。本音なら何言っても良い訳じゃねえだろうにあれはねえよな、本当にごめん」

 

「ちょ、え、ほ、な……」

 

「常識的な範囲でなんでもするんでどうか通報はしねえでください頼むから。この年で痴漢の前科がつくのは勘弁だ」

 

 腕を組んで厳しめの口調でこちらを糾弾するピンク髪のロリに対してプライドを捨てた懇願をする男子高校生の図の見苦しさときたら、往生際悪く勝負の仕切り直しを求めてごねるタイプの小物キャラにすら勝るとも劣らない有様だろうよ。

 笑わば笑え。そしていつか痴漢冤罪に人生をぶち壊されてそれでも僕はやってへんしとかのたまっていれば良いと思うよ。いやなんで関西弁が出てきた。

 

「ちょ、ちょっと、痴漢って「本当に申し訳ありませんでした! 深く反省しておりますゆえなにとぞ! なにとぞ通報だけはご勘弁くだせえ!」バカじゃないの!? 土下座までする、普通!?」

 

 見兼ねたモニカが割って入ってくるまでこの茶番は続いた。ここまでしたんだ、良くてクソ迷惑でめんどくせえ奴扱いになるだろうが、まあ第一印象をそんなもんで留めておけりゃ、期待値の度合いもちょうどいい塩梅になるよな。

 

 

 

 

 

「そ、それで、聞いた感じ二人は顔見知りなの?」

 

「ええ、そ、そう、ね」

 

「つっても話した回数は両手で数えられるかどうかってくらいの……そこ詰まるとこかね」

 

「あ、ご、ごめんなさいね、その」

 

「ああいや皆まで言わないで結構。あれだよな、今さっきの俺完全に初対面の相手との距離感はかり間違えた勘違い野郎だったよな」

 

「え、あ、いえ、そういうわけじ「そりゃまあそういう対応になるのも順当だよなあ」いや、だから、ね」

 

 このポニーテールの良く似合う女子とはそれなりに見知った仲だ。

 名前をモニカ。サヨリほど近い仲だとは現状口が裂けても言えねえが、相対して気まずくなるような仲というほどでもない。

 特別近くもなければ、遠くも無い。卒業後に連絡を取ったりはしなさそうな関係。

 取りたがる野郎どもは多そうだけどな。何せ絵に描いたような高嶺の花。

 眉目秀麗、文武両道。クラス人気()()()()()()()()()と三拍子そろった完璧超人。早い話が女子版出○杉? 大体そんな感じで合ってると思えてしまうあたりがもはや劣等感すらわいてこないね。

 

「うー……この話はもう終わりにしましょうか!」

 

 こんなふうにクラスカースト底辺野郎への気遣いも欠かさないあたりまさに完全無欠の美少女だよ。どこぞの超能力(サイキック)な高校生も認めるレベルだな。いつもよりちょっとばかし歯切れの悪い話し方なのは軽く気にかかるが、気にしたところで分かんねえだろうし別に良いや。

 

「そ、そうだね! ほら○○○、スペース作っておいたから、私かモニカの隣が空いてるよ!」

 

「おーそうか、あんがと。んじゃ遠慮なく」

 

「……」

 

「あ、アハハ、その、○○○君?」

 

「なに不満そうな面してんですかね」

 

「空気読んでよ! 確かにモニカの隣も空いてるって言ったけどさ!」

 

「おいバカにすんなよ。見知った奴を隣に置いときたい感覚ぐらい二秒で察しはついたわ」

 

「じゃどーして!?」

 

「わざわざモニカの隣っつったし、普通にそういう()()だと思った」

 

「誰の目を意識して!?」

 

「誰かの」

 

 こういうバカなやり取りは何度やっても飽きないもんだが、引き際は見極めてモニカにことわってサヨリの隣に移動する。これを怠ると結構長い事拗ねるからな、コイツ。面倒くせえったらありゃしないが、実際モニカの隣だと完全に初対面な黒髪美少女、ユリの隣にもなったりするので、ちっと抵抗があった。

 どこか同じ匂いを感じる子だったが、だからといってイコールシンパシーを感じるとまでいくかといえば意外とそういうわけでもない。いわゆるぼっちという生物はパッと見同類だったって程度ですぐに会話が弾んで仲良しこよしだいやっほうとなれるほどに単純な精神構造をしちゃいないのだ。

 

 リア充と違って。

 

 不用意に近づいてパーソナルスペースを侵す訳にはいかない。共通の趣味とか見つかるまでは大人しくしているが吉だ。席を移動する時心なしか残念そうな顔をされた気がするが大方煩悩が作った希望的観測だろ。

 つまるところ、お互い、ぼっちにはハードルが高かったっていう話だな。幼馴染がいる奴が何を言うかとかいうツッコミはNGです。アイツが用事でいない時とか、疎外感を感じる状況なんざいくらでもあるんだよ。ここ最近ちょくちょく休むようになったし、よけいにな。

 

 

 で、ご機嫌斜めな(だいたい俺の存在が原因だと思われる)ナツキと呼ばれたロリはカップケーキを、ユリは紅茶を入れに行った。一瞬良いのか? と思ったが、何やら食べ物系は先生に許可さえとったなら、意外と融通はきくらしい。初めて知った。

 アッハッハ、おかしいなあ軽く死にたくなってきたぜ。知ってたところで台所なんざ使いやしなかっただろうが、単純に知らなかった事に軽くショックを受けた。どうせダメだろとか聞く前から決めつけるって良くないね……。

 

 などと相も変わらずバカバカしい事を考えていると、トレイを両手で抱えたナツキがテーブルのそばに戻ってきた。

 彼女はトレイをテーブルに置き、アルミホイルに手をかける。

 

「準備はいいかしら? ―――じゃじゃーん!」

 

「うっわああぁぁ~~っ‼」

 

 ……正直、舐めてた。

 サヨリの大声を大げさだと笑い飛ばせないくらいには、そのカップケーキの完成度は高かった。目の前に出されたそのカップケーキは、ネコをモチーフに作られているらしい。

 アイシングとかいうんだったか、このひげを描いてるのは。耳はチョコで再現されてる感じ?

 と悠長に見とれているとこの手の早い幼馴染ときたら、もう食べてやがる。 

 

「ほいひ~い!」

 

「このいやしんぼが! もう口つけやがったな、ずりぃぞ! あ、ナツキ、いただきます!」

 

「え、ええ。どうぞ」

 

「ウフフ。私もいただきます」

 

「っしゃオラァ! ハグ……」

 

 口に入れて抱いた感想。

 ウマァァァァァいッ説明不要‼ 以上。いや以上じゃねえよ。でもダメだ。語彙力が焼失した。消失じゃなくて焼失した。燃え上がるようなという形容が一番しっくりくる情動が、俺の心を支配していたからだ。

 あんまり期待値を上げてなかったところに飛び込んできた、ドがつくほど新鮮で、なんだか()()()()()()()味。

 

 思わず涙出そうになったがさすがにこらえたぞ。初対面の女子に涙もろい男子という印象を与えるのは気にくわん。

 

 

 

 気にくわないが……―――――なぜだろうか。すごく、俺はこの味を、否、この味も求めていたのだと、そんな確信のようなものを、ただ感じていた。

 

 あ、テンプレツンデレがリアルで見られるとは思ってませんでした。二つの意味でごちそうさまです。

 

 

 

 

 

「で、モニカ……部長って呼んだ方が良いんかね」

 

「モニカで良いわ。まだ正式に入った訳じゃないんだし」

 

「あ、そう? りょーかい。……言い方からして、やっぱあれか、向こう方の認識では入る事は確定事項になってる訳ね……」

 

「え? ……ごめんなさい、聞こえなかった、もう一回良い?」

 

「ああ大丈夫大丈夫、ちっと独り言が漏れただけだから」

 

「あら、そう」

 

「そんでさ、モニカ。気になったんだけどさ」

 

「何?」

 

「なんで自分の部を立ち上げようって思い至ったんだ?」

 

 これだ。実際、初めにここでモニカの姿を見た時から気になっていたんだ。なんで文芸部なんてものを作ったんだ、彼女。

 心境の変化でもあったのか?

 

「確かもともとあれだよな、えっと、ディベート部とかいうパッと聞いただけじゃ何してるのか良く分かんねえ部の部長やってたよな」

 

「そこは放っといてちょうだい、そういう事たまに言われるけど! ……まあ、そうだったんだけどね」

 

「悪い悪い。で、なんでなん? 心境の変化か何か?」

 

「それもあるんだけど、一番大きいのは、その、正直に言うとね、部内政治にうんざりしたっていう理由なの」

 

「ん、部内政治? なに、そんな、何かこう、あるのか?」

 

「予算とか宣伝とか、イベントの事とか。私が求めていたのとはちょっと違うかなって事ばかり話しているような気がしてね」

 

「あー……そう言われるとなんとなく伝わってきたような気がする」

 

 なるほど。規模がでかすぎる部活も考えものってやつね。それで個人的に楽しめないかと考えて、新しい部活作っちまうかって結論に落ち着いた、と。

 まさに行動力の化身。俺なんぞとは考えのスケールから違うぜ。

 

「大変だったろうに。こんな、見るからに個性の塊なメンツ集めて部活動を始めるなんて」

 

「まあ、そうかもしれないわね。新しい事を始めるのに興味がある人って、そんなに多いわけでは無いから……」

 

「ディベート部ほどじゃないにせよ、文芸部もこう、名前を聞いて魅力を感じたり、こんな事できるんだろうなって想像をするのは少数派だろうしな」

 

「だから、学園祭のようなイベントは本当に重要なの。たくさんの人に文芸部を知ってもらえるチャンスだから」

 

 見るからに自信たっぷりだ。ふと周りを見ると、そんなモニカと俺とのやり取りを聞きつけたのか、三人ともこちらを見て楽しそうに笑っている。俺の他、ここにいる全員、相当この文芸部に熱意を持って取り組んでいるのだろうな。

 

 ……己の中の煩悩に従ってやってきた身としては純粋な熱意と相対させられると、高僧に見つかった悪霊のごとく浄化されそうな気分だ。

 辞めろそんな目で見ないでくれえうわあああ。

 

「ちょっと、良いでしょうか」

 

「お、おう、なんすか?」

 

 とか脳内でやってたら、何か不安そうに、期待を込めるような顔をしたユリに話しかけられた。

 

 

 




なんとか仕上がった……!






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