終末へ消える   作:moti-

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完全犯罪・偽善の少女

 薄暗い牢獄のような場所で実験動物のような扱いで、確かに今自分は利用されている──暗い暗い。怖い。何故か不安感が止まない──永続する耳鳴りのようだ。

 

 ここはどこだと問いかけたい、しかしそれをできる相手はいない──恐怖感は止むことがない。

 

「竜機兵作成コスト軽減のための試験的実験・人竜計画──」

 

「超常的概念を持つ二つ名個体を利用することで素体の能力を強化──」

 

「失敗したとしても利用価値はある──その為の措置を──」

 

「なら初めにそちらの手術を行ってから、本格的に人竜の作成を──」

 

 間近で聞こえてくる声は、断片的にしか聞こえてこないが、それでも少し直感してしまう物がある。つまり自分は既に人間だと扱われていないのだと。

 

 おそらくこの実験で自分は壊れてしまってもいいのだ。最大限に弄くりまわし、そして壊れても問題がないと言うことなのだ。

 

 口ぶりからすると死体さえ利用価値があるらしい。死後すらそのように陵辱されるとしって、しかし体は動きそうにない。悔しさ──とは別に湧いてくるもの、

 

 それは諦観だった。

 

 少なくとも自分は死んでもいいな、と感じていた。呆気なく人生の終わりがやってきたのだと、それで納得するしか無かった──選択肢は、用意されていない。

 

 生き残ったとして兵器利用だ。なら、死んでも死ななくてもどちらも変わらない、と思った。

 

「では──計画を開始する」

 

 目は開かない。自分が変わっていくのを直視したくはなかったから。怖い、と感じることはしばらくは無かった。どこかに逃避していた。

 

 恐ろしくて逃げた──それが正しいだろうから。

 

「よーし、整形完了。利用に置いて、破壊力を求めるなら頑丈にした方が良いが同時にそれは問題もある──必要以上の筋肉は重荷だからだ。その為、まずは最大限利用する物質を強靭に、」

 

「即ち骨を固く、強く、それで体の故障を最初に防ぐ──とは言えどうするべきか、と言うのは、そう、」

 

「あの巨大烏賊の体液──それには骨を強化する作用がある。しかし現状、男の骨ではスマートとは言えない──その為に先ずは骨を削る必要がある。理想的なのは少女の物──ん? これ少女の骨移植すればよくね? あ駄目か。流石に無理か。そっかー。じゃあ削るしかないか。削ろう」

 

「削った? 次に体液だばぁだオラ。今まで試したやつはこれやったらショック死したけど耐えれるよな? よし大丈夫っぽいぞ。でもさっさとしねーと死ぬかもしれないなぁ。じゃ、さっさと次に行くか」

 

「えーと、マジにうろ覚えで悪いけど竜機兵っていろんな竜をバラして器官を合わせて合わせて作ってるのね。だからえーと、こっからはマジカル領域になってくるけどバラした竜のあれこれをこーしてあーして……おい、なんだお前適当しやがってみてーな目。マジにマジカルなんで仕方ねーだろうがお前。俺は悪くねぇぞ」

 

「よっし完成。全体的に強く細く、無駄の無い仕上がり──でも出るとこは出てて、うーん、我ながら神的な仕上がり。脳死してなかったらな! おい、起きろ──起きろ、起きろよお前。お前結構金掛かってんだからな。起きねーと殺すぞ」

 

 言われて、脳の奥から引っ張り出すような感覚で意識を戻す──感じたのは体の変革、その違和感だった。

 

「──……?」

 

「おう、完成。いやぁ──! 俺天才だなぁ──! ほんと天才だなぁ──!」

 

 で、どうよ、と言ってそいつは軽く胸部に触れる。奇妙な感覚があって身じろぎしそうになり、それを手足の拘束が許さなかった。

 

「──? ……? ──?」

 

「おう、つまりだ。──女になって(・・・・・)どんな気分だ? って話だよ」

 

「──────」

 

 なんと言うか、気分が悪い。利用価値の言葉の意味を軽く考え、そして至った発想が悍ましくて、何かを食べてなかったにも関わらずふも吐き出しそうになった。

 

「……クソが」

 

「おう、悪かったな。でもこれ国の命令なんだよなぁ……国からそうしろって言われたんだよなぁ……つまり俺を恨むな。国の破壊派を恨め」

 

 そいつは人の体に指を当てながらそんな事を言っている。気持ち悪いからやめろクソ野郎、と言うと笑ってベタベタ人の体に触れてきやがった。

 

 通報してぇ……。しても意味ないのはわかっているがそれでも通報したい。と言うかお前俺が男だったの知ってんだろお前と思っていると、そいつは人の体を堪能しつつ呟く。

 

「つーかお前ほんとにエロい体してんなぁ……」

 

「お前が設計したんだしお前の性癖じゃねそれ」

 

「おう、多分な!」

 

 と言うか間違いなくそうだろ。それ以外ないだろ。そう思いつつ体中を探ってくるその指を退けることは現状不可能なんでそいつのそれをそのまま受けている。にしてもあれだなぁ、とあまり動かすことができない首をちょっと傾け、視線を横にズラせば毛先だけ蒼くそまった自分の髪があった。

 

「なんつーか、ほんと嫌な感じだなぁ……」

 

「おおう、俺は女になったことないから知らねーけどそんなに嫌な感じなのか?」

 

「お前も女になればわかるよ」

 

「なってヤりたいとは思ってる」

 

「俺も思ってたが実際なるとなぁー……なんかなぁ……やる気がなぁ」

 

「てか現状できないだろ」

 

 頭のおかしいクソ野郎の癖に正論だった。

 

「んー、なんかあれだ。体が思ったように動かせない」

 

「ん? ああ、筋肉系統だいぶ切ったからな。でも生命力上げてるし治癒力も高い、シンプルに戦いづらいモデルとして設計したから明日には動けると思うぜ」

 

「お前結構そういう情報流してんのな。それで俺の体触ってなかったら抱いてほしかったぜ」

 

「ちなみに今無理矢理やったら?」

 

「明日殺す」

 

「ちきしょう我慢しとけばよかった……!」

 

 元々冗談なのにこうしてガチになられるのちょっとつらい。

 

 男と女の関係なんて大体性欲で成り立ってんだから男が女になったら友情プラス欲情で最強じゃね? とか思う位には自分も性欲があるので別にヤること自体全然NGではないのだが。

 

 しかしこの小説はR-18ではないので今はできないのだった。

 

 ドンマイ兼ざまぁ。

 

「でさー。俺いつまでこうしとけばいいの? 今日ずっとこのまま?」

 

「いや、それは疲れるだろ……別に俺次第で開放できるぞ」

 

 そう言って、そいつはにやりと笑った。

 

「どうする? 俺が開放して安全な場所に連れてってやるってったら」

 

「信用できない。信用できるかどうかを」

 

「開放したらセックスしようぜ!」

 

「信用した」

 

 即決だった。

 

 恋情、下心で動くやつは信用できる。求めるものが自分だからだ。向こうはこっちを開放する。こっちは対価に体を売る。

 

 所謂Win-Winの関係である。

 

 それなら信用できるな、と言うことで、

 

「よし、連れてけ」

 

「さくさく話が進んで俺もびっくりだよ」

 

「信用できる、と思った。信用した。だから着いていくことにした。以上だろ」

 

「オーケー共犯者。じゃあどうする? 互いに初めは自己紹介するか?」

 

「相方の名を知るのは不味いぞ? 万が一発見されたら俺が吐かないとも限らないだろ?」

 

「はっはー、こいつは地獄みてぇな女だぜ」

 

 体の拘束が解かれた。こいつには人体改造された恨みがあるが、それは忘れて、忘れて、忘れて──

 

 やべぇ殺したい。

 

 しかし本調子でもないし一般人にそんなのができるわけもないので俺は素直に着いていくことにする。

 

「さぁ、そんなに壮大でもねぇ脱出劇の始まりだぜ?」

 

「壮大じゃないのか……」

 

 

 ◇

 

 

 光が顔に当たり、瞼越しからの眩しさで目を覚ます──べとべとした体が気持ち悪い。うぇえ、とついつい声を洩らしてしまう──そこで自分の体を見下ろした。鱗が生え、しかし人形を保っている自分の体を見た。

 

「全裸だ」

 

 よしあの野郎ぶっ殺してやる。この体になってからと言うもの、睡眠時間がかつてより非常に長くなっている──熟睡の時間も長いと言うことで、さてはこれ夜這いされたな、と即座に理解し、そして殺意に目覚めるまでが大体セットだった。

 

 別に性行自体はいいのだ。全然問題ない──むしろオーライ。しかし眠っている時に勝手にやられるのは許せないし許さない。いや、まぁ毎日やられてるんで別に大して怒っているわけではないのだが、

 

 それはそれとしてやつは殺す。

 

 

 

 

 

「あ? おー、起きたか。すまんな、寝顔に興奮してやっちった」

 

「ああ、俺はお前を許すよ──殺した後でな」

 

「おっと、俺を殺すと元に戻れなくなるぜ? それは不本意だろ?」

 

「別に俺女のままでいいし? だから俺はお前殺せるし?」

 

「やべぇ、やり過ぎた……」

 

 朝の恒例と化した会話をそれで打ち切り、

 

「まぁとりあえずはおはようだな、ジャスパー」

 

「おう、おはようだぜルフティ」

 

 ──互いの名を呼び合った。

 

 

 

 

 新都。

 

 シュレイドの橋に存在する未開領域を切り開いて造られた街であり、シュレイドに存在した自然との調和を選択した者たちが住む場所となっている。

 

 ジャスパーと俺は逃走した際にこの自然調和派と合流し、そしてこの新都まで送られてきた。案外さらっと山場もなく拍子抜けした部分もあるが、しかし安全でよかったとも思うことかがある──しかし新都は名の通り新しく、そして未開領域から興した街なのでモンスターの危険が存在する。

 

 そこで俺の出番だった。こうして村に寄ってくる分だけの竜や異常発生した竜などは適度に間引く程度なら許可されていた。しかし一般人に竜の相手は難しい──そこで、よってくる竜を仕留める役目は俺がすることになったのだ。

 

 改造で手に入れたろくでもない力だが、こうして人の役にたっているのを見ると改造された価値もあったと思える。

 

 ただお前女になったことは絶対許さないからなお前。

 

「──まぁ、今回で近付くことの危険は知ったっぽいんでしばらくはルフティさんの仕事もないと思いますけど、別の種類の竜が来るかもしれませんから……兵士の育成、さっさとやったほうがいいんですけど中々骨のあるやつがいなくてですね、ルフティさんには頼り切りになります。すいません、旦那さんもいるのにこんなに拘束してしまって」

 

「旦那さんってなんだ俺は独身っつーか男だバカ野郎」

 

「今は女じゃないですか。問題ないですよ。と言うかジャスパーさんと毎晩しっぽり楽しんでるんでしょ? この間ジャスパーさんが『よう童貞市長女は見つけた? こっちは毎晩飽きねぇぜ』って言ってましたし」

 

 これはあいつ真面目に締めるべきかな? とちょっと本気で考える。他人に人の性事情を勝手に教えやがって。

 

 ともあれ今、この街新都の市長と会話している。王城の中でもかなり偉い立場にいたらしく、運営の経験から市長に推された人らしい。

 

 軽く会話してみてわかるのだが、中々こいつは責任感も強くお誂え向きな人物だ。

 

 そしてあの馬鹿(ジャスパー)そんな相手に何やってんだほんとに。

 

 別に構わないが。

 

「とりあえず、今日はこんなところでおしまいですかね。ありがとうございました」

 

「うーい。定時報告マジにありがたいなぁ。やっぱ必要なのは頭を使う係だわ」

 

 俺にはできそうにない部類の仕事だし、ジャスパーはする気がない仕事だし、つまりマトモにできるやつが近くにいない仕事だ。やってくれる人がいるぶん相当楽である。

 

「さいならー」

 

「はい、さようなら。もしもの際はえーと、伝達係から通達されると思うのでそれを受けたら動いて大丈夫です。それでは、さよならー」

 

「うーい」

 

 あとは害獣が出たらそれを仕留めるだけだ。なんと言うか、ここはシュレイド程殺せと言った形の物がないのがまぁありがたい。

 

 シュレイドは街中が竜は殺すって感じの決意が強かったからなぁ、と軽く過去を思い返しつつ、多分少しは暇な日があるので折角なのでそれを満喫することにする。

 

 ジャスパーになんか食事でも集るかな、と考えつつのんびりとした、しかし活気がある新都の街を征く。新都は山に近いので空気が清浄だ。これは科学発展したシュレイド王国では味わえない心地良さだよなぁ、と思いつつ街を歩いていると、人口が少なくまだ発展途上の街故かジャスパーがいるのがわかる。対面からやってきていたので向こうもこちらに気付くと折角なので駆け寄っていき、

 

「ようわんこ」

 

「ぶち殺すぞ」

 

 そんなやり取りを経て何となくで合流する。

 

 なんというか、新都の交友関係についてはほんとにジャスパーと市長くらいしかないので知り合いの方が圧倒的に少ないと言う状況であり、そのためジャスパーとはよくこうして一緒に街を歩くことが多い。

 

 その為かは知らんがよくカップル扱いされる。料金がやすくなったりするので別にいいのだが。

 

「打ち合わせはどうだった?」

 

「少し休み。ワンチャン仕事ある。そんなのはどうでもいいから俺に飯を奢れ」

 

「嫌だぞ何でお前に奢る必要があるんだよ」

 

「勝手に人の体を楽しんだことが原因かな……」

 

「ちくしょう何も言えねぇ……」

 

 そう言ってジャスパーは軽く辺りを見回して、

 

「どうする?喫茶とかにでも寄ってくか?」

 

「そう言えば昔の喫茶店ってキャバクラだったんだよな……」

 

「おう、真偽が俺にわからんマジかもしれん話やめーや」

 

「やだ。行くなら行こうぜ。俺は行く」

 

「おいちょっと待て……あー、さっさと行きやがって」

 

 そう言って少し先行していた俺にジャスパーかが追い付き、

 

「つーかそもそもそっちじゃねぇだろ」

 

「え、マジかよそれ。こっちじゃなかった?」

 

「そっちキャバクラなんだよなぁ……」

 

 何であるんだよ。

 

 手を引いたジャスパーに従い反転し、連れられるままに喫茶店へと向かっていく。てかそもそもなんでお前キャバクラとか知ってんだ。

 

「行ったからだよ」

 

「行っちゃったのかぁ……」

 

 自分も連れてけと思ったがそれは言わない。この見た目では流石に問題がありそうだった。

 

 ともあれだいぶ整形されている道路を踏みしめ、軽い心の躍動を表に出さないように抑えつつその店、喫茶店に向かっていく。

 

 道路を行く人々はそれぞれが生き急いでいるようで、しかし充実しているようにも見えた。そりゃあそうか、と思う。何せ新都に来るような人間はそれだけで将来のビジョンがはっきりしていると言うことなのだから。

 

 そもそも異端である自然調和派。自然を尊重し、自然と共存する為に竜は自分の身を守る為、また食べる為にしか殺さない、

 

 命は無駄に投げ捨てない──そういう意識がある人が所属している派閥だ。

 

 当然シュレイドとは価値観が全然違う。それが異端でないわけがなかった。

 

「……」

 

 そう言えば、こいつは──ジャスパーは自然についてどう思っているのだろう。単純に新都を隠れ家のように利用しているだけか、純粋に自然と共存したいのか。或いはどちらでもないのか。

 

 一緒に暮らしているような俺でもそれがわからないのだから、こいつはほんとに何を考えているのかわからない。

 

 俺に人を見通す目がないだけかもしれないけども。

 

 そう締めると、ジャスパーの足が止まる。

 

「あー……今日やってねぇなぁ……どうするよ」

 

「んー……どうしようね」

 

 閉店していた。どうも週休の日だったようで、まだ開店してないとかそんなのではなく、今日は開くことがないようだった。

 

「どうしようもないから帰ろうか」

 

「あ、お前がそれでいいならそうするけど」

 

「それでいいよ。腹減ったけどな」

 

「俺は作れんからお前が作れ。女は料理するもんだ」

 

「お? やるか? お前の頭程度なら握り割れるぞいいのか?」

 

「おっとこいつは俺が改造したんだった」

 

 しかし飯はお前が作れ、とジャスパーが言う。これは多分作らされるやつだな? と少しの間の同棲でなんとなく察することができた。

 

 材料なんかあったかな、と考えつつ引かれるままに家へと戻る──なんと言うか、この構図が定着してきてるんだよなぁ、と思いつつ、

 

 日の光がなんと言うか、照り付けて暑かった。

 

 

 ◇

 

 

「──は? モンスターが来てる?」

 

「えーと、マジに申し訳ないんですけどそうっすね……印象としては何かから逃げている(・・・・・・・・・)感じでした。うちの兵士、戦う能力ほんとないやつらばっかなんですいません、ルフティさん……お願いできますかね?」

 

「あーいや、俺は全然問題ないんだが……」

 

 そう言って、ちらりとジャスパーを見る。手をひらひらと振っている為どうにでもしてろ、と言うことだろう──じゃあ自分はさっさと行くべきだ。

 

 市長が来たのは家についてすぐ、食事の準備しか出来ていない頃だ──偵察についてはシュレイドの科学技術を流用している為、モンスターの発見は大体一里先までなら可能である。しかし一里、と言うとモンスターにはあっという間、自分も少しだけ急ぐ必要があった。

 

 その為自分の身体能力ならば街の家の屋根を飛んでいける、と言うことで最短距離で駆け抜けることが許可されている。

 

「じゃあちょっと行ってくる」

 

「おー、行ってらー……市長ちょっとそこ離れとけ、危ねえぞ」

 

「流石にわかってますよ」

 

 市長が室内に入って行くのと入れ違いに外に出る──そして、

 

 軽く体を伸ばし、

 

 屈伸の要領でしゃがみ込み、そして筋肉を伸ばしきり、

 

「──そぉい!!」

 

 跳躍する。

 

 単純なその動作──しかし改造人間クオリティ、その動作だけでかなりの距離を跳躍出来る。数十メートル先の家の屋根を飛び越しそうになるのを抑えつつ、着地し、そして異常に軽い体を、羽になったような気分で飛び上がる。

 

 屋根を飛んで飛んで移動している──簡単に説明すればそう言うことになる。しかしこの移動方法、自分の身体が想像以上に飛んだりすることがあり時々ひやっとすることがあった。肉体管制を上手く出来るようになればこういうことも何とかなるのだろうか? そうならばいいなぁ、と思いつつ、

 

「──おー、ルフティちゃん! 仕事かい!?」

 

「あーはいそうっす! さいなら!」

 

「──今日も元気だね! 頑張れ!」

 

「はーい! 頑張りまーす!」

 

 近所の人から掛けられる声に返しつつ、そうして僅かな充足を得て、そうして気を引き締める。

 

 この人達を守るのが俺の仕事だ、と。

 

 それぞれが平和・調和と言う理想を抱いて生きている人々。その人達は俺なんかとは全然違って、美しく、きらきらとした、綺麗な──宝石のようなものなのだ。

 

 だから俺は戦うのだ、

 

 ──例え命が絶えようとも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 シュレイド技術の転用で相当な速さで設計したバリケード、或いは城壁と呼べるものを超えて危険領域へと足を踏み入れる。モンスターたちの行進速度は早いものだ。モンスターと言うものは強く、強靭。三キロなんて距離をあっという間に超えてくる。それも何かから逃げるのなら尚更、

 

 事実あっという間にモンスターの群れが見えた。小型、青──今回は青か、と少しだけ安堵する。黃よりはマシだ。しかし青でも驚異には変わりなかった。

 

 何せ鉄なんて容易に砕く。そんな化物たちなのだから。

 

 故にモンスター。故に竜。

 

 それこそが自然界の──覇種。

 

「──デカイの、いるな」

 

 まぁ当然だよな、とどうやって仕留めるかの思考に変換する。青はリーダーがいないとすぐにばらばらになる。故にリーダーである大きいそれ──青のボスを倒せば問題なくなるのだが、

 

「だいぶめんどいぞ? 青はなー、コンビネーションがなー」

 

 しかも純粋な身体能力は青が一番高い。群れが多い時の青は黄色より戦いづらいのだ。麻痺がない、と言うのが救いどころ、しかし貴様に救いはないとでもいっているようなバランス調整だった。

 

 考えが定まっていないが、しかし青の顔がしっかり視認出来る位置に近づいてきた。手術の恩恵で1キロ先ならはっきり見通せる自分がぼんやりとしか見えない位置から、おそらく数百メートル範囲内へと侵入してきていた──マジでクソ早いな、とぼやきつつ、

 

 上半身の服を脱いだ。

 

 服が邪魔なのだ。上半身は完全に素肌そのまま。そこから、身に力を入れると腕に赤の線が通っていく──変質にも似たこれは、正直痛い。腕が青に染まって行き、守るものの無かった腹部に体内から押し出されるように鱗が現れる。

 

 内側から腹を突き破られるような感覚。はっきりとした激痛。しかしそれは処置を施されたときほどのものじゃない──故に耐えれる。

 

 そうして、鱗が鎧のように展開され、これだけで戦うだけの準備が完了する。

 

「──よし」

 

 手を握って開き、調子を確かめ終わる。青は──すぐそこ。

 

 お互いの視線が合った、と感じた瞬間に両方が行動を開始する。

 

 青は群体のそれが一匹を囲って逃さないように、確殺するように。自分は地面に腕を叩きつけ、そして地面を掘り返すように──手を上へと、跳ね上げる。

 

「──お、お、お──らぁ!」

 

 実際に地面を持ち上げるようにして青のボス──赤いトサカの目立つそいつの視界を隠し、

 

 次に取った行動はそのままグーで持ち上げた地面をぶち抜くことだった。

 

「──!!」

 

 青のボスはその岩の粒に触れないように回避し、そのあまりに大雑把な攻撃への反撃に、隙間に身体を滑り込ませてから、その足の筋肉を利用しほぼ地面に水平な状態で──跳躍。

 

 そしてこちらに接近し、回転するようにして細く、しかし重い尻尾を叩きつけようとする。

 

 当たったら痣になるだろう、と思ったので後ろに倒れ込むようにして回避する。そして次に右足を軸にして反転し、そのボスに、服を突き抜け刃のように生えた足の鱗を突き刺そうと考え、しかし左右から飛びかかってきた小さい青の対処に立ち上がり、本来のものと違い刃のように発達した腕の鱗でその二体の小さい首を断った。

 

 小型はあまり殺したくないのに──そう考えつつ、ならばボスをさっさと殺せばいい。

 

 しかし人と根本的に能力が違っているため攻撃中に攻撃は難しい。飛びかかりに慣れればカウンターで殺せそうだが──それ以外の時に攻撃は難しいだろう。

 

 何故なら隙を埋めるように群れの単位でこちらの攻撃への意識の移り変わり時に今のように狙ってくる。だから青は厄介なのだ──賢いから。

 

「面倒だな……」

 

 腕を振って血を払いつつ、ちらりとボスを見る。一撃で殺せなかったことから、多少は頭の回る敵だと理解したらしい──油断はないようだ。

 

 飛びかかり以外にどう殺す? と軽く考え、噛みつきの時に刃を打ち込めばいいのだ、と発想する。位置調整次第では腕に傷を負うが、それが一番楽のはず。

 

 こちらから手を出さない。カウンターのようにして戦ったようが恐らくは戦いやすい相手。

 

 自分の腕の刃に意識を向ける──タイミングを見逃すな、と言い聞かせる。

 

 青のボスは駆け寄り、回転し尻尾を叩きつけてこようとする。それを回避し、そうすれば次に軽い噛みつきを放ってきた。

 

 これには合わせられない。飛びかかってきた二体の青を軽く後ろに下がることで回避し、掴んで、力を込めて投げ飛ばす。相当重いが、何とか可能だった。

 

 軽く青が後ろに引き、そうして体も同様に倒した。

 

 来た──確信する。大体の敵に共通した、この動作。前方に体を押し出すようにして噛み付く攻撃。

 

 それが放たれる。

 

 目視しづらいその速さ──それに、合わせるように右側に足を持っていき、そして自身の腕の刃を合わせ──そして、頭を、脳をぶった切るように、上側へ引き上げ、

 

 そして頭部を引き裂いた。

 

 血が噴出した。それと同時に、頭が落ちると同時に切断された舌が宙を舞う。頭を失って生きられる生物は存在しない──例えば、龍でもない限り。

 

 故に、確実に殺害した。

 

「……おしまいだ。どうする? まだやるか?」

 

 その言葉が通じるとは思ってもないが、一応問いかける。頭を無くしたそいつらは困惑するように、途方に暮れたような様子で、周りを見回した。

 

「……………………」

 

 そうして、こちらを数秒見つめ、

 

 頭の群れは何処かへ消える。

 

「…………生き物だもんなぁ」

 

 それぞれがそれぞれに散っていき、城壁に近寄らずに、遠くへと去っていく。

 

 ──戦闘が終わった、と実感した。

 

 

 ◇

 

 

「あれ……市長は?」

 

「あ? あの竜が何から逃げているのかを探る為に仕切りに行ったよ」

 

「あの人も大概忙しいよなぁ……」

 

 そう言いつつ、服を脱ぐ──上も下もだ。そうすれば下着だけの姿になる。

 

「お? どうした?」

 

「汚れたから風呂に行くだけだよ、洗濯は任せた」

 

「畜生人を扱き使いやがって……わーったよ、わかったわかった」

 

 そんなやり取りを経て、自分の一日が音を立てて何時も通りの曖昧さを持って不透明から透明へと変貌していく右と言ったら左へ進み左足あげりゃ頭が下がる、空転と混乱と奇怪で怪奇な、されど案外どこにでもあったりする終わりへと近づいて──そして、深夜舞台の幕が上がる。




 要は既に引かれているのさ、
 要は既に起こされているのさ、
 要は既に向けられているのさ──
 そして既に、もしくはとうに終わっていた。
 物語なんてくだらないものは。
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