終末へ消える   作:moti-

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存在選創

 かたこと、車に揺られている。

 

「どうした? んな固くなって。大丈夫、殺されやしねぇよ。わざわざ殺すもんか。んな面倒なことするくらいなら利用するに決まってんだろ。だったらこっちも利用するくらいの心積もりでいればいいんだよ」

 

「お前は場馴れしてるだろうが……俺からすればこんな雰囲気は慣れねーしむず痒いしちょっと怖いんだよ」

 

 まぁ、一般人が軍に連行されることに慣れていればそれはドン引きだが。

 

 ともあれ、今は車に揺られている。

 

「あー……えーと、ジャスパーさん。彼女って実際どうなんですか?」

 

「あ? あー、戦力には申し分なしだ。中々センスもある。二つ名相手に圧勝だぜ?」

 

「あー、それは……まぁ人間より強いのは確かですね」

 

 殺せないわけじゃないけど、と最後に付け加え、青年……コードはこちらを見る。その目からはどう殺すか、と言う殺意しか伺えない。

 

 まず、目があった。次にどんどん下へと視線が下がっていく。それだけで殺せるかどうかを判断したようだった。

 

「この程度なら何千も、何万も、飽きるくらい殺してきましたしね。余裕ですよ余裕」

 

「お前は化物だからそう言えるんだよ」

 

「誰が化物ですか。生き物なんです。斬れば死にますし撃てば死にます。そのルールからは逸脱しない。龍でさえも殺せば死ぬんですから」

 

「やっぱ頭おかしいよ、お前」

 

 けらけら笑いながらジャスパーは言う。いったい何が面白いのかはよくわからないが、しかしジャスパーからすれば面白いのだろう。自分はそうは思わないが。

 

「お前は変わんないなぁ──うん。全く、変わんねぇ」

 

 そう言って、ジャスパーはそれを境に黙った。俺も黙った。コードも黙った。

 

 全員が黙った。意味があるとか、そんなわけでなく。

 

 

 ◇

 

 

 辺りを見回してみると、案外シュレイドと言う王政国家は栄えていることがわかる──それは当然だ。なんせ、シュレイドは世界最大の王国なのだ。栄えていない理由がない。

 

「しっかし……ここいらも変わったなぁ」

 

 最後にシュレイドの城下町まできたのはいつだったか。少なくとも、しばらく来ていないのは確実だ。人の混雑が若干懐かしく感じる。

 

「痴漢されねーようにな」

 

「んな酔狂なもんがいるかよ」

 

「ここにな」

 

 軽く胸を揉まれ、それに抵抗しようと言う意思はない。ただしかしそれは人目を集める。手を叩いてやめろと抗議する。

 

「おっ、すまん。いやぁ、公衆の面前でやっちゃあいけねぇことだったな」

 

「もっと反省しろ。そんで俺に飯を奢れ」

 

「お前俺に奢らせるの好きすぎない?」

 

「他人の金で食う飯は美味い」

 

 そっか、とジャスパーがいい、そしてじっとりとした視線を感じ取る。

 

 コードである。

 

 監視や役として任務を全うしているのだろう。しかし人類最強格に監視されるとは、自分もかなり偉い立場になったようだ。それが警戒によるものとしても。

 

「いやぁ、嬉しいんじゃねぇの? お前」

 

「あ? 俺が嬉しい? んなことあるかよ。頭おかしいんじゃねぇの?」

 

「はいはいかっかしない。お前戦闘狂だろ? 人類最強につけられるなんて光栄じゃねぇか」

 

「んなことねぇだろ。至ってまともなかわいいかわいい美少女だよ」

 

「ノリはいい。セックスしよう」

 

「ちなみに美少女とは見目を指して言うのであって俺本人に断じてその気はねぇからな」

 

「でもやっちゃうんだろ?」

 

「よくわかってんなぁ」

 

 周囲に聞こえないように声量を絞って会話をする。何時も通りのやりとりだ。特段変哲もない、男と女が交わす言葉の応酬。

 

 これは意外に楽しい。議論と言うのは意外に楽しい──議論になれば、の話だが。

 

「串焼き買って?」

 

「はいはいレディ。何個?」

 

「全部!」

 

「おっとこいつは予想外」

 

 ジャスパーが買ってきた一本を受け取り、それを早速口に運ぶ。胡椒の香りが広がった口を動かし、柔らかいそれを咀嚼し、舌を動かして喉の奥へと転がし、そして嚥下する。溢れ出た肉汁が少し舌に残っているのを唾液で溶かすようにして口内の余韻が消えると、次の肉を口に運ぶ。

 

「くっそ美味そうだな! ……美味いな! くそう俺の金で食う飯が美味い……」

 

「それは自明の理だ」

 

 その通りだよ、全く、と口端を押し上げて笑うジャスパーは、露店に置かれてある眼鏡に視線を定めた。

 

「眼鏡一つ」

 

「はーい、……えーと、だいたい二千ゼニーです」

 

「んーまぁ妥当。はいこれ。もらってくね」

 

「ありゃしたー」

 

 購入した眼鏡を早速掛け、手櫛で髪を整えたジャスパーはこちらを見て言う。

 

「どう? かっけぇだろ? 若頭だろ?」

 

「普通」

 

「ひっでぇ」

 

 からからと笑うそいつを見た。

 

「……少しだけかっこいいと思わなくもない」

 

「はっ、ツンデレ」

 

「なんで難聴系になってないんだよ!」

 

 ああ、顔が熱い。下手やらかした、と思いつつ、ジャスパーの、普段より小さく見える目を見て、それがおかしくて笑ってしまった。

 

 そうして、一瞬無言になる。

 

「……あー、駄目だ。こういう青春っぽい話は真っ当な男と女でやってくれ。俺とお前じゃサマになんねぇ」

 

「はっ、立派な女が何言ってやがる。柄じゃねぇとかどうでもいいだろ。たまにはこんなんもいいなって思える出来事、それも一興ってもんじゃねえか」

 

「お前ほど吹っ切れた馬鹿じゃないからな、俺。恥ずかしいことは恥ずかしいし怖いことは怖いし、立派な人間やってるもんだろ、俺も」

 

 ふと、遠くを見つめた。空の遥かを、黒点が見える。自分が見れないなど相当な高度だ。そんな距離を飛んでいるのは、一体なんだろう。ざわざわと、何か、それを見て、感じるものがあった。

 

 

   ─  ───   … ──

 

 

「……? ……? ……きのせいだろ、多分」

 

「どうした? 急に。疲れたか?」

 

「ああ、何でもない。どうする? 次はどこに行く?」

 

「さぁ、どこへ行こうか。お前の望む場所へ、行けるなら行こうぜ」

 

「……ありがと。じゃぁ──」

 

 

 ◇

 

 

 長閑だ。

 

 長閑な村だ──素朴で、不気味な、閑散とした、広い村だ。

 

「……ここで何がしたいんだ」

 

「ちょっと話を聞いてくれよ」

 

「──わかった」

 

 その言葉に、落ち着いて、俺は語る。

 

 ルフティと言う女性ではなく、ウォルフと言う一人の男の話だ。

 

 

 ◇

 

 

 こういうのもなんだが、恵まれた環境だったと思う。──自分はそう感じている。

 

 どこにでもありふれた村に生まれて、どこにでもありふれた畑を耕すことに明け暮れる少年として暮らして、時々街に出て豪勢に、散財する──それがずっと続くと思っていた。

 

 実際、続くはずだった。ウォルフはずっと日常を過ごしていたはずだったのだ。ただ、遠い昔に掛け違えたボタンが今ニなって致命的な解れを生んだと言うだけで。

 

「──ふぅん、人類悪、ね。そんなのがいるのかねぇ」

 

「いないとは断言できない。人類の敵と呼称するに足る相手に使うべき言葉だと思うが、しかし、それが人類である可能性も存在するわけだ」

 

「よくわかんねぇ」

 

「そうだな。……で、お前は俺のことについてどれだけ知ってるんだ?」

 

「……全く知らねぇ」

 

「じゃあ覚えとけ。俺の名前は……──ジャスパー。幸運の宝石の名前だぜ」

 

 そいつはそう名乗った。今までずっとそいつは自分をハッピーエンドと名乗っていた。しかしいきなりそんなことを言うもんだから、俺はどっちが彼の本当なのかがわからなくなってしまっていた。

 

「そんでもってこれも覚えてろ。俺は人類悪だ。俺の存在によって人類は滅びるのだから。──例外を除き」

 

「何が言いたいんだ?」

 

「だから、俺と言う世紀の天才がいた。その才能は神に等しいものだった。それがきっかけで世界が滅ぶ──そんな話だよ」

 

 おとぎ話を聞いている気分だった。そうでなくても、神話とか、そこらへんの話をしていると思った。実際は違うのだと知るのは、これからもっと先──致命的なバグが発生するまでだった。

 

 「俺は人類悪だ」、とジャスパーを名乗る男はしきりにそう、俺に述べた。その理由も神の才能がどうこう、だのでまともな相手はしてくれなかった。

 

「じゃあ……人類悪として、ジャスパーがいることで起こることってなんなの?」

 

「世界の崩壊……かな」

 

 それだけだった。ジャスパーはそれだけしか教えてくれない。俺はずっと、その滅びが気になって仕方なかった。

 

 やがて、大人になる。そして知る。滅びの意味を。

 

 

「──ジャスパー」

 

「お? ウォルフ、元気か?」

 

「ジャスパーもね」

 

 雨が降っていた日だった。

 

 分かりやすく、ジャスパーの体からは本来あり得ないものが溢れていた。

 

 

 あめの降る日、俺はジャスパーを殺害した。

 

 

 

 ◇

 

 

「──どういうことだ?」

 

「ネタバレタイムかな。このジャスパーは当然、君じゃない。ジャスパーを名乗る男は呪い以外何も持っていなかった。このジャスパーは──君の被害者だ」

 

「……」

 

「君が人竜実験に使った被検体。その中でも特に悍ましい呪いの形。──それを、狂竜型と、彼は評した」

 

「──呪い、ねぇ」

 

 心当たりがあったのだろう。

 

 ジャスパーは、歪に笑った。

 

「人を媒介とした狂竜症の世界蔓延。歩く狂竜症。彼は生きているだけで世界の敵になるような人間だったよ。だから死んだ。俺が殺した」

 

「どうだった? 俺の才能は」

 

「死ぬ以外に救いの無い才能なんて、ないほうがいいと思うな」

 

「そうか、やっぱりお前は優しすぎる。──竜を殺す為の兵器としては完璧だっただろ?」

 

「人類も滅ぼすけどね」

 

 そこまで言って、笑った。俺も、彼も。

 

「──どうする? それを量産できる俺を殺すか?」

 

「そんなことしねぇよ。彼がなんでお前の名前を使ったと思う?」

 

「知らねぇな」

 

「多分、彼は君のことを嫌ってなかった。最悪の兵器を生み出すような人間だけど、君の人間らしさは嫌ってなかった。だから彼は君の名を騙ったんじゃないかな。──考えても、意味がないことだけど」

 

 俺は思う。多分、それが全てだ、と思った。思っただけだが。

 

「なんでお前は今日、ここに連れてきたんだ?」

 

「さぁ? 絶好の機会だったからでしょ。これを起点として──俺とお前の物語は、多分、漸く始まるのか、終わるのか。どっちだろうな」 

 

「そりゃ当然──」

 

 ジャスパーはカッコつけて眼鏡を掛ける。そして、一瞬の躊躇のあと、外した。

 

 

「──終わるだろ、当然」

 

 

 その瞬間。

 

 世界が終わったと錯覚(・・・・・・・・・・)した(・・)

 

 一瞬と言わず数秒心臓が止まった。それを知覚した。

 

「はっは、──カッコつけてみるもんだな。ベストタイミングですっげぇことが起きたぜ」

 

「馬鹿なこと言ってる場合か! なんだこれ、なんだこれ──!!」

 

 心臓が恐怖に浅くしか鼓動しない。それを深呼吸してみて、何とか元通りに戻す。

 

 

「──なんっっっっだあれ!!」

 

 

 それは一言で言うと竜だ。視力が捉えた。その圧倒的威圧感は、視認することも、死を覚悟する。

 

 その首がこちらを向いた。次の瞬間だった。

 

「──すいません、任せます」

 

 コードが。

 

 人類の最強格が、その腕を持って俺とジャスパーの二人を上空数百メートル先程に一瞬で放り投げ、

 

 

 次にシュレイドが(・・・・・・・・)崩壊した(・・・・)

 

 

「おおおおお──っ!?」

 

「壮観じゃねぇか! 粋なことやってくれやがるぜ、クソ野郎!」

 

 コードの生死など見ずともわかる。たった一撃でシュレイド王国の地面から数十メートルの場所が焦土と化したのだ。人類程度が生きていられるわけもない。

 

「手ぇ伸ばせ! ジャスパー!!」

 

「おうよ!」

 

 真上に跳ね上げられた二人の距離はそんなに空いていない。ジャスパーをキャッチし、これで落ち着いて着地するだけだ。

 

「結構足場作ってくれてありがとよ!」

 

 建造物の残骸が空中にあるうちにそれを足場に駆け下りる。曲芸紛いだが、この肉体のスペックはかなり上位のほうだ。少しむずかしいが、案外何とかなった。

 

 着地して理解する。破壊の規模を。

 

 これなら人間など殆ど生きていないだろう。自分らは人類最強に守られたのだ。その事実を受け止め、体を前方へと進める、

 

 ──突然現れた死の象徴の方へ。




 突如現れた人類最強くんが何もせずにフェードアウトしましたが別に彼弱いってわけじゃなくてミラが別格過ぎるだけっす。ミラ系以外の古龍ならどうにもなったっす。
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