Steins;Gate アフターストーリー   作:第22SAS連隊隊員

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椎名まゆり編

Steins;Gate アフターストーリー

 

椎名まゆり編

 

季節は夏。千切れ雲がまばらに浮かぶ快晴の空の下、東京の秋葉原に一つのテナントビルがあった。左右の建物との間に隙間は殆ど存在せず、その身を捻じ込むようにして2階建てビルは建っている。

ビルの1階には薄暗い空間に所狭しとブラウン管テレビが置かれ、通りに面した入口には『ブラウン管工房』の看板が掛けられている。

そして、ビルの2階。階段を上がった先にある2階部屋への扉には何も書かれていないが、その代わりに1階に設置されたビルの郵便受けには、ブラウン管工房と書かれた郵便受けの隣に『未来ガジェット研究所』と書かれた紙が乱暴に貼り付けられていた。

と、通りから二人の人影が近付いてくる。始めは像だったものが次第に輪郭を現し、次いで色や形が見えてくる。ビルまであと少しの所になった頃には、人影の顔立ちや服装が分かるようになった。

2つ並んだ人影の内の片方は、灼熱の太陽が容赦なく照らす真夏日にも関わらず白衣を着ている男。年齢は10代後半程だろうか。

もう片方は水色の帽子に水色のワンピースと、涼しげな恰好をした同じく10代後半程の少女。こちらは男よりも少し幼く見える。

二人は互いに手を繋いでおり、空いている手には共に買い物袋を持っている。男女は太陽から逃げるように足早にビルの階段を上がり、ビルの2階部屋の扉を開けた。

 

「帰ったぞ」

 

「トゥットゥルー♪ ただいまです」

 

扉を開けて開口一番にそう言うと、室内に居た二人の人間。片方は赤髪の女性、もう片方はメガネをかけた肥満体形の男が二人を見た。

室内の二人は玄関の男女を見ると、次いで互いに目を合わせ、最後に呆れたように溜め息を吐く。そんな二人に玄関の男は顔を顰め、少女は首を傾げる。

 

「なんだなんだ、人が帰ってきてその態度は!」

 

「いやだって、ねぇ。橋田さん?」

 

「ですなぁ、牧瀬さん」

 

室内の男女。親しい者からはダルと呼ばれている橋田至と、赤髪が特徴の牧瀬紅莉栖は揃って何度も頷く。

それを見た白衣の男、岡部倫太郎は更に顔を顰め。隣で首を傾げている少女、椎名まゆりは更に首を傾げる。

ダルと紅莉栖は揃って岡部とまゆりの間、二人が繋いでいる手を指差した。

 

「いやぁ、日が高い内から見せつけてくれますなぁ。ねぇ、橋田さん?」

 

「お二人とも熱々ですなぁ。ねぇ、牧瀬さん?」

 

そして、ダルと紅莉栖は揃ってニヤニヤと薄気味悪く笑う。指摘された岡部は顔を真っ赤にして、まゆり直角になりそうなほど首を傾げる。

岡部はスーパーの袋を持ったままの右手を振り回し、口角泡を飛ばしながら捲し立てた。

 

「ち、違う!!これは手を離すとまゆりが勝手に何処かに行って、探すのが面倒だから手を繋いでいるのであって!!」

 

「ハイハイ、ツンデレ乙」

 

「乙だお」

 

こうして、今日も騒がしく時間は流れて行く。それからは何時も通りに、各々がラボの中で好きなようにして過ごす。

岡部とダルは新しいガジェットの開発に、まゆりと紅莉栖はファッション誌やコスプレ雑誌を一緒に読んで盛り上がる。

あっという間に日は暮れて、外の色は夕焼けに染まった。この日は珍しく、何時もならバラバラの時間に帰宅するメンバーが、同じ時間に帰宅することになった。

ラボの責任者として、岡部が閉じまりやガス栓のチェックを行っていると、荷物を纏めたまゆりが近付いてくる。

表情はどこか申し訳なさそうな顔をしており、やや躊躇いがちに岡部に話しかける。

 

「オカリン、ちょっといいかな?」

 

「どうした? 直に暗くなるから早くしろよ」

 

「あのね、まゆしぃは明日ラボに来るのが遅くなるのです」

 

「なんだ、そんな事か。何か用事でもあるのか?」

 

「うん、明日。おばあちゃんの命日だから……」

 

その言葉を聞いた途端、岡部の動きが止まった。窓の鍵を閉めようとしていた手が止まり、まるで時が凍りついたかのように静止する。

ほんの数秒だけ間が空き、その間は外の喧騒が辺りを満たす。まゆりが訝しがって岡部の顔を覗きこもうとした所で、彼はハッと気が付く。

少しだけ焦ったような口調でまゆりに了解を伝えると、まゆりは「ごめんね」と一言謝ってからラボの玄関に向かう。

まゆりは揃えられた自分の靴を履き、つま先で床を叩いて扉に手をかけた所で、

 

「まゆり」

 

自分の名を呼ぶ幼馴染に振り返ると、彼はどこか思い詰めた顔をしている。

それから少し口ごもり、意を決した様な表情に変わると、改めて口を開いた。

 

「明日の墓参りだが――」

 

 

「ごめんね、こんな日に付き合わせちゃって」

 

「気にするな、そもそも俺が言い出したからな」

 

翌日、岡部とまゆりは雨の中を傘を差しながら歩いていた。岡部は飾り気の無い黒い傘を、まゆりは可愛らしい模様が施された水色の傘を差している。

土砂降り、と言うほどでもないが。強い雨が引っ切り無しに二人の頭上に開かれた二つの傘を叩く。

まゆりの手には、片方は傘を差し。空いているもう片方の手には花束が握られていた。岡部も同じく片手に傘を差し、もう片方にはまゆりとは違う種類の花が纏められた花束が握られている。

二人は談笑しながら道を歩き、しばらくすると余り人気の無い住宅街に入る。この雨もあるだろうが、住宅街は妙にひっそりとしており、普段からでも人気が無い事が窺がえた。

岡部とまゆりはそんな住宅街で一際、人気が無い場所。墓地に入った。墓地の周りは石の塀で囲まれており、塀には苔や蔦状の植物が幾つも群生している。

雨のせいでもあるだろうが、墓地の中は妙に湿気が多く感じられ、肌に纏わりつく様な生温い空気が岡部の不快感を増幅させる。

その不快感に岡部が顔を顰めている一方。まゆりは特に不快に思わないのか、表情を変えずに歩いている。

二人は迷路の様な墓地を歩き、一つの墓の前で立ち止まった。

その墓は何の変哲もない極々ありふれた形の墓であり、周りに佇む多くの墓に紛れるように存在していた。墓石には「椎名家の墓」の文字。

まゆりは手に持った花束を墓石の前にそっと置くと、傘を岡部に預ける。岡部は花束を脇に挟み、まゆりが濡れないように預けられた傘を彼女の頭上に差した。

両手が自由になったまゆりは、しゃがんで両の手のひらを静かに合わせ目を閉じ、黙祷を捧げた。

黙祷を捧げるまゆりの姿は、まるで天に祈りを捧げる聖女の様でもあり、その横顔を見た岡部は急に気恥ずかしくなり、顔を背ける。

黙祷を終わらせたまゆりは「次はオカリンだよ」と言うと、岡部が持っている二つの傘を手に取り、黒い傘を岡部の頭上に届くように腕を伸ばしながら差す。

岡部は懸命に腕を伸ばすまゆりの姿に苦笑しながら、まゆりと同じように花束を墓前に供え、しゃがんでから両手を合わせた。

静かに目を閉じ黙祷を、そして謝罪の言葉を胸中でまゆりの祖母に捧げる。

 

――まゆりのあばあさん。俺は自分の身勝手で貴方の孫を何度も殺してしまいました。

 

――謝って済む問題では無いのは自分でも十分に理解しています。しかし、自分勝手とは思われますが、今ここで貴方に謝罪をさせて下さい。

 

――俺はもう二度とあんな過ちは犯さないと誓います。そして、この先に何があってもまゆりは必ず守り抜いてみせます。

 

――自分が犯してしまった過ちの代償は、一生をかけてでも払ってみせます。

 

――そして、本当に申し訳ありません。

 

岡部は黙祷を謝罪を終えると立ち上がった。深呼吸を一つして振り返ると、まゆりと目が合う。岡部が口端で薄く笑うと、まゆりは笑顔を見せた。

「帰ろうか」と岡部は言って、まゆりが持っている黒い傘に手を伸ばす。岡部の手と傘を握るまゆりの手が重なった所で、

 

「オカリン」

 

「?」

 

「オカリンはもう、悲しまなくていいんだよ」

 

岡部の動きが止まった。傘に手を伸ばしたまま、何とも間抜けに口を半開きにしたまま、目の前のまゆりを凝視したまま、岡部の時間が停止する。

まゆりは岡部の事を特に気にする様子も無く、極々自然な口調で次の言葉を口にする。

 

「まゆしぃは、もう大丈夫だから」

 

「……ああ」

 

ようやっと、岡部の口から絞り出た言葉は短かった。ほんの少しだけ震える手で傘を受け取り、頭上に差す。

そして、まゆりの手を引いて墓地を後にしようとした所で、岡部はふとした変化に気が付いた。先程まで絶え間なく傘を叩いていた雨粒が止んだのだ。

傘から顔を出し、空を見上げれば徐々に雨雲同士が離れて、本来の青い空が見えてくる。

 

「雨が上がったか……」

 

「あ、オカリン。みてみて」

 

まゆりが指を差した先には天に架かる七色の架け橋。大きな虹が空に出来ていた。

そして虹の更に上には、鉛色の雨雲の切れ間から光が差し込み、まるで梯子の様に地に降り注ぐ。

 

「エンジェルラダー……」

 

「綺麗だねー」

 

岡部は幼いころ、この光景が嫌いだった。昔、今と同じく雨が降る日の墓地で、幼いまゆりは祖母の墓の前に居た。

何をする訳でもなく。ただただ、じっと墓石の前に佇み、時が止まってしまったかのように立っていた。

そして幼い岡部は、その姿を黙って見ていることしか出来なかった。と、突然まゆりが空に手を掲げる。

掲げた先には空から降り注ぐ光、エンジェルラダー。その光景が岡部には、まるでまゆりが天国に行ってしまうかのように見えた。

それ以来、岡部はこの光を嫌っている。しかし、今は違う。

α世界線を越えて、β世界線すらも越えて、岡部はこのシュタインズゲートに辿り着いた。まゆりの死を乗り越えるため、そして紅莉栖の死すらも乗り越えて到達したこの世界線。

今の岡部には、この光がまるで自分達を祝福するかの様に見えた。

 

「そろそろ、行こうか」

 

「うん」

 

二人は傘を閉じ、手を繋いで、一度だけまゆりの祖母の墓を振り返る。二人は墓石に向かって軽く会釈をすると、手を繋いだまま墓地を後にした。

 

 

それから二人は秋葉原に戻り、未来ガジェット研究所へと辿り着いた。岡部が勢いよく扉を開ける。

 

「遅れたな」

 

「トゥットゥルー♪」

 

扉を開けた先には、何時もの様に紅莉栖とダル。そして今日は珍しく、まゆりの友人である漆原るかとフェイリス。更には下のブラウン管工房でバイトをしている桐生萌郁がラボに居た。

室内にいた5人は一斉に玄関に顔を向け、そこに立つ岡部とまゆり、次いで二人が繋いでいる手を見た。岡部の脳裏に昨日の出来事が過ぎる。

 

「おやおや~、こんな雨の日に逢引きですかな? ねぇ、橋田さん?」

 

「オカリン爆発しろ。ねぇ、フェイリスさん?」

 

「ニャニャ! 二人とも熱々ニャ!! ねぇ、ルカニャン?」

 

「え、あ。岡部さんとまゆりちゃんてそういう……。えと、桐生さん?」

 

「……」

 

最後にパスを回された萌郁は、手に持った携帯のキーを素早く打ち、最後に送信ボタンを押した。数秒後、室内に携帯の着信音が鳴り響く。音源は岡部のズボンのポケット。

岡部は恐る恐る携帯を取り出し、メールを確認する。そして、彼の予想通りメールにに書かれていた文章は、

 

from:萌郁 題名:本当に!? 

 

二人って何時の間にそういう関係になってたの!?>< 教えてくれても良いのに~^^ 萌郁

 

「~っ!!」

 

予想通りの文章が書かれていた事に、岡部は携帯を持った手で顔を押さえて天を仰ぐ。そして室内からは幾つものニヤケ顔と視線が。

岡部が絶叫するまであと3秒。こうして、今日も未来ガジェット研究所は騒がしく、賑やかに時が流れて行く。

 

 

 

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