黙示録の時は今来たれり   作:「書庫」

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 これは、表に語られる事は無い物語。
 裏側で起こった小さな物語だ。
 つまりは番外編という奴だよ、諸君。



番外編『裏側の物語』
Chapter1『Strange night』


 日は沈み、月は登る。

 

 ■ ■

 

 雨だ、冷たい雨が俺の体を濡らす。

 体温が奪われていく感覚がする。

 起き上がる。屋根のあるところへ行こう。

 

「…あー…痛いねぇ」

 

 思い出す。木場という奴にエクスカリバーごと右腕を持っていかれたあの日のことを。何とか逃げ出せはしたが、…行き場が無かった。教会からすれば俺は不要だし、堕天使はレイナード?レイヤーレ?…まぁとにかくそいつの事もある。悪魔のとこへ行くなんてのは真っ平御免だった。

 

 医者なんてのは頼れなかった。こちとら由緒正しき試験管ベビー、言うなればホムンクルス、作られた命だ。当然戸籍なんてものは存在しないし保険証なんてのは尚更だ。

 

 パシャ、パシャ、パシャと俺の靴が水溜りを跳ねさせた。…つい最近見た見知らぬガキを思い出す。びしょ濡れになりながらも楽しそうに雨水で遊んで、母親にしかられているガキのことを。

 

「…馬鹿みてえ」

 

 乾いた笑い声が出た。ああ、俺もまだこんな声が出せたんだな。なんて思っていたら、足から力が全部抜けた。

 

 ばしゃん!

 

 一際大きく水が跳ねた。辺りを見渡す。暗い、汚い路地裏であることに変わりはなかった。跳ねた水が壁を汚す。薄い赤色だった。…ああ、そうか、止血は出来てなかったのか。どうりでさっきから寒い訳だ。

 

 乱雑に巻いた右肩口の包帯の隙間からだらだらと血が水溜りへ落ちていた。これはもう助からないなと嫌になるくらい納得できた。殺して殺して、最後に殺される運命か。

 

「…クカカッ……」

 

 思えば、本当に空っぽな人生でしかなかった。この身体は『ツクリモノ』でしか無く、その人生も何もかも『ツクリモノ』でしか無かった。仲間なんていない。家族なんていない。心の底からやりたい事なんて無い。

 

 ───俺には、本当に何も無かった。

 

 結局はその一点に尽きた。それしか無かった。それほどまでに俺という存在の人生は、フリード・セルゼンという男が送ってきた人生は空虚で虚ろで空っぽで張りぼてで、虚しいものだったのだ。

 

 壁に身を預け、ゆっくりと安息を待つ。俺の人生はここでおしまいにしよう。だって、もうそこにしか逃げ場が、拠り所が、ゴールが無いんだから。今更何をしようと遅いのだ。それほどまでに俺は空虚の中に居すぎた。

 

 パシャリ、と水の跳ねた音。

 まだ微かに見える目を音の元へ運ぶ。

 青だ、青い髪が特徴の女だ。

 

「…ああ、…そうかよ…」

 

 つくづく俺にお似合いの最後だ。

 だが最高で最優な終わりだ。

 なんせ美女に殺されたとあの世で自慢できる。

 

「お前が、…俺の死神か…

 ───ゼノヴィアちゃん」

「…変わり果てたな、フリード」

 

 憐れみとも、侮蔑とも分からないその眼は鏡かの様に俺をその中に映し出した。そこに居るのは血染めの赤黒いカソックを纏い、壁にもたれ死を待つだけの木偶人形がいた。それだけの話。

 

「…首を取るならさっさとしてくれよ?俺様ちゃんもう全部に疲れちゃったのよ。だからさっさと終わりにしてよん、ほら、剣かノコギリかなんかでスパッとさ」

「……」

 

 もう疲れたのだ。何もかも、何もかも。

 …だというのに、この女は馬鹿なことをした。

 

「…なにやってんの?頭に蛆虫でも湧いたの?」

「……黙っていろ、決断が鈍る」

 

 何故この女は俺を担いでいる?

 聖剣は霧散した。俺の価値は無くなった。

 だから、俺を助けても旨味なんて無いのに。

 

「…俺は何も知らないぜ?信じてもらえないだろうけど」

「……ああ、私もお前なんて信じたく無い。

 …だが、言っておく。私は教会を抜けるよ」

「─────は?」

 

 この女は、今、なんと?

 

「コカビエルは言った。神は死んだと。…分からなくなったのだ。 …神はいなかった。既にいない神の為に捧げて来た私の人生は…何の為の人生だったのだろうな……」

 

 …成る程、自暴自棄になりやがったか、この女は。このことを見るにミカエルの野郎は間に合わなかったのだろう。あーあ、聖剣を使える信徒を逃しちゃいましたねぇ。

 …何の為の人生だったか、ねぇ…そう思えるならだいぶ恵まれてんじゃねーか、クソ。贅沢な悩みだなぁ!

 

「……俺よかマシだろうに」

「…なんだ、慰めているのか?お前が?」

「ハッ、バカ言え。天下のフリードさまが誰かをいたわるなんてのは御免だっつーの。死んでもしてやるか」

「…それを聞いて、私は安心したよ」

 

 雨は振り続ける。意識の薄れが強まった。だがどうしてか、ここで死ぬとは思えなかった。不思議な事だ。存外、俺はしぶといのかもしれない。…いや、それも作られた体質か、どうせ。

 

「…なんでなんだ?」

「なにがだ?」

「なんでテメェは俺を担いでんだ?」

「…さぁ?…私にも分からない。ただ───」

 

 

 …人は基本裏切るものだ。口で信じてるなんて言葉は簡単に言えるし人はそれを簡単に信じる。そして人はそれをさも当然かの様に踏み躙るのだ。だけど──。

 

「どうせ何もかも無くしたんだ。

 なら、一つは良い事でもしておこうと思った。

 …ただそれだけだよ、それだけなんだ」

 

 だけど、ソレは時に誤りを犯す。裏切りが根本にある者達は時たまに、何かの間違いで善いものを残す。それは文化であったり、命であったり様々だ。

 

「……どこに行くんだ?」

「先ずはお前の治療だ。幸いにも薬と包帯は替えがある。このまま廃協会に向かうぞ。…その後は…そうだな…」

 

 馬鹿な話だ。本当に本当に馬鹿な話だ。こんな事は何の意味もない。だと言うのに、なぜ俺は期待を抱いている?お前は何に期待しているというのだ?何も無いと言うのに、空っぽなくせに作り物の癖して…何を…。

 

 

「そうだ、フランスにでも行くか。…手段は…まぁどうとでもなるだろう。 お前はこれからどうする?フリード」

「…俺は…」

 

 

 ……俺は。

 

 ■ ■

 

 

 月は沈み、日は登る。

 




 本編では無いのです(謝罪)
 ただこれはこれで大事な物語なので…
 本編の進行具合に従って此方も進行して行きます。
 あ、感想の返信は次回の更新が終えた時に。

 さて、奇妙に道が狂い始めたフリード。
 彼の選択は如何に。その果てに応えはあるのか。
 
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