黙示録の時は今来たれり   作:「書庫」

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 ──貴方が世の均衡を保つなら
   その方法は過ちでしかなかったよ。
 ──貴方が平和を謳うなら、
   その政策は間違いでしかなかったよ。
 ──貴方が真に人を想うなら、
   その事実を隠すべきではなかったよ。

 貴方は世を思うべきではなかった。
 貴方は王になるべきではなかった。
 貴方は存在するべきではなかった。




Hello World!

 『神の子を見張る者(グリゴリ)』所属の『白龍皇』ヴァーリ・ルシファーが裏京都から撃退されてから三日ほど過ぎた。倒壊した住宅街の復興はそれなりに進んでおり、未だ慌ただしさはあるが、多くの妖が普段通りの日常に戻りつつある。

 今回の騒動は入りこそ混乱を招くほど衝撃的なものであったが、事態の収束は冗談な程に早かった。

 

 事態収束の要となっていたのは裏京都にて匿われていた黙示録の獣、命持つ災害、人呼んで『666(トライヘキサ)』である。

 今回の一件で、日本神話自体が大きく揺れた。彼らの最初の決定としては『要観察』後に『処分』である。故に主神、天照大神はギリシャ神話からハデスを、北欧神話からはオーディンを召喚。

 

 極秘裏に行われた会談でもその決定は覆らなかった。しかしトライヘキサに告げられたのは『裏京都からの追放』のみであり、『処分』こそ降ることはなかった。

 それはなぜか?彼等の会談にとある天使が乱入したからである。その天使の名は『叛く御使い(サタナエル)』。トライヘキサ誕生の発端であり、聖書の滅亡を目論む存在。ギリシャ、北欧、日本はそれを知りながらも彼の要求───つまりは、トライヘキサの受け渡しを了承した。

 

 

 そしてとある新幹線のグリーン車。

 座椅子に腰を掛けるのは1組の男性。一人は心臓に水晶の杭を生やし、足首を枷と鎖に繋がれた線の細い少年、一人はくたびれたスーツを粋に着こなす無精髭の男。

 少年の目と表情には疲労と困惑が縫い混ぜとなっており、それを表に出しているのか頭を抱えながら呻き声を漏らしていた。

 

「あらら、もう酔っちゃったぁ?」

「…情報の整理が追いつかない…何この速い箱…進化って怖い…馬を捕まえる必要がないなんて…」

 

 …青い顔もセットで。

 

 さて、獣の視点から今回の件をまとめよう。先ずいきなり仮住まいから立ち退き、そこに加え(表向きは)ある人物の元その身柄を拘束するとのお達しが来た。

 

 ここまではまだいい。トライヘキサ自身、心の何処かでこうなる事は予想していた。だが、そこから続く事態は彼の予想をぶっちぎりで裏切ったのである。

 己の身柄を拘束する人物は過去に一度邂逅し、死に別れた恩人『サタナエル』であった。これが第一の驚き。

 

 

「久しぶりだねぇ!うーん、元気そうで何よりだ。ちょーっと、厄介な封印が打たれちゃってるけどねぇ」

 

 

 第二の驚きとして、口調が崩壊していた。その時少年は目の前の存在を贋作と認知し、比喩も誇張もなく真剣に焼きはらおうとした。が、彼の嗅覚と勘や本能、その他諸々がサタナエルを本物と認めているため益々少年の混乱が強まっていたが。

 

 

「あ、貴方にはこちらの口調でしか話した事がありませんでしたね。いや失敬。では気を取り直して…お久しぶりです。いやぁ、林檎の配達が間に合って良かった。666(トライヘキサ)

 

 

 認めざるを得なかった。完全に過去に見た者と一致してしまっている上に、匂い、気配、声色、その他諸々が完全に完璧に一致していたのだから。

 その後八坂や九重に別れを告げ、(特に九重に)惜しまれながらも、足を止めたいと願いながらも少年は裏京都を離れた。

 

 “また、帰ってきますから。その時はどうか、

 おかえりって言ってください”

 

 そんな他愛も無い約束をして。

 

 

 

「一つ思ったんだけどさ、どうして空飛ばないの?」

「空か異空通ったら俺の存在がバレちゃうからな」

「…やっぱりあの羽って死体偽装?」

「いやいや、俺はあの時死んださ、完全に」

 

 ならなんで、と声を僅かに荒げ獣は問いを投げかける。然し男の顔に張り付いたニヒルな笑みは腹が立つほどに崩れない。それどころか余裕綽々と道中購入した駅弁に舌鼓を打つ始末だ。

 

 

「…ま、ヒントを言うとしたら。カップを満たす水を水筒に移し替えただけだ。それ以外は何もない。じゃ、俺は寝るから着いたら起こし───ぐぶぇあ⁉︎」

 

 

 サタナエルの腹に容赦無くストレートが突き刺さる。勿論犯人はトライヘキサであり、その眼には『良いから教えろ』と訴えていた。

 溜息を吐く男。ガリガリと仕事で失敗し、憂鬱に気を沈ませたサラリーマンの様に髪を乱暴にかきむしる。服装がスーツのせいかやけにそれがリアルに見える。

 

 

「…万が一に聞かれてる可能性がある。

 話したくても話せないんだよ」

「……あ」

 

 

 失念していたという表情を隠さない。然しどちらにせよサタナエルは質問には答えなかったであろうが。

 

 

 そのまま二人は揺られ、微睡みに堕ちる。

 その姿は、まるで親子のようで、

 

 

 ───いいや、違いますね。

    幾ら何でも、それは彼らに失礼ですか。

 

 

 ■ ■

 

 そして、それなりに長い時間をかけた、夕暮れが地を指す頃に彼等はとある街へとたどり着いた。その街の名前は『駒王町』。

 現四大魔王が一人サーゼクス・ルシファーの実妹であるリアス・グレモリーの管理する土地。

 獣は足を踏み入れた瞬間に顔をしかめた。気配と嗅覚でわかるのだろう。この街に悪魔と堕天使が巣食っていることが。

 

 それを意に介さず歩を進めたサタナエル。その足取りの先は何の変哲もないただの高層ビル。だがその内装が明らかにおかしかった。先ず外見と内部の広さが一致しておらず、階層も存在していない。つまりは縦に長いただの箱。

 中にあるものも生活に必要な物が最低限だけ置かれており、後は医療設備しかない。

 

「俺達だけで聖書を滅ぼしても構わなかった。

 だが事情が変わった。貴様の封印と、

 神聖四文字の施した最悪の予定調和、

 『ヨハネの黙示録』の存在」

 

「俺達には『例外』が必要となった。

 俺達には『異分子』が必要となった。

 ───それが『人間』だ」

 

 神の意志に縛られない知性体。

 例外たる存在、神が羨み畏怖した命。

 神にとっての薬であり毒。

 

「…君が首魁の勢力、その拠点」

「…概ねその通りだ」

 

 多種多様な存在がそこにはいた。

 或いは英傑の魂を継ぐ人間。

 或いは英雄の血を継ぐ人間。

 或いは最強と謳われた人間。

 或いは暴力と謳われた人間。

 或いは殺戮に酔いしれた人間。

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 その存在を見た瞬間、トライヘキサは牙を剥きかけるが寸前で抑え、深呼吸を一つ。落ち着いたのを見計らえばサタナエルは言葉を続けた。

 

「組織名『大いなる都の徒(バビロニア)』。

 かつて一神教を弾圧した都市の名前だ。

 そして聖書に対する最悪の反動勢力」

 

 何の為に?勿論、人類の為だ。

 それ以外何があるというのだ?

 

 

「俺は見たいんだ。神の手も悪魔の誘惑にも左右されず、当たり前のことに喜び、当たり前のことに泣く。そんな平凡な人間の世界が」

 

 ……見れないだろうが。

 …叶わないだろうが。

 それでも、俺を含めて聖書(キサマら)には、

 この世界から消えてもらわなきゃいけない。

 神の残骸を打倒しその先にある夜明けで、

 無垢なる命を照らす為に。

 

「さて、そんじゃ一つ話すとしますか。

 お前が今一番知りたがってる事。

 過去から今にかけての三大勢力の動きについて」

 

 

 だから、この選択は妥当だろう?

 この結果に辿り着くのは必然だ。

 悪魔よ、堕天使よ、天使よ。

 引き金は貴様らが引いた。

 何もかもお前のせいだ。

 

 ああ、笑えるねぇ笑えるねぇ。

 救いも慈悲も何も無い。

 お前達の生存を世界は許さない。

 

 絶望しながら死に果てろ。

 慟哭を上げ燃え尽きろ。

 狂いながら消えるがいい。

 

 それが貴様らのできる唯一の償いだ。

 

 

 

 

 




トライヘキサにこれまでの聖書の所業がインプットされたの巻き。次回から本格的に動きまーす。つまり…こ こ ま で 全 部 プ ロ ロ ー グ だ よ ぉ !
ジャンジャ〜ァン、今明かされる衝撃の真実ゥ!(土下座)

お気に入りに登録、評価付与、感想を送ってくださった方々に未だ止まない感謝を!誠にありがとうございます!自分の能力の無さに割と死にたいと思った「書庫」でした。かしこ。

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