黙示録の時は今来たれり   作:「書庫」

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キャベツ狩り用の事故ナギ作ってたら遅れました。許してん。






チケット完売

 『新撰組』───それは、江戸時代末期から明治初頭にかけて、京都の治安を維持するため設立された警察・軍事組織である。

 彼等は日本で最も有名な剣客集団と言っても過言ではないだろう。

 

 彼等は反幕府勢力が主な取り締まり対象であり、攘夷浪士だけでなく、「局中法度」と呼ばれる鉄の掟によって隊内の人間も厳しく律されていた。

 

 その中で、一人の天才がいた。

 

 天才の名は、沖田総司。

 

 新撰組一番隊隊長という大役を若輩ながらも任された男。偏にその男はそれほどまでの実力を持っていた。その力たるや今も昔も変わらずに新撰組最強の名が語られる程であった。

 

 だが彼は最後まで戦い抜くことは出来ず、前線から身を引く事となる。 彼は当時難病であった『結核』を患ってしまったからだ。その後、彼は時代の節目となった新撰組最後の戦い───。

 

 『鳥羽・伏見の戦い』の参戦は叶わなかった、その上、恩師であり、兄弟同然の親友である近藤勇が斬首の刑に処された事実を知ることも無く、…この世を去った。

 

 …と、言うのが()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■ ■

 

 

 彼の地の名は『冥界』。悪魔が巣食い、栄えし地の底。だが、今この地は火の海と破壊の嵐に蹂躙されていた。

 家々は破壊し尽くされ、純血の悪魔は殺しに殺され、転生し悪魔へと変生させられた者達は連れ去られ、被害を食い止めようと立つ盲目の『ヒーロー』達は現実を見据えた『悪党』にその足を止められていた。

 

「デタラメにもほどがあんだろうが…!」

「ッ! 下がれ!スルト!」

「紛い物の巨人は退けぇ!!邪魔だあぁ!!」

 

 冥界の首都『リリス』。そこは、たった一人の少年により陥落した。少年の名は『トライヘキサ』。神秘学、民俗学、宗教学に知識のあるものなら誰もが一度はその名を聞いたことがあるであろう『黙示録の獣』その人である。

 

「ガッ ァあ⁉︎」

「スルト…!クソッ…!貴ッ様ァ!」

「お前は(オレ)だ!」

 

 彼は終末の巨人を遠方へ飛ばし、背に転生悪魔の少女をかばいながら一人の悪魔と相対する。悪魔の名は、『沖田総司』。

 そう、沖田総司だ。同姓同名の悪魔などではない。…彼は死ななかった。死ねなかったのだ。

 

 彼は死を回避しようと幾何度も生前に度重なる魔の儀式を行った。そしてその影響で、体内には鵺をはじめ数多くの妖怪が巣くっており、「一人百鬼夜行」が可能となっている。

 

「何を言って…」

「自ら異種に落ちた愚か者だ!」

 

 少年の身から迸る炎の群れ。それは彼が率いる百鬼をものの数秒とかからず灰燼へと変貌させた。

 少年はそのまま拳をデタラメに振るう。大地の欠片と瓦礫が舞う。それは質量の弾となって悪魔へと襲いかかる。悪魔はそれを恐るべき速さ、目視すら出来ない神速で切り刻み小さな欠片へと変える。

 

「何なんだ…」

 

 脱兎の如く悪魔へと駆ける少年。そして躊躇なく悪魔の頭蓋へと拳を縦に振り下ろす。悪魔はすんでのところでそれを避けた。しかし降ろされた力の余波が襲う。それは暴風と砂塵を形成し、沖田を吹き飛ばす。

 

「ッ…っ、本当にデタラメだな…」

 

 刹那、砂塵の中から白く柔らかな手が伸びる。息を飲む。背に氷が突き刺さったかの様な悪寒を体験する。余りにもリアルな死の実感。

 

 

「ッ…うぅつあ!」

 

 何かに駆られた様に、何かから逃げるかの様に半ば必死に剣を振るう。それは確かに獣の手の平を串刺しにした。人肌のように温い赤い血が冷たい刃の上を走る。

 ぐぢゃり、と肉を割きながらも少年の細い指は確かに刃を掴んだ。自らの手を潰すことも厭わず、少年は確かに刃をその手に掴み拘束した。

 

「なんだよ…何なんだよ…!」

 

 ずるり、ずるり、己の手の平に深く突き刺さる劔など気にもとめず沖田に獣は詰め寄る。恐怖がその場を支配する。後ろにヘタリ込む転生悪魔の少女ですらその姿に身を震わせる。

 

「何なんだよお前は!!」

 

 ただ、沖田総司という男が感じたのは恐怖に非ず、どこから来るものなのか分からない焦燥であった。

 少年の右の手の平がとうとう刀の鍔を掴む。今、ここで沖田総司の剣は完全に、完璧に止まった。

 

再臨する太陽(アメン・ラー)…!」

 

 だが、少年の唇は確かな音節を持って囁く。掲げられた左の手の上には轟々と燃え盛る炎球。それは名前の如く太陽のように赤く、どこまでも赤く燃えている。

 

 

 

 

 あの時と同じ、避けられない死が迫る。

 

 

「嫌だ、…だって、俺は…俺はまだ───!」

 

 ──まだ、何だ?

 

 固まる。死の直前に騎士の腕は止まる。

 

 

 そして、思い出す。自分はまだ戦えると、そう親友に豪語した直後に病に倒れ、前線から引かされたあの夜を。思い出す。仲間が死にものぐるいになっている時だというのに戦う事も出来ず、ただのうのうと布団の中で空を眺め続けたあの朝を。黒猫すら切れなくなってしまった己の身を。

 

 自分が何と成り果ててしまったのか。己はすでに新撰組として戦っていないことに、今更ながら気づいてしまった。

 

 錦の羽織を着る資格などもう今の自分には無い。延命はあくまでも最後の戦地に赴くための、仲間と最後を共にする為の希望だったというのに、今の自分は何をしている?戦地に行く事もせず、何をしている?誰と戦っている?何の為に戦っている?

 

 近藤勇は死んだ。土方歳三も死んだ。永倉新八も居ない。斎藤一も居ない。 松原忠司も居ない。井上源三郎も居ない。谷三十郎も居ない。藤堂平助も居ない。鈴木三樹三郎も居ない。原田左之助も居ない。沖田総司は沖田総司と呼べるものでは無くなった。

 

 新撰組など、もう何処にもいない。

 

 では、ここにいるのは誰だ?

 

「あ、…ああ……そう、だ…もう、いないんだった…みんな…」

 

 炎球に飲み込まれた。熱くもない。痛くもない。それ以前に、心が限界だった。十二分過ぎるほどに叩きのめされた。事実を思いださせられた。そうともなれば、この炎が、最後の逃げ場所だった。

 

「…ごめんなさい…近藤さん……」

 

 ルシファー眷属『騎士』■■■■──死亡。

 余りにも長すぎたその生に、漸く死は訪れた。

 

 

 ■ ■

 

 人界、駒王学園。

 

 

 『禍の団(カオス・ブリゲード)』による襲撃騒動は終息へと向かっていた。会談に乱入したカテレア・レヴィアタンは堕天使総督アザゼル、天使長ミカエル、魔王ルシファーの三名により鎮圧。外に控えていた大隊もリアスやその眷属により鎮圧された。

 

 だが予定外の事象が発生。

 白龍皇ヴァーリ・ルシファーの裏切りである。

 

 堕天使総督アザゼルは片腕を切断されるという事態が起きた。そして白龍皇は赤龍帝と衝突することとなる。

 戦況は言うまでも無く白龍皇の優勢。赤龍帝と違いヴァーリは研鑽と努力をそれなりには積んでいた。

 

 だが軍配は意外にも赤龍帝に上がる。

 

 白龍皇の持つ神器『白龍皇の光翼』の亜種『白龍皇の鎧』の待つ能力の一つに「Half dimension」という物がある。それはあらゆるものを『半分』にする領域を展開するというもの。 赤龍帝はそれを知ると同時に一つの思考にたどり着く。『その技は部長のおっぱいすらも半減させる』という思考に。

 

 途端、怒りのあまり覚醒した。いや、何を言ってるかわからないと思うが事実なのだから仕方がない。兎にも角にも赤龍帝も『禁手』を解放。『赤龍帝の鎧』を顕現させる事に成功し、ヴァーリ・ルシファーを撃退する事に成功した。

 

 騒動も収まり、『禍の団(カオス・ブリゲード)』という敵達の正体も掴んだ。であるならば、後は戦うだけだ。そして世界に平和をもたらそう。そう、方針が定まった時だった。

 

 パン パン パン。

 

 ゆっくりとした拍手の音。誰もがその後の方向へ耳だけではなく目も傾けられた。音源は散らかっていた椅子の上から。何処にでもありふれている会議室の椅子に座る黒髪の男の姿は現代においては妙なものだった。

 

 法衣のような服。其処彼処に付けられた装飾はそれを纏うものの高貴さを示しているかのよう。そしてその男の頭にはシクラメンの花で編み込まれて作られて冠が。

 

「いやはや、まさに馬鹿げた喜劇だった。文字に起こして場末の出版社にでも持ち込めば二束三文にはなるんじゃないかな?」

 

 その姿に神の如き強者という意味の名を持つ黒羽と神の如き者の名を持つ白羽は目を見開く。その反応を見て、遅れて魔王も理解する。そして共通の逃避が生まれる。『そんな事は無いはずだ』『あり得てならない』『悪い冗談にも程がある』。

 

「…しかしまぁ、流石は神聖四文字(テトラグラマトン)の見込んだ『天才』だ。これくらいはお手の物…か。つまらない」

 

 頬をひきつらせる天使と堕天使のトップ。その理由は目の前の『人間』の恐ろしさを知っているからだ。嫌という程に。だがそれを知らない若い悪魔は無謀というか、無知故の行動を起こしてしまう。

 

「っ新手ね。性懲りも無く…!?」

「これで最後…っ!?」

 

 一人はリアス・グレモリー『滅び魔力』を展開し、矛先を男に向けてしまう。一人は木場裕斗『双覇の聖魔剣』により聖魔剣を創造。その剣先を男に向けてしまう。

 

 言うまでも無く、いきなり現れた男は敵だ。それが分かる迄は良い。だが矛先を向けたのは不味い。その人間に不用意に手を出す事なかれ。何故ならば───。

 

「今すぐ手を引け若造どもが!!!」

「リアス!今すぐ引くんだ!」

 

 魔王と堕天使総督が必死の形相で場を収める。

 だが、遅かった。遅れてしまった。

 

「『忌むべき王冠(ケテル・カルマ)』」

「カッ…ハ…⁉︎」

「───っ⁉︎」

 

 一度の音節。それだけでリアスと木場は地に伏せた。それはさながら隷属を強いられた奴隷が王の前で跪くかのように。

 

「…やはり指輪一つではこの程度か。十も揃っていればミカエル以外は地に伏せていたはずなんだけどね」

「てめぇ!部長と木場に何を…っ⁉︎」

「頭を冷やしやがれ馬鹿野郎!!」

 

 兵藤一誠が想い人と友人の異変に駆け出すもアザゼルに殴られ、止められた。吹っ飛ばされ壁に埋まる一誠。この判断をサーゼクスは責めない。寧ろ助かったと礼を言う。

 

「んなもん後にしやがれ…それよりも、だ…!なんでテメエがいやがんだよ…()()()()…!死んだ筈だろうが、テメエは!」

 

 必死なまでの叫び。その叫びを王は嘲笑に付す。

 

「…君達はまさか僕という案件を『終わった者』として片付けていたのかな?」

 

 王の浮かべる悪辣なる笑みと吐き出されていく言葉。それを目の当たりにしてしまう者達。ぞわり、と気味の悪い悪寒にミカエルは支配される。

 

「始まるよ」

 

 意に介さず王は告げる。

 人間は無機質に、それでいて運命に抗う叛徒の様に。

 

「本日を以って始まった。何が?と今は戸惑うかもしれない。だが嫌でも分かる様になる。君達が見過ごして来た、棚上げにして来た問題は重さを増してのしかかる」

 

 笑って、微笑って、嗤って告げる。

 

「貴方は…何が、したいのですか?」

 

 歯を食いしばりミカエルは尋ねた。王はその表情を一時のみ崩す。貼り付けたかの様な笑みではない。後に待ち受けるそれが楽しみで楽しみでたまらないと言った凄絶な笑み。

 

「神の予定調和に挑戦する…!神様は間違えてる、世界を破滅させるのは、人間自身であるべきだ!それを証明してみせる!」

「…イかれてるよ、お前」

「知っている。だがそれの何が悪い?」

 

 唐突に、魔王の焦燥に駆られた声がした。

 

「…ッ…冥界が…リリスが…陥落した…⁉︎」

 

 漸く届いた通信術式。その知らせに、誰もが目を剥いた。リリスとは冥界の首都。それが陥落したという知らせ。顔を蒼白色に染めた赤髪の魔王は不安と焦りから躙り寄る吐き気に口元を抑える。

 

「ァハ」

 

 破顔。その顔が見たかったと言わんばかりの笑み。

 

「ァハハ! ハァハハ、アハァッ!」

 

 王は、ソロモンはどこまでも嗤っていた。冥界に四人いる内の魔王を一人だけ残すという采配を行ったサーゼクス・ルシファーを、何処までも嗤っていた。楽しそうに、愉快極まりないという程に。

 

 役者は揃った。 舞台は整えられた。

 終末論は三千年前より書かれている。

 であるならば、ここに開幕を再現する。

 

「さぁ、先ずは第一幕だ。精々耐えてくれよ?

 信念が塵芥に等しいオガクズ頭ども!」

 

 最後にそう告げて、王は消えた。

 

 

 




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