黙示録の時は今来たれり   作:「書庫」

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人間(に味方する)側の事情。

事故ナギ完成した嬉しさで即書きあがった…
やっぱりモチベって大事。
それでは、本編どうぞ。


人間側の事情

 日本にある何処とも知れぬ、それなりに規模がありながらも神聖なる気が全くと言って良いほど無い神社。此処は山奥であり、人が入る事など滅多にない。祭神は不明。もしかしたら人類に忘れられてしまった神が祀られていたのかも知れない。

 

 兎にも角にも、其処に「大いなる都の徒(バビロニア)」は居た。かつて己達を『英雄派』と名乗っていた彼等は、人目のつかない場所を拠点に置いていた。その名残をそのまま利用している。

 

 中には数々の人間が治療を受けていたり、心得がある者は自分で治療を行っていたりしていた。その場は喧騒というか談笑というか、とにかく騒がしいものだった。

 

「いだだだだ!馬っ鹿ジーク!消毒液一回の量が多っあだだだ!染みる…!死ぬ…!」

「我慢しろペルセウス。君の傷は深いんだから」

「おーい、包帯は余っているか?」

「おう、ほら」「っとと…感謝する」

「曹操が逃げたぞ!追え!」

「ハッハァー!待てやリーダーてめぇ!」

「はいはーい!次の奴ゥ〜?」

「…サタナエルさん、白衣似合いませんね」

「えっ」

 

 …とにかく、騒がしかった。その騒ぎから離れたいのか。それともその場に己は関わるべきではないと距離を自ら置きたいのか。神社の外、縁側に座り込むのは少年の容貌を持った化物。『トライヘキサ』である。

 

 

 

 

 

 ■ ■

 

 

 

 

 

 

「…人間って回復早すぎないかな……」

 

 苦く笑う。本当に元気だ。冥界から撤退した直後は皆治療も忘れて泥のように眠りこけていたというのに、たったの一晩でこの有様だ。治療を一足先に終えたヘラクレスとゲオルグは酒盛りをしだす始末。

 

 こんなのでいいのかとも思ったが、まぁ、慰労はどんな時でも必要で重要だし、あれだけ大規模な戦闘もしたのだ。今だけはいいだろう。時が来ればちゃんと切り替えねばならないが。

 

「…何も知らないくせに、かぁ」

 

 ゴロリ、と縁側に寝転ぶ。繰り返したのは『元人間』に言われた言葉。思いの外、自分にとって今は悪魔といえど人間に言われたのはショックだったらしい。

 

「そんな事言われても、なぁ」

 

 どうしろというのだ。だって事実では無いか。確かに善性をもった悪魔もいるかもしれない。現にディハウザー ・ベリアルは良識を持っていた…と思う。話した事があまり無いのでこの評価が正当かどうかはわからないが。

 

 だが今はどうだろうか?『悪魔の駒』による他勢力及び人界への侵食問題。そして悪魔の言う眷属の扱いだ。犯され嬲られ、飽きたら殺される。そして駒の持つ特性である死からの蘇生と解呪。それを売りとした隷属の強要。まだまだ腐る程ある。

 

 『───何も知らねぇくせに、一部だけ見て全部を決めつけて!一方的に全部を悪にして!碌に分かり合おうともしないで壊したのはお前だろ!』

 

「……気にすることじゃ無いんだろうけど…」

 

 身を起こし柱に寄りかかる。空を見上げた。星のない夜。暗夜の空。単色でありながら鮮やかな紺色が視界を埋め尽くす。

 風が吹く。山奥のせいだからか、サラサラと木の葉が擦れる心地いい音色が耳の中に浸透する。

 

 …少し、休もう。なんだか疲れた。

 

 微睡みに意識を放り込む。水の中に意識だけが沈み込んで行くみたいで、落ち着く。ああ、このまま朝まで眠ってしまおうか。と思ったけど。

 

「…………」

 

 閉じかけていた瞳に二人の女が映る。見覚えは勿論ある。手前にいるのは冥界を焼いていた時に助けた女の子だ。その子から離れた背後に立つのは確か『ジャンヌ』って呼ばれてる人。

 

「見つかったか?」

「…ん……」

「…あと数刻もすれば貴女の駒の摘出が始まる、遅れるなよ」

 

 ジャンヌはそのまま後ろで待っている。名前が分からない少女と二人きりという状況が生まれた。少女はそのまま駆け寄って来る。顔が近い。まじまじと見つめられている。…何の用だろう?

 

「……どうしたの?」

 

 柱から身を離す。しゃらん、と鎖の揺れる音がいやに綺麗に聞こえてなんとも言えない気持ちになる。

 そして、ゆっくり少女の唇が動いた。動いたんだ。

 

「…───ありがとう」

「……ぁー……」

 

 

 何も言えない。ただ分からない。過去に何度も人助けはやったことはある。勿論お礼は毎回しっかり言われていた。でも違う。昔何度も聞いた『ありがとう』とは違う。何だろう。何なんだろうこれは。温かなものなのは変わらないでも、重みがあった。

 

 大きな槌で、頭を殴られたような感覚。

 

 

「……ありがとう」

 

 ああ、ああ、口角が上がる実感が脳に伝わる。なぜ笑う?なぜ笑う?……嬉しいのか?僕は?

 

「…ありがとう……」

 

 …やめろ、嬉しいなんて思うな。それはあの人間にだけ許される。大体、僕があの時聖書の神を、聖書自体を殺せていればこんな事にはならなかった。きっとそうだ。そうなんだ。だから、笑うんじゃない。笑ってはいけない。そんな事は許されない。

 目の前の少女がこんな悲劇に見舞われたのは僕のせいだ。僕がしくじったからこんな事になったんだ。

 

「……、ありがとう……」

 

 だというのに、だというのに、僕は何笑っていやがる。違うだろ。そうじゃないだろう。違う。違うんだよ。僕は喜んじゃいけない筈だ。だってこうなったのは僕のせいだろう?僕のせいだというのに。

 

「───どう、いたしまして」

 

 …嬉しいと思って、ごめんなさい。…僕のこの手は、そのやさしい両手に握ってもらえる資格が無い。

 喜んでしまうから。その温もりを喜んでしまうなら。駄目なんだ。それはきっと駄目なんだ…僕には、勿体ないだろう。

 

 

 その優しい両手は、化物には与えていけない。

 おとぎばなしの化物は、それを喰らうから。

 …だから、僕は、思うんじゃ無い。

 僕は、聖書を殺せなかった。それが今を招いた。

 …だから、僕は、これを喜んじゃいけない。

 ああ、でも。

 

 

 

 

 

 ……あったかいなぁ…。

 

 

 

 

 

 ■ ■

 

 

 

 

 

「なぁー、曹操」

「何でしょうか?」

 

 人間達の治療は粗方終わった。あとは駒の摘出だけだ。準備までに時間がある。酒盛りに混ざりたいがここは堪える。…話さなきゃいけないことが、俺にはあるからだ。

 

 …今回の件で決定的に引き金を引いた。俺は最初からだが、このおかげで、こいつらは本当に戻れなくなった。俺が先導した。俺が引き摺り込んだ。

 

「お前、俺の代わりにリーダーやるつもりない?」

「…は?」

 

 呆けた声。瞳孔の開ききった瞳はお前は何を言っているんだとでも言いたげだ。驚きのせいか身体はすっかり固まっている。整備不良の(神様のお人形)みたいだ。

 

「勿論今からって訳じゃない」

 

 落ち着きが戻ったようだ。「そうだよなそうだよな」という雰囲気がありありと滲みきっている。しかしまぁ、勿論解さないだろう。だから、詳細を知ろうとする。

 

「…いつか、継ぐ事になると?」

「…いつか、俺は死ぬからな」

 

 真ん丸に肥えていながら美麗な月を見ながら笑う。曹操は苦笑いを浮かべて俺とは対照的に大地に目を向けている。

 

「…貴方が破れると?冗談はやめてくれ」

「ギャハハ!暖かな信頼どーも。…でも…」

 

 計画は最優の道を外れてしまった。予想通り俺はこの身を捧げなけねばならなくなった。…俺の望みはやはり叶わないようだ。

 

「俺は見たいんだ。神の手も悪魔の誘惑にも左右されず、当たり前のことに喜び、当たり前のことに泣く。そんな平凡な人間の世界が」

 

 …やはり見れなくなってしまった。

 …やはり叶わなくなってしまった。

 

 …ああ、だがこれでいい。俺達は、この世界から消えなきゃいけない。俺達は神の残骸。神が死んだ今、もう、意味なんて無い。ただのお人形だ。だが、だがそれでも、この紛い物の命が───。

 

「知ってますよ。だから、生きてください。今の俺に、この組織の頭は務まらない。もっと色んなことを、貴方から学ばなきゃ、いけないですから」

 

 無垢なる命を照らす為に、役にたつというなら本望というヤツだ。元より俺達はその為に作られた。その為に分かたれた。その為にアイツは『目』を持ち、俺は『告発』を持った。

 

「へぇ、中々言うじゃない、嬉しいねぇ。

 じゃ、もうちょっとだけ…厳しく行くよぉ?」

「…お手柔らかにお願いします…」

 

 …茶番はもう終わりだ。

 俺は、俺達はもう限界なのかもしれん。

 だから、お前が、俺達の終わりになってくれ。

 曹操、お前が俺達を終わらせてくれ。

 そして、この身勝手なバカを嗤ってくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■ ■

 

 

 

 

 王は狂っていた。

 王は人を嫌っていた。

 彼等がどこまでも醜いと、王は憎んだ。

 王は人が人により滅びることを望んでいた。

 

「全ては、キミが死んでから」

 

 だが、王は、人を見捨てなかった。

 飢餓に苦しむ子の腹を満たした。

 愛をねだる孤独な男に愛を教えた。

 裏切られた女に居場所を与えた。

 孤立無援の老人の最後を看取った。

 

「…キミを、愛している時から」

 

 それは神に教えられたからでは無い。

 それだけは断言しよう。彼は、自らの意思で民を見捨てることはなかったし、滅ぼすこともしなかった。彼は王としての責務を、『民を導く』という事を最後まで全うして見せたのだ。

 

 王は狂っていた。

 王は人を嫌っていた。

 彼等がどこまでも醜いと、王は憎んだ。

 王は人が人により滅びることを望んでいた。

 

「もう、随分と時間が経ってしまった」

 

 シバの女王。王が心から愛したたった一人の女。

 

 誰よりも愛して、誰よりも見つめた。

 誰よりも信じて、誰よりも傍にいた。

 

 彼女は、王と違い人を心から愛していた。

 醜さや悲劇の中に美しさや幸福があるのだと。それはまるで、石塊の中にある小さな宝石の欠片のように。

 

 彼女は王と違い全てを見通す眼を持っていなかった。だが彼女は王の見たことないものを見ていた。確かに人は悲しみを繰り返す。だがそれだけではないと彼女は知っていた。

 

 信じ、正し、償い、受け入れ、笑う。

 与え、赦し、救い、また与える。

 認め、企み、驚かせ、喜劇を作る。

 

 王はそれを綺麗事だと鼻で笑った。だが、彼女はこう言ってみせたのだ。臆面も見せずこう言った『綺麗事の何が駄目なのか』。そう、言って見せたのだ。

 

 

「…もう此処には戻らない。振り返らないよ」

 

 

 王は狂っていた。眼から覗く多くの悲劇にその精神は蝕まれ破綻して崩壊し一夜のうちに人を信じる事が出来なくなってしまった。

 王は人を憎んでいた。何処まで行っても争うことしか出来ない人間が許せなかった。側にある幸せがありながらそれを壊す人間が許せなかった。理解できなかった。

 彼等がどこまでも醜いと、王は憎んだ。騙す事、陥れる事、己のみが利益を得る事、それだけを考える人間しか見えなかった王は人は皆そういう生き物なのだと誤認した。

 

「だから、泣かないように見守っていておくれ。 ずっとずっと離れていても、僕は変わらずにキミを想う。キミのぬくもりを、あの優しい両手を、僕は忘れない」

 

 その誤りを正してくれる女がいた。

 王が心から愛した女。人を愛した女王。

 

 王は人が人により滅びる事を望んだ。その理由は単に憎しみだけでは無い。その発露には憎悪以外にもあったのだ。

 

 結局、彼は我慢出来なかったのだ。愛した女が好きだったものの行く末が、在り方が、上にいるだけの存在に決められる事が。

 

 人の未来は、どう足掻こうとも破滅である。

 神はそれを嘆き、人の未来に『幸福』を置いた。

 それは、まさしく楽園だろう。

 全ての悪は裁きにより死ぬ。善のみが生き残る。

 争いは無い。飢えは無い。悲劇は無い。

 幸福のみが有る。その世界が永劫に続く。

 

 もしシバの女王が生きていたら彼女はきっとこう言うだろう『神様は間違えている。こんな未来は受け入れてはならない』と、臆面も見せずにそう宣言して見せるのだろう。

 

 だから、王は人を人の手による破滅に導いた。楽園など認めない。そんな未来は許容しない。彼女が、■■■が愛した命の在り方が、歪められる事など許さない。

 

 だから選んだのだ。人が人により滅びる未来を。

 

 王は人を愛していない。王は人を愛した女を愛したのだ。だから、彼は決めたのだ。愛した女が好きだったものが、最後まで、滅びるまでそう在る事が出来る未来を。

 

 

「…墓前の語らいは済んだか?ソロモン」

「待たせて悪かったね、クロウ、クルゼレイは?」

「旧魔王派の残党狩りだ」

「それはご苦労、それで、リゼヴィムの情報は?」

「一切ナシだ。余程警戒しているのか、痕跡も辿れん。余程深く潜っているのか、あるいは…」

「……急ごうか。僕の切り札を、……トライヘキサを、奪われるわけにはいかないんだ」

 

 

 




人を動かすのはいつだって、愛でした。

さて、フランスの田舎にある孤児院。そこに攫われた筈の転生悪魔が見られたらしい。調査依頼がリアス達の元に下される。裏の物語と表の物語が交わる時は今ようやく。

次回「chapter3『人間舐めんな』」

滅びた邪竜は、金星の残照の元に産声をあげる。
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