ゼノヴィア・クァルタは教会を抜けた。…あの発言は本気だったのかと驚くと同時にアホらしいと思った。このご時世、どこでも良いから組織には入っておくべきだとは思うがね。あー、でも、教会を抜けたのは正解だったかもしんねー。
フランスのどっかの街。馬鹿でかい噴水が中央にある広場にあったベンチに俺様ちゃんことフリード・セルゼンは寝っ転がって日向ぼっこと洒落込んでいた。以前の生活と比べれば想像もつかないほどに穏やかすぎる。
…俺があの女に拾われて、もう何日か経った。結局俺は治療を受けて、行く当てもないので同行する事とした。
「しっかし、意外とチャッカリしてるよなぁ、ゼノヴィアちゃんも」
あの女、まさかデュランダルをそのままかっぱらって来るとは思わなんだ。おまけに俺の光剣の柄と銃まで…。
「私がなんだって?」
「ぐぇ」
腹にかかる重量感に思わず呻き声が出る。胡乱げな瞼を開けば目に映んのは無駄に凛々しい青女ゼノヴィア。
顔にはいつの間にか浮かべるようになった苦笑い。いつも険しい顔してた岩女にはただあだだだだ。
「買い物袋で人様の腹抉ってんじゃねぇよ。中身が潰れたらどうすんだよガキどもの飯が消えて俺達の飯も消えんぞおら」
「む…すまない。何やら失礼な事を考えられていると思ってな」
何がおかしいのかケラケラと笑いやがる。…下手すりゃ教会にいる頃よりも生き生きして楽しんでんじゃねぇの?こいつ。
「…で?ちゃーんとお目当てのものは買えましたかぁ?ゼノヴィアちゃん。またプロテインとか余計に買ってねーだろうな?あれガキに食わしていーもんじゃねぇから」
「お前の目に私がどんな風に映ってるかよくわかった。取り敢えずそこに立て。デュランダルのサビにしてくれる」
「オーケーオーケー、落ち着こうか。街中でマジの聖剣チャンバラはやめようぜ?パフォーマンスと勘違いされて鴉金が貰えんのが関の山だ」
…ゼノヴィア・クァルタは教会を抜けた。その後の俺達は当然根無し草となる。それが道理なのだが…一人の物好きな司祭がいた。確か名前を『スライマーン』とか言ったか。そいつがある孤児院の従業員という職を斡旋してくれたのだ。
そこは外観こそ教会だというのにキリストの教えなぞ皆無な所。経営者、出資者、支援者、全てにおいて一切不明。おまけに従業員はアーシア・アルジェントというかつて教会に追放された女一人のみというキナ臭さマックスの孤児院だ。
けどまぁ、蓋を開けてみたら何処にも可笑しな事なんてない。何処にでもありふれてる孤児院だった。そこにいる奴等の殆どが『元転生悪魔』だという事を除けばだが。
どうやらあの孤児院。何処ぞの組織が建てたものらしく、支援者も出資者もその組織だという話だ。そもそもその院は『悪魔や堕天使、天使達の被害者を匿うために』作った物だという事。
「…んじゃ、買い出しも終わったし帰ると…」
「どうした?フリード?」
まぁ、そうともなれば。耳ざとい悪魔さんどもは当然、逃げた元眷属ちゃんを追ってくるわけで。
「おい、本当にこんなトコにいるのか?」
「ああ、間違いない。確かに私の眷属を見たという情報があった。…あの孤児院だ。さっさと取り戻すとしよう。ついでだ、何人か新しい眷属も…」
それを掃除すんのが、俺達の仕事である。
■ ■
アーシア・アルジェントという女がいる。彼女はかつて教会のシスターであった。
深い信仰心とあらゆる傷を癒す『神器』を使い、多くの人々の負傷を癒していたことから「聖女」とされ敬われていた。
しかし、傷を負って倒れていた悪魔を治癒した日を境に一転して「魔女」呼ばわりされ異端として教会から追放される事となる。
彼女は孤児となった。行き場も身寄りもない。途方に暮れていた「魔女」を拾ったのは二人の男だった。
『貴女には恩がある。それを返しに来た』
『……ハジメマシテ』
一人は己のことを曹操と名乗り、もう一人はレオナルドと名乗った。彼は語った。貴女のような人を探していたと。彼は語った。どうか身寄りのない子達の拠り所となって欲しいと。
そうして迎えられたのがこの孤児院だ。
「なぁーせんせー、これよんでー」
「ええ、いいですよ。でもその前に、お昼にしましょうか。後少しもすれば、ゼノヴィアさんとフリードさんが帰って来ますからね」
「えー…たいくつー…」
「まぁまぁ、待つ事も大事だよ?」
へらへらと笑いながら退屈と拗ねた幼子の髪を撫でる奇妙な法衣を着こなした男。この男の名は『スライマーン』。元々この孤児院にいた男であり、アーシアが来た事もあり、近々此処を離れてしまう従業員だ。
「帰ったぞ」
「呼ばれてなくてもじゃんジャーン」
とまぁ、そんなこんなでほのぼの暮らしていればいつの間にやら二人が帰宅して来た。青髪が特徴的なゼノヴィアと白髪に隻腕の男フリード。最初こそなかなか馴染めなかったが、今となっては気の置けない者どうしだ。
さて、買出し係の二人も帰って来たので、後はアーシアの領分。すなわち昼食作りだ。トタトタと軽い足音ともに台所へと向かう。
それを見届けたスライーマンはフリードの方をがっしりと掴んだ。
「済まないね、ゼノヴィア。少しフリードを借りていくよ」
「えー、俺様ちゃんつかれた…」
「ああ、別に構わないが…何故私に詫びる?」
「あっ…いや、なんとなくだヨ?」
■ ■
スライーマンに連れられ、野郎の自室に入る。まぁ、なんも可笑しなことはない。ただ特筆する事があるというのならば、本が異常に多いというところだけか。
「いきなり呼びつけて悪かった」
「別に構わないよん。あ、でもでもーつまんねぇ事ならすぐ帰るんでそこんとこ宜しくぅー」
「ははは、手厳しい」
貼り付けた笑みを浮かべたまんま、本棚をゴトゴトと崩し始めた。すると次第に裏側にあるナニカ、が露わになっていく。
「
なかなかに悪くないだろう?」
「まぁな、悪魔ちゃん殺せるわ
金も手に入るわ言うことなし」
掃除だけが俺たちの仕事では無い。その際に手に入る金品をちょっと売りさばい大して金を得て、貯める。勿論、支援金はちゃんとでている。だか万が一のことを考えて、こうして貯蓄を蓄えておくのだ。
「しかしまぁ、それで目をつけてくるやつも増えてしまうだろう。こればかりはどうしようもない。そういう事だから、僕から君へ武器を送ることにした。いやぁ、一から物を作るって大変だね」
ごとり、と床に巨大な機械が置かれる。
はっきり言って異質過ぎる武器だ。チェーンソーが連続して六本がニ列に分けて取り付けられた装着型の武装。にしたってサイズがでか過ぎる。まともに食らえばミンチ確定だろう、こんなもの。
「…えっ」
「じゃあ、これの使い方を説明するよ」
「待て」
「先ず腕に装着して起動させるとブレードが一回展開され、そのままブレードが円状に並ぶ」
「待てって」
「すると豪炎を撒き散らしながらドリルのように大回転を始める」
「頼む待て」
「そして全てを磨り潰す一撃を相手に向かって打ち込めるという事だ」
「馬鹿だろ、お前馬鹿だろ」
「でもカッコいいだろ?」
「頭痛くなってきた…」
頭を抱えた。装着武器初心者に渡す武器じゃねーよこんなもん。普通パイルバンカーとか暗器とかそういう扱いやすいものからだろ。
「近いうち、僕も此処から居なくなるからね」
「…
「おや、そこまで辿り着いたか」
「一度勧誘された事があるからな。ま! 俺様ちゃんの性に合わねーから蹴ったんだけど!」
ソロモンは地域によってスライマーンと呼ばれます。…つまりそういうことです。
感想いつもいつもありがとうございます!
返信は次回の更新後にちゃんと行いますので!