黙示録の時は今来たれり   作:「書庫」

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外でコーヒー飲んでたら展開を思いつく

ノーパソを出して執筆、熱中する

水分補給を怠り熱中症になる

熱の篭る体は闘争を求める

アーマード・コアの新作が出る

何 故 で な い ん だ !←イマココ


頑張って一週間以内にあげた、ふふん(ドヤ顔)






「「いやだ」」

 荒廃した地、瓦礫の海、死の眠る地。

 その場に居合わせたのは、金星の残滓と獣。

 獣はその悪魔を見て即座に距離をとった。実力を恐れたのではない。眼前の悪魔がもつ、『なにか』に、気味の悪さを覚えた。それも濃密で限りなくどぎついやつだ。

 

 その一瞬、獣の眼前の悪魔『リゼヴィム』は一つ目の地獄の門をやり過ごすことができた。彼は小さな、それでいて今後に繋がる小さな足がかりを得る。

 

「まずは快勝おめでとう、トライヘキサ、名も知れぬ人間。中々に手に汗を握らせてもらった。実に素晴らしい戦いだった。君と、そこの彼は紛れもなく人類のために戦った。うん、うん、そうに違いない」

 

 語る。淀みなく朗々と。油を注した機械のようだ。

 

「だが、だが惜しむらくば、だ。我が盟友となるであろう君に伝えなければならないことがある。それはとても残酷な事実だ。ああ、口にするのも憚られる。だが言わねばなるま───」

 

 手が、伸びた。悪魔の頭蓋を砕かんと言わんばかりに狙いを定め、白い軌跡を残しては伸びていく。

 

「おおっと、辞めてくれ。その攻撃は俺に効く」

 

 必死な顔と声色。獣の腕を拘束する何重にも渡る魔法陣。それも次第にヒビが入り、脆く砕けちろうとしている。

 

「落ち着こうぜ?『人殺し同士』、少しは親睦を深めたほうがいいとは俺は思ってるんだけどなー?」

 

 ピシュリ、とトライヘキサの呼吸が止まった。

 

「…え、?」

「あれ?もしかして気付いてなかったの⁉︎」

 

 嗤う。嘲る。踏み躙る。

 腕が瓦礫の中に、暫くの探索。『あ、あったあった』という、無くしたペットボトルの蓋を見つけたかのような軽い調子の声。五指に掴まれた(くす)み、淀んだ金の髪。

 あらわになってしまう、()()()()()()()()()。どろどろとして、不快な香ばしさを含んだ、肉の焦げた香り。ちらつく白い骨。窪んだ右の瞳。乾いて焼けた左の碧眼は獣を睨む。

 

「あ、あああ」

 

 獣は確信した。あれは己が殺した命だ。

 蟻のように踏み潰してしまった命だ。

 きっと、そうだ。だってあの場で炎を使えるのは自分だけ、巻き込めるのは自分だけ、自分だけなのだ。

 

 ───僕が殺した人間私が殺した人間俺が殺した人間。確かに殺した俺が?僕が?私もなの?ああ、そうだ、殺した。殺したんだ殺しちゃったごめんなさいごめんなさいごめんなさい。いやだ、どうしてこんな、なんで、僕のせいだ僕のせいだ。

 

「……ぁ」

 

 膝をついた。頭を両手で潰そうと言わんばかりに包む。声すらあげる余裕がない。息が荒くなる。その場にうずくまった。

 

「君が人間が大好きなことは知ってるよ」

 

 続く、傷口が広がり続ける。その唇は止まらない。歪んだ笑みは押し殺されて行く。

 

「君は確かに、心から人間の為に憤り戦った。

 でもその手ずから殺してしまったんだ。

 君はもう───そっち側(にんげん)の味方にはなれない」

 

「君は取り返しのつかないことをしたんだ。俺達と君は同じだ。同じ人殺しの化け物となってしまったんだよ…」

 

 憐れんでいる。他ならぬ事の発端が被害者を憐れんでいた。腹のなかで嗤いながら、ここまでは順調だとほくそ笑みながら。賭けに出た。自らの大願の為の賭けに。

 

「でも、ひとつだけ償いの方法がある」

 

 痛みに悶え開いた獣の口に、ほのかに甘い、優しい毒が僅かに微量に試飲として垂れて行く。それは麻酔ではない。麻薬だ。痛み止めではなくただの逃避。無理やりの自慰行為。

 

「君はもう人を守れる立場にはなれない。その資格は自らの手で捨ててしまった。だけど、君はまだ『世界』を守れる立場にいる」

 

 獣の天秤が、揺れた。殺めてしまった命に対する、償いが、贖いが、できるというのか、と。

 大き過ぎる感情は時として冷静さを奪う。そして己の罪を自覚した時、『人は』最も弱く脆くなり、いとも簡単に踊らされてしまう。

 

「『異世界』という物の存在が、まことしやかに囁かれているんだ。これはもしかしたらの話だが、それに備えることは大事だ。それには君の力が必要なんだ!」

 

 だから、気づかない。目の前の男がニタニタと笑っている事に。そして男はそれすらも、獣の幼いというべきか、限りなく無垢に近い精神すらも計算に入れていた。

 

「俺はただの興味本位だが、君にもメリットはあるぜ?もし、『異世界』が此方側への侵攻を画策していたとしたら、それを防げるのは」

 

 タチの悪過ぎる誘惑。悪魔らしいといえば悪魔らしい。それこそが正当なる金星の血を継ぐ男リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。悪魔は悪であらねばならない。そうあるべきだと説く男。

 

「世界の味方である、だけだ」

「あ、ぁあぁあああぁあああああああああああああああああ!!!」

 

 獣の慟哭が響き渡る。彼はこの提案に素直にうなずくことはしなかった。勿論、彼の精神は肯定へと傾いた。だが、彼はそれを許さなかった。最後の一線があったのだ。

 

 ───ありがとう。

 

 少女に限らず、助けた元人間達から贈られた感謝の言葉と、優しい両手。それが獣を留めていた。逃げるなと、現実と向き合わねばならないと、留めていた。

 慟哭が響き渡る。何度も何度も瓦礫の床に頭を打ち付ける。違う違う違うと、逃げちゃだめだと、壊れた機械に感情が宿ったかのように繰り返す。

 

「ぁ、あぁあ……」

 

 そして、次第に、獣の姿見が空気へと溶けるかのように、ゆったりと消えていく。ぶつかり合う感情の衝撃に耐えられない。それを体現してみせた。彼の身体が、この世界から消えていく。

 

「ハハ」

 

 獣の身体が完全に消え去って、リゼヴィムは破顔する。

 

「ここまでは計画通りっと、ははは」

 

 獣の意識は消えた。だがそれは消滅と同義ではない。『人は』どうしようもなく辛い時、思い出深い場所へと逃げ去る傾向がある。恐らくは獣も例にぶれないだろう。だとすれば彼の赴く地はあたりがつく。

 本当ならそこに人間の死体でも置いておきたかったものだが、あまり追い込み過ぎても良くない。自殺なんてされたら本末転倒。目的はあくまで『獣の力』なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「トライヘキサの精神が崩壊し、知性も理性も消し失せれば君の刷り込みと抉った傷も相まって、彼は次元を渡るだろう。そうともなれば、グレートレッドとの衝突は必然だ。それで君の勝ち。だがトライヘキサが、これを乗り越えれば」

 

 

 天からの声。空に浮かび、リゼヴィムを見下す、意識の無い少女を小脇に抱えた黒髪の男。その頭上にはシクラメンで編まれた花の冠。つまりはソロモン王。彼が悪魔を見下していた。

 

「…………俺の負けだね。 さっくり殺されてゲームオーバーだ。…いや、んなことはどうでもいいんだ。お前さ、()()()()()()()()()()()()()

 

 思わずに冷や汗をかいた悪魔は問うた。だがそれでも王は沈黙したままだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう、この近辺にはリゼヴィムに従う邪龍達が人の姿を取り、守りについている筈だ。だが、目の前の男はことも投げに自らの目の前に現れている。

 

「こういう時は、なんて言ったかな」

 

 歪な笑みが向け返された。爆音が鳴り響いた。王の遥か背後から幾条もの緑の雷が空へと飛び散ると同時、ソロモンは言葉を綴る。

 

「確か『随分と派手に暴れてくれたな』か」

 

 指が鳴ると同時に、展開される。空を覆うほどの莫大な数の魔法円が。数えるに総じて七十二。その全てが退魔や破邪、そして討魔の代物。もちろんのこと、逃げ場はなかった。

 

「無理しない方が良いと思うぜ?」

 

 引きつった頬のままリゼヴィムはそう告げる。ソロモンの髪は()()()()()()()()()()()()()()()。そして髪だけではなく彼自身も冷や汗を頬に垂らしながら、右の手で心の臓あたりを服の上から必死に掴んでいる。呼吸だって荒々しい。

 

「寿命削って君が消せるなら大儲けだ」

 

 だが笑う。中指を立て不遜に傲慢に。ざまぁみやがれと言わんばかりの嘲笑が王の顔に現れた。

 

「オイオイオイ。死ぬわ俺」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 赤龍帝と吸血鬼の衝突は続いていた。

 双方に力は無い。もはやただの殴り合い。

 その凄惨な互いの様相に周囲は息を呑むしかなかった。

 

『Boost』

 

 倍加された一撃。少年の体躯は曲がる。だがその腕は、闇の魔物の広げた顎門に抉られていく。殴り合いが続く。

 

 認めた上で、本当に大切なものを選んだ幼子。

 

「…!」

 

 認めたくない上で、真実を誤魔化した少年。

 

『Boost』

 

 その衝突に終わりはようやく訪れた。それは、王の来訪と同時だった。王の到着に気づいたのか、それともあらかじめ知らされていたのか? それは定かではない。ただ一つ言える事実は。

 

「……もう、顔も見たくありません」

 

 さようなら、『おせわ』になりました。その一言だけを残してその場を去っていく。

 

 彼はもう甘い水の中には戻らない。彼はもう『じあいの悪魔』に向けて、愛を与えることはこの先永劫に無い。

 かくして、今日にしてリアス・グレモリーは二名の眷属を失った。一人は『騎士』、一人は『僧侶』。その双方が彼女を前に再び膝をつくことはない。

 

 そして『離れる流れ』は留まらない。まだ、離れるに十分な動機と理由を持つ子達がいるだろう?

 

「…ギャスパー…どうして……」

 

 膝をつく女。ただ顔を伏せる少年。呆然とする黒羽。吸血鬼の消えた先をただ眺める猫。

 

 6ー1、答えは5。まだ()ける。

 5ー1、答えは4。まだ引ける。

 

 三人の女、一人の男、一番不幸なのは誰?

 灰となった剣、残らない鉄屑。改宗する僧侶、聖杯を想う幼子。軋み始める思い出の写真。亀裂を埋める甘い言葉。その裏に潜む切実であまりにも身勝手な願い。

 甘い水に浸る者。自らの欲求を満たすだけの日々。誤魔化したいがために盲信する依存。ただの恩。でもこれは一例。ピースを欲しがる窪みはこれだけには留まらない。でも、ピタリと欠片が当て嵌まる窪みは、どれ?

 

「……見つけたわ」

 

 そして彼等俯瞰するのは不運の象徴。

 最後の最後に残されるのは、誰?

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 僕の望み、それは僕のものじゃないのかな?

 僕の望み、それは叶わないものなのかな?

 僕の望み、それは馬鹿馬鹿しいもなのかな?

 

 僕の望み、それは───。

 

 僕は、人として、生きたかったのかなぁ?

 

 

 

 

 失ったものが、戻るはず無いのに。

 

 

 

 

 




彼にとっての正念場。
乗り越えないといけない試練だ。









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