〜ソロモンその後〜
クロウ・クルワッハに回収され療養中。トライヘキサとは顔を合わせてない。一応生きてるけどあと一回マジに戦ったら死ぬ状態。髪の毛は黒から白髪と化した。因みにほっといても寿命がヤベーイ!
■
槍は解き放たれた。
杯は今再び揃う。
釘は天へと運ばれる。
ああ、もうすぐだ、我が子らよ。
もうすぐお前達を、救ってやれる。
人の子よ、お前達に、
公正な試練を与えることが出来る。
だからどうか、乗り越える美しい
その姿と物語を見せてくれ。
仏蘭西での騒動は短時間で終息を迎える。
リゼヴィム・リヴァン・ルシファー
───トライヘキサの手により殺害。
ユーグリット・ルキフグス
───『聖槍』を解放した曹操の手により調伏。
グレンデル
───フリード・セルゼンの手により討伐。
ラードゥン、ニーズヘッグ
───クロウ・クルワッハ、及びクルゼレイ・アスモデウスの尽力により再度討伐。
アジ・ダハーカ
───消息不明。ゾロアスター関与の可能性大。
この事件を代償に世界は仮初めの安定期に入る。それは嵐の前の静けさであり、泣かぬ蝉でもあり、逃げ行く鼠でもある。つまりは、この先訪れるであろう、大波乱の前兆だった。
だが人間にはそれを知る術はない。ただ今までと変わらずに時の中を揺蕩うのみで、また何気ない日常へと少しづつ還っていく。
だが、この一夜限りの波乱は未来において語り継がれていく。
そして、その真実も…
■
人眼の入らぬ丘があった。其処から見える空は澄み渡り、高らかに輝く日輪は確かにその温もりを質素な墓石に照らす。
その丘には少ないが、確かに何人もの人間が訪れていた。その殆どが年端もいかない子供達だ。
何の変哲も無い、大柄な装飾も無い。
大仰な碑文も無ければ、賛美の歌も。
壮大な見送りでは無い、静かな別れ。
碑文には、こうだ。
フリード・セルゼン
ようやく想う
目元を赤に腫らした子供達はただ祈りを捧げた。未だに泣きじゃくる子供だっている。彼は彼で、慕われていたのだろうか。
アーシア・アルジェントと孤児達は、無事にゼノヴィアとの合流を果たせた。だが、其処に喜びは出来なかった。
待っていたのは、ひとりの男の死だったから。
ゼノヴィアは彼との思い出を振り返る。
出会いはロクなものじゃなかった。過程だって最悪の一言に尽きるけれども、いつの間にか背中を預けるぐらいには信頼を置いていた。
本音を言って仕舞えば、本当に有意義だった。はじめこそいがみ合いばかりだった。さて、一体いつから〈こう〉だったのだろうか?
「…あいつは、変わったのか? …それとも、
本当は、元々はそういう奴だったのか?」
「…ウチにはわからねーッス。でも、ちょっと意外スね。フリードのアニキが子供達と割とよく遊んでたっていうのは」
「手加減無しで全力だったよ。子供達も勝とうと必死だった。 …皆を慰めるのにどれだけ苦労したか…」
「はは、お疲れ様ッス」
墓石に子供達が一輪ずつ花を贈る。中には未だ呆けている幼子だっている。,,フリードは何処にいるの?”と尋ねる童がいる。
それを見て複雑そうな顔を隠さないリント・
彼女はこう諭す。,,少し遠い所にいるんだよ”と。
「…これからどうするんです?」
「……避難先…というか、隠れ蓑は決まっている」
曹操という、アーシアの知己の知り合いから謝罪を交えて推奨された所だ。移動手段も確実しているし、三日後には発つつもりだ。
信頼はできる。というより、住居に関しての頼る術は現状それしかない。悪魔をはじめとした三大勢力から子供を守ることが先決。ともなれば、多少の藁掴みも仕方の無い事。
「…私はな、思うんだ」
聖剣騒動、それ以前の日々。
邪龍騒動、一つの出会いより後の日々。
「天使とは…いや、そもそも神とはなんだ?」
材料は揃っていた。動機も十分だった。
以前の様な盲信も狂信もない。
此処にいるのは『真っ当な』人間。
「悪魔とは?堕天使とは?神器とは?」
疑いは積もっている。そして疑念は固まる。
おかしい事ばかりだ。ふざけた事しか無い。
なぜ彼等はさも「私達は平和のために頑張っています」という面の皮を臆面なく張れる?
なぜ彼等は「お前達が平和を乱している」となんの後ろめたさも無く糾弾の指を指せる?
「……私はそれが知りたい」
事の発端はなんだったのか? 聖書の存在は最初から悪意の塊だったのか、それとも神の死を起点に狂ったのか。若しくは…神がその様に作り出したのだろうか?
いや、そもそも、かつての己の様に自らの行動に何の疑問も抱いていないのか。
ゼノヴィアは思い直す。『狂気は天界に在った』。
───『聖剣計画』に於いては、数多の犠牲を出した事を糾弾し解体と処罰を下した。
計画は続いていた。犠牲が出ないというレベルで。まるで「死ななければ何をしてもいい」と言っているようなもの。
───『シグルド機関』。フリードとリントの生まれた理由。魔帝剣グラムの所有者シグルドの末裔を生み出すことを目的とした。
フリード曰く、倫理的に問題のある行為も数多く行われた。なおここの機関はリントによると現在『再編成』されているらしい。
『解体』では無く『再編成』だ。
これで分かるだろう?天使は命を弄ぶ事を許容している。例え事実がそうで無くとも、余罪は腐るどころか掃いて捨てるほどあまりに蔓延っている。
「それにな、そもそもこの世界はおかしい。『滅びの力』とは何だ?どんな書にもそんな記述は存在しない。『エクスカリバー』はアーサー王の持つ剣だ。本来ならば湖の乙女の手に在る筈だ。まだまだ在るぞ?聞くか?」
疑問は止まらない。記録と現実の乖離。ほんの少しだけなら問題ない。だが前述を少しのものと笑い飛ばせるか?
否だ。あまりにも違い過ぎては書の意味がない。記録を残した意味がない。
リントは驚きを隠そうともせずに目を見開く。それと同時に、微かな笑みを見せた。まるで、この現実を待っていたと言わんばかりの微笑みを。
「…ソロモンの予想通りスね。『綻び』が出来て《解放》が始まる、か…」
「何か、知っているのか?」
「知ってるって言っちゃうと嘘になるッスね。だから、教えられることは、本当に何もありません。最初に言ったでしょ。ウチは、『当て』をお届けに来たんス。…アニキが気になったってのもありますけど」
渡された一枚の羊皮紙。綴られた文字は粘つくインクで記されたのだろう。独特の光沢を伴い、陽の光を浴びて微弱に照り付いている。
「『灰色の魔術師』からの招待状…⁉︎」
「色んな奴に渡してますよ。ま、合流をオススメするッス。これリストと連絡先なんで、どーぞお役立てください」
青髪の女へ人名と番号の記されたメモ帳が渡される。そのほとんどが有名な人物だ。中にはゼノヴィアもよく知る名が在った。
静かにその紙を握りしめる。
…『灰色の魔術師』。この世の数多の魔術師はそこに属しており、その理事はメフィスト・フェレスが務めるという。
この招待にどのような意味が込められているのかはわからない。もしかしたら騙し討ちの類なのかと疑ったが、リストに入っている人名と合流の勧めからしてそのの線は薄いだろう。
「…っ行くか」
…此処に、また一つ異分子が誕生する。フリード・セルゼンの様な「大物喰らい」では無く、かと言って曹操のように「革命家」でも無い。答えを求め、「彷徨う者」。
彼女のたどり着く答えは、はたして。
■
白髪の男、ジークフリート。彼は数ある拠点のうち一つに滞在している。最近まで使っていた拠点は曹操帰還後に襲撃を受けたため、移動せざるを得なくなった。まぁ、そのうち囮にして爆弾でも仕掛ける予定だったので損失は無かったが。
斬る。その一念を込めて一振りの剣を振るう。
「っ…ふ、!」
だが遅すぎる。そして硬い。未だ流麗には至らない。火力だけでは何も出来ない。そう、サタナエルに教え込まれた。
曹操のように音を超えるまでとは言わない。せめて、竜の命を一太刀で絶てる域にまで達さねばならない。
「…っえあ!」
六本の剣は北欧に返還した。だが最初の一振り、グラムだけは今も彼の手に在る。これは正式な譲渡だった。
主な理由としては、人に造られた英雄が何処まで至れるのか興味があるという娯楽的なもの。あの老獪な神らしいと笑いつつ、彼はまた剣を振る。
「……まだだ、まだ、遅いっ!」
勿論渋る神もいたが、それでもなんとか丸く収まり、今この一振りの魔剣は人間の手に委ねられる。
魔剣『グラム』。その名は古ノルド語で怒りの事を指す。それは、オーディンからシグルドの父シグムンドへと渡された剣が原型となったものであり、後にシグルドの愛剣となり、龍を討った一振りだ。
「…まだか……」
だがいかな魔剣だとて、その使い手が未熟であれば十全な力を振るうことはできない。それは分かっている。だから彼はこうして藻搔いて、足掻いて、努力しているのだ。
そんな彼の元に、金の髪を待つ女と二メートルはある巨漢が訪れる。
「よぅ、やっぱここにいたか」
「ヘラクレス、ジャンヌお前達はまだ傷が…」
「じっとしていらんないのよ」
いつもと違い、素の口調でぶっきらぼうにジャンヌは答える。ヘラクレスは吹き出しては腹を抱えて笑いだす。
「ハッハァー!なんだお前結局戻ってんじゃねぇか!」
「アイアン・メイデンって知ってるかしら…?」
「落ち着いてジャンヌ、ほら!ステイ!」
「よーし、久々に頭に来たわよ私。明日あんた達の服ノースリーブにして肩パッド付けてやるから」
「「それは勘弁」」
ギャーギャーと騒ぐ三人組。それはまるで悪友のように。口につくのは悪態ばかりだったが、その顔が笑いなのは言うまでもないだろうし、言う必要も無い。これも信頼があるからこそできるコミニュケーションというヤツだ。
「…もう、いいのか?」
「ええ、十分。いついかなる時でも平静を保つ療法なんて理由でやらされて馬鹿馬鹿しいって思ってたけど、ホントに効果あるとは思わなかったわ」
ジャンヌの持つ神器『聖剣創造』。彼女はそれを投擲するという戦闘手段を確立している。必要になるのがは狙いを定める力と、それを保つ平静力だ。
ジャンヌは平静を保つことに欠けていた。だからこそ、『冷静な心と口調の投影』を基礎とした鍛錬を行なっていた。
「ヘラクレスはどうだ?」
「今のところ順調だな。神器の調整も完了したし、あとはゲオルグに任せた武器の完成を待つだけだ」
「……あれ冗談じゃなかったのか」
「馬鹿というより変態ね、もはや」
ヘラクレスはひたすらに近接戦闘術をその頭と体に刻み込んだ。彼の持つ神器が『攻撃と同時に接触した箇所を爆破』するという力を持つ以上、活かさない手はない。
そして彼はゲオルグにとある武器の政策を委託している。それは金属製の杭を射突する兵装と、厚手の硬質金属の刃で敵を叩き斬るというブレードという恐怖と狂気のラインナップである。
…尚、ゲオルグはガトリングも持たせようとしたのはまた別の話。
順調に成長と成果を見せる仲間達。それを見てジークフリートは
それを知ってか、知らずか。二人の男と女はどう猛に笑い、「お前はどうなんだ?」と試す様に笑い、聞いてくる。
───上等だ、見せてやる。
剣を構える。その瞬間、彼の思考から一切の雑念は削がれた。今彼の心にあるのは空を切るというその一心。
剣を振るまでのその一瞬、彼は何かをつかんだ感覚を確かに覚えた。そして『ここ』だ、と直感的に理解する。
「ふんっ!」
余分な量の力を理解し、息を吐くと共に抜いた。スムーズに、潤滑に油をさした機械の様に腕が動く。
剣が完全に振り下ろされた。一瞬の、束の間の静寂。悲鳴をあげていた腕の筋肉は叫ぶが、そんな事は彼にとってどうでも良かった。
「……どうだ?」
無音。その数秒後に、サン、と軽く乾いた音ともに、床板が綺麗に断たれていた。それも一直線に、そこに狂いは寸分たりとも存在しない。まさに達人の域と言っても差し支えなかった。
今日、この日。男の剣は槍と同じく音を超えたのだ。
この後、フリードの墓碑には子供達から『ありがとう』という言葉が手ずから掘られたのは別の話。リントがずっと墓前で立ち尽くしていたのもまた別の話です。
はい、という事でジークフリート強化です。というか英雄派は軒並み強化されてますが。特にレオナルドと曹操。
次回は休憩って事でキャラシート!その後に最終章に入ります。魔王達が一番きつい最後迎えるんじゃないかなぁと思いつつ暑さにうだる「書庫」でした、まる。
…ソロモンがリゼヴィムに負けたことに違和感を感じたそこのあなた?その違和感、正しいですよ?