黙示録の時は今来たれり   作:「書庫」

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 不慣れな日常があった。
 あるはずの時間があった。
 微かなひと時に味わった夢。
 これはただの一枚の写真だ。
 ああ、このロクでもない世界に祝福を。




chapter2.5『Lucky monster』

 俺ことフリード・セルゼンの人生は奇妙奇天烈というかなんというか、波乱万丈?いや違ぇな。まぁなんにせよ、まともな人生ではないことだけは確かだ。

 

「なー、あそぼーぜー、なー」

「ドッジボールしようぜ!な!」

 

 シグルド機関という奴がある。俺が生まれる事となるきっかけだ。確かあれだ、とある英雄の血を引く者の中から、魔帝剣グラムを扱える「真の英雄の末裔」を生み出すことが目的だっつう機関。そこの試験管ベビーとして俺は生まれた。

 

「隻腕野郎にドッジボールのお誘いとか将来有望ですねぇ、やるわきゃねーだろ。俺様ちゃん今から買い出し行くのよ」

「またゼノヴィアねぇちゃんとデート?」

「お前なんで真顔でそんな残酷な事言えんの?」

 

 まぁ、悪魔やら悪魔と契約した奴を殺したこと殺したこと。途中から『問題行動多すぎ、死ね』みたいなノリで教会から追放されちゃったり非合法組織に身を置いたり、聖剣ゲットしたり聖剣ごと片腕バッサリされたりとだ。

 

「私がなんだって?」

「今日もお見事なアイアンクローですね」

「それが辞世の句か?」

「うわ、凄い字余りじゃん」

 

 で、そんな俺だが、今現在進行系で俺の頭蓋骨をアイアンクローで爆砕しようとするゼノヴィアに拾われ、何のこっちゃ孤児院務めという始末だ。序盤ハードで現在のほほんである。

 

「…まったく、相変わらずだな」

 

 呆れたのか頭蓋から五指がようやっと外れる。立ちくらみがえげつない。つーかさっきまでいたガキどもがいねぇ。逃げやがったなあの野郎、帰ってきたら覚えていやがれ。

 

「まったく…ほら、さっさと行くぞ。明日にはまた新しい子達が来るんだからな」

「はぁ?何?まだ増えんのかよ。…俺達みたいな奴ら増やしたほうがいいっすよねぇ…気付かれんだろ。つーか気づかれない方がおかしい。おかしくない?おかしいよな?」

「丁寧声のトーンを変えて三度も言うな、嫌に耳に残る。向こうも人手不足なんだ。仕方がないだろう」

 

 勿論と言えば勿論だが、俺達の様な元エクソシストは当然ただの孤児院務めの優しいおにーさんおねーさんって訳でも無い。まぁ、元の職業もきっちりやるというワケだ。

 

「最近、冥界に大規模な襲撃があったらしくてな。首都が陥落したらしい。ここに来る悪魔の量も幾分減るだろう」

 

 やる事が派手だねぇ「大いなる都の徒(バビロニア)」も。こりゃあ勧誘を蹴ったのは失敗だったか?まぁいいか。

 どちらにせよ過ぎた事だ。後からウジウジ悩んでも仕方ねぇので今を存分に楽しんでおく事にする。

 

「にゃるほろ、そりゃ良かった。んじゃま、さっさと今日の分の買い出し行っちまおーぜー、帰ったらサッカーであのガキども相手にまた33ー4にしてやる」

「やめろ、慰めるのに一苦労だ。また私に慣れないことをさせる気かお前は。というかそれ以前に少しでいいから加減ぐらいしろ。年上だろうお前」

 

 やなこった、何事も全力で取り組んでやらぁ。と言いたいところだが人力頭蓋マッシャーを朝っぱらから二度も喰らいたくねぇので言葉に出さず、生返事で返していれば、背後っつーか院の勝手口から出てきた気配が一個。よく知ってる奴だ。

 

「おはようございます。ゼノヴィアさん、フリードさん」

「ああ、おはよう。アーシア」

「はいおはよん。寝癖ついてんぞアッシアちゃん」

 

 大慌てで寝癖を探し出すのはここの最古参であるアーシア。俺達の先輩にあたるが悪魔払いはやってない。まぁ、人格も神器も見事に戦闘向きじゃねえしなぁー。

 

「朝食は食べていかないのですか?」

「ああ、市場で適当に済ませるさ」

「お、またトルコアイスに挑戦すんの?」

「ああ、今度こそリベンジだ…!」

 

 近所にある市場の近くにトルコアイスの屋台がある。そこの店主である好々爺がいるのだが、この年寄り、何者なのか自分から渡すまで未だ一度もゼノヴィアからアイスを奪われていない。マジで何者だあの野郎。

 

「…あの、フリードさん……」

 

 唐突に耳打ちは勘弁。びっくりして俺の心臓が除夜の鐘(108倍速)になるから。困り笑顔のアーシアちゃん、何度か言いづらそうにしてるがちゃんと言ってくれて何より。

 

「遅くなりそうならゼノヴィアさん置いて帰って来ちゃっても大丈夫ですから」

「アーシアちゃん見た目とのギャップ凄いよね」

 

 軽く頬を引きつらせながらも準備を始める。財布やら銃やらエコバッグやらメモ帳やらバッチリ持った。

 黒いカソックを着れば準備は終わり。ゼノヴィアはもう少し時間がかかりそうなので暫く外で待つ事とした。

 

 ■

 

 しかし長い。換金できる物品を集めるだけだっつーのにこんな時間がかかるものか?確かに俺の部屋は散らかってるが、そこまででは無いと思う。

 そんなことをぼんやり考えながら庭のベンチにて時間潰しの日向ぼっこと洒落込む。

 

 …で、何が面白いのかそんな俺を眺める女のガキが一人。孤児院じゃ見たことない奴だ。けど悪魔ってわけでもなさそうだし、大方遊びに来た奴なんだろうなー、と適当にあたりをつける。

 

「ねぇ、神父様。何処にいくの?」

 

 ……そんなこと聞いてどうするつもりなんだろうか?

 まぁ、秘密にする理由もねぇので話しておこう。無視とかしたら変に駄々をこねられそうだ。それだけは勘弁願いたい。

 

「買い物と飯食いに行く。そんだけですよん。

 そんでもって今は女待ちー」

 

 悪態をつきながら舌を出す。すげー意外そうな目で見られてんだけど何でですかね、俺がそんな敬虔なクリスチャンにでも見えたの?でも残念違うんだわ、寧ろその逆なんだわ。

 

「…その、腕は、どうしたんですか…?」

 

 あら、気づいちゃいましたか。面倒くさい事聞かれちったなぁ。も少し袖膨らませた方が良かったんですかねぇ。ま、どちらにせよバレてもなんの支障はないので別に構わないのだが。

 

「あーこれか。切られちゃったのよね」

「切らっ…⁉︎」

「悪い事するとこうなっちゃうぜ?」

 

 おーおー、怖がってる怖がってる。心当たりが無いわけでも無いのか、仕切りに腕を確認しちまう始末。そんなこわがる姿があまりにも愉快なもんだから笑っちまうのはご愛嬌ってね。

 とまぁ、そんな一幕もあったが、やがて女はこう聞いて来た。恐る恐ると慎重にだ。

 

「ねぇ、神父様。その傷は、痛くないの?」

「どうだかな───…?」

 

 少し返答に困る。

 傷はふさがっている。

 だが痛く無いと言えばそれも少し違う。

 理由や理屈も分からんが雨の日にゃ偶に疼くし痛む。悪魔を見たときなんかもそうだ。特に若い奴相手じゃ必ずそうなると言っていい。

 でもまぁ、それを正直に言うのもなんか馬鹿馬鹿しい。

 

「ま、やっぱり……痛くねぇかなぁ」

「…本当?だって、切られちゃったんでしょ?」

「笑えば紛れんだよ、そんなもん」

 

 ちょっと眠くなって来たのでごろりとベンチに寝転がる。その間ずっとお子様が疑惑の念を発してくるのが少しどころかかなりイラっと来ちまうよちくしょう。

 大方「痛いのに笑えるの?」とかそんな疑問だろう。聞かれてから答えんのも面倒だから会話を先回りする。

 

「化物は痛くても笑うしかねぇーんですよ」

「それは……かわいそう」

 

 かわいそう。かわいそうねぇ。危険物に同情してどうすんだか。飢えたサーベルタイガーが襲って来たら誰だって殺すだろうに。

 なんて心の中で嗤ってたら見知った顔がようやくお見えになった。しっかしなんでゼノヴィアちゃんはこんなに準備が遅いんだか。

 

「さってと、そろそろ行きますか」

「あっ…その、呼び止めてごめんなさい…」

「細かい事気にしてっとハゲるぞ」

「…えっと、それはイヤです」

 

 あくび交じりにベンチから起き上がり、合流に向かうこととする。初対面同士の会話はここにてお開きとしましょう。

 ひらひらと後ろに手を振る。まぁなんだかんだ暇つぶしにはなったな。ちょっと背後を見てみると小さな手が小さく揺れているのが見えた。

 

「知り合いか?」

「っ…ぁ。…いいや、初対面」

「?」

 

 …「化物は笑うしかない」というのは、誤答だったかもしれない。俺はあれだな、笑い種が幸運にも周りにあり過ぎるだけだ。

 多分孤児達の悪戯で付けられたであろう、ゼノヴィアの頭についた犬耳を眺めながら笑いを必死に噛み殺した。

 

 この後滅茶苦茶怒られた。

 

 

 




孤児達とフリードのイメージソングは
・エルの楽園【→side:→E】だったりします。
ねぇ、神父様(パパ)。身体はもう痛くないの?

感想返信は次回投稿の時やりまね。
そんじゃ、ノシ

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