(周囲や人間に甚大な被害)
?「怒ってないですよ?」
白龍皇「えいえい、怒った?」
(周囲や人間に甚大な被害)
?「……怒ってないです……」
アルビオン「えいえい、怒っ…」
伊邪那美「白 龍 皇 は 絶 版 だ」
イザナミミッミ
時系列は前回のアザゼルが出雲から帰った後です。
アルビオン。それは、『神滅具』に名を連ねる『白龍皇の光翼』に宿る白き龍の名であり、赤き龍ドライグと双璧を成す存在。
赤と白の二龍は『二天龍』と呼ばれ、神々や魔王など、多くの存在に恐れられて来た。
だが長い時の果て、彼らはついには討たれる事となる。その魂は『神器』へと封じられた。
だがそれでも白と赤の対立は続いている。
彼等の神器を宿す皇と帝。
赤龍帝と白龍皇の諍いは世代を超え繰り広げられる。例え決着がついても、その戦いは時を超え続く。
依り代となる人間は、何の関わりもない戦火の運命に囚われ、争いに身を投じることを『竜』により義務付けられるのだ。
『竜』───西洋の神秘、ドラゴン。
それは
あるいは力の象徴そのもの。
白き龍、アルビオン。彼を宿すヴァーリ・ルシファーはこの世を去った。神器に収まっていた彼は新たな宿主が目覚めるのを待つ。
別れを惜しもう。だが止まる事はない。
我々に残された唯一の楽しみ。それが戦。
ああ、さらばだ、旧き友よ。
「…次こそは……必ず…!」
龍の魂はゆっくりと世界に流れようとしている。未来に待つ赤龍との戦いという楽しみに想いを馳せながら、ヴァーリとの別れを心の底から惜しみながら、神々へ恨みを抱きながら。
新たなる白龍皇の誕生の時。
だがそれを───
「次なんて、貴方に有る訳がないでしょう?」
突如地より現れた空いた穴より伸びる無数の黒い手が阻んだ。その手を伸ばしているのは、穴から覗く朱い瞳を持つ何者か。
アルビオンの魂は黒き手に囚われ、そのまま闇より暗く、なお暗い深淵の奥底へと引きずり込まれていく。その勢いに抗えない。反抗することが許されない。
それを目の当たりにした一柱の男神は呟く。
「……ありゃぁ、君、残念だったね」
その言葉に込められた感情は、確かに同情であり、憐憫であり、侮蔑であり、愚弄であり、……龍に対する憎悪だった。
怒りに震える白龍の魂が、ゆっくりと深淵へと飲み込まれていく。やがて魂が完全に飲み込まれ、暗き底へ堕ちた。
にも関わらず、その穴は残っている。
そこから覗く朱い瞳は、確か側に佇む一柱の神を睨みつけている。だが引き摺り込む事はない。それどころかその朱い光は変化を見せた。
乙女が伴侶から接吻を受け取った時の様に、生娘が愛した男と情事を終えたかの様に、温かな腕に優しく抱かれたいたいけな少女の様に。
だが悲しいことに、瞳の覗く狭間は閉じてしまう。だがそれでも、男神と朱色の瞳は最後の時まで、お互いを見つめあった。
■
「…やっぱり素敵……」
白き龍の魂が堕ちた深淵の先。
それは黄泉の国。一人の女神がおはす地。
その地は多くの死者が住む現世の延長。
「ああ……早く会いたいです。会いたいです。今すぐにでもその瞳を間近に見たい。今すぐにでも体を重ねたい。今すぐにでもその首筋に私の歯を突き立てたい…貴方に会える神在月が恋しいです、伊邪那岐……」
自らが捉えたアルビオンの魂に目もくれず、初恋に胸を彩らせる少女の様に悶える女神。
彼女の名は当然、伊邪那美大神。今より遥か過去に於いて死を司る神となり、それ故に命を司る神である夫───伊邪那岐大神と別れる事となってしまった悲恋の存在。
「どうして貴方の傍にいる事が許されないのでしょう…?どうして貴方の腕中にいる事が許されないのでしょう…?伊邪那岐、なぜ貴方はあの時私を覗いてしまったの…?」
伊邪那岐大神と伊邪那美大神。
この二柱の間にはとある誓約が存在する。
───”愛しき我が夫、伊邪那岐よ。貴方が私にこのような仕打ちをするのなら、私は貴方の産む人の子を一日千人、この手で殺めましょう,,
───”愛する妻、伊邪那美よ。君がそうするのなら、僕は一日千五百人の産屋を建ててみせよう,,
死の神が千の命を殺すのならば、命の神が千と五百の命を生む。それが夫婦の間になされた最後の約束。変わらぬ愛の証明にして、大地に根差した自然物の生成と消滅、生と死の循環の象徴。
さて、ここで問題。夫婦のつながりを、変わらぬ愛を唯一実感できるこの約束に、茶々を入れ乱す者がいたら、彼女はそれを許すだろうか?
……アルビオンは気付かない。自らの周りに在る、堕天使や悪魔、天使が、皆等しく雷と炎に焼かれ苦しむ背景に。
今彼にある感情は怒りだ。魂であろうとも二天龍。その威圧感や力は衰えることなど知らない。
だからこそ、魂は吐いた。
「なんだか知らんが…『神如き』が、『祟り如き』が、我等二天龍の楽しみの邪魔をしてくれるなよ…!」
それはかつて二天龍が、三大勢力の戦争のさなかに放った言葉。彼ら二人は、その気になればただの暴力で世界を滅ぼすことができ、それをしないのは今の生き方を楽しんでるからだ。
「……あらあらまぁまぁ……」
だが女神はそれに怯えるどころか、その声を塞ごうと雷光の槍で魂を即座に貫き、地に繋ぎ止めた。
アルビオンは思い出すべきだった。己がたとえ神すら殺せる存在であろうとも、かつて最強の名を欲しいままにした片割れだとしても、生きている以上、
「…『聖書の神の失敗作』がよく吠えますね。あなたの怒りなんて私にはどうでも良いのです。あなた達の争いなんて知った事ではありませんし…問題となるのはあなた達の在り方…」
竜の魂を繋ぎ止めているのは誰か。彼の前に立つ存在は何者か。それを知る必要があった。彼女は死を体現する者。数多の魂を収める黄泉の神が一柱『伊邪那美大神』であるが故に。
「伊邪那岐の産んだ命に死を定めていいのは私だけ…!伊邪那岐の産んだ命をこの手に落としていいのは私だけ…!だのに、
地の底より出る数多の黄泉醜女、火雷大神、亡者の軍勢。それは声を雷光で塞がれた白き竜の魂を地の奥底へと引きずり込む。
「もはや貴様に同情の余地はない。転生する事なく死んで行け。死の先に待つ死にて己の我儘を悔いろ。誰の声も届かぬ深淵の果てで噎び泣け。これから先、この星が死するまで貴様は永劫の孤独と苦痛を味わうがいい…それがあの人と私の約束を邪魔した罰だ…!」
神である以前に、一人の女としての怒り。それは竜の逆鱗よりも遥かに恐ろしい焔。
数多のおぞましい手に落とされながら、アルビオンは後悔とともに理解する。あの男神が己へと向けた憎悪の意味を。そして彼が伊邪那岐大神その人であった事を。
そうして竜の魂は封じられた。二度と白龍皇が誕生する事はない。星が終わる時まで彼は孤独である事を義務付けられたのだから。
皆まで言うな。言いたい事は分かる。
だが私は謝らない(揺るぎない意志)
神在月には会ってたらいいなぁとか、そんな願い。
あ、三日か四日後にはちゃんと本編出しますのでご安心を、