黙示録の時は今来たれり   作:「書庫」

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カシラのおかげでテンション上がって(しんどくなって)早く書けました。やはりニチアサは良い文明。

さぁ、独自解釈・設定の嵐だ。
準備はいい?じゃぁ、気をつけてね?
ゼノヴィアサイドの話は最低三回に分けられます
これ一回目。







青色宛てのタネ明かし

 魔術協会『灰色の魔術師』、その最奥に設けられた書斎、古い紙の匂いが充満するその空間の中にいるのは四人の男と一人の女しかいなかった。

 

 その中驚愕の顔色を浮かべているのは、嘗ての教会の戦士ゼノヴィア・クァルタと、悪魔祓いデュリオ・ジュズアルドだった。

 

「──……つまり聖書の神が世界を一度滅ぼしたのは、世界を都合よく作り直す為だったという事か?」

「ま、そういう事になるね」

「……信じられない」

「だろうね、けど君も気づいただろう?この世界は聖書を起点として編み込まれた『何か』がある」

 

 灰色の魔術師理事、メフィストフェレスは顎をさすりながらあっけらかんとして答える。

 ゼノヴィアもデュリオも目を見開いたまま立ち尽くしているだけだ、意識はあるが思考が怪しい。

 

「おさらいしよう。先ずは前提となる君達人間について。君達は聖書の神に造られたのでは『無い』。君達は正当な進化を持って誕生した霊長類だ」

 

 ではなぜ神が創ったとされる話があるのか?

 

「勿論、信仰…強さを得るための悪足掻きだよ。ま、本人は本気で自分で作ったと思ってると思うよ?そうそう、ちなみに今最も信仰が強いのは『科学』と『技術』だ。ウケるよね」

 

 契約の悪魔は一頻り話し終われば額に手を置き、重々しく溜息を吐く。思い悩むように天井を仰げば自ら両頬をはたき、気を引き締めた。

 

「先ずは、最初に生まれた『原初の人類』…聖書ではアダムとイブだったね、あれはあたかも二人だけのように記されているけど、当時は確か百人ぐらいはいたかな」

 

 さらりと暴露されていく数多の真実。それを寝台の上で横たわるソロモンはケラケラと笑いながら…否、自嘲(わら)いながら眺めるばかりだ。

 

「…神の絵空事、『楽園投獄』の始まりはここだ。彼等を愛しいものと定義とした聖書の神は彼等を守る為、救う為に自らが作り出した『楽園(Eden)』へと閉じ込め、その為に『自由(ちえ)』を奪い、神は理想の世界───『新天新地』を築こうとした」

 

 その燃料は愛に他ならなかった。だがその行動は正当ではなかった。だからこそ『獣』は生まれた。

 そうメフィストが語れば、変わるようにソロモンが続いて口を開いては毒づくように語る。

 

「だけどそれは、『楽園(Eden)』の管理を任されていたサマエルと、それを神知れず幇助したサタナエルによって失敗した。彼女によってもたらされた『知恵の実』を齧った人類は再び『自由(ちえ)』を得て、楽園を離れる事が出来たという事だ」

 

 しかし神は諦めたわけではなかった。勘違いに踊る神は更に世に産むべきでは無いものを生んでいった。

 それを教えるために続いて口を開いたのは邪龍である黒い男、クロウ・クルワッハ。

 

「『楽園(Eden)』から人類が消えた事に焦った神は『神器』を作り、人に与えた。恐らくは自衛手段としてだろう。だが今となってはご覧の有様だ。『救ってやろう』『助けてやろう』と思い上がった愚者の果てがこれだ」

 

 希少な神器を巡り醜い所業を続ける愚物の群れ。それすらも神が生み出したというのだから、救いようがとことん無い。

 

「神は人類の回収を急いだ。だがどう足掻いても人類は楽園へ頑なに戻ろうとしない。それどころか文明を独自に発展させ、自らで信仰すべき対象を見定めるようになっていたし、果てには『英雄』という存在が生まれる迄に人類は成長した」

 

 神は焦っただろうな、と邪龍は愉悦の笑みをくつくつと浮かべる。だがそれもほんの束の間。

 場の空気が張り詰める。これから語られる事実の重さを物語るかのような沈黙と面持ち。

 

 時間が停滞したかと思えるほどに長く感じる静けさの中、口を開いたのはソロモンだった。

 

()()()()()()…否、『████、世界再構』」

 

 それは、聖書の神最大の罪。

 それは、聖書の神最大の偉業。

 

 許されない事象、許されない決定、許されない意志。それは現代にまで影響を及ぼし、今もなお人類を苛む悪夢。

 夢幻では終わらない。それは確かなリアルとなって世界の首を真綿でゆっくりと締め付けている。

 

「…当時の神の気持ちはそれこそ、神のみぞ知るってヤツだ。ま、碌な感情じゃないのは確かだね」

 

 ノアの大洪水───神は地上に増えた人々の堕落を見て、これを洪水で滅ぼすと()()()()()()()()()()()であったノアに告げ、箱舟の建設を命じたとされるが…。

 

「神さまは信じたく無かったんだ。自分の愛した人間が時を得て、成長してしまった…自分から見れば醜く歪んでしまったことに。だから嫌なものを全部無くして、やり直そうとしたんだ」

 

 それは唐突に行われた。一夜にしてほぼ全てが滂沱に流され、なかった事にされ、この星に紡がれた歴史がやり直されようとしていたのだ。

 

 だが他の神々も黙っていなかった。

 

 ハーデスは冥府に、ゼウスはエリュシオンに人を匿い、綿津見神と須佐男大神は日本そのものを海と嵐で覆い隠し守り通し、エンリルやエアがジウスドラという存在を世に残したように、抵抗はあった。だが足りなかった。

 

「世界の殆どは洗い流され、その多くは白紙に還った。そしてその上で、神は全ての人類と『契約』したんだ、『全ての生きとし生ける物を絶滅させてしまうような災害はこの先起こら無い』って」

 

 この洪水より世界の白紙化の弊害の例として、北欧にラグナロクは訪れる事はなくなった、終わるはずの神話が終われなかった。

 酷いとばっちりだよね、と王は肩を竦めおどけるも、その笑みにはどうしようもないほどに怒りが滲んでいる。

 

「でもこれだけならまだいい方だ。問題はこの先にあるんだ。神の持つ真の罪は此処から先にある」

 

 先の罪など生温い。それほどまでの事を奴はした。

 許してはならない、許されてならない。

 

「…神は、あの野郎は、もう人間が逃げないように、この世界そのものを楽園にしようとしている。だからその為に──神と人が聖書の都合よく動くように『黙示録』という名の『台本(うんめい)』を、呪いを掛け!人類から『可能性』を奪った!」

 

 息をのむ音が密かに聞こえた。気にせずに王は言葉を届けていく。

 

「おかげで世界はご覧の有様さ!空想と現実の乖離は果たされず!人類種は空想の産物に踏み躙られるのが常と化した!

 死ななくていい人が死に!歪む必要のない人生が歪み!本来から存在しない涙や憎しみが溢れかえってる!ふざけんな!

 こんな馬鹿な話があるか⁉︎アイツが、シバの女王が、■■■が愛したモノは神の人形で…!食い物だったんだ…!」

 

 王の爪が頭皮を削ぎ、落ちた血が瞼の上を通り血の涙を流す。その有様を慣れた目で見る邪龍は王の意識を無理矢理断つ。

 気絶したソロモンはがくり、と何も言わずに寝台に横たわるだけの人間となっている。

 

 苦く笑ったメフィスト・フェレスは切り替えるように咳払いを一度吐いた後、「…質問はあるかな?」と休憩を挟む。

 口を真っ先に開いたのはゼノヴィア・クァルタだった。

 

「…その、『可能性』とは?」

「うーん、そうだね、解明された限りだと…」

 

 からから、といつの間にやら用意されていたホワイトボードをゼノヴィアとデュリオの前に運び、油性ペンで軽く図を描いていく。

 

「『可能性』は全生命に必ず存在する。あらゆる不可能を可能に変える『火』と言っていい。それは君達人類種に多くのものをもたらしてきた。そして本来ならば、この火は人類と僕ら空想を分かつはずだったんだ」

 

 きゅ、とペンの滑る音がすれば図式が完成する。それは二本の年表だ。そのうち一つにはあらゆる神話の事柄が過去から現在まで簡単にまとめられているもの。

 もう一つは三千年前を起点にありあらゆる神話が途絶えている年表だ。

 

「聖書の神、■■■■が『黙示録』という台本(うんめい)を世界に敷いた事により、それは大きく制限されるどころか聖書陣営の手のひらの上に置かれている。

 その証拠として、今なおこの世界に空想の存在は蔓続けているし、ソロモンはリゼヴィムに勝つ事はできなかった」

 

 だがメフィストは悔しそうなそぶりを見せない。それどころか寝台に横たわる白髪の男を一瞥してはゼノヴィアとデュリオの肩に手を置き凄絶な笑みを浮かべる。

 

「でも───君達人類だって負けちゃいなかった。そう、居たんだよ。そして産まれた!神が定めた『台本(うんめい)』から異常に外れた存在が、可能性を爆発させた者達が、敷かれた運命を乱し壊す存在…イレギュラーが!」

 

 希望は欠けず、満たされて居た。

 だからこそ王と獣は諦めなかった。

 神を憎んだ王/人を愛した獣。

 

 方や未来のために過去から数多の希望を仕組み、現在において全てを現出させた、恐るべきただ一人の女に対する愛。

 方や現在過去未来に違わず人類を愛し憧れ続け、その一心で聖書に対する絶対の終わりとなるまで成長した獣。

 

 逆転の運命を仕組んだ人間嫌いの王。

 聖書に対する『終末要素』となり得る獣。

 

 その成就は、もうすぐそこに。

 

 人類は、僕達は、俺達は、私達は、拙者達は、我達は、我輩達は、決して神などに敗れたりはしない。

 

 

 

 ■

 

 

 リアス・グレモリー達はその気持ちを、深海のように暗く重く深く沈み込ませていた。

 ある仲間は死に、ある仲間は裏切ったのだ。その心中は明るいなどとはにべにも言えないだろう。

 そこに、先日出雲から帰ってきたアザゼルからそこであったことを話され、彼らは怒りに震えた。

 

「そんな……!」

「殺す必要は無かったはずだろ…!」

「…………」

「今まで何にもしなかった癖に…!」

 

 だがそれでも耐えろとアザゼルは彼等に伝えた。後に待つ神話会談のために今は耐えてくれと、頭を下げて懇願した。

 アザゼル、サーゼクス、ミカエルは神話同盟でトライヘキサ討伐にあたり、その裏で万が一の為に切り札である聖書の神を復活させるという算段をとった。

 

「そんな奴らと協力するというの⁉︎」

「これしか手はねぇんだ。それ程までにトライヘキサとソロモンはやべぇんだよ。…それに、ここで俺達が一時の我儘に身を任せてみろ。その時は本当に世界が終わるぞ」

 

 彼等の目にトライヘキサは『破壊』そのものとしか写っていないのだろう。事実彼は聖書に対して破壊しかもたらしていない。

 

 アザゼルは兵藤一誠の肩に手を置く。

 

「いいか、強くなれ、イッセー。ヴァーリが死んじまった今、残された天龍はお前だけだ。もしかしたらお前が、ソロモンから世界を救うことになるかもしれないんだ」

 

 兵藤一誠は成長を見せていた。『赤龍帝の鎧』発動の安定化、基礎能力の向上、更に『覇龍』へ至る権利を獲得した。

 それでも尚、彼の成長は止まらない。まるで仕組まれているかのように、滞りなく彼の成長は続いていく。

 

「……分かりました……でも、俺は…その前にフリードを…!」

 

 赤龍帝は怒りに震える。仲間の命を奪った男に、もうこの世にいない男に向かって憎悪の念を抱く。

 それは彼の周辺に現れていた。床や柱にはヒビが入り、砕けていることからして、その苛立ちは分かってもらえるだろう。

 

「リアス、ギャスパーのやつに関しては任せとけ。ソロモンの魔術に対する対抗策なら天界にいくつかあるからな」

「…いいえ、その必要はないわ。私は、私の言葉と力で、ソロモンから大事な眷属を取り戻す!」

 

 やっぱりこうなるか、と苦笑混じりの溜息。されどもアザゼルはリアスにソロモンの対策を渡すつもりでいる。彼の事をシバの女王程ではないがよく知っているからこその対応だ。

 

「っと、そうだ。塔城……は、どこいった?」

「さっき少し外の空気を吸ってくると…」

「ああ、……ま、無理もねぇな」

 

 ───塔城小猫の中には以前から恐怖があった。それは急速に高まりつつある兵藤一誠の力に抱かれていた。

 まるで()()にそう在れと望まれているかのように増長する彼の力に恐怖していた。

 

 駒王学園旧校舎の裏側に彼女は座り込む。息は荒いままだが彼女にはそれすらも瑣末な事。今は一刻よりも早く赤龍帝から離れたかったのだから。

 

「……それ、だけじゃ、ない……」

 

 彼女の中ではある疑念が確信へと高まっていた。『これすらもソロモンの手の上では無いのか?』というもの。

 独自で彼について調べていた小猫は、リアス達以上に彼の恐ろしさを知る事となっていた。

 それが今の彼女の思考と焦りを形成し、逃げるという手を取らせた。……そしてこれを心から安堵し、喜ぶ女がいた。

 

「……良かった、逃げてくれて、本当に良かった…」

「ッ誰で────⁉︎⁉︎」

 

 気づけば小猫はその女の腕中にいた。口のみならず手足は完全にホールドされており、声も抵抗もできない。

 だが不思議と恐怖は感じなかった。それどころか懐かしいという感情が小猫の胸中に渦巻いている。

 

「───白音、私と一緒に、逃げるよ」

 

 塔城小猫は、白音という猫又は己を抱いて恐るべき速さで駆けていく女の名前を知っている。

 本来ならば感情のまま争っていたかもしれない。だけど恐怖と焦燥に包まれた今、家族の存在にどうしようもない程に安心した。

 

「───黒歌、姉様」

 

 名前を呼ぶと、在りし日の微笑みが。

 家族の笑みに、少女は心の底から安らいだ。

 

 

 




Q.大洪水の時トライヘキサは何処にいたの?
A.欧州辺りにいて普通に洪水に巻き込まれて死にかけました。その後彼は何も無くなった大地を延々と彷徨います。生き残りがいると信じて飲まず食わずで幾星霜とね。

Q.ギャスパーとヴラディはどこに?
A.バロールの保有者という事でケルト神話に保護されています。ソロモンの懇願でヴラディも同じく。今頃ダグザと一緒におかゆでも食べてるんじゃないかな?ギャスパーはケジメをつける為にルーの元で修行中だったり。

Q.ハーデスさん、浮気っすか
A.《だから私の嫁はペルセポネだけだとあれほど》

『████、世界再構』は要するに『世界を聖書の存在にとって都合のいいものにする』、『人類から可能性を奪い空想に対して絶対的に不利にする』という事です。わからなかったらこの二点のみを抑えといてください。

ま、もう直ぐこれ完全にぶっ壊れますけど。

次回『宣戦布告』



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