黙示録の時は今来たれり   作:「書庫」

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花火も満喫、山の写真も沢山撮れた、美味しい物もそれなりに。夏はやはり旅行が良い。ええ、最高でした。んじゃ、バリバリやっていきますかね。

あ、ワインと麻婆はもう少しの辛抱よ?
ちゃんと熟成させておいてね?(慈悲深い神父の笑み)





聖書殲滅戦線

 会談出席者とは別に、会場護衛に努める三大勢力を襲撃したのは、『魔獣創造』により産み出されたモンスターの軍勢だ。

 作成者は恐らく童話から着想を得たのだろう、その外見はファンタジックなものだった。

 

 其れは伸縮自在の首と鋭すぎる牙を持つ正体不明(バンダースナッチ)であり、それを統括するのは目をらんらんと燃やし、風を切って襲来し、鋭い鉤爪で獲物を捕らえ、強力なあごで食らいつく伝承存在、ひとごろしき(ジャバウォック)

 

 それが群れをなして悪魔を、天使を、堕天使を殲滅しにかかる。そこに区別はない。それは平等に公正に行われる殺戮行為。

 だが三大勢力に絶望はない。なぜならば彼等の味方に超越者が、獅子が、赤龍帝が、頼りになる仲間がいるからだ。

 

 

 大丈夫、大丈夫だ。

  まだ、まだ希望は壊れていない。

   世界の平穏は、私達の日常は壊れてない。

 

 

 彼等は平静を保つどころかその気概をたぎらせた。お前達に負けてなどやるものか。お前達に滅ぼされてなどやるものか。お前達に膝を折るなどやるものか。

 

 全ては変わらぬ明日の為に。その希望を胸に、彼らという『せいぎ』は『あく』に立ち向かう。

 たがそれも───。

 

「少しペースを落としてくれない?僕の体は老人と変わらないからさ。おんぶしてくれれば尚良し」

「僕の影にのりますか?間違って食べちゃうかもしれませんけど…」

「だから私は言ったんだ絶対クロウ・クルワッハに乗せてもらうかメフィストに送ってもらったほうが早いって…」

 

 王と真実を知った者が、到着するその時まで。

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 冥界には再び地獄が広がっていた。だが嘗ての戦禍とは違い、各地には火の手が上がる事は無く、ただ断末の悲鳴と血の匂いだけが広がっていた。

 

「いやだ!いやだ!助けて!」

「何で俺達だけがこんな目に…!」

「人間風情が!貴様らごときに!」

 

 都市に、領地に、凡ゆる地点に尖ったシルクハットの様な兜を目深に被った騎士達が、『不死隊』が進行する。その規模は僅かばかりな一個大隊。だがそれに参列する全員はレオナルドが産み出した良作達ばかりだ。

 

「死にたくねぇ…!死にたくねぇよ…!」

 

 忙しなく鉄の軍靴の音が、肉を刻む音が、倒れふす音だけが聞こえる。

 その侵攻ははっきり言って遅い。だがそれら全ては懇切丁寧に行われており、誰一人とて生き残れる道理も奇跡もない。

 

『次から次へと…!』

 

 だがそんな彼等を炎が焼き殺す。その炎の担い手は『聖魔龍』ことタンニーン。

 メフィスト・フェレスの持つ眷属が一人であり、『女王』の席を与えられている。だがここ近日に至り、彼と主君の連絡は途絶した。

 

 この様に数多の実力者が事態の収束に奔走を尽くしても尚、彼等の、『大いなる都の徒(バビロニア)』の侵攻は、レオナルドが作り出した騎士は止まることはない。

 

 ある所では巨躯の弓兵が恐るべき速さと威力の矢で悪魔もろとも家屋を薙ぎ。

 ある所では黄金獅子の騎士と大槌を手にした処刑人が悪魔を一人一人潰していき。

 最果てでは撃ち漏れた、或いは逃げ延びた悪魔達を暗色の衣に身を包む暗殺者が狩る。

 

 これもまた、レオナルドの産み出した騎士達。だが産み出したのは『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』では無く、その『禁手(バランス・ブレイク)』である。

 

 レオナルドには忌み嫌う者がいた。その者が産んだ物が許せなかった。それが『生み出す者』としての矜持から来る物か、それとも関わり合ってきた人々との繋がりで獲得した良心から来る物か。それは彼にしか分からない。

 

 ただ彼はその『忌み嫌う者』を打倒しようと、否定しようと多くの魔獣を生み出しては試行錯誤を繰り返した。

 そしてその果てに彼は辿り着いた。血反吐を吐きながら、何枚もルーズリーフを消費して、ペンを何本も壊してまで完成させたもの。

 

 超越者を否定し、殺すだけの存在では無い。

 

 子供なら一度は胸にその理想を抱くヒーロー。かつて見た物語という空想。それに憧れたからこそ凡ゆる手を尽くし、研鑽を積みに積み、この世へ再現し、投影し、敬意を持って産み出した。

 

 それがきっかけ。

 彼は自らの『禁手』をこう名付けた。

 ───『万夫不当の英雄譚(ノット・バッド・エンディング)

 

 生み出されるのは魔獣を遥かに超えた膂力を持つ存在。伝承、御伽噺、童話、つまりは一度見た物語の存在を投影し生み出す境地。

 ああ、それこそお伽話だ。子供の見るひとときの理想だ。まさしく子供の夢と呼ぶにふさわしい。

 

 子供の産んだ英雄の夢と。

 悪魔の産んだ■■(せつじつ)の夢。

 その対立は、もう間近にある。

 

「アジュカ・アスタロト……」

「…そこを退いてもらおうか、化物が」

 

 

 

 

 冥界某所、魔王レヴィアタンと二人の男は対峙していた。状況は拮抗では無い。片方の優勢。ではその片方とは悪魔か、男達か、どちらなのか?

 

「『零と雫の霧雪(セルシウス・クロス・トリガー)!」

「下らんな、果てしなく」

「なっ⁉︎」

 

 広域に展開される高威力の氷の魔力。そのおおよそ半分を指先にほんの僅かに止まる炎で蒸発のみならず消失させたのは、25メートルはあるであろう燃えるような髪の男。

 残るもう半分を『神器』の力で吹き飛ばしたのは同じく2メートルの大男であり、その両腕には機械仕掛けの兵装を取り付けた者、ヘラクレス。

 

「大英雄の残り火よ、助けは必要か?」

「この分じゃいらねぇな。師匠は手前の目的を果たしに行けよ」

 

 その一言を皮切りに男達は分かれる。一度手を合わし鳴らせば炎の男は瞬く間に消え去り、大英雄の魂を受け継いだ男はその場に留まり、どう猛に笑いながら構えを取る。

 

「こいよ魔王サマ。人間の限界ってやつを見せてやる」

「いいわ☆なら魔法少女レヴィアタンは皆の為なら負けないってことを見せてあげる☆」

「はっ!その年で少女はきついぜババア!」

 

 この日ヘラクレスは悪魔でもなく、魔王でもなく、先ず女性の堪忍袋をいっそ清々しい程にズタズタにした。緒を切るどころの騒ぎではなかった。

 

 

 

 ■

 

 天界、第一天。

 

 トライヘキサは既に第一天の大半を焼き尽くしていた。それはもう懇切丁寧に、天使を一人も逃さぬ様に焼き尽くした。

 粗方を燃や終え、次の天に登ろうとした時だった。そこに彼は現れた。一人の女性の天使を引き連れて。

 

「……ケルトの?」

『クロウ・クルワッハだ。よもや名が知れていようとはな』

 

 黒いコート、金と黒の混じり合った髪、双眸は右が金で左が黒という特徴的なヘテロクロミア。

 ソロモンと契約した遥か太古の邪龍。そんな彼の側に居るのは美しい女の姿を持った天使にして神の力、ガブリエル。

 

「……」

 

 トライヘキサは無言でその身に炎を走らせる。怯えを見せるガブリエルを他所に『少しこの女の言葉に耳を傾けろ』と静かに邪龍は告げる。

 しばしの沈黙。何度か迷うそぶりを晒しては徐々に徐々に身に走る炎をゆっくりと消していく。

 だが剣呑な目つきは変わらず、ガブリエルから目を離さない。その目は『余計な事をしたら焼く』と言っていた。

 

「と、トライヘキサ……貴方に、…貴方に、この世界について、話しておきたい事が、あります」

 

 だが彼女は逃げなかった。そして己がやるべきを、遠い昔に結んだ、神の子たる『救世主』との約束を果たすが為に。恐怖に喘ぎ、その喉を震わせようとも、託された言葉を紡ぐ為に彼女は獣の名を冠する少年と眼を合わせる。

 

 トライヘキサはその目を僅かに緩めた。だが剣呑な事には変わりない。その眼が揺らいだのも意識が『燃やす』から『聞く』に変わっただけに過ぎない。

 

「───私には、天使にはいくつか表現が禁止された言葉があります。ですが可能な限りは伝える事が出来る。ですから、どうか、この言葉の断片を覚えていて、せめてもの手がかりに……」

 

 瞬間、ガブリエルの心臓を貫こうとする光の槍を、クロウ・クルワッハがその拳で砕いた。

 空に在るのは二人の熾天使。即ちサンダルフォンとメタトロン。その凄まじい形相と殺気は、全て同胞であるはずのガブリエルへと向けられている。

 

『……耳聡い蓮中だ』

 

 第二射、光の雨が降る。それら全てをクロウ・クルワッハはその右腕に過剰なまでのオーラを滾らせてはそのまま横一線に振るう。光と光の衝突。雨は焼き払われていく。

 その隙にガブリエルは必死に言葉を紡いだ。

 

「神は貴方を─為に、この世界を───にするつもりです」

 

 その発言と同時だった。ガブリエルの身は炎に包まれゆっくりと青い粒子へと還り、空の中へと溶けてゆく。

 かろうじて分かるその顔と声は悔しさと不甲斐なさに満ちている。そんな彼女を、トライヘキサは意外そうな顔で見ていた。

 

 ───ごめんなさい、やっぱり駄目でした。

 

 朧げな声、解けていく天使の体。それを驚きから来る放心のまま、眺めることしか出来ない少年。

 炎に囲われたままの天使は、青色の粒子に還っていく天使は、驚いた少年を見て微かに安堵した様に微笑んだ様な気がした。

 

 ───急いでくださいね、時間がありません。

 

 その言葉を最後に四大天使の一人は、静かにこの世界から消えた。

 

 

 ■

 

 世界神話会談会場である出雲。ここに集った神々はそれぞれの選択を取っている。ある神は国へ帰る事を決め、またある神は人間と聖書の戦いを見届ける事を決めた。

 とは言っても態々残る神はほんの一握りだった。それもそうだ。ここに留まらずとも見ることは出来るのだから。

 

 曹操とサーゼクス。

 ゲオルグとアザゼル。

 ジャンヌとミカエル。

 

 彼らの戦いは拮抗を保っていた。だが曹操に至ってはほんの僅かに優勢を見せている。踊る『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』と青龍偃月刀。迫る滅びの魔力を纏う拳をかわしつつ確実に槍を刺していく。

 

 ゲオルグは神滅具『絶霧(ディメンション・ロスト)』を用い、その身に迫る光の槍を霧の中に閉じ込めてはそのまま返すという戦法を取るが、双方に切り札があるのか、お互いにその余裕のある笑みを崩さない。

 

 ジャンヌはただただ単純に何十もの聖剣をミカエルに荒々しくも的確に精密に叩き込んでいた。だが相手は天使長。その程度で勝てるのならば苦労はない。彼はいたって平静に剣を凌いでいく。

 

 そんな争いを見てロキは笑っていた。だがその笑みは途端、不愉快そうなものに変わる。

 

「少しは黙っていろ、目当ての女はまだ来ていないのだろう?」

「───? ───!」

「…私の知ったことか。それよりも大人しくしていろ。折角連れて来てやったんだ。それぐらいは…」

「─────! ──?──?───!」

「腹立たしい奴だな貴様はァ⁉︎ クソッ!こんな事ならお前を選ぶんじゃなかった!」

 

 北欧の悪神はヴァルハラの館に在る戦士、エインヘリャルを護衛として一人連れて来ていた。

 だが彼はとにかく不真面目というか、人を腹立たせる事に対しては一級品であり、悪神ですらももこのザマだ。

 しかもヴァルハラの戦士という立場を利用して煽って来るからこそ尚、彼のタチの悪さに拍車がかかっている。

 

「──、────」

 

 彼は本来ならヴァルハラの館に迎えられる者ではなかった。だがその生まれの経緯とその偉業にオーディンは目をつけた。

 結果として彼は主神のお眼鏡に叶い、館へと迎えられた。

 そして彼がいたからこそ、ジークフリートはグラムを正式に所持する事を認められたと言っても過言ではない。

 

「…分かったからその口を塞いでろ……」

 

 そんな彼は待つ。ただ一人の、信頼できる女を。

 あの日言えなかった感謝と、遺言を唯一の肉親に残す為。

 

 

 

 

 

 




Q.なんでガブリエル死んでしまうん?
A.節子、神のルールに逆らったからや


因みにレオナルドは実際の英雄を投影していません。彼なりの敬意というか、生み出す者としての一線ですかね。だから投影されるのはほとんど創作物からです。『ジャバウォックの詩』の少年とか、ダー●ソ●ルの四騎士とかね。

次回はゼノヴィアサイド2回目。
こっちは短めになるかも?
その次はジークフリート対タンニーンですね。
さてさて、新たなる竜殺しの誕生はなるか。

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