黙示録の時は今来たれり   作:「書庫」

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主に…じゃねぇや、エボ…げふんげふん。
サタナエル回です。
ACV系の曲でも聴きながらお楽しみあれ。




パラドックスを紐解くのは

 普段とは違い軍用の外套を着用したサタナエルは、ある時は木々の間を、ある時は地を、ある時は空を駆けて三大勢力の面々を翻弄しては手に持つ棺桶染みた鉄の箱で殴り殺していく。

 

「ギャハハ!いーいじゃん!盛り上がって来たねぇぇえ!!こっちだーい!ギャァハハハハ!」

 

 この様に冥界に漏れず、人間界でもまた戦乱が広がっていた。会談会場を襲撃する大量の魔獣の群れはサイラオーグ、バラキエル、兵藤一誠などの尽力によりその数を大きく減らす事となる。

 だがそれは三大勢力もまた同様で、彼等も彼等で自らの数を減らされることを余儀なくされた。

 

「扱いづらい神器って話だが、改良型が負けるわけねぇだろ!行くぞおおおおおああああああ!!」

「…す…ぶす、つぶす、潰す、潰す潰潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰すゥゥウ!」

 

 突然の襲撃、防衛に動かない他勢力、突如された宣戦、これらに対する動揺の隠せない三大勢力の元に、『大いなる都の徒』による第二波の襲撃が間髪を入れる事を許さずに始まった。

 

 第二派の襲撃戦力は英雄派構成員の人間を中心に構成されており、レオナルドが投影した騎士が少数だが加えられている。

 そしてそれを統括し、指揮するのは部隊長であるサタナエルと、この殲滅戦に置いて全体のサポートを行うサマエルだ。

 

『待機中の各員に通達。第一陣の撃ち漏らしは各地に分散しています。これを各個撃破し、先行部隊と速やかに合流する事。以上があなた方の任務となります』

 

 救世主の兄である天使は生き残りなど許さない。聖書を、三大勢力の全てを完膚なきまでに抹消するまで彼の闘争は終わらない。

 

 かつて人類へ叡智を落とした赤い蛇は何方に転んでも構わない。彼女にとっては今の所、聖書にも人類にも価値は無い。

 

 だが一度請け負った事に妥協はしない。なにより、あの下げられた頭に泥を塗る事は彼女自身の心が許さない。

 

 

Are you ready(覚悟はよろしいですか)?』

 

 

 毒ありし光輝なる者の瞳は全てを見ている。

 その瞳から逃れたくば自ら命を絶つ事だ。

 

 

 ■

 

 さーて、サマエルに伝達もしてもらったし…俺は俺で好き勝手に暴れさせてもらうとしようかね。

 背に生やした白と黒と蝙蝠の羽を仕舞う。正直言って、制空権を確保しなくても今の三大勢力を相手取るなら問題ない。ハニエルとかいたら流石に本気出してたけど。

 

「うーん、それにしても楽しみだ。人間が作った武器を実際に使えるわけだしね」

 

 持参して来た鉄の箱を蹴飛ばして開けるとあら不思議、そこには俺が今日この日の為に貯め込んで来た人類が作り上げた武器が選り取り見取りだ。

 さて、先ずは何から使おうか悩む所。サブマシンガン?それとも散弾銃?意表をついて日本刀なんかも良いかもしれない。

 そんな風にウキウキ気分でガラガラと箱の中を探っていると悪魔の気配が後ろから忍び寄る。

 

「おい、そこを動くんじゃねぇ」

 

 いかにもヤンキーって感じの奴だ。それに続いた何人かの悪魔がぞろぞろとやってくる。この感じからしてシトリーの子孫とその眷属って所か。

 ……凄まじい期待外れなんだよなぁ、どうせならバラキエルとか連れ来てくれないかね。久々に会いたいもんだ。

 

 おっと。丁度いい、閃光弾があった。

 いやこれ危ないね、ピン外れちゃってんじゃん。

 

「そりゃ無理だ、申し訳ないけど」

 

 振り返ると同時に地面に叩きつける。思いの外よく光るもんだ。薄眼越しでも光の強さがよくわかる。

 

「ッ…閃光弾⁉︎」

「目が…!あいつは何処⁉︎」

「皆んな!まずは落ち着いて……」

 

 しっかし、人間ってのはどうしてもこう兵器作りに関しちゃマジなんだか。サマりんが拗ねちゃったのってこれが原因かな?

 なんて心中でぼやきながら散弾銃を手に取る。近場にいたヤンキー悪魔の鳩尾に銃口をすかさず捩じ込む。

 

「ゔ…っ、ぁ⁉︎」

「匙⁉︎どうしたの⁉︎」

「チャオ!」

 

 引き金を引いた。撃鉄は落ちた。乾いた音と絶叫がまばらに響く。大量の血が飛び散ると同時、腹部に凄まじい傷跡を残す匙と言うらしい悪魔は俺を目掛けて黒色の炎を走らせて来る。

 まぁ蹴り飛ばしちまえばそれまでなんだが。

 

「ど…し、て……」

「おー、流石は聖剣製鍛造弾。効果抜群、僥倖僥倖!」

 

 弾丸はアドバイスにより『聖剣創造』で造られた聖剣を原材料に採用して見た。

 で、予想外なぐらいに効いてる。こりゃ嬉しい結果と来たもんだ。おかげでこの退屈な掃除も手早く終わりそう。

 さーて、お仲間の死に様を見て絶賛絶望中の悪魔達。何名かはさっきの奴と同じ転生悪魔か。ま、完全に向こう側だし殺すが。

 

「はい次ぃ!そこのなんか地味な奴!」

「な、っぎぃゃゔ⁉︎」

 

 動揺が比較的でかい眼鏡長髪の脇腹につま先を食い込ませ、捻り、そのまま蹴り飛ばす。丁度いい、箱の中マチェット(聖剣)がある。適当に投げておこう。

 止めようとやって来る狼男の口に銃口を突っ込みながらマチェットをフリスビーの要領で投げる。

 だが水の動物に阻まれた。しかしなるほど、アレがシトリーの末裔の力か、何がどうしてああなるの?

 

「今はお前が散るだけみたいだねぇ」

「ぼ、ぶ⁉︎ぶぼぉおおおおおおああ⁉︎」

「ルガールさん⁉︎いやぁああああ!!」

 

 叫びながら刀を振り回す女の腹を光槍で貫いては槍の底を足で押し込み、放り捨ててる最中に思ったことが一つ。

 こいつら平和ボケしすぎじゃない?いや、三千年前の悪魔ども比べちゃあ失礼か。

 何にせよこれで二匹共この世からおさらばだ。にしてもさっきから大活躍だねこの散弾銃。他にも狙撃銃とか色々持って来たんだが使わずに終わりそうだ。

 

「いやぁーえげつないねぇ、このAA-12ってやつ。人間がマジになったら悪魔なんて殆ど死んじまうんじゃない?今現に簡単に二人とも死んじゃったしさぁ。どう思う?シトリーの末裔」

 

 これは本気で思った事だ。その気になればあいつらは死に物狂いで異世界間移動を成功させるだろうし、三大勢力駆除組織だって編成するだろう。

 まぁそれもこれも『黙示録』が無い事を前提としたものなんだが。

 

「あー、あー、聞こえてるかな?」

 

 悪魔からの返答がない。ふーむ、物凄い憎悪の目がこっちに向いてるから生きてるのは絶対なんだがなぁ、無視は悲しいものだ。

 おっと、魔力の流れが活性化したな。大技か。

 

「にしてもやっぱ期待外れかな、これ」

 

 水の魔力で生み出された多種多様の生物達。今のレオナルドならこれを見ただけでダメ押しが三十は出るだろう。

 なんにせよ、掃除に娯楽性を期待した俺が馬鹿だったかね。さて、それじゃそろそろシトリーの末裔には御退場願おう。

 

 ああ、次は何処に行けばいい?

 教えてくれよ、サマエル。

 

 

 

 ■

 

 

 

 バラキエルのは心の中で何度もその事実を疑っている。過去にソロモン王と手を組み、三大勢力を揺るがした存在の片割れが生きていたという現実を受け入れる事を今尚拒んでいる。

 

「……いや、そんな筈は無い」

 

 サタナエル───その天使はバラキエルよりもずっと昔に生まれていた。『告発』と『裁定』の役割を担う存在。だというのに何度も神に歯向い、その存在を希薄にされても尚止まらなかった。

 彼は幾つもの禁忌と不敬に手を染めた。故にその魂は硫黄の池の底へと捕らえられた。

 

 だが当然それで終わりでは無い。

 彼は救世主の兄という役割を請け負う事が、過去に聖書の神との間で契約されていた。そして、聖書の神は契約の神という神性を持つ故に己が結んだ契約を覆す事が容易では無い。

 

 やがて彼の目論見通り、起源前に彼の魂は解き放たれる。だが彼は意外にも己の役割を忠実に果たし、死した後に天使へとその姿を還し、その果てにどういう事か、()()()()

 それがサタナエルという存在が辿った歴史だ。

 

「そうだ、お前は消えた筈だ」

「───まぁ、そんな訳ないよね」

 

 ではバラキエルの前に現れた存在は何だ?

 答えは正真正銘のサタナエルだ。

 

「なぜ生きている⁉︎お前は自害したのでは無かったのか⁉︎」

「自害がトリガーってのは考えなかったか。そりゃあ嫁さん死なせちゃう訳だよ、お前。もっとよく考えた方がいい」

 

 途端、バラキエルの目の色が変わる。

 だが気にも止めずにサタナエルは惰性に語った。

 

「昔のよしみだ。教えてやるさ。そもそも俺達『天使』ってのは()()()()()()()()()()皆須らく『かみさま』が作った操り人形だ。俺はそこから抜け出したかった」

 

 棺桶の様な鉄の箱に腰を下ろしては役者の様な手振りを加えてサタナエルは語り出す。まだ理解の範疇に収まる領域だ。常識から外れていない言動だ。

 

「そんな折だ。ソロモンは己の計画への協力を条件に、俺へ新しい器を提供。俺はその器に記憶と人格を組込み、『俺の自害』を以って起動するようにした、それが今の俺だ」

「───は?」

 

 だがここでバラキエルの頭脳が理解を拒んだ。側から見ればその発想と試みは、狂っているとしか言いようがない。

 ありえない、不可能だ。そもそも有り得てはならない。それは余りにも危険が過ぎる技術だ。

 

「今ここに在るのは、とある天使の足掻きの果て。神に罪を突きつける為だけに存在する。人間の為の人形(てんし)。つまり俺は俺であって、俺じゃない。同一存在って言ったら理解出来るか?」

 

 彼は人類の為に全てを捨てた。天使としての身体、莫大な時間、己の存在そのもの、それら全てを対価として払い、ここに居る。

 一体何故ここまで出来るのか? 

 彼はこう答えるだろう。人間の為だと。結局の所彼の行動原理は徹頭徹尾、何処まで行っても人間の為だ。

 

「……やはりお前は、お前達二人は危険だ。狂っている。お前達の所業でどれ程の犠牲者が出たと思っている?…だがお前は、ソロモンは、それを聞いても何とも思わないんだろうな!」

 

 堕天使幹部にして屈指の武闘派バラキエル。

 彼の持つ名の意味は『神の雷』。その名に違わず彼は雷光の力を自在に操る事が出来る。その証拠に、彼は自らの肉体に雷光を纏わせた。

 

「娘と仲間、そして世界の為に今ここで散れ!」

 

 この一言を起点に、サタナエルの感情は大きく揺らいだ。軽蔑、落胆、失望の感情は全て軒並みとある感情の燃料となる。

 其れは第二の大罪。堕ちた彼が司る感情。対応する動物は一角獣、竜、狼、猿であり、示す色は黒と赤。

 

「ギャハハハハハハ!……───貴様らはいつもそうだぁ!」

 

 即ち、憤怒。

 

「いつの時代も己を絶対的な正義や世界の中心と勘違いし!欲望や感情に抗わず人間を踏み躙る!選択を誤る!  幾度となく悲劇を作り出そうが味わおうが、貴様らは誕生した時から、何一つとして進化していない!一歩も進んでいない!」

 

 サタナエルの背から十二枚の翼が広がる。()()()()。その翼は今までの物とは一切合切、何から何までもが違う。

 黒い羽では無い、白い羽でも無い、ましてや蝙蝠の羽でも無い。その背から広がる十二枚の翼は今や一つに統一されている。

 

 それはさながら、赤い竜の様な翼で。

 

 彼はここに来てようやく『落ちる事が出来た』。

 苦節三千年。あまりも長く遠い時の果てに来て、彼は漸く自らの名から『(el)』を捨て去る事が可能となった。

 

 十二枚もの赤き竜の翼と一対の角。

 天使の様な優雅さ、悪魔の様な無秩序さ。

 憤怒の化身たる存在。『サタン』は今顕現する。

 

「そんな愚かで矮小な貴様らの所業を眺める事しか出来なかった俺達の気持ちを考えた事ありますかぁ⁉︎ それも来る日も来る日も何度も何度も永遠に!気が狂いそうだぁ!ヒャハハ!ギャーハッハハハハハハハハハハハ!」

 

 

 

 

 




サタナエル、苦節三千年の果て堕天。
その名に神を不要とし、彼は赤き竜へと至る。

Q.サタナエルはようするに?
A.新しい自分の体に記憶やら魂の半分やら入れてました。今作にて今暴れてるはそいつです。ファンタズマ・ビーイングって言ったら分かる人には伝わるかと。
Q.サタナエルの器は何で出来てるの?
A.堕天前の羽からお察しください。ちなみに成分比率は6:2:2。実はこれソロモンと初代アスモデウスと初代ベリアルが協力して作った物だったり。


次回はレオナルド対アジュカ
皆さま、大変お待たせしましたね。
ワインの栓を開ける時は来ました。
(愉悦の)覚悟はいいか?俺は出来てる



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