黙示録の時は今来たれり   作:「書庫」

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Q.原作勢は弱体化してるの?
A.してません。その場合はちゃんとタグ付けるので。とは言え、言わなかった私も私。この場をお借りして謝罪致します。誠に申し訳ございまさんでした。


それじゃ…

ティスティングの時間だオラァ!





僕は一人じゃ無い・上

 浮遊都市アグレアス。それは旧魔王時代により作られた。此処には『悪魔の駒』生産のために必要不可欠となる素材が存在していたが、以前の襲撃によりアグレアスは半壊、前述の素材や重要機関はその過半が損失された。

 

 そして今回の襲撃に於いてのアグレアスだが、結果から語れば全壊した。残る物など一つも無しに瓦礫の山と化したのだ。

 

 これがほんの一時間前の事だ。その時魔王アジュカ・ベルゼブブは何をしていたか、少しばかり振り返るとしよう。

 

 ■

 

 冥界を襲う騎士と魔獣の群れにより各地の都市は甚大な被害を受けていた。事態を収めるべく、アジュカ・ベルゼブブはアウロスへと出立。焦る彼を待っていたのは瓦解した燃え盛る町だ。

 

 だが彼は其処で止まらない。せめて生存者を見つけ出し保護しなければとその足を必死に動かす。

 彼の道を明確に阻んだのは、身の丈に合わぬパーカーを着崩し、白布が何重にも巻かれた薄い板の様なものに座った一人の少年、レオナルドだった。

 

「…アジュカ・アスタロト」

 

 そしてアジュカ・()()()()()は直感で目の前の存在の性質を見通した。この少年には恐らく真っ当な倫理観も思考も無く、その内に宿す精神構造は狂った科学者そのものだという事を。

 

「…そこをどけ、化物が」

 

 それは半分が正解で、半分が誤りだ。レオナルドの中には確かに真っ当な倫理観や常識は存在している。禁忌に触れる事は滅多に無く、仮にあったとしてもそれは苦渋の果てに導き出される決断だ。

 だが、そもそもの問題として、彼は未だ幼い。感情の暴走があらぬ行動を誘発させかねない。

 

「もう一度言う、そこを退け」

「何度だって言うよ、『嫌だ』」

 

 アジュカが見通したのは()()()()。例えるならば蟻を潰して遊ぶ幼子の無邪気さとほぼ同義だ。

 何はともあれ、此処に一つの対立軸が決定される。それは奇妙で数奇な巡り合わせな事に、『生み出す者』どうしの激突。

 

「ねぇ、アジュカ。僕は君がすごい嫌いだ」

 

 『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』が発動する。所持者の意思や想像通りに魔獣は産み出される。

 新たに誕生したその魔獣は『禁手』を除く場合に限られるが、紛れも無くレオナルドの傑作。

 

 その姿は美しくも恐ろしき、鱗無き竜。

 薄く淡く色彩を放つ三対の羽根。何にも染まらぬ事を体現するかの様に何処までも強く主張する白色の身体。逞しいその両腕は竜の物と言うに相応しい。だがその半身にはあるべき足は無く、代わりとして三本の尾が竜の支えだ。

 

 これを直視した魔王は思わず感嘆の息を上げる。だが心の区切りは迅速であり、即座に構えを取った。

 だが対照的に少年は何もせず、護衛となる魔獣すら産み出さず、アジュカを見据えながらその見た目に相応しい声色と微笑みで語る。

 

「…何故こうも敵が多いんだろうな、俺は」

「自分でも気づけない?お前が元凶なのに?」

 

 少年の笑みが消え、言葉が紡がれた同時だった。鱗の無い竜がその顎門を開き一条の光を放つ。だがそれをアジュカは『覇軍の方程式(カンカラー・フォーミュラー)』により、威力を底上げした上で返す。放たれた筈の光は竜の腹を焼く。

 

「…俺が元凶?」

「悪魔の駒なんてものがなければ、こんな事にはならなかった」

 

 鱗の無い竜が吠えると同時、幾多もの水晶が瞬時に形成され、不意を疲れたアジュカはその足を貫かれた。それを好機と見たのか、鱗の無い竜は再度その口から光を放つ。

 だがまたしても『覇軍の方程式』が発動する。光の大半は鱗の無い竜を貫き、残りは魔王の手の中に留まった。

 

「…どういうことだ?」

 

 腹部に大穴を開けられた鱗の無い竜はその地に倒れ伏し、吠える事も無くその血を延々と流し続け、それは次第に魔王の足を汚す。

 

「どうもこうも、言葉のままだよ。なんで他種族を悪魔にしようなんて馬鹿げた考えを実行したの?

 悪魔は出生率が低いから?ならなんで子どもが出来やすくなるとか、そういう研究をしなかったの?」

 

 ディハウザーと同じ疑問。なぜ多種族を取り込むのか。なぜ妊娠率を高める研究に着手していないのか。少年はこれが心の底から理解できなかったし、ずっと不可解に思っていた。

 アジュカは答えない。ただ戯言に耳を傾ける必要などないといった面持ちで少年へ狙いを定める。

 

「自然に反するから?いいや違う。そんな良識を持つ様な人格ならそもそも悪魔の駒なんて作らない。

 己の得意分野と違うから?いいや違う。種全体が滅びるという問題に直面してその思考は普通ならありえない」

 

 痺れを切らしてか、それともその小さな唇から語られる言葉に焦りを助長されたのか、幾条もの光がレオナルドを狙う。

 爆音が起きる。光は恐らく少年の体を貫いた筈だ。焼き尽くした筈だ。その為に威力を底上げした。

 

 だが少年を守る様に広がる鱗の無い竜の翼が広がっていた。だがそれも直ぐに動かなくなり、今度こそ鱗の無い竜は死んだ。

 レオナルドは生き絶えた竜の体を静かに撫で、唇から言葉を絶えずに紡いで行く。

 

「なんで悪魔の駒は純正の悪魔にもそれが使える様にしてるの?種の復興にも、勢力の増力にも、何も、一切、まるで、まったく、これっぽちも関係ないじゃないか。

 サタナエル言ってたよ?五百年くらい前には転生悪魔がいたって。

 五百年前からこれだったの?それとも改善した上でこれなの?もしかしてお前は作るだけ作って、出て来た問題に向き合わないまま遊んでたの?」

 

 気付けばアジュカは一歩ではあるが、確かに今一人の子供を前に後ろへと引いた。その事実が彼の脳を焦りへと染め上げて行く。

 対する少年の瞳は、憤怒一色のみであり、それ以外は存在しない。

 

「どうあってもお前は『創る者』の中じゃ最低だよ」

「…言いたい事はそれだけかな?」

 

 蝿の王(ベルゼブブ)を偽る驢馬(アスタロト)は微かに震えながら漸くその口を開いた。その顔をレオナルドはもう己の視界にすら入れなかった。

 アジュカの手の中で小型の魔法陣が起動する。少年の小さな体躯は言葉通りに吹き飛ばしにかかる。

 

「知った様な口は聞いてもらいたく無いな。王の駒ならまだしも、悪魔の駒そのもので出た問題は確認されていない。

 他種族を転生悪魔にすることにしても、其処には同意した契約が有る。故に君の言う様な事は起こる事はあり得ない」

 

 爆発が起きる。それも何度も何度もだ。まるで聞きたく無い声を維持でも消しにかかっているかの様に執拗にだ。

 やがて緑の髪を持つ魔王は静かに告げる。

 

「君は多くに目を向けなかった。それが敗因だ」

「それってもしかして自己紹介?」

「なっ、───⁉︎」

 

 だがしかし少年の声は健在である。

 ありえない、とアジュカは呻く。

 少年の身により、たった一人の騎士が、たった一枚の鋼の盾を以って、ただ一人の少年を守り抜いて見せた。

 

 狼の意匠を持つ兜と、翻される御空色の外套。大剣を背負う様に構える騎士。その騎士の名は『深淵歩き(アルトリウス)』。

 レオナルドが『禁手』によりこの世に投影した、物語という空想の部隊の中にのみ存在する英雄。

 

「…また産み出したか。それが君の切り札かな?」

「そうだね。これが僕の精一杯だ」

 

 忌々しそうに語る魔王。

 悠然と佇む少年と騎士。

 騎士と魔王、双方に構えを取る。

 それはさながら童話の一ページの様に。

 

「…言っとくけどさ、悪魔の駒で泣いている人がいるのは本当なんだよ。その中には僕より小さな子だっていたんだ。でも君は『問題は確認されてない』って言った」

 

 狼騎士は大盾を俯く少年の側に突き立てる。それ一枚の強固な結界となり、これより先、レオナルドは傷つく事が許されない。

 少年は思わず不服そうな顔で騎士を見るが、『深淵歩き』は振り返る事も無く大剣の切っ先を悪魔へ向ける。

 

「じゃあ皆が今まで見て来た人達の涙は何だったんだ!皆が今まで浴びせられた『なんで早く助けてくれなかった』って言葉は何だったんだ!何も起きてない訳無いだろうが!」

 

 叫びに呼応し、騎士の手から放たれる五つの斬撃が悪魔の首を斬り飛ばさんとほぼ同時に走る。だが相手は魔王以前に『超越者』だ。

 簡単に首を取られたりなどしない。

 

 一度の後退と共に広がる数式。空に刻まれた数式の中踊る事を強制される斬撃は射手の元へ返される。だがそれが何だというのだろう?

 まるでそう言うかの様に『深淵歩き』は、その斬撃全てをただの一閃で捩じ伏せると同時、跳躍し、空にて回る。

 

 人はその姿を獲物を狩る大狼と見紛うだろう。だが狼とは違い、騎士が振るうのは黒鉄色の大剣だ。

 回転と自由落下を加えた剣技が空より落とされる。その刃を回避する事は不可能であり、回避も数式も間に合わない。

 

 くるくる、くるくると。

  血で円を描きながら腕が空で回る。

   ああ、燃える様に肩口が熱い。

 

 右腕を失った魔王は肩口を抑え、傷を正しく認識する。こみ上げる激痛。留めなく流れて行く大量の血。

 思わず膝をついた時と同時に、歯を堅く食い縛る。それは自らの腕を切り飛ばした騎士を視界から外さないままに。

 

「っ…!油断した…っか⁉︎ぁ”、ぁ”あ”⁉︎」

 

 だが『何か』が彼の肉体のみならず、精神を蝕み始める。痛みだけでは無い、頭の中で喚き散らす声が有る。魂が穢されて行く。

 狂気の中に引きずり込まれる感覚と、身体を内側から崩されていく感覚が同時に襲いかかる。

 

「誰っ…だぁ!なん”、っな”んだこの、声は⁉︎」

「…『呪い』だよ、アジュカ・アスタロト」

 

 呼応する様に『深淵歩き』の持つ大剣が脈打つ。少年は複雑そうな、されど悲観の色を微かに混ぜて笑い、そのまま平坦な声で静かに告げる。

 

「この世に残った怨恨なんだよ。悪魔の駒のおかげで苦しんだ人は、そのまま死んで幽冥へ逝った。けど、その慟哭は消える事なく世界に根付いて残った。それが呪いなんだ」

 

 レオナルドはアジュカを忌み嫌う。彼が産んだ物、『悪魔の駒』が許せなかった。それが『生み出す者』としての矜持から来る物か、それとも関わり合ってきた人々との繋がりで獲得した良心から来る物か。それは彼にしか分からない。

 そしてその念が『怨嗟』を呼び寄せる。少年はその怨嗟の正体を直感的に理解していた。これもまた、三大勢力の被害者なのだと。

 

 誰が言っただろうか。

 ───少女の声色は『殺してやる』と。

 

 誰が言っただろうか。

 ───男の叫びは『苦しめてやる』と。

 

 誰が言っただろうか。

 ───少年の泣き声は『死んじまえ』と。

 

 誰が言っただろうか。

 ───女の咆哮は『許さない』と。

 

 その想いを背負った騎士がいた。ただの投影物でありながらもその存在は無念を晴らそうと、己の大剣で怨嗟を背負う。

 その騎士こそ、『深淵歩き』。その大剣こそ彼の振るう物。当時の少年はそれこそ驚いたまま動けないでいたものだ。

 

「立てよ、まだ終わってない」

 

 そして今、少年は己の小さな拳を握り締めて、『深淵歩き』の突き立てた安全領域の外へ駆け出した。

 せめてその顔面に一撃を叩き込んでやりたい。傍観する己に腹が立つ。その想いを胸に秘め。

 

「払って貰うぞアジュカ。お前が奪った人間の幸せの代償を、今ここで一つ残らず払って貰う」

 

 ただ一直線に駆け出した。

 

 

 

 

 

 





Q.このレオナルドは神殺し作れる?
A.現状では命に支障をきたしますね。
Q.そのうち薪の王作りそう
A.なぜアグレアスが全壊したと思う?

次回は下です。…短めかなぁ?

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