黙示録の時は今来たれり   作:「書庫」

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閑話.2王の背中を眺める者

 これは、ある王様が復讐鬼に堕ちるまでの話。

 

 とある王様の一人の妻がいた。

 彼女は夫とは正反対に、人間を愛していた。

 その為の富であり、商いだった。

 そんな彼女の名は■■■。

 書において、『シバの女王』と記された。

 

 やがて王と女王は出会い結ばれる。

 最初は国交の為だった。その筈だった。

 王にとってはこれまでと変わらぬ凡百の駒の内の一つにしか過ぎなかった。その筈だったのだ。

 いつの日か、───彼は女王を目で追っていた。

 

 やがての話、王に初めて愛した人が出来る。

 結ばれた者同士、互いが好むものを愛した。

 シバの女王はソロモン王の愛した『(シクラメン)』を。

 ソロモン王はシバの女王の愛した『人間』を。

 

 そして王は次第に人『らしさ』を取り戻す。

 だがそれは、『神』の望む在り方では無かった。

 計画の要は人『でなし』でなければならない。

 つまりは『操り人形』でないといけないのだ。

 神聖四文字は、笑って決行した。

 

 ───お前はおかしくなってしまったんだよ、ソロモン。でも大丈夫だ、私がお前を元に戻してやろう。その蛇足をお前から切り落としてやろう───

 

 たった一夜の悲劇。捻じ曲げられた運命。

 たった一夜の足掻き。変えられない終幕。

 王の腕の中には、死に向かう女の体が有るばかり。

 それと触れ合う最期すらも彼は奪われた。

 嗚呼、女王をその腕に去るのは、

 名前すら残らない悪魔と堕天使だった。

 

 ではここに三千年を超える叛逆を。

 

 三千年前では駄目だった。三千年前では失敗した。三千年前では届かなかった。三千年前では不可能だった。三千年前では神と悪魔の共倒れを仕込むのが限界だった。三千年前では獣に知性を与えるのが限界だった。三千年前では遺体を取り戻す事が打ち止めだった。

 

 ならば待とう。お前達を。

 シバの女王が信じた人間(おまえたち)を、(わたし)は信じよう。

 

 人間よ、なぜ悲しむ。

 人間よ、なぜ諦める。

 人間よ、なぜ絶望する。

 人間よ、なぜ己を捨てる。

 

 その手につかんだ、進化を見よ。

 お前達が持つその(よすが)を。

 

 かつて見た景色。

 ささやかな平穏。

 あたたかな希望。

 なごやかな幸福。

 

 それらを踏み躙られたが故にこそ。

 一人の人間(おうさま)は男として立つ。

 

 

 ……これは、私が愛した人の一生。

 未だ以って救われない愛しい人の物語。

 どうかその肩の荷を、下ろしてくださいな。

 もう貴方は『王様』に囚われ無くていいんです。

 だってもう、人間(みなさん)は導かれずとも、

 迷ったりしませんよ。

 

 だから、ね?

 




名前:■■■(シバの女王)
解説:王を心から愛し、王に心から愛された唯一の人間。王が『機関』では無く『個人』となる事を望む。その最後は非業と言うほか無いが、彼女にとっては「愛した人に救われて死ぬ」という恵まれた終わり方だった。
イメージ曲:
・『CASTLE IMITATION』

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