黙示録の時は今来たれり   作:「書庫」

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シャキサクと打ったら何故か変換でYHVHが出たので初投稿です。いやホントにどして…?






戦火の灯火

 聖書の神の復活か、それとも赤龍帝の覚醒か。どちらが原因か、それともこの二つが原因なのか、何方にせよ『大いなる都の徒』やソロモン一派が押され始めていることには変わらなかった。

 

 冥界にて右足が使い物にならなくなった大男、ヘラクレスは静かに意識を整える。右腕に装着されたパイルバンカーを構えながら、眼前の魔王であるセラフォルー・レヴィアタンを見据える。

 スルトと行動を別にした後の彼はそれなりの優勢を保ってはいたが、徐々にでは無く()()()押され始めた。

 

「…どんなカラクリだ? 魔法による底上げか、俺が舐められていただけか…」

 

 後者はともかく、前者は無いとヘラクレスは思考の中で否定する。これまでの戦いの中でそんな素振りは欠片もなかったからだ。

 四方八方から迫る氷塊を視認する。地を殴り神器を発動させ粗方の氷塊を砕くが、防ぎきれない。今度負傷したのは右足だった。

 

「…痛ッ…ハッハァー…、こりゃ不味いな」

 

 それでも笑う。みっともなく取り乱してなどやるものか。化物相手に無様を晒すなら死んだほうがマシだ。そこだけは曲げてやらない。でなければ、己の憧れと原典に、あのヘラクレスに失礼だろう。

 貫かれた足で立つ。血が噴水の様に。嫌な音も聞こえる。

 

「……まだ、立てるのね…」

 

 その様相と、纏う決意。太古の怪物は恐怖した。実力も場数も、もちろん彼女の、セラフォルーの方が上手だ。だがそれでも、眼前の大男こには恐怖以外の感情が浮かばなかった。

 真新しい袈裟斬りの痕。貫かれた足と肩。血の滲む双眸。口の端から顎にまで刻まれた血のライン。戦さ場を好み、血と屍匂いに酔う戦鬼の様に笑い、一歩ずつ着実に魔王に戦士は躙り寄る。

 

「終われねぇんだよ…この筋は、誇りだけは曲げちゃいけねぇんだ…。そうじゃなきゃぁ…俺はただのデカイだけの木偶だ」

 

 神に召し上げられた半神半人のギリシャ大英雄『ヘラクレス』の魂を、更に細かく言ってしまえば、かの大英雄の人間としての、『アルケイデス』としての魂を受け継いだ男。それが彼だ。

 だからこそ持ち直した誇り、だからこそ取り戻した憧れ。故に彼は人外の存在を相手取った時だけは、その膝を折ることを自分で許さない。死ぬというのならば、立ったまま死んでやる。

 

 それが彼の気概と決意だ。

 

 そして、そしてだ。すぅ、と風が吸い込まれた音がした。ヘラクレスの肺は大きく凹み、少しの沈黙を置いて、それは始まった。

 身構えるセラフォルー。だがそれは杞憂である。

 

「───ぉぉぉォォォオオオオオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああァァァァアアアアアアアアア!!!!」

 

 咆哮をあげる。その叫びは冥界に戦ぐ全ての戦士達に吹き荒れる勇気の風に他ならない。目を覚ました少年は騎士を率い、一命を掴んだ龍殺しは再び龍と相見え、天馬を駆る英傑と同名の男は笑う。

 誰が言ったか、その咆哮の名を『戦士の鼓舞(ベラトール・レス)』。ただの雄叫びに過ぎぬ。だが、その声は告げた。

 

 ───俺はまだ戦える、戦っている。

 

 憑き物が落ちた様に笑う。左腕に備え付けられた重厚な金属の大刃を取り外し、あろう事かその手に握り締める。持ち手が無ければ作ればいいと、その身に纏うボロボロの衣服を破り、刃に巻く。

 無骨どころか、稚拙で杜撰な武器を手に、男は笑う。

 

「さぁ!来いよ怪物!俺はまだ戦える!俺はまだ立てる!脚がどうした肩がどうした⁉︎俺の身体は、魂は、俺しか止められねぇんだよ!」

「それでも、止まってもらうわ。私だって倒れる訳にはいかないの。皆の、多くの悪魔達の未来の為に、私は負けられない!」

「ハッハァー! 望外だ!悪くないぜお前はぁ!!!」

 

 暴力と暴力が衝突する。悪魔の氷を人間の熱が砕く。英雄と悪魔の決戦の一つは、未だ終わりが見えることがない。

 

 

 

 ■

 

 

 

 ギャスパー・ヴラディという、一人の少年を前に、サイラオーグ・バアルという一人の強者が倒れ伏した。

 それと同時に少年はその膝をつく。痛みどころではない。右目から全身を這い回る不快感と狂気の渦に飲まれない事に必死だった。

 

 バロールの魔眼。見たものを平等に例外なく殺す武器。それバロールが後天的に獲得したもの。

 ギャスパーはそんな途方も無い力を欲した。ただ一人の少女の為に、そしてケジメの為に。

 

 彼は力を発した。求め続けて、追いかけて漸く得たのが、バロールの持っていた嘗ての力のほんの小さな一欠片。

 見たものを殺す力では無く、見たものの生命を削る魔眼。だがそれは人間に近い吸血鬼には重荷でしかない、諸刃が過ぎた剣。

 

「ッ…ぁ、あ…は、ぁ…ッぃ…!」

 

 右の瞳が熱い。生命の持つ熱量を殺した報いを、その小さな身に受ける。今は己の裏切りにケジメをつける為に。これからは、己の恩人を守る為に。

 

 熱に歪む視界で、人の形を捨てた男を見た。

 

 一枚絵に描かれた魔王や竜の如く禍々しき一対の角は、痛々しい程に誇らしく、その背に生えた翼は化物の証明でしか無く、うねる尾は最早その体と一体と化した事を教えてくれる。

 その爪を振り下ろす。人間の戦い方ですらない。白髪の男は笑って、その手に持ち直した魔剣を振り降ろしても、もうその肌には刃すら通らない。

 

「…何が、違ければよかったんだろう……」

 

 どうしてこうなった、その一心がある。

 堕天使に殺されていなければ? 赤龍帝の籠手を持っていなければ? 駒王街を管理するのがリアス・グレモリーでなければ? そもそ駒王街に住んでいなければ良かったのか?

 …分からない。何故こうなるのだろう?

 ただ一人の人間だった筈だ。その人格や行いがどうであろうと、元は父母から生まれた子供だった筈なのだ。それが今やどうだ。

 

「…ただの化物じゃないか……」

 

 破壊しか知らぬ怪物と成り果てた。怒りを胸に命を貪るのでは無く、その爪と放つ極光で焼き尽くし蹂躙する悪魔。どこまでも哀れな存在を述べよと出題されれば、ギャスパーは躊躇わず兵藤一誠の名を出すだろう。彼にもその確信がある。

 相対する聖と魔の刃が共に踊り、互いを補い互いを活かし、怪物を討たんと振るわれていく。何度も何度も殺しあう。何処まで行っても、悪魔が救われない戦いだった。

 

 目を逸らした少年の目に入ったのは、血の氷に傷を塞がれた王。己へ残酷に真実を告げた、己に恩人を助ける術をくれた王様。

 彼を庇いながら時を稼ぐのは赤い竜の羽を広げる、何処か見覚えのある男だった。

 

 ソロモンの元へと駆け寄る。己の名を呼ぶ高い声も、今は雑音と変わらなかった。

 少年は死に瀕した、否、死んでなければおかしい筈の男を間近で見て、その息を飲んだ。呼吸は薄い、その魂は止まりかけていて、その中に潜む生命の灯火は少しでも揺らせば消えてしまいそうだった。

 

ギャスパー⁉︎

 

 かつての主人の声も気に留めずに少年は王を見据える。

 氷柱が降り注ぐ音がする。氷の壁が少年と王を庇うように立っており、サタナエルはギャスパーとソロモンを残し戦火へ向かう。

 冷たい風が穏やかに漂う仮初めの安息地の中でも、その男は目を閉じたまま、その鼓動をゆっくりと零にしつつあった。

 

「……やりたいことが、あったんじゃないんですか…?」

 

 ぎり、と脆く小さな拳が握り締められる。

 そこにある感情は、とてもちっぽけで。だけど、だけど、そうだとしても、込められている思いは、誰にも分からない。

 

 そして、ギャスパーはソロモンの()()()()()()()()()()()()()()()()()。これが責められるべき行為であろうとも、少年はこうする事しか、出来ない。

 

「…僕は貴方の全部を知っている訳じゃない…でも、それでも…此処までやった理由が、此処まで進めた理由が!貴方みたいな人には絶対ある筈なんだ! だって貴方はヴラディを助ける為に力を貸してくれたじゃないか、その身を張ってくれたじゃないか!お腹に穴が開いてもっ…死にかけてもッ…!」

 

 何を言っているのか、少年自身も理解できていない。ただ感情の猛りのまま、その言葉が声となって出て行く。

 

「そんな人が孤独な筈ない、自覚が無いとしても、貴方の背中にいっぱいの人がいる筈なんだ! 貴方の帰りを待つ人がいるんじゃないんですか⁉︎ 貴方を待ち望んでいる誰かがいるんじゃないんですか⁉︎

 貴方に決意を抱かせた人がいたんじゃないんですか⁉︎ 貴方と約束した人がいるんじゃないんですか⁉︎」

 

 非道だろうが、常識知らずの行為だろうが、そんな風に責め立てられても、少年は否定も自己擁護もしないし、寧ろ頭を下げて何度も謝罪をするだろう。自覚はしている。それでも今彼は、己に歯止めをかけられないままでいる。

 ……彼はこの舞台でのヒーローではない。だからこそ、誰かを救う事なんか出来ない。彼が救えるのは、ただ一人の少女だけ。

 

「その人はこんな終わり方で笑うんですか⁉︎ 希望を胸に明日を生きていけるんですか、納得して安らかに眠りにつけるんですか!笑顔のまま見守ってくれるんですか、そんな訳ない!」

 

 だから、その声しか手段は無い。どんなに偉そうだとしても、愚かだとしてもだ。

 

「だから……!立ってよ……!」

 

 彼には、人を癒す力なんてないから。

 彼は、人を殺す力しかないから。

 彼は、人を守る力しかないから。

 

「立ってよ、…!『英雄(ヒーロー)』!」

 

 みっともなくても、情けなくとも、立って欲しいと願う。あまりにも酷いワガママで、あまりにも身勝手な願いだろうとも。

 それでも、願わずにはいらない。こんな終わり方など認めない。こんな所で終わらせない。その叫びが、戦場の中で場違いな程に響き渡る。

 

「立てぇぇぇェェェェエエエエエエエええええええええええええええええええええええええええええええエエエエエええええええええええエエエエエエええええええええエエエええええええええええええええええええ!!!!」

 

 その声が、誰を呼んだ?その声()、彼を呼んだ。





人名:ヘラクレス
・関係ないけどガチタン乗りそう。そんな彼は変態武器を両手に引っさげて大暴れ。セラフォルーと交戦の結果重傷を負うも戦闘続行中。右腕の兵装だったブレードを自分で壊し大剣に変えて突撃。左腕のパイルバンカーは残り二発。多分そろそろカイガンしてる。
イメージ曲:βiOS

人名:ギャスパー
・バロールの断片とBe The Oneして来た。サイラオーグを命削りの魔眼で神器共々退場させるという金星を挙げる。ただ相当な無茶をしたおかげで身体が現在進行形で危険状態だが後見人がダーナ神族だから無事に帰れれば何とかなると思う。書いてて凄い叫ぶ子になっちゃった。
イメージ曲:戦火の灯火

Q.サタナエルはなんでリアス達を倒さないの?
A.下手な事して赤龍帝が強くなるのを防いでるのよ。





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