知性を持った巨大な力ほど怖いものはない。
“また、わたしが見ていると、小羊が七つの封印の一つを開いた。すると、四つの生き物の一つが、雷のような声で「出て来い」と言うのを、わたしは聞いた。そして見ていると、見よ、白い馬が現れ、乗っている者は、弓を持っていた。彼は冠を与えられ、勝利の上に更に勝利を得ようと出て行った。”
■ ■
白い亀裂が、空に走る。
ガラスの砕けた音だけがした。
穴だ、巨大な黒い穴が開いている。
手だ、まるで少年のような細腕が飛び出した。
「……やっぱ一気に七までは行けないか…弾かれちゃった…」
子供じみた声色に吐かれた感想とともに、陶磁器のように滑らかで、柔く白い素足が天の地へと踏みだされる。一枚の絵にすらなりそうな、その光景。然し、後に続く異形の姿には誰もが驚愕を隠せないであろう。
白く輝く肉の体。
天に刃向かう十の角。
背から溢るる六枚の異種の翼。
竜、蝙蝠、孔雀、蝿、鷹、不死鳥。
…ある書物に曰く、七つの大罪にはそれに比肩する悪魔と動物がいるとされている。
第1の大罪、傲慢。
対応する動物は
第2の大罪、憤怒。
対応する動物は
第3の大罪、嫉妬。
対応する動物は人魚、蛇、犬、土竜。
第4の大罪、怠惰。
対応する動物は不死鳥、熊、牛、
第5の大罪、強欲。
対応する動物は
第6の大罪、暴食。
対応する動物はケルベロス、豚、虎、蝿。
第7の大罪、色欲。
対応する動物はサキュバス、山羊、蠍、兎。
この少年、『
まさに冒涜の化身に相応しい姿という訳だ。
彼が降り立った地は天界の第六天「ゼブル」。
ミカエルを始めとする熾天使が座す天界の中枢。
黙示録の獣は手始めに、それを、
「………邪魔だな」
手に燃ゆる盛大な篝火で焼き払わんとしていた。
この焔の名は、かつて獣の友であった太古の神。
エジプトの最高神、『
かつては聖書に比類する影響を持ってしまったが故に、『アモン』という72悪魔の内一つに落とされた者。
中々に人間らしいというか、余程の恨みがある故だろう。
しかし、天使たちはそれを許すはずもない。
4の光が神殿より前に。残りの2光は後方へ飛び出した。
四人の内一人が一歩少年に向けて歩み出す。
それと同時に、他の三名がそれぞれの武具を手に構えをとった。当然、この事態を前にして警戒心は過去類を見ないほどに高い。
少年に歩み寄った天使は口を開く。
「……何者ですか?」
少年の返答は簡素だ。
まぁ、それ故に絶望的であるのだが。
「トライヘキサ、君の父はそう呼んでいた」
ひゅ、とガブリエルの喉から笛が鳴る。
冗談だろう、冗談であってくれ。幾ら何でもそれは無いだろう。そんな顔色が天使全員の中に広がっていく。
然しこれは事実であり、聖書に記された中でもとびきり最悪の伝説が彼等の眼前に君臨している。
「…にわかには信じがたいものですね」
「だろうね、
ズグンッッッ!と。神々しさを感じさせる程の良質な高音が少年の胸に激痛が突き刺さる。
驚愕の顔色を浮かべたのは
そう、天使でさえも驚きに顔の色を変えた。
少年の胸元には、光り輝く水晶が生えていたのだ。そしてそこを起点として幾条もの鎖が走り、翼や手足を封じにかかる。
「なぜ、神の力が…⁉︎」
その呟きは天使の一人から。
怨に顔を歪める少年は天を見る。
そして吠えた、
咆哮。何処までも悲痛な声。慟哭と遜色のない声だ。
「またか…ッ!またお前なのか!
お前はいつまでその座にしがみつく⁉︎貴様の時代は終わりを告げたと分かる筈だ!貴様の見たいものはもう見る事は叶わないと理解した筈! 目をそらすな!目を閉じるな!人の世を見ろ!神に縋る人類など握られた程の数しかいない。
その慟哭と悲鳴と咆哮に誰もが一度は躊躇する。しかしというか、やはりというべきか、それもほんの瞬きの間だけ。
雨季に降り注ぐ自然に恵みをもたらす甘露の如く光の槍が降る。鎖と水晶の杭に身を封じられている少年に当然、避けるすべはない。
腹部、翼、喉、腕、足。
血が湯水の如くに吹き出し、赤く糸の様に細い血管や白く小さく硬く木の枝と身構える骨、柔らかでぷるりとした内臓すら飛び出した。
勢いに逆らう事は無く、小さな体躯は地に倒れ伏す。
「ぁ……」
その体躯の背からバキン、と重たいガラスが砕けるかの様な音が天界の空に響く。白い亀裂の奥に黒く溟い穴が開いていた。
お前の主張など知った事ではないと言う様に、少年は天から落とされた。その行方など誰にも知らず、少年は落ちていく。
少年の体は、何処までも何処までも落ちていく。
■ ■
…あの獣
汝らは未だ揺り籠から人の解放を望むか。
ならば私は滅びを置こう。
私の始まりとお前達の始まりに。
私の末とお前達の末に。
それで終わりだ。
私も、お前達も用済みだ。
■ ■
本来、トライヘキサには例えその身が微塵に細切れになろうとかけらでも残っていれば元の形に戻るという驚異的なまでの再生能力がある。
だがその治癒能力は封じられていた。
聖書の神の封印よって。
彼は黙示録の獣を封ずる際一つの懸念を抱いた。
獣が息を返した時、対応出来うる存在はいるのか?
彼の予想は否、それは正しかった。
故に、封印の中に封印を重ねた。
もし仮に、私が死した後にこの獣が目を覚ましたのならば、その身の癒しと心の臓を穿ち四肢と翼を封ずる。
死に瀕したのならば、獣を天より落とす。
何処に堕ちるかは分からない。
だが死にかけの獣だ、気にするものではないだろう。
残酷なまでに清々しい青空に白い亀裂が走る。
黒く、溟い穴が開いていた。
トサ、と血を滝の様に撒き散らしながら無残な傷だらけの体躯は柔らかな地に堕ちる。
それを、狐の耳と尾を持つ少女は見ていた。
その背後に控える従者も、同じく見てしまった。
蒼白の面、咄嗟に抑えられた口元。
それでも倒れはしなかった。
少女は震える手で従者に促す。
「…助けよ、この者を。
確かに京の者ではない。
だが見捨てるわけにもいかぬ…」
その無残な身は運ばれていく。
少年の心臓は確かに動いていた。
喉から笛がなる。
息もしていた。
その事実に、皆戦慄した。
■ ■
「…この気配…あの仔獣が目覚めたか」
「如何にする?姉上。…討つか?」
「焦るな『須佐男』。…先ずは観察だな。ああ、それと…八咫烏、ハーデスの側近とオーディンの側女を呼べ。『ネロの瞼が開いた』この伝言も忘れずにな」
用意周到型のかみさま。
そして早々オリキャラ謝罪。
でもぶっちゃけ日本神話かなり切れてると思うの。
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