黙示録の時は今来たれり   作:「書庫」

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Q.最近更新早いのはなぜ?
A.そろそろ予定が立て込みそうだからです。
ほら、書けるうちに書いときたいのよね。




或いは、『最強』という称号

 

 結界の中、二人の男はせめぎ合う。一人は純然たる人間ではあるが、その背と右腕に持つ兵装は異質というに相応しい。

 だがその人間に相対する悪魔、否。悪魔と言っていいのかわからないその存在の姿もまた異質の限りを極めていた。

 

 四大魔王が一人、サーゼクス・グレモリー。

 『超越者』の一人であり、最強の魔王。

 ついた異名こそ『紅髪の魔王』である。

 そしてその真の姿は、()()()()()()()()()()()()()()()であり、もはや生物という概念に当てはまるものかも怪しい。

 

 左手に聖槍を持ち直しつつ、歪かつ特異かつ異形の兵装を身につけた男は、力の塊をどこか憐れむ様に眺めながら駆ける。

 何度も青白い光と紅色の光が穿ちあい、あろう事か、ただの人間である男、曹操は魔王の脇腹に聖槍の一撃を叩き込んだ。

 

「がっぁ⁉︎」

「……なるほど、やはり強いエネルギーもしくは、聖の性質の持つ武器ならばダメージは見込めると考えて良さそうだな」

 

 咄嗟に後退しながらその手に握る神滅具『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』を腰に収め、入れ替える様に右腕と背に装着した規格外兵装『ヒュージ・ブレード』を再度低出力で起動させる。

 右腕の機械で組まれた円筒から微弱な蒼白色な光が漏れ、閉じていた背部の流線型の装甲が展開され、数多の噴出口からも青ざめた白い光が静かに現れる。

 

「…私には、わからない」

「……?」

 

 その声は、他ならぬ眼前の魔王からだった。

 

「…私達は、悪魔はただ、生きているだけだ。だというのに君は悪魔を、外敵を排他すると、お前達の幸福などどうでもいいと言った。何故だ? 命を、誰かの幸せを、何だと思っている?」

 

 数秒の沈黙の後『どの口が』とあからさまな嘲笑と侮蔑、それに加えて微かな怒りがあった。

 お前がそれを語るなとでも言わんばかりに曹操の面持ちは冷たく、それでいて尖りきっており、その瞳には呆れと諦観に染まりきっている。

 

「… お前達のおかげで、何人もの『誰か』が本来ならばなかったはずの不幸に苦しめられていた。世界を侵し、命を弄ぶ悪魔の駒によってな。その時点で、お前達はその言葉を吐く資格は無いだろうさ」

 

 糾弾ではない。弾劾でもなく、恐らくは告発が最も近いだろう。それを背景に、力の塊と力の塊同士が再度衝突する。人間からしたら一つでも読み違えれば致命傷になり得る一撃の雨あられだ。

 

 それでも曹操という男は、全てを最小限の足運びと身の逸らしのみで避ける。それを可能にしているのは異常に発達した、というよりは無理矢理にでも発達させた動体視力と反射神経にある。

 

「そもそも、だ。何故お前達三大勢力はわざわざ人界に出て来る? お前達にはお前達の世界があるだろう。競う相手も家族もいるだろう。なのに何故だ? 何故俺達人間の世界に干渉し続ける?」

 

 優秀な転生悪魔の元が欲しいから? 貴重な神器は能力を持った人が欲しいから? 容姿端麗な人間が欲しいから? それとも、ただ己の欲望のはけ口が欲しかったのか?

 その問いに対して悪魔ですらない化物は、ただ平然と、それ以外ないという調子で何も知らずにその言葉を吐いた。悪びれもなければ、寧ろいっそ清々しくなる程に、傲慢にも誇るかの様に。

 

「私達が動くのは、世界のバランスのために他ならない。均衡は保たれなければならない。それを乱すものは君達人間の為にも、許しては、放置していくわけにはいかないだろう?」

 

 曹操は、この場にいる唯一の人間は諦めに近い感情に浸る中で悟る。この魔王は、本気で言っているのだ。どうしようもないことに。

 世界の管理者を気取る異形の者。それがどんなに醜く、憐れで、滑稽であることか。現状も相まってそれは、なおさら顕著だ。

 だから曹操は単純にその槍を、言葉の槍を吐く。これ至れば最早ただの罵倒だが、それでも間違いでもないその言葉を。

 

「…脳みそまでカビたか。

 それでよく生きられたものだ…」

 

 左手、利き腕でないにもかかわらずに器用に聖槍を弄ぶ様にその手の平の上で回す。その回転の速度は風を切る程度にとどまっている。

 その言葉を間違いなく耳に入れた人型の滅びのオーラは、恐らくは怪訝な顔でもしているのだろう。

 

 だが関係ないといった表情の曹操はその場で口をつぐむ事はなく、そのまま語り続ける。

 

「というか、お前、一体全体何様のつもりで、それに加えて何処視点から物を抜かしてるんだ? その誇大にも程がある勘違いの有様はまるで昔の自分を見ている様で腹が立つよ、本気で」

 

 ザリッ と靴が地を擦る音を立てながら、曹操は姿勢を大きく下げては古風な構えを取る。

 対するサーゼクスもまた、咄嗟に身構えるが遅い。先手を取ったのは人間であり、兵装の重量も物ともせずに俊敏に上へ下へと駆け巡りながら聖槍で確実に悪魔の身を削り、退避を繰り返す。

 

 無数の『滅殺の魔弾』が踊る、だがそれもほんのひと時の間。曹操の背部装甲の噴出口からハリセンボンの様に無数の光の針が飛び出し、一部の漏れなく砕いていく。

 

 魔力を束にして撃ち出そうが人間は『死ねない』という一心の元で回避する。接近戦などまともに取り合わず、常にサーゼクスの体制を狙って崩しにかかり、一度当てれば距離を取るを繰り返す。

 

 堅実というべきか、それとも姑息というべきか。何れにせよこの場において人間が優勢なことには変わりがなかった。だが、あくまで優勢であるだけであり、勝敗には長い時を得ても尚辿り着かない。

 

 滅びの力によるストレートを紙一重で避けるが、溜まった疲労が表にで始めたのか、曹操の毛先の一部が消滅する。それを自覚し、彼は頬から一筋の冷や汗を垂らす。

 

 それでも彼は勝利するまで魔王の攻撃を全て避けるか、相殺しなければならない。それが出来なかった時、滅びの魔力の特性上、彼は治療すら受けられずに死ぬ。

 

 ゲームで例えるならば”回復アイテム縛りで最強ボスに最上級難易度の上で挑んでいる,,という側から見たら一種の変態とも言える事を彼はしているのだ。

 だが勝たねばならぬ。否、『勝ちたい』という欲望のみで彼は槍と規格外の兵装を振るい続ける。

 

「やはり、簡単に終わらないか」

「私は冥界の為にも、此処にいる。そう簡単に討ち取られるわけにはいかないんだ」

 

 聖槍と拳が交差するが、双方無傷。互いに一度離れては再び距離を詰めては拳と槍を交えては離れてを、何度も何度も繰り返す。

 槍を回し振るい、刃の円環を形成しながら背部装甲の噴出口から加速し、一気に距離を詰める。穿いたのは肩。されど決まり手へとはならない。

 

 やはり距離を取らねばならない。追撃に向かう滅びの魔弾を残さず相殺を交えてから砕きながら再び槍を構え直す。

 

「…なら何故冥界に向かわない? 俺達の仲間が襲撃に出向くことぐらい理解できているだろうし、そこまで馬鹿でもないだろう」

「…今の冥界には、アジュカが、ファルビウムがいる。そして私の眷属達も、多くの優秀な悪魔達がいる。以前の様にうまくいくと思わないことだ!」

 

 並々ならぬ気迫。だが人間は気圧されたりはしない。双方に構えを取り直し、互いに狙いを定め、同時に恐らくは最後の一撃を繰り出した。

 そして一人は『一手』だけを、読み間違える。

 

 赤色の力に飲み込まれ、消え去り滅び行くのは人間の右足である。二本の足のうち一つ、己の体のバランスを保つ柱を一つ失った。

 がくん、と体が重心ごと落ちる。その隙をサーゼクスは見逃さず筈もなく、すかさず追撃に移る。滅びの魔力の塊が到来する。

 

 此処に、決着はつく。

 

 兵装が唸る。駆動の音は一瞬。凄絶に笑うは人間であり、片足のない激痛などなかったかの様に左足で身を起こし、右腕を構える。

 負ける気などしない。自らの欲望に従い、曹操という個人は此処にいる。それが綺麗なものでも醜悪なものだとしても、彼は折れない。

 

「ああ、そうだな…楽に達成できる目標(ねがい)があってまるか! そんなものがあれば! 今日まで積み重ねた俺の、人間の培ってきた時間の全てが無駄になるからなぁ!!!」

 

 叫びと共に右腕を一心に振るう。そしてその叫びに呼応し、右腕の砲塔よりその強大にして異常にもほどがある射程の長さを誇るその炎刃は結界を突き破りながら顕現する───!

 

 結界を裂くという通常ならありえない現象を、言ってしまえば奇跡というガワを被った異常事態を起こしながら、その刃は迫る滅びの魔力を相殺し魔王に牙を剥く。

 

「悪いな、サーゼクス…! 今の俺は、負ける気がしない!」

 

 その言葉と共に人間の勝利が決まる。

 空にすら届いたその一閃は、魔王の体を真横一直線に切り裂いた。

 奇しくも、人類の文明の象徴である『火』によって作られた刃を前に最強の魔王は敗れたのだ。

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 出雲本殿の内にて、先に戦いを終えていたのか、ゲオルグとジャンヌは疲労困憊にして満身創痍の身をそのまま床に倒している。

 息は上がりきっており、二人して仰向けのまま先ほど上がった火の一閃により出雲本殿に見事に大きく開いた穴を眺めていた。

 

「…あーあ、折角の大社が……」

「……申し訳、ない」

 

 乱れた呼吸を伴い謝罪をするゲオルグ。彼の隣には気絶しているのか、両腕を失った男が、アザゼルが拘束されて転がっている。

 横たわりながら眠たそうに瞼を何度か閉じかけるジャンヌもこの例に漏れず、近くに聖剣で突き刺され固定された形のミカエルがいる。

 そんな二人を慈しむ様な瞳で眺めつつ、己の肩を枕に眠る妻の髪を撫でて伊邪那岐が苦く笑う。

 

「いや、いいよ、どっちにしろそろそろ直さなきゃいけなかったんだし。あは、あははは…ここまで来ちゃったかぁ、不味いなぁ…」

 

 『テンゴヌカミ呼ばなきゃかな』などと小さく呟いた時と同じだっただろうか、彼の帰還にいち早く気づいたのはゲオルグだった。

 最後の結界が消え、ぼろぼろになった服を纏った男が、聖槍を杖代わりに静かに姿を現す。

 

 がしゃん! と背に背負っていた装甲が外れ床に落ちる。左手に紅色の悪魔の髪を掴みながら引きずって曹操は歩み寄る。それをみたゲオルグは笑って、親指を立てた。

 

「勝ったたか、曹操」

「ああ、なんとかな、死ぬかと思った。

 それと…右足をやられたよ」

 

 どかりと二人の人間の側に座り、空を眺める。少しの休憩だった。そんな彼等をくすむ視界で眺める魔王が唇を動かすが、声には出ていない。だがその内容は予測できたのか、曹操は答える。

 

「…なぜトドメを刺さないのか、か。 …ハーデス神との契約でな、以前の冥界襲撃前に隠れ蓑として冥府に滞在する事を許す代わりに、お前たちの身柄を求められたのさ。だから、殺せない」

 

 ひらひらと手を振りながら気楽な調子だった。そしてその返答が終えた時と同時に、冥府(ハイドゥー)を統べる神が天使、堕天使、悪魔の前に立つ。

 

《まぁ、そういう事だ。先に言っておくが、私だけではなく、今そこで眠りこけている伊邪那美大神は勿論、世界各地の死の神がお前達の、特にアジュカとサーゼクス、貴様らの身柄を欲している。そして()()()()()だな》

 

 冷酷な宣言があった。これから先、彼等がどうなるかは想像しない方がいいだろう。恐らくは、我々の予測の範疇をはるかに超える未来が、彼等には待っている。

 

《当然の報いだ、貴様らは『死』を貶めた》

 

 数柱の死神が三名の人外を拘束し、何処へと消えてゆく。それと同時に冥府の神たるハーデスも去った。心なしか、その背はどこか達成感に包まれてるようにも見えた。

 

 

 

 






今回の曹操の戦いですが、作中の通りフロムで例えればエスト瓶無しでプレイするダークソウル。若しくはアクアビットマンで挑むアルテリア・カーパルス占拠なので、余裕なわけねぇのです、はい。

そんな彼の私の中でのイーメジ曲は『Anything Goes!』及び『Nine -novem-』今回の話をこれを聞きながら書かせていただきました。

次回は戦況まとめ+α、最終回ももうすぐですが、どうかこの様な拙い作品と最後まで付き合ってくれれば幸いです。それでは次回に会いましょう。恐らくは少し日がかかりますがね。ノシ



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