黙示録の時は今来たれり   作:「書庫」

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多分今週最後の投稿です。
次回は最低でも二週間後かなぁ。
しっかりと完結させるので、ご安心を。



戦況報告

 冥界の中、氷と鋼が打ち合う音が山彦のように反響し続ける。その発生源は氷の棘の山に覆われ、変わり果て、原型すらわからなくなってしまった某所の地。

 

 魔王と人間の争いは、長い時の果てにとうとう決着がつく事となり、勝利は血塗れのまま拳を掲げ立ち尽くす人間へと委ねられた。

 

 勝敗を明暗にしたヘラクレス最後の一撃。それは大剣の投擲をフェイクとし、ほんの些細な隙を見せたセラフォルーへ右拳と右腕に装備していたパイルバンカーを神器の発動と共に叩き込んだ。

 この無茶苦茶な合わせ技にパイルバンカーと共に、ヘラクレスの右腕も重傷を負った。だがその代償を払うことにより、彼は魔王を相手に勝利を収めたのだ。

 

「…おー、痛ぇ……」

「……レオナルド、これ治るのか?」

「治るのかじゃなくて、治すんだよ」

 

 その後、彼は冥界に投入された人員の回収を行っていたレオナルド、ジークフリートと合流。

 最後の一名であるペルセウスとも合流を果たすべく、彼等は現在進行形で冥界の空を駆け回っている。足となっているのはやはりレオナルドが生み出した魔獣だ。

 

 優雅に空を飛び回る隻眼の黒飛竜。その背に乗る三人の人間。三人と一匹の下の地上は静寂に包まれる街並みと、血の跡が軒並みに残っており生命は存在しない。

 

 当たり前な話だ。起こったのは『テロ』では無く『戦争』なのだから、このような事態も大して珍しくはない。とは言っても、これはあくまで人間の尺度なのだが。

 

 それはさておき、竜の背中で座る幼い少年は新たに魔獣を生み出す。勿論、戦闘用では無く治癒特化の魔獣だ。完成までの時間は恐ろしく短く、恐らく三秒と掛かっていない。

 ほう、とレオナルドが気の抜いたため息を吐けば()()()()と彼の手元が奇妙な音を立てた。それを耳にしたジークフリートは白目を剥き、巨漢と少年から目をそらす。

 

「はい。これ腕にはめといて安静にな、多分その傷じゃ一日二日はかかると思う」

 

 少年が巨漢に手渡したのは嫌にでかいナマコの様な物。時折ぴくぴくと蠢いている。表面はテラテラと言うより、ヌメッとした光沢と粘液に包まれており、その姿はグロテスクきわまり無い。というか見るだけで気力が削がれる。

 

「…待て、その、…これをか?これを二日?」

 

 受け取ったヘラクレスの手の中で頷くようにでかいナマコがやはり()()()()と跳ねると、ヘラクレスの手にあった小さい傷に粘液が付着する。すると残酷な事に次第に傷が塞がり始めたのだ。

 

「うん、ちなみにジークフリートに使ったのと比べてちっちゃいよ。全身用はそれこそ───」

「やめろォ! 思い出すだろ!あの妙に生暖かいヌメリといい、ぬちゃっとした感触とか!」

「お前なんで俺の前でそれ言うんだよ! 俺これからそんなものを四十八時間体験するんだぞ⁉︎」

「お前は腕だけだからいいじゃん⁉︎俺なんて全身だぞ⁉︎その代わり三十分だけだったがなぁ!」

 

 たちまち騒ぎ出す被害者二名。作成者兼加害者の少年は拉致があかないと察したのか、不意打ちの形でそのでかいナマコの様な物をヘラクレスの手からひったくり───流れる様に右腕にはめた。

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”⁉︎」

「おま…レオナルドお前…、ああ、酷い…」

 

 蠢くビッグサイズナマコが新たに装着された右腕を掲げて、大男は恥も外聞も無く嘆き叫ぶ。その姿は同情を煽るには十分というか、むしろ過剰すぎた。現に、さっきまで口論(?)の相手だった筈のジークフリートがいい例だろう。

 そんな彼等の事など知らねぇぜガハハと言わんばかりに黒竜を乗り回す暴君帝王系男子レオナルド。自由に吹く風はそんな彼の耳にある知らせを入れた。

 

「…ペルセウスの声…?」

 

 きょろり、ぐるりと辺りを見回す。動く人影はどこにもない。しかし耳に入った声が空耳という訳でもなさそうだ。

 どうしたものかと頭を抱えている時、少年の前に火柱が現れたかと思えばその先端には一人の男を小脇に抱えたヘラクレス以上の大男、スルトが立っていた。

 

「ここにいたか、探したぞ」

 

 スルトはぽい、と脇に抱えていた男をレオナルドに投げ渡す。その男はぐっすりと眠りこけていたペルセウスだった。

 

「原型の分からぬ建築物の中に埋もれていた。息はある、というよりも先程まで起きていた。大英雄の残り火と同格な程に頑強な男よ」

 

 満足そうに笑う終末の巨人王。その手にある錆びた大剣はそれに呼応するかの様に溶岩に等しい色と輝きを薄く放つ。

 すうすうと眠りの声を上げるペルセウスを、ジークフリートが比較的水平なところに寝かせたのを見届ければ『黒き者』は言葉を続ける。

 

「冥に巣食う王は絶え、息を持つ蝙蝠は数えるに容易くなった。ここに我等の契約は成立した。故に、ここから先は我々の幕引きであり、本来の役割であり、真にすべき勤めだ」

 

 『黒き者』。本来ならば神々の黄昏、北欧神話の終わりにおいて炎の国ムスペルヘイムより『ムスペルの子ら』と共に出陣し豊穣神フレイを打ち破る者。

 そして多くの神々や巨人族が倒れていく中、最後に地上に炎を放ち全てを焼き尽くすといわれる『終末要素』に他ならない。

 だが最後の役目を果たしこの世から果てる筈の存在は、聖書の神より最後の死に場所を奪われた。故に彼は欲した。新たな己の死に場所を。

 

「老人の戯言だが、一つ聞いておけ。

 …お前達が誰になんと言われようとも───」

 

 少し、体が強張るのを三人の人間は自覚する。

 それを見て、巨人の王は少し笑った様な気もした。

 

「好きな様に生きて、好きな様に死ね。

 『誰の為でも無く』。それを胸において生きろ。

 短い一生だろうが、結局は最後に笑えれば良い」

 

 火柱の上に立ったまま笑う。人間達にはその笑みが頑固な祖父の様にもただの好々爺の様に見えてしまい、瞼をこする。

 それでも目の前にいるのは歴戦の眼光を持つ、強き者だ。そんな彼は人間達に背を向けて、別れの言葉を告げる。

 

「行くがいい。そしてお前達が為した事が何を生むのか、それを見届けるがいい。お前達にはその権利と義務がある」

 

 その言葉を最後に、巨人の王と人類は別れる。彼等の道筋はもう二度とと交わることはないし、交わる必要もないのだ。

 感謝と別れを告げて、一条の黒い羽ばたきは行く。何処に? もちろん彼等が帰るべき場所にして唯一無二の家である人間界だ。

 それを見届けた『黒き者』は静かに地へと降り立ち、その背に無数の『ムスペルの子ら』を率いて、最後の務めを果たす。

 

 生き残る僅かな悪魔は呆然とそれを眺める。それに意を解すこともなく、スルトはただ静かに両手でレーヴァテインの柄を握りしめる。

 それは杖とも、槍とも、矢とも、細枝とも、剣とも言われている一振り。そして狡賢いロプトルによって鍛えられたと記されたもの。

 

 終末の炎王スルトはその名を叫ぶ。

 

「ではこの一閃を以って決別の儀としよう!

 ───『世界に仇成せ我が魔杖(レーヴァテイン)』!!」

 

 一条の橙色の一閃が世界を裂く。それと共に『ムスペルの子ら』が王たる巨人と共に猛り出す。雄叫びが雄叫びを呼び、その歓喜の声に果てはない。消える事ない炎が世界を包むにつれ、生き残っていたはずの悪魔達が灰と化して消えて行く。

 

 世界を飲み込む大火の群れ、彼等を阻むものは何もない。

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 天井や床に大きく穴が空いた出雲本殿で、曹操を始めとする三人の人間は連戦では無く、休養を選択した。妥当な判断だ。彼等が戦ったのは三大勢力において屈指の実力を誇る猛者、消耗も生半可なもので済むわけではない。

 

 聖槍を肩に掛けて座り込みながら、欠損した右足を曹操は静かに眺めてはそっと触れる。膝から下は何も無い。着ていたはずの衣服は当然、肉も骨も完全に消失している。

 

「……意外と、クるものがあるな…」

「仕方あるまい、相手が相手だ。それに殺せなかったのもあるだろう。…まぁ、義足は確実だろうが」

 

  やはりショックなのか、手の平で顔を覆う曹操。それを慰めるのは堕天使総督を文字通り打ち砕いたゲオルグだ。彼の場合、傷は他二名と比べれば浅く少ないが、単純に体力の消耗が激しかった。

 そんな二人のやりとりを眺めながら

 

「とゆーか、むしろ脚だけで済んでるアンタは何なのよ。何で私らの中でも頭一つどころか三つも飛び抜けてんのよアンタは」

「闘戦勝仏… ああ、孫悟空といった方が分かるか。元々その方から指示を仰いでいたからな、そのせいもあるだろう」

 

 それでもよ、と悔しげに苦言を呈するジャンヌを苦笑混じりに尻目で眺めながら、聖槍を支えにして曹操は立つ。

 消耗した体力は未だ回復にすら至ってはいないが、戦いはまだ終わっていない。勝利宣言をするには早すぎる。それを見た二人の人間もまた立ち、片足のみで立つ仲間を支えた。

 

『───お疲れ様でした』

 

 そこに声がかかる。ジークフリートも、というよりこの戦線において僅かを除き全ての人員が所持している通信術式を編み込まれた腕輪からだ。

 

「…サマエルか、現状を聞いてもいいか?」

『ええ、もとよりそのつもりでしたので』

 

 この三人の人間は今の今までゲオルグの使った結界の中にいた。それ故に全体の把握が出来ていない、というより出来なかった。

 彼等に割り当てられたのは三大勢力各トップの撃破であり、一瞬の隙が容易く死に繋がる。そんな中で状況の確認などできるわけもない。さらに言って仕舞えば、本来なら彼等がこの戦いの終わりのトリガーだった筈なのだ。

 だが事情は変わった。その察知ができないほど彼等は鈍くないし、能天気でもない。

 

『では簡単に。現時刻を持ち四大魔王は全員崩御。従ってスルトとムスペルの子らによる冥界焼却が発動しました。ああ、冥界にいた方々は既に此方側へと避難済みなので、ご心配なく』

 

 安堵と喜びに胸を撫で下ろしたり、息を吐いたり、顔を綻ばせる者もいたりとその反応は三者様々だった。

 しかし誰も気は抜いていない。そのまま黙って経過を聞き続ける。

 

『次に、赤龍帝の変質、とでもいいましょうか。ともかく彼はもはや生半可な戦力では止められない事は確かです。その力の源はおそらく…()()()()()()()()

 

 曹操は目を見開く。心当たりはあったのだ。サーゼクスと戦っている時にあった微かな違和感と、急に飛び出した光。追おうにも戦いの真っ最中であり、相手が相手だったが故に黙殺を否応無しにさせられた。

 対照的にジャンヌは何処か冷めた様な面持ちだった。もしかしたら、ミカエルから全て聞かされていたのかもしれない。まぁ、結果としてはあの通りだったが。

 

 ともあれ、サマエルは告げる。恐らくは最後の作戦。それこれこそが本当に最後の戦いにして、引き金。

 

『従って、曹操。ロンギヌスの槍を持つあなたには、現地にいるトライヘキサと共同し、共に『神殺し』へと当たってもらいます。勿論、選択権は貴方にありますので、参加はご自分の意思でお選び下さい』

 

 それ即ち、神殺し。

 

 




感想返信は少しづつやっていきます。今週と再来週はかなり忙しいので…前書きの通り、次回投稿は恐らく二週間後か、もしくはそれよりかかるかもしれません。それでも待って頂けたら幸いです。
それでは今回はこの辺で。ノシ。
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