なら俺が強くしてやる。
俺が天を落とすその日まで
なぁ、トライヘキサ。
わたしはまた、もう一匹の獣が地中から上って来るのを見た。この獣は、子羊の角に似た二本の角があって、竜のようにものを言っていた。この獣は、先の獣が持っていたすべての権力をその獣の前で振るい、地とそこに住む人々に、致命的な傷が治ったあの先の獣を拝ませた。
████の黙示録 共同訳13:11-12
次元の狭間を悠々と泳ぐ赤龍がいる。その名はグレートレッド。『真なる赤龍神帝』『真龍』『D×D』の異名を持ち、『無限の龍神』オーフィス、『黙示録の皇獣』トライヘキサと並び得るほどの実力を持った最強の一角。
そして彼自身、黙示録に記された獣である。
「──────!」
第二の獣は、吠えた。
夢幻の幻想より生まれ出でた龍は、実相世界には興味を抱くことは殆ど無いと言っても良い。だが、この日彼の眼には、一人の獣と蛇の姿が確かにあった。
「──────!」
それは、同格の存在の復活への歓喜か。
陥れられた獣への怒りの言の葉か。
分かる者は居ないだろう。
何故ならば、この次元の狭間において唯一存在できる彼は未来永劫、孤独でしか無いのだから。
■ ■
『
三大陣営の和平・協調路線をよく思わず、破壊と混乱を起こそうとするテロリスト集団。各勢力の過激派が集まっているが一枚岩ではなく、複数の派閥が生じている。オーフィスをトップとしている。
現在、表に立ち活動しているのはこの組織の根幹となる旨を持つ『旧魔王派』である。
人の限界への挑戦、不遇への復讐を主とした『英雄派』はめっきりその姿を見せなくなり、団内でリーダーである『曹操』が死んだのでは?ないし内乱が起きたのでは?と噂されている。
そして『ニルレム』。彼等は冥界の現魔王のうち一人
さて、今回はこの『英雄派』に視点を当てよう。
そしてそのリーダーである曹操に…。
「───ああ、そうだ。俺達は俺達だ。純然たる人間だ。決して邪竜を撃ち落とした騎士でも無く、勝利を導いた聖女でも無く、ましてや試練の末に神へと至った半神半人でも無い。
英雄の魂、血、『神器』を受け継いだ。…だからなんだと言うんだ。過去は過去でしか無く、未来は未来でしかない。…そんな事、もっと早くに気付くべきだったのにな」
どことも知れぬ神社にて、最強の『
「過ちは変えられ無い。過去に手を伸ばす事は出来ないし、やってはならない事だ。 逃げてるだけと言われても否定はできないがな。だが俺はこの道を選びたい。償いではない。ましてや、人の為と言う自己破綻的な渇望でも無い。
俺は、人としての矜持をとる。誇りを取る。人で在れることを、何よりも幸運であったと夢を見る。
この旅の果てには何も成果は無いだろう。賛美も称賛も、与えられ事は無いし歴史に刻まれる事もない。だが、だが俺達に───」
一つの出会いがあった。
死の側にあった時、一人の聖女とであう。
その名を知る事はなく、由もなかった。
ただ、助けられた、その事実が彼を苛む。
英雄の血を継ぐ己が助けられた。謎の怒りがこみ上げる。否、果たしてそれは本当に怒りであるか? 理解が出来ない。理解を拒んでいる。己のこの燃ゆる様な意思はなんだと言うのか。
ミーム、という言葉がある。
人類の文化を進化させる遺伝子以外の遺伝情報。
彼は一つのミームに汚染された。
それはもっとも優しくて、何よりも強くて、恐らくは人類史が始まって以来ずっとずっと受け継がれ続けている情報。
誰かに助けられた者は、誰かを助けたくなる。
そんなあまりにも単純な摂理。
だが彼は、それで答えを得た。
「だが俺達に、
この地こそが、俺達人間の、唯一無二の家。家屋を壊し屋から守るのはごく当然の摂理であり帰結なんだ。故に称賛も賛美も不要であり、求めてはならない事だ。
俺は
その場は静まり返る。
曹操の側に居たゲオルグ、ジャンヌ、ヘラクレス、ジークフリート、果てにはレオナルドさえ言葉を失い目を見開き曹操を見つめて居た。
ひと時の静寂。
「変わったなぁ、君も…私も」
「…いつの間にそんな立派になりやがって」
「私達に他に行き場なんてないわよ
「目標変更か、…ま、それもいい」
「……一緒に行く」
ミームは、受け継がれて行く。
そしてそんな彼らを屋根から見守る一人の男がいた。それはまるで父の様な眼差しで、何処までも彼らを優しく見守っていた。
それはスーツを粋に着こなし、さらに無精髭に目元までを乱雑にを覆う程の長さの髪を持つ男。
「これだから面白いんだ、人間って奴は」
■ ■
裏京都、八坂邸。
「…その、僕は、…やっぱり表に行こうと思う。
この世界を見たいのもあるけど…今、あいつらがどうなっているのかも確かめたい」
暖かな光が降り注ぐ朝。
障子を透かして降り注ぐ柔らかな陽だまりに照らされながら『
「ならん、許さぬ。そのような手負いと姿で表へ出てみよ、白羽共にあっという間に屠られるのがオチじゃ」
「うぐ……」
九重が眠りについてる中、このような交渉合戦がもう何週間も何週間も続いていた。
トライヘキサの目的は『今この世界はどうなっているのか、聖書の三大勢力の現状、それが知りたいからこの裏京都から世界に出たい』という物。大して八坂は『怪我も満足に治ってないままに外に出すわけには行か無い』というもの。
さらに彼女には高天原から命じられた獣の要観察という役目がある。それ故においそれと外に出すことを許してはならない。
ぺしょ、と獣は頭を机に投げ出す。彼自身、自分の実力が落ちに落ちている事は理解している。おそらくこのままでは魔王や天使長には敵わないどころか虫のように潰されるだろうと。
…実際の所苦戦はするものの魔王一人は葬れる実力はあるのだが、これは少年自身も知らない。
「ここに永住する、とは考えぬか?」
「…ちょっとはね、でもやっぱり許せなくて」
本当に、少しだけそれは考えた。この陽だまりの中で移ろう時を見ながら過ごして行く。それは確かに幸福だとは思う。だがしかし、少年の本質は人にあらず獣である。
「…あの林檎を食べた時から、本能が増えた気がするんだ」
「──────ほう?」
正直に少年は打ち明ける。既に彼らへ信頼を置いている少年は隠す事などしなかった。過去にサタナエルというただ一人『本当の意味で』聖書に逆らい確かに消されたもの。
彼が死の間際、死した己に与えた、あの林檎。それを食してからこの身と命を得た事を話す。
そして新たに加わった本能は。
「…天使を見たときに、頭で声がした」
即ち、『この種を絶やせ』という単一命令。
これが少し、少年の中に引っかかる。
…実際の所、これは本能に非ず。人として持つ当たり前の感情の一つ、怒りである。少年の過半生は獣であったが故に、感情という仕組みを知らないのだ。
故に内に湧いた感情を本能と呼んだ。
「…青い、青いのぉ」
「?…わわ…っ」
それを長き時を生きる狐は見抜いたのか。目の前の少年を「青い」と笑い、少年よ髪をゆっくりと撫でた。…共に時を過ごすうちに、着実に情は湧いているのだ。
■ ■
スーツの男の情報は確かだった。
確かに獣は実在していた。
ならば、やる事は一つ。
今代の白龍皇は、凄絶に笑う。
「お手並み拝見といこうか、伝説」
トライ君はまだ『悪魔の駒』のことを知りません。神が死んでいる事も知りません。堕天使が神器使いをあれこれしている事も知りません。…全部知ったらどうなるか…。
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