黙示録の時は今来たれり   作:「書庫」

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黙示録に記された獣『666(トライヘキサ)
「無邪気なる怨嗟の幼子」
呼吸の如き憎悪、中庸を願う愛。
彼の生涯の果てに安らぎはあるのか?


だれのせいかな?
おまえのせいだ


 むかしむかし、ななじゅうにのあくまをおさめるいだいなおうさまがまだこどもだったころ。

 

 かれがおとなになるまでであってきたにんげんはそれはそれはみにくいものばかりでした。

 みんなみんな、うわっつらばかりよくて、おなかのなかではわるいことばっかりかんがえています。

 おうさまは、そんなにんげんをさばくこともせずにあいするかみさまをたいしたことがないんだなとおもうようになりました。

 

 「ならぼくが、このせかいをよりよいものにしよう。だれもがこうふくで、だれもがわらえるしあわせなくにをつくろう。そこでならきっと、わるいひともいいひとになれるはずだ」

 

 これがかれのおさめるくに『えるされむ』のほうかいへのすたーとちてんです。かれはさまざまなくにと『ぼうえき』をおこない、くにをゆたかにしていきます。だけどおうさまはちっともわらいません。

 

 おうさまがいくらがんばってもがんばっても、くにはいっこうにいいものになりません。いつもいつもかれをじゃまするものがいるのです。かれがくのうしなきさけぶさまを()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それでも、

 それでも、おうさまはがんばります。

 『やくそく』をまもるため、

 『おうとしてのぎむ』をはたすために、

 えがおをなくしても、かれはがんばります。

 

 だけど、

 

 あるひ、おうさまはわらうようになったのです。

 すべてをみとおす『め』でおうさまはみたのです。

 

 ──ヒトが、ヒトの手によって滅びる未来を。

 この日、王は数年ぶりに笑みを見せたのだ。

 王はとうに狂っていたのだ、手遅れまでに。

 

 だがその笑みも流れる時の内に失せた。

 別の未来が見えたのだ。

 或いは、ヒトが宇宙という新たなフロンティアを手に入れ更に発展を得る未来。或いは、空より降り注ぐ数多の星に文明が焼き尽くされる未来。或いは、()()()()()()()()()()()()()

 

「…下らない」

 

 誰もいない玉座の間、一人王は怨嗟を込めて言葉を吐く。頬杖をつき、キリキリと歯を擦る音を立てては溜息を吐く。

 見るからに不機嫌であった。

 

 ───王の持つ『眼』は未来が見えた。

 それも一つではなく、いくつかの"あり得る未来"。実現の可能性が高い未来ならば年単位で。逆に不確定な未来は、近い将来までが見えた。

 

 

 その中で、最も『先』が見えたのは、『聖書の神による千年王国の完成』。他ならぬ神から人界への干渉であった。

 

「…神様は間違えてる……」

 

 その未来では多くの人と神仏修羅が死に、一握りの善性を持った人のみが生き残る。それは王の望む未来ではない。それでは意味が無い、意義すらもなく、価値もない未来。ヒトはヒトの手によって滅びなければならないのだから。

 

「またですか、ソロモン?」

「盗み聞きとは感心しないね、『告発の天使』としての名が泣くよ?サタナエル。あと、敬語やめてくれないかな?君のそれは寒気がする」

()()()()()()()()()()()()()(オレ)()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「なら、無精髭ぐらい剃ったら?あとそのぼさぼさの髪も減点、天使というかもう堕天使だよね。やーい、堕落天使」

 

 サタナエル、という天使がいる。

 其の名の意味は『敵対と御使い』。

 其の者は真の神の二人の息子の内の長男であり、弟はイエスであったと云う。 天に於いて、最も美しく、最も偉大な存在。

 人類の敵対者にして告発の天使。

 裁く者にして試す者。

 悪魔にして天使。

 混沌にして秩序の存在である。

 

「…で?今日は何かな?またいつものみたいに小言?それともエルサレムの完成を急げって催促?なんでも構わないよ、全部無視するから」

「いやいやいや!そうじゃねぇよ、…ま、(オレ)(オレ)で『仕事』が出来ないもんでね、暇だから」

 

 彼の役割は『告発』と『裁定』。

 そこに加えて『試練』と『敵対』。

 彼は、唯一神をも『告発』しようとしていた。

 だがそれが許される筈も無く、神は告発を逃れる為に彼の存在を断片的なものとした。それ故に、彼の名は一部の書では記され、一部の書では名前すらも出てこないという現実が未来に起こっている。

 だが彼は折れなどしない。

 今もなお彼は神を裁こうとしている。

 彼は神を嫌い、神は彼を嫌う。

 

「………危険だよね、カミサマっていうのは」

「そうだねぇ、危険だよ、ああいうのは…。

 それだけの力があるが故に、だけど……」

 

 その聖書の神は病的なまでに『人間』を愛していた。それ故に彼等からの唯一無二の信仰を求めた。多神話の神を悪魔へと貶めてまでも、だ。それはあまりにも危険すぎる屈折した愛。否、狂気とすら決めつけてもいい。

 そしてソロモンは、そんな神が愛している『人間』が嫌いでたまらなかった。幼少の頃より彼等がどんなに醜いものか嫌というほど教え込まれたからだ。

 

 騙し、欺き、裏切り、陥れ、嗤う。

 奪い、争い、殺し、また奪う。

 罵倒し、企み、甚振り、愉悦に浸る。

 

 幼い頃は義憤にかられ、この世界を、人間を少しでもより良いものにしようと尽力した。それこそ、脳を限界まで酷使して口や鼻から血を吐いて倒れるまでに。

 だが彼の眼に映る景色は変わらない。どこまでいっても愚かな歴史と繰り返しが絶えない。涙と血が流れて固まり、その上にまた発展と衰退が繰り替えされる。

 

 悪夢のようなサイクル。

 彼は全てを知った。

 人の本質は変わらないという事が。

 だから、この結末は当然だった。

 この発露には十分だった。

 故に人が人により滅びる未来を歓迎し、

 故に神の千年王国の完成を嫌悪した。

 

 人は、人の手によって滅びなければならない。

 

「ぼくは人間が嫌いだ」

「ああ、知っている」

「そして君は『神が嫌いだ』」

「ああ、その通りだ」

「君は神の被造物だから、

 神の掌からは逃げられない。

 けど、()()()()()話は違ってくる」

「ほう?」

 

 歪な笑みが二つ。王は指を鳴らす。

 石床から棺桶が立ち、ゆっくりと石の扉が開く。そこから現れたのは、サタナエルと瓜二つの容姿を持った肉体。そして、その背には黒と白と蝙蝠の羽が四枚ずつ、総じて十二枚。

 

「こいつは…」

「君は他ならない神を告発できて、

 僕はヒトの未来を破滅へ変更できる」

「話が長くなりそうだ。ではまとめよう」

 

「君は神が嫌いで、僕は人間が嫌いだ。

 その意思で、僕達の思惑は一致している。

 なら、三大勢力だろうがなんだろうが、

 一緒に滅茶苦茶にしようじゃないか!

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「最高だ…最高に危険(イレギュラー)だお前は…。

 ……面白い。お前の口車に乗ろう。

 話せよ、貴様の企みを…」

 

 

 ◼️ ◼️

 

《…つまり、貴様は…》

『そう、サタナエル。この姿じゃあサタンの方が妥当とも言われそうだけど。ま、あいつの作った器がなかなか馴染んできたし、状況も既に手遅れで緩慢だしね、晴れて表に進出できたって訳だ』

「…お主の言う、計画…正気か?」

『正気も正気ですよ!オーディン殿!

 神話が一個潰れて世は全てこともなし。

 うーん、その先が楽しみだ。

 で、その件に貴様らには御協力を賜りたい』

 

 

 敵対者は語った。獣には知性がある。理性がある。敵対者は語った。それは私が与えたものだ。未来へ投じた小さな一手だ。敵対者は語った。獣に聖書の全てを教え込む。敵対者は語った。彼にやりすぎた聖書を全て潰してもらうと。

 場には沈黙が広がる。静かに己の髪を撫でる天照。顎に手をやり思案するオーディン。そして口元を隠すハデス。

 

《貴様の求める協力、というのは?》

『傍観だ。ただ眺めててほしいってだけ。

 あとはあいつの身柄を全面的にこちらに

 預けてもらうぐらいか』

「余計な事はするな、というわけじゃな」

「…一つの神話を犠牲にしたとして、

 それであの獣は止まるのか?」

()()()()()()()()()()()。其方にはまだ分からんかもしれんが、あの「人間」は…まだ赤子だからね、いくらでも矯正のしがいはある』

 

 その物言いに顔をしかめる天照。

 不意に二羽のカラスが肩に止まる。

 一羽の眼は金、もう一羽の眼は蒼。

 口々に異なる声色で言の葉が紡がれた。

 

 

『姉上か、須佐男だ。悪い報告と良い報告がある。

 悪い方は獣の封が一つ外れたこと。

 良い方は獣には知性がある事がわかった事だ。

 それと、「神の子を見張る者(グリゴリ)」の白龍皇の(わっぱ)がつい先程裏京都に攻めてきたが、トライヘキサはこれを撃退。被害は甚大だが、犠牲者は出なかった』

『姉君でしょうか?出雲の月詠です。先ほど八坂の報告の限りでは、獣には知性があり、理性がある事は確定と見て良いでしょう。…彼の精神性が子どもだということも含めてね』

 

 目を静かに閉じる日輪の女神。

 口元を隠したまま微動だにしない冥界の神。

 老獪な笑みを見せる北の大神。

 敵対者は言葉を続ける。

 

『さぁ、───どうする?日輪の主神。

 どうやら災厄の獣が『神の子を見張る者(グリゴリ)』から京都を守ってくれたみたいらしいけどねぇ?』

 

 ゆっくりと、日輪の唇が開いた。

 

 

 ■ ■

 

 『こちら、初見となる。曹操…いや、その名を借りている者だ。近々俺達は、聖書の三大勢力に対して大規模な反逆行為を起こそうと思っている。これは言うまでもなく、明確なテロ行為だ。

 

 だが、先ずはこの事実を知って貰いたい。

 聖書の神は古の大戦で、既に死亡している。

 これを理解した上で、俺の話を聞いてくれ。

 

 天界は数多の非人道的行為を黙認してながら神の死を隠蔽し、信仰を阻むものを異端と蔑み、遠方へ追い遣り、果てには殺害する。堕天使は『神器』使いを不当に殺害し興味のまま弄び尽くし、悪魔は『駒』により他者を物珍しさや強さに目をつけ理不尽に悪魔へと転生させ、おまけに主に歯向かえば問答無用で粛清される。

 

 …この先も、三大勢力は今と変わらず。或いは、今よりも人界に理不尽な不幸を無辜の人々に無自覚に振り撒き散らし続けるだろう。これは扇動だが、それと同時に、認めざるを得ない事実だ。

 

 もし君がそれを良しとしないのであれば。それを許せないという人の志が、まだその内にかけらでもあるのであれば。

 ───俺達「大いなる都の徒(バビロニア)」と共に、革命を起こしてはみないか?君の返事を、期待して待つ。』

 

 最強のエクソシストの青年は立つ。

 悲恋に運命を呪う一人の少年は立つ。

 悪魔殺しに酔う白髪の神父は立つ。

 暴力とまで呼ばれた枢機卿が立つ。

 仙道を手繰る黒猫は立つ。

 女は、男は、老人は、立つ。

 

 反動が始まる。

 取り返しの無い反動が。

 だが問題は無いだろう?聖書よ。

 君達は人類より優れているのだろう?

 

 何故?と君達きっと問うだろう。

 その時きっと、彼等はこう答える。

 

 ───『おまえのせいだ』、とな。

 

 ■ ■

 

 怠惰なる者、浅はかな情愛に酔う者、務めを娯楽に投じる者、虚なる姿を取る者、臆病な者、信じない者、忌むべき者、人を殺す者、姦淫を行う者、存在を曲げる者、すべて偽りを言う者には、彼らが忌むべき獣に焼かれ須らく塵となる。それが、彼らの受くべき報いであり、これが彼等の死であった。

 語られぬ黙示録 第二十一章断片の八節




古代に記された王『ソロモン』。
「巨大な力を持った幼子」
狂いたる慈悲、破滅を願う愛。
その秘めたる本心はいったい?



難産である(´・ω・`)
はい、という事でスーツ男の正体はサタン(サタナエル)でしたーってやめて待って!石を投げないで!だって後の展開(最終局面)的にこれしか手はなかったんだ!

さて、今回登場したソロモンの人格はアレです、コンセプトになった『JUSTITIA』って曲を聴いてもらえればだいたい分かってもらえるかなー?と思います。(彼出番少ないですけど)

お気に入り登録して下さった495名の皆様と評価を下さった38名の方々にこの上ない感謝を!誠に有難うございます!
では今回はこの辺りで、尊敬している方にお気に入りを受けてにやけが止まらない「書庫」でした、まる。

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