冥界の女神は元Aチームマスターの夢をみるか   作:Reji

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本編の主人公使ったFate/strange Fakeの二次創作です


番外編『偽り』の聖杯戦争 スノーフィールド 
もう一人のイレギュラー


是れはカルデアには記録されていない 

 

()()()『聖杯戦争』 の物語だ。

 

 

 

 

真実は、時に世界の偽りを叩き潰す。

 

だが、『偽りがそこに存在していた』という真実は消すことができない。

 

たとえ聖杯の力を借りたとしても。

 

 

 

 

2018年12月23日 午後2時 カルデアス

 

かつて人理を修復する者の一人だったはずだった男――誠・エルトナム・シリウスは自分が乗り込むはずだったコフィンを昔を懐かしむように優しく撫でるように触っていた。

 

「マスター、あんまり弄らない方がいいんじゃないかしら?」

 

それを止めるのは誠をマスターと呼ぶ少女。誠のサーヴァントの冥界の女神ことエレシュキガル。始めはなし崩し的に契約した二人だったが今ではエレシュキガルの協力を得ることに成功していた。

 

二人は来たるべき時に備えて戦闘シュミレーションでその日の特訓を終えた後だった。26日の査問官訪問だ。いや襲来といった方が正しいのかもしれない。彼らは絶対にカルデアに対して行動して来るだろうと確信していた。いざとなればすぐ戦えるように訓練中なのだ。

 

「ちょっとぐらい大丈夫でしょ」

 

エレシュキガルの注意をさらっと受け流し、ズカズカとコフィンの中に入っていく。

 

その時、誠はカルデアスの色が変色しているのに気がついた。

 

「エレちゃんちょっと!」

「きゃっ!」

 

それに何かを察した誠はエレシュキガルの手を引き同じコフィンに連れ込んだ。

 

すると何者かに閉じられたかのようにコフィンの扉が閉まる。開けようとしてもびくともしない。

時刻は深夜2時。立香達や職員達も床に就き、ダヴィンチもホームズも工房で作業している。そのためこの空間には誠とエレシュキガル以外に誰もいない。

 

次の瞬間、誠は今まで生きてきて体験したことのない感覚に見舞われた。まるで誠にかかる重力が消え完全に無重力空間にいるかのようにプカプカと浮いているような感じだろうか。つま先と手先から感覚が消え体中が光で包まれる。そこから感染するかのようにどんどん体が光の粒子となって虚空に溶けていく。その時、耐え難い眠気とも呼べるようものが誠を襲った。誠は必死に耐えようとしたのが、徐々に意識は遠のいていく。そして誠は諦めたように意識を手放した。

 

 

夢を見た。

場所は、見たことない街。

いくつもビルが天を擦るように(そび)え立ち、地を歩くこちらを青空ごと呑みこもうかという勢いだ。

南北と東西に貫くそれぞれの道路が交わり、上空から見れば巨大な十字架が浮かび上がっているように見える、まさしく『街の中心』とでもいうべき場所だ。

 

この大通りだけを見るならば、NYやシカゴと比肩しうる都市とも受け取ることができるだろう。それほどまでに、この通りは突出した発展を遂げており、街の周囲に広がる様々な自然に対して、自らも自然の一部である―――――いや、自らこそが自然の完成系なのだと主張しているかのようだ。

 

だが――違和感はある。いや違和感しかないだろう。(はた)から見てもすぐにわかるくらいに。

 

その夢の中の街の光景は、()()()()()を残して人間というものが完全消え去っていた。

 

誰もいない交差点。

 

車は一台も走らない。

 

音は疎か臭いすらも存在しない。

 

だが、道路の中心から見る住宅地。そこにある一軒の広い庭付きの豪邸に()()()()はいた。そしてその少女の傍には()()()()()が寄り添っていた。その黒いナニかは形容し難い外観しており黒いモヤのようだった。もはや形等というものはないのかもしれない。その少女は黒いモヤにしきりに話しかけているようだった。

 

誠は自分が何故こんなものを見せられているか分からなかったがこれだけは言えた。

 

――――その少女はとても幸せそうだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

周りの騒音で誠は目を覚ました。

 

「あらマスターやっと起きたのね」

 

目を開けるとエレシュキガルに膝枕されていた。

 

「膝枕ありがとう、エレちゃん」

 

「こ、これは仕方なくして上げただけなのだわ」

 

赤面するエレシュキガルを尻目に誠は起き上がり周囲を見渡す。先程まで深夜だったはずなの太陽が昇り、地を照りつけている。どうやら草原の木の影で寝かされていたようだ。そよ風が頰を撫でるように過ぎ去っていく。誠はこの草原とその風に何か懐かしいものを感じた。

 

「エレちゃん俺達がここにきて何分経った?」

 

「10分くらいかしら?」

 

誠の真剣な声にエレシュキガルは落ち着きを取り戻して答えた。

 

単純に今の状況を説明するとレイシフト―――擬似霊子転移。疑似霊子変換投射。人間の魂のデータ化させて異なる時間軸、異なる位相に送り込み、これを証明する空間航法。時間跳躍と並行世界移動のミックス―――すなわち空間転移やタイムトラベルのことである。それを誰かが行なったのか分からないため確証はないのだが。この不測の事態に通信機持ってきていない自分を恨みながらその場で立ち上がった。

 

「どこへ行くの?マスター」

 

「取り敢えず歩こう」

 

誠とエレシュキガルは草原沿いの道を二人並んで歩き出した。すれ違う人を見てここはカルデアの資料で見た特異点なるものでないと誠は安堵のため息を漏らす。

 

 

1時間くらい歩いただろうか。周囲の風景も草原から賑やかな街へと一転し、誠には見覚えもあるものが見えてきた。

 

そう時計塔だった。

それは通常ならばロンドンの観光名所として受け取られる単語だろう。

だが魔術師達の間では全く違う意味合いを持つ単語である。

魔術協会における三代部門の一角。ロンドンに拠点を置き、時代に適応し、人類史と共に魔術を積み上げる事を是とした魔術師たちの総本山。

 

ここは紛れもなくイギリスである。

 

自分の見知った場所だと誠は安心していると、ふと自分達が少し視線を集めて入ることに気がついた。誠は再度自分の服装を見返した。アトラス院が「最強であるものを作る」目的で試作した魔術礼装を見に纏っている。幸いおかしなところは何もないように思われる。誠は心の中でアトラス院制服製作者にお礼をした。誠がアトラス院に初めて心の底から感謝した瞬間かもしれない。

 

しかし、おかしいのはエレシュキガルの方であった。赤と黒のドレスで身に包んでいるのはいいが太ももから下が丸出しなのだ。これは痴女と言われても否定できないであろう。

 

「何かしらマスター?そんなにジロジロ見て」

 

そして当の本人は無自覚である。その事を誠がそれとなくエレシュキガルの耳元で教えるとエレシュキガルは慌てて近くのトイレに駆け込んだ。そして第三再臨の黒を基調としたドレスを着てエレシュキガル出て来た。余程恥ずかしかったのか顔はりんごのように赤く染まっている。

 

「こ、これなら問題ないわよね!?」

 

「そ、そうだな」

 

誠の肯定の返事に安心したのかエレシュキガルは安堵のため息を漏らす。

 

「早く行こうエレちゃん」

 

「ん?分かったのだわ」

 

しかし、今度は別の意味で視線を集めそうなわけで。周りの男連中に嫉妬されないよう誠はエレシュキガルを連れ足早にその場を後にした。

 

エレシュキガルは誠の手に引かれるがままに歩いた。そして、時計塔の前まで来る誠は足を止めた。

 

「ここは?」

 

時計塔の裏の意味を知らないエレシュキガルは当然の質問をする。

 

「ここは簡単に言うと魔術師達の学校だ」

 

「ふ〜ん」

 

エレシュキガルは誠の説明を興味なさげに返事をすると時計塔を見上げた。

 

「ここに頼りになる顔見知りがいてな、その人ならなんとか力や知恵を貸してくれるかもしれない」

 

前、誠は世界各地を転々としていたためが顔が広いためこういう時に便利だ。

 

顔見知りといっても、ここは元いた世界とは違う可能性の方が高いわけだし、その場合はこの世界の誠自身が彼と関係を持ってくれていることを願うばかりなわけだが。

 

いざ彼の元へ――――

 

簡単に会えるわけがありませんでした。

 

仮にも彼は『君主(ロード)』である。

 

ロード。時計塔の12学部にそれぞれ君臨する、12人の学部長達に与えられし称号。そんな大人物に何の審査もなく会えるわけないわけで―――

 

「お前達は何者だ!」

 

「だから知り合いっつってんだろ」

 

誠達は時計塔の廊下で尋問を受けていた。身分を証明するものなんて持っていないため何をいってもそれ証明するものなどない。

 

――――魔術師は魔術師らしく自分のことだけ考えてろよめんどくせえ

 

「騒がしいな」

 

力ずくで行ってやろうかと誠が考えている時だった、廊下に男の声が響き渡った。

 

思わず誠も声の主の方を見やる。

 

「彼は私の知人だ。早く私の応接室に通せ」

 

「いや、しかし……」

 

警備員が納得しかねるような声を上げる。

 

男は長髪を靡かせる30代前後の男で、赤いコートの上に肩帯を垂らし、その上には如何にも不機嫌といった顔を浮かべていた。

 

男の威厳にたじろいだのか、警備員は観念したのかどこかへ去ってしまった。

 

「流石、先生ですね」

 

「君に先生と言われる筋合いはないのだが……。誠君」

 

「じゃあ、なんて呼べばいいんですか?()()()()()I()I()()さん」

 

彼こそ時計塔の12人の君主(ロード)の一人。現代魔術科学部長である。

 

「プロフェッサー・カリスマを持つグレートビッグベン☆ロンドンスターことマスター・Vに頼みがあるのですが……」

 

「その名では呼ばないでくれ!」

 

誠の弄りにエルメロイは悲痛を叫ぶ。

 

――――どうやら俺の知っているエルメロイ二世と言う男のようだ。

 

エルメロイは誠の後ろに控えている金髪の少女を見て、驚愕の顔を浮かばせる。

 

「な、何かしら?」

 

エレシュキガルはまだ自分の格好がおかしいのかと思い、慌てて自分の来ている服を見る。

 

「に、似ている」

 

「どうしたんですか先生」

 

「いや、ここの生徒に彼女にとても似ている生徒がいるのだが……。つかぬ事を聞くが君姉妹などはいるのだろうか?」

 

「妹ならイシュ――」

 

「彼女は確か一人っ子だったと思います!先生!」

 

エレシュキガルが馬鹿正直に答えるものだから慌てて誠が割って入る。

 

「そ、そうか」

 

「はい!」

 

世界には似ている人が3人いるといのうのは本当のことだったのか、なんてことをエルメロイはブツブツと呟くと気を取り直したように言った。

 

「取り敢えず君たち私の部屋に来たまえ」

 

 

――――――――――――

 

「では先生事情を説明しま――」

 

「残念ながら事情を聞くことはできない」

 

ソファーに腰掛けいざ本題に入ろうとした誠の口をエルメロイは遮る。

 

「そんな!?めっちゃ聞いてくれる雰囲気じゃないですか!」

 

「それを聞くとこちらが協力せざるを得なくなるかもしれない。だが、今はそれどころではないのだ」

 

「そこをなんとか!」

 

「駄目だ。……いや待て」

 

何か名案を思い浮かんだのかエルメロイは口元を緩める。

 

「何ニヤニヤしてしてるんですか先生」

 

「君は私に一つ貸しがあるだろう?」

 

誠は過去の記憶を探り、一つ思い当たる節があった。

 

「忘れたとは言わせんぞ、貴様がどこからか知らんが逃げて来ていきなり匿ってくれなんて言ったあの夜を」

 

誠はアトラス院からの逃亡過程でここに来たのを思い出した。

 

「分かりました、その頼み受けましょう」

 

「ちょっ、今は時間がないのよ!?他人の頼みを聞いている時間なんて……」

 

エレシュキガルが誠の耳の下で小さな声で叫ぶ。

 

「大丈だよ、エレちゃん。なんとかなる!」

 

「今回ばかりはなんとかなりそうにないのだわ……」

 

今、誠達の置かれている状況ははっきり行って異常だ。いきなりイギリスに連れてこられるなんて異常以外の何物でもないだろう。

 

――――抑止力かなんだか知らないがこんなことしておいて、その辺は辻褄合わせてくれるだろう。

 

「受けるとうことでいいのだな?」

 

「はい、でもその前に一つ質問があります」

 

「なんだ」

 

「今は西()()()()でしょうか?」

 

エルメロイはその質問に眉をひそめる。

 

「……今は西暦2015年だが……」

 

「そうですか分かりました」

 

誠の質問で調子を崩したのか、調子を戻すよかのうにエルメロイは自分用の社長椅子に腰を下ろし、話を始めた。

 

「今、アメリカで『聖杯戦争』が行われている」

 

聖杯という言葉に誠は息を詰まらせる。

 

「君はフラットという生徒を知っているか?」

 

誠は記憶を探り持っているフラットに関する情報を口に出していく。

 

「はい、フラット・エスカルドス。期待の神童としてここ時計塔に入学するも魔術師としては欠陥品。中でも他人に干渉する魔術は天才的。たらい回し形式で最終的に先生のところに行き着いたということくらいしか」

 

「あいかあらず、君に記憶力も大概だな。一体その情報はどこで仕入れた?」

 

「ちょっと、記憶力がいいだけですよ。前、来た時に先生が嘆いてましたよ」

 

「そういうことにしておこう」

 

そう言ってエルメロイは話を戻す。

 

「その天才馬鹿が、遊び感覚でアメリカの聖杯戦争に勝手に参加して、これまた勝手にサーヴァントを召喚してしまったのだ。私が現地へ赴きたいのはやまやまなのだが君も気がついていただろう?」

 

誠はこの部屋に来るまでに感じた視線はそういうことだったのかと納得する。

 

君主(ロード)が外部に赴くことは基本禁止されていてな。それで君達に代わりに行ってもらいたい。明後日の飛行機の便でな。それでフラットを守ってもらいたい。君はフラットと比べれば劣るかもしれんが才能もあり、何より実践経験がある。頼んだぞ」

 

誠はエルメロイの提案を呑んだ。それからエルメロイからお金を貰い二人分の私服を買い。そこから装備を整え、夜はエルメロイと『大英帝国ナイトウォーズ』をプレイした。

 

そして二日後、誠達はアメリカに立った。

 

 

誠は今エルメロイに手配された車に乗って、スノーフィールドに向かっていた。助手席にはエレシュキガルが座っている。

 

「それにしても、エレちゃんの買い物長かったよ」

 

数日前のエレシュキガルとの買い物を思い出し、誠は呟いた。

 

「女の子はみんな長いのだわ!」

 

「エレちゃんだけなんじゃないの?それはそうと出発前に渡したメモ持って来てる?」

 

「ああ、これね」

 

エレシュキガルはポケットからメモ帳を取り出し、誠に見せる。それはエルメロイが聖杯戦争に関することをまとめたものだった。電話番号とメールアドレスが最後のページについている。後、フラット宛の手紙もついている。

 

「それ無くさず持っててくれよ」

 

「分かっているのだわ」

 

――――うっかりスキルが発動しなけばいいけど。

 

 

 

スノーフィールドに後少しという場所で誠が車を止めた。

 

「どうかしたの?マスター」

 

「何か違和感を感じない?胸がモヤモヤする」

 

「あれじゃないかしら?」

 

エレシュキガルが指さした方角にはクレーターが出来ていた。それもかなりの大きさの。

 

「かすかに魔力を感じるな」

 

「神代の魔力のようなものを感じるわ」

 

「エレちゃんの知り合いが召喚されているのかもね」

 

エレシュキガルの知り合いとうことは神様がわんさかいる時代。知り合いも規格外の奴らばかりということなので、誠はこの先どうなるか少し不安な気持ちになった。

 

だがまだ誠の胸に違和感は残っていた。

 

 

――――なんで対向車と一台もすれ違わないんだ。ここはスノーフィールドから唯一出る国道だぞ。

 

 

 

何かがおかしい、誠はそう思いながらもスノーフィールドに足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

スノーフィールド某所

 

()ているだけじゃなくて来たんだぁ」

 

少女はあまり気にしていない様子でそう呟いた。

 

「ま、いっか。イレギュラーが何人いようと変わらないし」

 

そしてその少女はケタケタと甲高い声で笑いながら告げた。

 

「さぁ、偽物を駆逐する時間だよ」

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

これから彼らが体験することは紛れもない『真実』だが、彼らにしてみれば『偽り』かもしれませしれない

 

 

 




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