――気がつくと俺たちは魔獣に囲まれていた。オプリチニキ同様に倒しても倒してもキリがない。とはいえ、こんなところでエレちゃんの宝具を使うわけにはいかない。
「悪いけどマシュちゃんには武装してもらって群れの薄くなっているところから一旦逃げるぞ、立香!」
咄嗟に誠は立香とマシュに指示を出す。
「分かった!」
「分かりました!」
そしていざ逃げようとすると
「てめらぁ何考えてやがる!」
そんな叫び声とともにライフルの発砲音が鳴り響く。弾は見事に立花の真後ろにいた魔獣に命中する。
「クリーチャーチのど真ん中に飛び込むとか、頭いかれて――――」
近づいて来るその者の容姿に四人は絶句する。その野太い男の声の持ち主はお伽話などに登場する人狼にそっくりだったのだ。
「⋯⋯何?」
困惑しているのは向こうも同じなようだ。
「て、てめえら何者だ!そのツルツルした顔は何だ!?」
そう言って誠達にライフルを突きつける。そして誠が相手の動揺している隙をついて素早く人狼の股下を潜る抜け、腕の付け根を抑え頭に拳銃を突きつける。
緊迫した空気がその場を支配する。
「待って!待ってください!」
「落ち着いて!誠くんもストップ!」
マシュと立香の真剣さが伝わったのか二人が銃を下ろす。
「いきなり銃突きつけてすまねぇ」
「こっちこそ、すまん」
こんな状況のため体が反射的に動いてしまった。
「⋯⋯もしかしてお前ら、魔術師か⋯⋯?」
この世界にも魔術師がいるのだろうか。
その時あたり一帯にクリーチャーチと呼ばれる獣の鳴き声が響き渡る。
「チッ⋯⋯。クリーチャーチは臆病だが、仲間を呼んで際限なく押し寄せて来るんだよ!お前らついてこい!」
そう言って倒した魔獣を軽々と持ち上げる人狼。狼というだけあって筋力はそれなりにあるということだろう。
「行くぞ、マシュちゃん、立香」
唖然としている立香達に声をかけて走る人狼を追いかける。
10分くらい走った頃だろう、一つの村にたどり着いた。
「到着はしたが……」
その村には見える範囲でオプリチニキが4体確認できる。
「⋯⋯くそ、オプリチニキの巡回だ!税金代わりに、獲物を奪われちまう!」
どうやらこの国の情勢はあまりよろしくないようだ。
「いいかお前ら、あいつらと他のヤガには絶対見つかるなよ」
ヤガというのは人狼のことだろうか。そんな事より今は隠れないとまずい。今エレちゃんを使ってあいつらを倒す事もできるが上に連絡がいって存在がバレるのはあまり得策ではないからだ。
「⋯⋯なるほどな、オプリチニキに追われてんのか?なら俺の味方だ。何かくれるなら匿ってやらなくもないぜ」
小声で人狼がこちらに提案をして来た。
「マスター⋯⋯?」
「助けてもらおう」
先に口を開いたのは立香だった。
「⋯⋯了解だ。ついてこい」
「おい、パツシィじゃないか」
その矢先、道を歩いてきた人狼ーもといヤガに声をかけられた。
「⋯⋯少し隠れてろ」
「⋯⋯何だ少し変な臭いがしないか?」
「この魔獣だろ。血抜きがたりなくてな」
「貧乏暇無しとはよく言ったもんだ。そんなので冬は生き延びられるのか?」
「アンタは生き延びられそうだな」
「ハハハハハ、たっぷり溜め込んだからな。もし食料が欲しけりゃ、安値で売ってやるぞ?ただし、お前の持ってる狩場の情報と交換だがな」
「⋯⋯考えておくよ。じゃあな」
いつの時代も感じの悪いやつはいるもんだな、なんて考えているうちに会話は終了した。
「よし、とっとと家に戻るぞ。他の連中の鼻に引っかからない内にな。」
「⋯⋯よし。とりあえずオプリチニキに気付かれてはねえ」
「ありがとうございました」
「例なんか要らねぇよ。代わりになんかよこしな。物事ってのは等価交換だろ」
「何か⋯⋯ですか。どうしましょう先輩」
困った時のーーー
「聞いてるんだろ名探偵」
『情報、というのはどうかな、そこのキミ』
その声と同時に空間にホームズの顔が浮かび上がる。
「うわあ!なんだこれ!?」
人狼はよほど驚いたのかその場で飛び上がって奇声を発する。
「魔術の一種だ。心配はいらん」
その人狼を宥めるかのように誠は制する。
『その反応を見るに、キミたちにとって魔術は知っていても身近ではない、という感じかな。それで繰り返しになるが、キミの有益になるような情報があれば、提供しよう』
「⋯⋯狩場の情報、そんなのはあるか?」
そこからはトントン拍子でホームズによりことは進み、今度はこちらから質問する番になった。
『ではまず、このロシアについて、知っていることを教えて欲しい』
「待った!」
口を開いたのは立香だ。
「まず、名前を教えて欲しい」
「⋯⋯名前、ねぇ。コルドゥーンに名前を教えると、呪われるって噂なんだが⋯⋯」
「コルドゥーン、とは何のことでしょうか?いえ、状況的に考えて私達のことでしょうか」
「魔術師って意味だ。俺は見たことないが、今の王家にゃ魔術師が詰めかけてんだろ。まぁ、いいだろう」
そして人狼は一呼吸開けて名前を告げる。
「俺の名前はパツシィだ。で、テメェらは?」
「私はマシュ・キリエライトです」
『シャーロック・ホームズだ』
「僕は藤丸立香です」
「俺は誠・エルトナム・シリウス。そしてこっちのさっきからだんまりの金髪ツインテールがエレシュキガルだ」
「だ、だんまりで悪かったわね!」
なんとこの女神、長い間冥界で一人で篭りすぎて対人スキルがE-なのである。
「ふーん、変わった名前だな。で、テメェらは何者なんだよ。オプリチニキに追われてるってことは叛逆軍か?」
「叛逆軍?ええと待ってください、私たちはーーーー」
どこから説明したものか。
『説明は後で私がうまく説明しておこう。先に我々の番だ』
「先に俺の質ーーーーー」
パツシィの声を遮るようにスピーカーから声が響いた。
『今西暦何年かね?』
「……馬鹿げた質問だが、答えてやるよ。西暦2018年だ。それがどうした?」
『そうか。では、あの巨大な嵐⋯⋯暴風の壁のようなものに見覚えは?』
「俺はこのロシアで20年生きてるけどあんなの見たことがねえ」
「なら俺からも一つ質問だ。遠くにちらっと見える空に向かってそびえ立つ塔のようなものはなんなんだ?」
そこに誠が割って入った。
「都市の方から生えてるって噂だがそれしか知らねぇ」
『最後に一つオプリチニキとは何者だ?』
「おい。そんなことも知らずに生きてきたのか?殺戮兵器、オプリチニキ」
ここら辺に住んでいる人達にとってオプリチニキはどうやら恐怖の象徴のようだった。そんなものは知らないなんてパツシィは信じられないのだろう。
「イヴァン雷帝の親衛隊だろうが」
『16世紀のロシア皇帝の一人だね』
イヴァン雷帝ーイヴァン4世は16世紀のロシアの皇帝の一人である。気性も荒く残虐な政治をしたことは有名だ。
「待ってください。パツシィさんは教えてくれました。今は2018年だと。仮に今生きているとしたらーー」
「450年間くらい生き続けていることになるな」
「サーヴァント……?」
「十中八九そうだろうな」
「お前ら何も知らないって言っても限度があるぞ」
「俺達はマジで何も知らないからな」
「パツシィさんお願いです、歴史を教えてくれませんか……?」
「……いいだだろう」
説明を要約するとこうだ。
450年前にこの地球に大寒波が来た。隕石の落下によるものらしい。そしてこの星はどこだろうと分け隔てなく極寒の世界になった。ロシア以外の他の国の人たちは寒さに耐性がなく滅んでしまった。だがロシアも人口の9割近く失われ、国そのものがなくなる一歩手前だった時にイヴァン雷帝が手を打ったのだと。それが魔獣と人間が合わされたヤガということだった。
「それで結局アンタは一体何なんだ?」
「私たちは人理保証継続機関カルデアのメンバーです」
「⋯⋯ますます分からん」
「俺たちは世界を救いに来たんだ」
「へぇ、そりゃスゲえや。⋯⋯馬鹿か?馬鹿なのか」
確かにいきなり存在するはずのない自分達とは別の種族が現れて世界を救うなんて頭のおかしいことを言い始めたのだ。パツシィに誠達の正気を疑われるのも無理もないだろう。
『冗談に聞こえるだろうが、我々は一向に本気だとも』
「…………面白ぇ。この国のどん詰まりが動くならそれはそれで面白ぇ」
パツシィはニヤニヤと笑いながら言った。どうやら交渉は成立したのうだった。
「そいつはどうも」
「話は終わりか?ならさっさと狩場の場所を教えな」
場所を聞くと勝手に外に出るなと告げてパツシィは颯爽と狩りに出て行ってしまった。
『ともかく、キミ達が相対すべき相手は信じがたいが存命しているイヴァン雷帝だ。とはいえ、こちらの手札がエレシュキガルくんだけでは心元ない。まずは霊脈の確保だ』
「当てはあるんですか?」
『実はさっき走って逃げるときに見つけたんだよね!』
とダヴィンチちゃんが答える。
そこから対策をいろいろ練っているとパツシィが帰って来た。
「いよう。お陰で無事大猟だった。次の狩場を教えてくれ」
『おっとその前に一つ頼みがあるのだが』
「何だよ。もう交換できるものなんぞねぇぞ」
『いや簡単なことだ。今から材料を指定するので、それらを集めて来てほしい』
それは
10分後
「市場に売ってるものばかりだったから簡単だったぞ。じゃ、これで別の狩場を教えてくれるんだよな?」
『もちろん。これは対等な取引だからね』
狩場の場所を聞くとまたも颯爽と狩りに出かけてしまった。
『それでは図画工作のお時間だ。それで凧を作ったことがあるものはこの中にいるかな?』
「私は全く」
とマシュ。
「僕も」
と立香。
「右に同じく」
と誠。
「あるわ!」
とエレシュキガル。
『そうか誰もいな……ってエレシュキガルくんあるのかい?』
これにはホームズもびっくりだ。
「エレちゃんのことだから冥界で一人で暇すぎて暇つぶしに作ったんでしょ」
「うぅぅ……、言い返せないところが何とも言えないわね……」
だがエレちゃんもウロ覚えだったのか
『あー違う違う!そっちじゃなくてこっち!そっちを切るの!違うって!もー!』
とダヴィンチちゃん。
『だからそこではない!そこを切ったら凧が飛ばなくなるではないか!』
とゴルドルフ。
『いや、そこで合っているよ。次に切ろうとしているところが逆なんだ』
とホームズ。
そんなこんなで長い時間をかけて凧が完成した。
外はもう雨が降っていた。今にも雷が落ちてもおかしくない様子だ。
『⋯⋯と、じゃあ最後に帆に描く絵は何がいいかな〜』
「いらないです」
とすかさずダヴィンチちゃんにツッコミを入れる立香。
『ええ!?ボイジャーに乗せてもいいような、素晴らしい人体図を描こうと思ったのに!』
『いらんわ!むしろ怖いわ!』
ゴルドルフもいいツッコミだ。
『ミス・キリエライト。何か適当に描いておくといい。遊び心は大事だ』
「はい。デザインアートでしたら得意分野です。お任せを、マスター」
そうして魔除け風の立香が完成した。
『もう時間がない、パツシィ君には悪いが待つ余裕がなさそうだ』
外には心なしかヤガが多いような気がした。
アプリ内でいう3章まであんまり変化ないけど許してお兄さん