冥界の女神は元Aチームマスターの夢をみるか   作:Reji

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4.金星の女神

 誠がヤガが多いなんて思っているも束の間、街中にラッパの音が鳴り響く。

 

「おや⋯⋯今の音は何でしょう?」

 

「動かない方がいいんじゃないかな⋯⋯」

 

 マシュの疑問に対する立香の答えも最もだが少しくらいなら大丈夫だろう。

 

「いや、ちょっと覗くくらいなら大丈夫だろう、状況確認は大事だ」

 

「了解しました、誠さん。では、こっそり忍び足でいきましょう」

 

「はーい、ヤガの皆さんコンニチワー!今日も今日とて自転車操業ライフご苦労様♡生態的に、どんなに働いても貯蓄は不可能。どんなに努力しても出世は不可能。そんなお先真っ暗な皆さんの生活を助けるキュートな天使がやって参りました〜☆」

 

 そこにいたのはあのカルデアで誠達を襲ったあのコヤンスカヤだった。それにいち早く反応したのはゴルドルフだ。

 

『あれは⋯⋯!?蜂蜜に蜂蜜をかけ、さらにアイスを乗せた後にやはり蜂蜜をかけて焼いたような甘い声は!?』

相当な慌てようである。

 

『お前達、物陰に隠れろ!いいか、遠くから様子を窺うのだ!決して近寄ってはならん!私のようにハニートラップで全てを失いたくなければな!』

被害者というだけあって説得力が段違いだ。これには全員無言で首を縦に振るしかできないだろう。

 

「TV・コヤンスカヤ、TV・コヤンスカヤのハニーキッチン、開店でーす!今日もたくさんのお客様、こんにちは。アコギな商売と承知の上でありがとうございます」

 

どうやら食料を提供しているようだ。

「⋯⋯こ、コヤンスカヤさん。今日も、食料を売ってください⋯⋯」

そこに一人の男がやってきた。目と腹が出ている。人間が栄養失調になった時の症状と同じだ。

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

「あ、あの⋯⋯コヤンスカヤさん?」

 

「⋯⋯悲しい。私、とても悲しいです。ヤガの皆さんの記憶力はピロシキほどもなかったのね。全くー飼い主への敬称もロクにできないなんて。ここは『コヤンスカヤさま』でしょうに」

 

 そこからのコヤンスカヤの所業はとても見ていられないものだった。ヤガにはどう考えても不釣り合いな金額で肉を無理やり買わせ、自分に反発した者は抹殺。挙げ句の果てにはヤガに甘い餌をチラつかせヤガ同士で殺し合いをさせるなどとても人の所業ではなかった。まぁサーヴァントなのだが。

この国の実態を垣間見たがこの国はもう駄目だと思う誠であった。恐怖で人をもといヤガを支配するやり方は絶対駄目だ。過去の歴史もそれを物語っている。それをするには国のトップが凄まじいカリスマ性を持っており、国民からの信頼が必要だ。イヴァン雷帝がそんなものを持っているとは到底思えない。それにこの国のヤガは日々恐怖に怯え続け生活しているように感じる。

 

 そうこうしていると満足したのかコヤンスカヤは馬車に乗って帰って行った。

 

『浮かない顔だなお前達。何があったのか、できるだけ簡潔に報告しろ。要点だけでいいぞ』

マシュと立香が説明する。

 

『⋯⋯ふむ。間引きが目的だったとしても、趣味が悪いな。結果として食料を取れないヤガは半分になり、全体の生存率は上がったかもしれないが⋯⋯』

 

『ええい!辛気臭いのはなしだ!結論としてコヤンスカヤは悪魔だ!これでいい!!』

しんみりした空気をゴルドルフが打ち破る。

 

『お前達の気持ちもよく分かる。よく耐えたな』

初めてゴルドルフが所長らしく見えたと思う誠であった。

 

『しかし⋯⋯やはり、コヤンスカヤ君がいるとは⋯⋯。彼女には要注意だな』

 

『ああ。彼女は間違いなくサーヴァントだからね』

と付け加えるダヴィンチちゃん。

 

『要注意といえばもう一人。言峰神父だ』

その名前を聞き誠は自然と手の平に痣ができるほど力が入る。

 

『言峰綺礼は西暦2004年に日本で死んでいる。少なくとも2017年の聖職者リストにはいない』

 

何!?なら3年前に父さんが身を犠牲にしてまで殺したあいつは何なんだ⋯⋯。まさか死んだふりでもしていたというのか?そんなことサーヴァントくらいにしかー待てよならあいつは本当にサーヴァント?エレちゃんと同じパターンか!それなら全て納得がいく。

 

「擬似サーヴァントでしょうか?」

俺の思考を先読みしたかのようにマシュが質問する。

 

『その線が高いだろうね。何にせよ注意が必要だ。特に誠君、彼とは過去に何かあったようだが見つけたとしても怒りで暴走したり自分勝手な行動は抑えて欲しい』

 

「そんなことは分かってる名探偵。無茶なーー」

その時、強力な魔力な気配を感じた。

 

「エレちゃん!」

 

「分かってるわ!」

エレちゃんが反射的に槍でソレを薙ぎ払うがーーヒョイっと躱されてしまう。

 

「きゃー危な〜い」

そこにいたのはさっき帰ったはずのコヤンスカヤだった。

 

「はぁーい、生還おめでとうカルデアの皆さま♡まずはその幸運と生命力を讃えるとしましょうか」

その言葉と同時に全員が戦闘態勢に入る。

 

「いやーん、そんな戦闘態勢に入らなくっても大丈夫よ。だいたいそこの神霊が強くたって自衛の手段がないマシュちゃんと立香くんを守りながら戦うなんて無理でしょう?」

と背後にいるオプリチニキをちらつかせる。

 

「今日はまだ別の業務が終わってないため、寛大な気持ちで見逃してあげましょう。その方がこの先もっと面白くなるでしょうし。こちら側に有利なんてフェアじゃありませんし」

 

「⋯⋯貴方はカルデアを破壊しただけでなく⋯⋯Aチームと先輩と不知火さん達を戦わせるというんですか!」

 

「⋯⋯マシュちゃん落ち着いて」

感情的になっても何も始まらないことにはたくさん経験してきた。誠はマシュを落ち着かせる。

 

「ええ、そうよ。カルデア側とクリプター側で殺しあってもらうのよ。そのために色々準備してきたんだもの。それが一人目であっさり終わっては大損というもの」

その時は経験の違いというやつをみせてやろうではないか。

 

「ああ、それとヒントは一切差し上げませんので悪しからず♡こちらも一年間、身を粉にして舞台を整えたのです。不明点、疑問点、そして反省点。それらは全て自分達で解明しなさい。というわけで後は自分達で何とかしなさい。さぁ、ネズミのように這い回ってこのロシアを生き延びなさい」

そう言って去っていった。

その時であった。ヤガの悲鳴が街中に響きわたる。

 

「確かに私の兄は叛逆軍に入ろうとして殺されましたが、私は全く関係ありません!ましてや魔術師の居場所なんて!」

しまった、バレたか!

 

「もう一度問う。魔術師はどこにいる?」

 

「ですから、そんな方知らない⋯⋯!」

 

「⋯⋯ならば、皇帝(ツァーリ)の威光を未だに理解していないという証左である。破壊し、殺せ」

 

「あ、ああ⋯⋯やめて⋯⋯」

容赦無くナイフを喉元に突きつけるオプチニキ。

 

「お待ちを!知っています!皇帝(ツァーリ)に逆らいし者を!そのヤガの名はパツシィと申します。あのヤガは怪しいです!あの男の父もあなた方に逆らって殺されました!」

あいつ有る事無い事言いやがって。

その時、偶然狩り帰ってきたパツシィが割り込む。

 

「おい!テメェふざけんな!」

 

次の瞬間パツシィがオプリチニキに発砲した。それと同時に立香とマシュが飛び出した。

 

「しょうがないな。エレちゃん頼む」

 

通信でゴルドルフが騒いでいるが皆が御構い無しに戦闘態勢に入る。

 

「任されたのだわ」

 

この距離からエレちゃんがメスラムタエアを小さく分身させたものを撃ち出す。それが命中しパツシィと対峙していたオプリチニキは倒れる。しかし一人倒したくらいでは終わらない。村中のオプチニキが湧いてくる。

 

「エレちゃんは立香達の援護を、俺はここからエレちゃんを援護する」

「了解よ」

俺は素早く肩にかけてあるスナイパーライフルを構えその場でしゃがんで狙撃態勢に入る。対物ライフルを魔術で色々と弄っているためその威力は絶大だ。

 

そしてエレちゃんの背後に近づくオプリチニキの頭を的確に撃つ抜く。その場で倒れるかと思えば跡形もなく消滅する。

オプチニキを20体くらい倒したところでこの村のオプチニキが全滅した。しかし、別の村からいつ援軍がくるか分からないため急いでここから逃げなければならない。

 

「とりあえず逃げるぞ!お前ら!」

 

そうして誠たちは村を後にした。パツシィは未練があるようだが覚悟を決めてついてくるようだ。

 

『よし、なんとか村を出たな。犠牲がなくて何よりだよ。』

 

ホームズのその言葉に一同安心する。

「助かったぁ!」

 

「誠さんとエレシュキガルさんのおかげです!」

 

「いやいや困ったときはお互い様ってことよ」

 

「戦闘は私たちに任かせておきなさい」

 

『安心しきっているところ悪いが目的地を目指してもらうよ。ミス・キリエライト、パツシィ君に見せてあげてくれ』

 

「ここは⋯⋯了解した。ところでなんであんた達、俺を囮にしなかった?」

当然の疑問だ。普通の人なら絶対に囮にするだろう。

 

「まだ恩を返してないので」

 

だが立香は違う。

 

「魔術師ってのは意外にそういう奴なのか?」

 

「いや普通の魔術師なら絶対に見捨てるだろうね。なんせあいつら基本自分のことしか考えない自己中野郎ばっかだからな。俺と立香が変わってるだけだ」

 

そこからはパツシィの案内で無事霊脈までつくことに成功した。

 

『さ、立香くん、凧を揚げて揚げて!マシュも一緒にね。』

 

「ダヴィンチちゃん、それ立香もマシュちゃんも感電するのでは?」

 

「あ、」

あ、じゃねえよ!俺が言ってなけりゃどうしてたんだよ!

 

『しょがない、ミス・キリエライト、霊基トランクにワイヤーを接続。凧を持って水平に勢いよく走ってくれ』

 

「はい!マシュ・キリエライトーー凧を揚げます!」

 

「集電カイト準備オッケー!いつでも召喚できます!」

 

『パツシィ君、大変申し訳ないがここら先は魔術師にとっての秘儀でね。洞窟の外で待っていてもらえないだろうか?』

 

「は⋯⋯はぁぁぁぁ!?」

 

そうして先に誠以外の三人が洞窟に入っていく。

 

「パツシィ」

いつになく真剣な面持ちで誠が口を開く。

 

「なんだよ」

 

「これからも多分君を俺たちの戦いに巻き込んでしまうだろう。これまで以上にな」

 

「⋯⋯何が言いたい?」

 

「君にその覚悟と勇気があるのならその目に焼き付けるといい。君にはそれを見る権利がある」

 

英霊召喚――奇跡を引き起こす魔法をね

そう言って誠は洞窟へ入っていく。

 

――ここまできたら後には引けねぇよ

では秘儀とやらを拝見させていただこうじゃないか

 

 

 

そうそれは奇跡を引き起こすため、複雑巧緻に編纂された術式の紋様。

 

 

 

その少年――立香は右手を突き出し声高らかに告げる。

 

 

 

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、

我は常世総ての悪を敷く者。

汝三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!

 

 

 

そうそれは奇跡を引き摺りだす言葉

 

 

 

あらゆる困難を打破するため、その武勇を、叡智を求めて紡ぐ詠唱。

 

 

 

 

英霊召喚の秘儀である

 

 

 

「女神イシュタル、召喚に応じ参上したわ。美の女神にして金星を司るもの。豊穣、戦い、破壊をも司るこの私をせいぜい敬い、恐れながら貢ぎなさい」

 

 

 




イシュタルかわいいよイシュタル

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